10月18日は、長島一由・逗子市長の市政相談日だった。長島市長の任期は12月までで、次の選挙に出馬しないことを表明しているから、これが最後の市政相談日になるだろう。市長の任期中ずっと続いてきた開発問題に、足掛け3年ほど取り組んでいる「名越切通・巡礼古道保全の会」等の保全グループメンバーが訪れた。
「名越切通(なごえきりとおし)」は、世界遺産登録をめざしている古都・鎌倉の登録文化財最有力候補といわれているが、所属は逗子市である。「巡礼古道」というのは、坂東33観音霊場第1番の杉本観音から第2番・岩殿観音に赴く参詣道である。
杉本観音は鎌倉市にあり、岩殿観音は逗子市にある。この巡礼古道の尾根は名越切通のバッファゾーンと考えられているところである。「名越切通」は鎌倉時代中期に造られたといわれており、「巡礼古道」の前身である観音参詣路は平安時代からあったと推測されている。今残っている巡礼古道は少なくとも江戸時代から存在することは知られており、おそらくそことオーバーラップするかたちで中世の古道があったであろうといわれている。その古道は源頼朝や北条政子、そして彼らの娘である大姫、息子の頼家や実朝まで通った記録がある由緒ある遺跡だ。
しかし長らく中世の面影を色濃く残していた巡礼古道も、現在は、道沿いに住宅建築が進んだ結果、見る影もない状況である。これが鎌倉市域にあれば、古都保存法で手厚く保護される史跡ゾーンになっていたというのに、逗子市に属したばかりに乱開発の憂き目にあったのである。
なぜこんなことになったのか。多くの理由が考えられる。公有地ではない、宅地指定のままだった、永久緑地の約束書類を紛失してしまった、果ては、条例で保全できるはずが、建築確認を出されてしまったので保全できなかった、等などである。
長島市長は言い続けてきた、「保全したい、それは皆さんと同じです」。「こんなところに家を建てさせて税金が入ったらいいなんて思うはずがない!」と叫んだことさえあった。それでも「仕方ない。法律で決まっている。財産権がある。」そう言って、乱開発を許さざるを得ず、ついに逗子の誇る郷土の遺跡・巡礼古道は踏みにじられたのである。
お隣の鎌倉市でも、同様の問題に直面している市長がいる。来歴に古代と現代という違いはあるが、大船観音前マンションの開発問題で苦境に立っている石渡徳一市長である。
おかしい。鎌倉は逗子とは違うはずである。またかつて正木千冬市長は、開発を頑として受け付けず、鎌倉のみどりを守ったではないか。逗子でも、保全派の市長のときは、開発をさせないと頑張り続けていたではないか。
なぜかという市民の問いに、「行政手続法違反に問われるんです!」と、両市の開発担当幹部は口を揃えて言う。平成の悪法といわれる行政手続法のために、以前は市長の伝家の宝刀であった「市長印を押さない」という実質的な乱開発拒否権を発動できなくなってしまったのである。
行政手続法ができたのは橋本龍太郎内閣のときだった。奇しくも1980年代に起きた逗子の池子米軍住宅建設問題の際、当時の富野暉一郎市長が住宅建設に必要な市長印を拒否する作戦で対抗した。これに業を煮やした橋本総理が、今後のためにと行政手続法を作らせたという話である。
それ以来、市民はどれほどのエネルギーと体力と知恵を絞って保全に取り組んできただろう。保全派の市長に任せておくだけでは乱開発は止まらなくなったからだ。しかし法律の網を補うための条例をつくり、その網をさらにかいくぐる業者との攻防に明け暮れた結果、市民の自治体行政に関する技量が上がり、市民分権が進んだことも事実ではある。
かくして、様々な対抗策を考え、弁護士や国に相談し、名越切通・巡礼古道保全の会は、ついに構造改革特区の提案まで行っている現状である。
特区という制度の優れたところは、提案(市民)や申請(自治体)が上がってきたところで、それが現行の法律で可能かどうかを関係省庁が検討し、国の見解を示すところにある。特区にすることが目的ではなく、事業目的のために特区にして法律の規制または緩和を行うことが目的だから、現行の法律でできれば特区にする必要はなく、全国どこでも一律に行えることが保証されるのである。その見解を得た結果、いくつかの条例づくりのための根拠を得ることができている。
このような市民の努力が重ねられた末に、ようやく今年の7月に、「条例は法律に優先する」という国土交通省の見解を(特区提案とは別のところで)得ている。しかし、ここにきて、また長島市長と側近の口から出るのは「国の法律にはかなわない。手続をしなければ行政手続法違反に問われる。」という怯えた言葉だけである。
今後弁護士の見解、国の見解を得る努力を、市民は再びすることになるだろう。しかしながら、鎌倉にしても逗子にしても、市長と当局はもっと努力をすることはできないだろうか。全国市長会で、乱開発の阻止につながる手続については、行政手続法の特例とすることを国に要望することもできるだろう。
さらに10月31日までの構造改革特区募集を機に、世界遺産登録を見据え歴史的風土を守るため、鎌倉の世界遺産登録に参画する鎌倉市、逗子市、横浜市、藤沢市が共同で、行政手続法の特例措置を申請することもできるだろう。
行政職員諸氏は、財産権の侵害になると心配するかもしれない。しかし、乱開発は営利目的というだけでなく、今問題になっている暴力団の資金源につながることが頻繁にある。国土交通省では、暴力団を建設業の下請けに使わないよう通達を出しているほどである。
財産権は、先に越してきて環境を守り資産価値を守ろうとする先住の“新住民”にもある。こうした市民の声をどのように実現していくかについて、市長も自治体職員とともに真摯に考え実行してほしい。そのようにして地方分権に取り組んでいってほしいと願うのである。
(佐藤夏生)
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関連リンク:
名越切通・巡礼古道保全の会
行政手続法(ウィキペディア)
構造改革特区第6次提案について
(編集部注:「名越切通一体地域/巡礼古道保存と周辺山林保全復元署名の会」による「世界遺産都市の観光とまちづくり・・・古都特区」構想が提案されている)
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2004年7月7日に発起された巡礼古道尾根保全の署名の説明文
国史跡「名越切通」中心部 秋元譲氏撮影
片側の山林を削られ剥き出しになった巡礼古道。オレンジ色の服の男性が走っているところが古道の部分。2005.1.23撮影。
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