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猫のひたいのような緑を守ろう「いざかまくら!トラスト」

佐藤夏生2008/03/26
鎌倉幕府の時代にさかのぼる伝統を持つ、鎌倉市の深沢中学校に隣接する山林が開発によって失われようとしている。市議会は保全を求める陳情を採択、市民もトラストに立ち上がろうとしている。
神奈川 環境 防災・復興
猫のひたいのような緑を守ろう「いざかまくら!トラスト」 | <b>臥龍:</b>鎌倉を取り巻く龍体の森は浦郷層と池子層の膠結した堅固な地質でできている。腰越の龍口寺から始まり鎌倉を取り巻いて、逗子を横切り長浦湾、さらに房総半島まで連なっており、鎌倉独特の景観が見られる。梶原1丁目の山林は、龍の背びれ部分にある。(「古都鎌倉の景観形成に関する生態学的手法を用いた考察」E.Sato,2008.1)
臥龍:鎌倉を取り巻く龍体の森は浦郷層と池子層の膠結した堅固な地質でできている。腰越の龍口寺から始まり鎌倉を取り巻いて、逗子を横切り長浦湾、さらに房総半島まで連なっており、鎌倉独特の景観が見られる。梶原1丁目の山林は、龍の背びれ部分にある。(「古都鎌倉の景観形成に関する生態学的手法を用いた考察」E.Sato,2008.1)
「鎌倉を守る竜神の森」をトラストする

 鎌倉市梶原1丁目の深沢中学校に隣接する山林で起きた開発問題は、中世の古都・鎌倉の地形を守るトラスト(保全)運動へと発展しそうである。

 私は「鎌倉市・深沢中学校沿いの緑の回廊−保全への祈り」(2007年1月29日)のなかで、【その斜面は緑の壁となって鎌倉中心部を取り巻いているので、中世に「天然の城塞」と呼ばれた城壁とは少し違っても、世界遺産都市に推薦されている古都鎌倉の面目を保っていたような気がする】と書いた。この緑の壁が、本当に中世の古都・鎌倉の外側の壁であったことが、偶然、鎌倉の景観形成の研究で地質的に証明できるとわかり、ここが歴史遺産の区域である可能性にかけて、活動を広げることになった。

 そこに手を差し伸べてくれたのは、鶴見大学で歴史遺産を研究する伊藤正義教授だ。伊藤教授は、2007年12月1日の鶴見大学生涯学習講座および、2008年3月22日の神奈川県教育委員会考古学講座において「鎌倉を護る龍神 ―蒙古襲来の恐怖―」のタイトルで、以下の要点を発表なさっている。

1. 
 13世紀後半の蒙古襲来への対策として、密教修法では日本の国土全体が龍体で囲まれて護られているとイメージされていた。

2.
 鎌倉幕府も密教の加持祈祷によって都市鎌倉を護ろうとした。

3.
 都市鎌倉は、江ノ島弁財天、龍口明神によって守護され、鎌倉を取り巻く山稜は龍口明神の龍体とイメージされていた。

4.
 鎌倉の山稜部の防衛遺構は、山稜部=龍体のイメージと一体になって13世紀後半に造営された。

5.
 蒙古襲来の恐怖が薄れた14世紀末頃には、鎌倉を護る龍体のイメージも、山稜部の防衛施設の記憶も失われた。

 それ以前にも伊藤教授は、2007年10月に古都鎌倉の世界遺産登録を推進する立場から、「鎌倉を取り巻く龍体の森」をひとつも崩させないことが、世界遺産登録成功につながると述べられていた。(関連記事)

 これに力を得て、梶原の保全団体「畑の小道を守る会」の代表・越野恵子さんと武永有里さん等が伊藤教授に相談したところ、「法律が守ることのできない《猫のひたい》ほどの緑地を、市民の《猫の手》を借りて守ろう」と仰って、トラストを始めることになった。題して「いざかまくら!トラスト」(仮)という。

猫のひたいのような緑を守ろう「いざかまくら!トラスト」 | のどかな山上の田園風景。中央の岩肌に見える崖面は、1期工事で削り取られた山林の跡。奥右手に見える山が、2期工事の対象になっている。トラストがなければ、画面上に見える山林がほぼ消失する。
のどかな山上の田園風景。中央の岩肌に見える崖面は、1期工事で削り取られた山林の跡。奥右手に見える山が、2期工事の対象になっている。トラストがなければ、画面上に見える山林がほぼ消失する。
「いざかまくら!」市民ひとり1人が鎌倉武士の心を持つ

 もともと中世の首都・鎌倉は日本全体を統治していた。少なくとも、関東地方を拠点とする東国武士団は、初期には源頼朝、中期には北条時宗の呼びかけに応じて、日本の危機のためにかまくらに駆け付けたのである。時宗のとき、そのような御家人の心意気は「いざかまくら!」という言葉で表わされるようになった。

 トラストの「いざかまくら!」というのもこれと同じで、鎌倉市内に限らず、逗子葉山、藤沢、横浜、三浦半島といった湘南三浦の一帯で、《猫のひたい》程の、しかしながら市民の大切にしている歴史遺産の場所や緑地が危機に瀕したとき、市民に《猫の手を借りる》ように小さな力を結集して守っていくことを呼びかけようというものだ。

 しかしながら2007年11月に、すでに梶原1丁目で再び山林を削り取る2期工事の開発事業が許可されている。事は急を要する。

 2008年2月の鎌倉市議会で建設常任委員会は、「いざかまくら!トラスト」(仮)の趣旨を理解して、1年前の6月に提出して継続審議となっていた保全の陳情を、再度俎上に挙げたうえで、全員一致で採択してくれた。まだその影響力は不明だが、3月半ばに伐採される予定だった斜面山林は6月中旬まで命脈を保つことになっている。

 あとは市民の保全への意思をもう一度、トラストの形で示して、この緑地の大切さを社会に訴えていくことだ。「畑の小道を守る会」の武永さん、越野さんは、「できれば斜面山林をそっくり残せる3区画分のトラストを、それが無理なら、畑と、それに連なる細い緑の回廊のトラストを実現させたい」という。しかしながら、斜面山林が遺せなければ、中世の面影を写しているかもしれない古道の掘割は破壊されてしまう。

 間もなく地元で募金活動を始める予定だ。一日も早いトラストの達成が強く望まれている。

猫のひたいのような緑を守ろう「いざかまくら!トラスト」 | 山林の向こうに、緑に囲まれた深沢中学校の通学路がある。山道を取り巻くこの山林が消失すれば、通学路からふるさとの思い出が消える。
山林の向こうに、緑に囲まれた深沢中学校の通学路がある。山道を取り巻くこの山林が消失すれば、通学路からふるさとの思い出が消える。
猫のひたいのような緑を守ろう「いざかまくら!トラスト」 | この2本の大木は、30年以上も寄り添って立っている。これだけの大木の椿は珍しい。今を盛りと咲いていた。このままでは6月に、この木々も伐採されることになる。
この2本の大木は、30年以上も寄り添って立っている。これだけの大木の椿は珍しい。今を盛りと咲いていた。このままでは6月に、この木々も伐採されることになる。
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