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穴あきダム提言は、「国交省OB」委員長の越権〜川辺川ダム問題の今(3)

須藤久仁恵2007/02/17
去る2月14日の「河川整備基本方針検討小委員会<球磨川水系>」の結果提言された内容は、流域の具体的な整備計画にまで踏み込んだもので、この小委員会の越権行為である。河川行政の非民主化はいっそう進んでいるようだ。
熊本 環境 防災・復興
 本連載では「国土交通省の治水対策が持つほころび」を多様な視点から指摘している。しかし国交省は、「ダムありき」の治水対策を「ほころび」と認識するどころか、今後も治水の切り札として位置づけているようだ。川辺川ダム問題で言えば、昭和51年に告示されたダム建設基本計画から、今年の1月に利水目的が「外され」たものの、依然として治水・発電目的の多目的ダムであると国交省は言い続けてきた。ところが最近、「川辺川ダムは治水専用ダム、いわゆる穴あきダムでもいいのでは?」という声が突如として出てきた。

 「ダムが環境へ与える負荷が大きいと心配なら、穴あきダムはどぎゃんな?」スーパーの大売出しじゃあるまいし、「そっちが駄目なら、こっちではどうですか?」という論議に県民がスンナリ納得できるわけがないだろう。

穴あきダム提言は、「国交省OB」委員長の越権〜川辺川ダム問題の今(3) | <center><b>晴天が続き川が澄んできて、綺麗な瀬が現れた『巡り観音の瀬』(撮影:やまばば)</b></center>
晴天が続き川が澄んできて、綺麗な瀬が現れた『巡り観音の瀬』(撮影:やまばば)
 その声は、去る2月14日、東京で行われた第10回目の「球磨川水系河川整備基本方針」検討小委員会で複数の委員から出たものだ。この小委員会は昨年4月に第1回目が始まって、既に回数を重ねること10回目。他の河川での検討小委員会が時には1回、多くても数回ほどで基本方針が決まっていくなか、球磨川水系の開催回数の多さは目をひく。それは偏(ひとえ)に、「住民討論集会を体験してきた熊本県民からすれば、この基本方針は納得できるものではない。私自身が納得できていないことを、どうして県民を説得できますか」と、毎回毅然として意見を述べ続けている潮谷義子熊本県知事の存在と、地元熊本から個人負担の旅費をひねり出し、毎回傍聴を続けるダム反対の住民の存在の大きさの結果であろう。

 これまで小委員会では国交省の資料に基づく論議が進み、河川整備基本方針を立てる上で骨格となる球磨川(人吉地点と八代地点)の基本高水流量計画高水流量などの主要項目が論議され、昨年末の第9回目の審理(第56回河川整備基本方針検討小委員会<球磨川水系>)の最後に近藤徹委員長(財団法人水資源協会理事長)による「裁定」で取りまとめられた。それは「基本高水流量7,000t、(前回まで腰だめであったが)計画高水流量を4,000t、その差3,000tは新たな施設を作りカットする。市房ダムと川辺川ダムの効果的な運用で(治水対策を図り)、特定多目的ダムに拘らず、幅広く検討する」というものであった。

 そして今回の小委員会で、近藤委員長は更に一歩踏み込んだ「提案」を国交省に示した。すなわち「今回の委員の大半の意見が洪水の時だけ(水を)ためればいいというものだった。議論は出尽くした。それをふまえた資料を用意できないか」というものである。この指示は、洪水調節機能を有する「新たな施設」という曖昧なものから、さらに「洪水の時だけ水をためればいい施設、即ち穴あきダム」という具体的な整備計画まで踏み込んだもので、委員会の審理をある一定の方向に向けようとするものである。だがこの近藤委員長の「提案」は明らかに河川法に違反している。

 そもそも、平成9年に改正された97年改正河川法16条は以下のように定められている。

 『河川管理者は、その管理する河川について、計画高水流量その他当該河川の河川工事及び河川の維持(次条において「河川の整備」という)についての基本となるべき事項(以下「河川整備基本方針」という。)を定めておかなければならない』。

 16条二項は続けて『河川管理者は、河川整備基本方針に沿つて計画的に河川の整備を実施すべき区間について、当該河川の整備に関する計画(以下「河川整備計画」という)を定めておかなければならない』

 ここで言う河川管理者とは、一級河川に関しては国土交通省である。

 河川法は言ってみれば、国内の河川をどのように維持管理していくかという川の憲法のようなものだ。その法律に従って、国内の河川の様相が決定される。河川の整備がダムの形で現れようと、堤防や土砂除去という形で現れようとも。それだけ重大な意味をもっているのである。河川法の手続き論で言えば、まず《河川整備基本方針》が立てられるが、この基本方針の段階では具体的な整備の方策は出されない。その後、基本方針が了承された段階で、「では具体的にどのように整備していきましょうか?」という話になるのである。それが《河川整備計画》である。平成13年2月設置され、今年1月休止された淀川水系流域委員会も、河川整備計画の中で流域住民の意見を聞く場として存在していた。

 然るに、現実の「河川整備基本方針」検討小委員会の審理はどうだろう。球磨川水系の河川整備基本方針は、この《河川整備基本方針》決定後に検討されるのである。それ故に、国交省でさえ治水対策の具体案は提案できなかったのだ。

 だが近藤委員長はそこに踏み込んで、「川辺川ダム」、「穴あきダム」と言及したのである。国交省OBである「学識経験者?」の勇み足としか思えない。

 一方潮谷知事は、「(例え時間がかかろうと)論議を尽くそう。大事なことは、そのプロセス。民主主義はプロセスが大事なのです」と、ことあるごとに発言してきた。今、その民主主義のプロセスが、河川行政の場においても破られようとしている。

 川辺川ダム問題に翻弄され続けた歴史をもつ流域住民は、この熊本の地に大勢いる。ダムによる利水事業をと言われれば、納得して印鑑をついてきた。ダムによる宅地の移転が必要と言われれば、住み慣れた土地を離れてきた。ダムでなければ治水は不可能と言われれば、長い間土砂除去工事が手付かずであっても、じっと待ち続けていた。「ダムありき」の40年は、地元に様々な対立と不信とを招き、生活に密接に関係する施策は後回しにされ続けてきた。

 そうした住民の悔しさ、歯軋りするような思いは「東京」の「学識経験者」には届かないのだろうか。「穴あきダム? 多目的ダム建設をと、ずっと言い続けていたじゃないの、あれはなんだったの」、という素朴な住民の声はどこに向かえばいいのだろう。「もうダムは要らん。ほとほと愛想がつきた」。耳を澄ませば、きっとこんな声が聞こるに違いない。

 最後になるが、ダム目的からの利水事業の除外についても、ひとこと触れておきたい。多目的ダムから利水事業を外す、という九州農政局の国土交通省への回答(2007年1月31日付)は、正確に言えば「現在の利水事業計画(策定中)は、川辺川ダムからの水を想定していません」という、現在の利水計画の中身を回答したもので、ダムの目的から正式に利水事業が抜けた、ということに直ちに繋がるものではない。国交省は球磨川水系の長期治水指針となる《河川整備基本方針》の、06年度中の策定も見据え、その後つくられる《河川整備計画》では、利水除外を検討することを明らかにしている(1月31日付、熊本日日新聞)。

(つづく)

河川整備基本方針検討小委員会(第56回:球磨川水系)名簿(国土交通省河川局HPより)

委員長 近藤  徹  (財)水資源協会理事長
委 員 綾  日出教 (社)日本工業用水協会顧問
 〃  池淵 周一  京都大学防災研究所教授
 〃  伊藤 和明  防災情報機構会長
 〃  岡本 敬三  (財)林業土木コンサルタンツ顧問
 〃  岸井 隆幸  日本大学理工学部教授
 〃  楠田 哲也  北九州市立大学大学院国際環境工学研究科教授
 〃  小池 俊雄  東京大学大学院工学研究系社会基盤工学専攻教授
 〃  小松 利光  九州大学大学院工学研究院教授
 〃  越澤  明  北海道大学大学院工学研究科教授
 〃  坂本 弘道  (社)日本水道工業団体連合会専務理事
 〃  佐藤  準  全国土地改良事業団体連合会専務理事
 〃  谷田 一三  大阪府立大学大学院理学系研究科生物学専攻教授
 〃  塚本 隆久  (社)日本林業協会会長
 〃  中川  一  京都大学防災研究所流域災害研究センター教授
 〃  浜田 康敬  (独)水資源機構理事
 〃  福岡 捷二  中央大学研究開発機構教授
 〃  福永 浩介  熊本県人吉市長
 〃  虫明 功臣  福島大学理工学群共生システム理工学類教授
 〃  森  誠一  岐阜経済大学経済学部教授
 〃  森田 昌史  (財)日本水土総合研究所理事長
 〃  潮谷 義子  熊本県知事


関連リンク:
川辺川ダムを「穴あき」に 国交省の有識者委が検討要請(朝日新聞WEB)
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