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穂の国発 農産物はいま(15)水耕栽培のミニトマト

伊吹春夫2008/05/14
消費者嗜好の多様化は著しく、「無農薬」どころか「無化学肥料」を賛美するチームも見受けられます。「土つくりで自然栽培」は理想ですが「安定再生産」ができなくては経営が成り立ちません。ここで紹介する水耕栽培は、農薬も化学肥料も半分以下で「安全安心」を消費者も歓迎していたのに「ゲームの最中にルールが変った」ため、減農薬栽培農産物の認証マークを返上せざるをえませんでした。
愛知 食 NA_テーマ2
目次
P1.ハウス栽培と水耕栽培のミニトマト
P2.減農薬ミニトマトが消えた


ハウス栽培と水耕栽培のミニトマト
 洋食・和食を問わず添え物として人気のあるのが「ミニトマト」です。ミニトマトは別名プチトマトとも呼ばれています。果実の直径は2〜3cm位で、野生トマトの血を引く小型トマトの総称です。トマトはナス科に属する多年性植物で、ナスやピーマン、トウガラシ、ジャガイモ、タバコなどと同じ仲間です。

 ナス科の代表選手として、トマトは世界中の人々から最も愛され利用されている野菜の一つとなっています。トマトの赤い色はリコピンという色素によるもので、リコピンは最近注目されている物質です。またビタミンA、B1、C、カリウムなどの栄養素が含まれ食物繊維も豊富です。(※1)

ミニトマトの果房

穂の国発 農産物はいま(15)水耕栽培のミニトマト | <center>(写真1)開花後収穫までに30〜60日かかります。 樹で赤くなった[完熟品]を出荷します。</center>
(写真1)開花後収穫までに30〜60日かかります。 樹で赤くなった[完熟品]を出荷します。
   1.トマトは多年草・草丈10mにも

 ハウス栽培のトマトは条件さえ整えば、ほぼ無限に生育しますので複数年の栽培も可能です。一般的には20〜30段の果房まで収穫する長期栽培がほとんどです。草丈も8m〜10mになり、順次「段下げ」という作業で、収穫位置を手の届く高さに降ろしてゆきます。

 一般にナス科の作物は「連作」に弱いと言われています。特にハウス栽培では、「降雨」による土壌洗浄の機会がありませんからなおさらです。同じ作物を同一圃場に連作すると思わぬ障害に出会うことがあります。これを連作障害と言っています。根や樹木の残渣の影響?根圏の生物体系の癖など連作障害のメカニズムはまだ解明されたとは言えません。多くの園芸農家はこれを「土づくり」や「土壌消毒」でしのいでいます。

 近年、消費者嗜好の多様化は著しく、「無農薬」どころか「無化学肥料」を賛美するチームも見受けられます。「土つくりで自然栽培」。これは理想ですが「安定再生産」ができなくては農業経営としては成り立ちません。

    2.水耕栽培の姿

 この対角線に位置するのが「水耕栽培」です。この地区のトップを走るミニトマト農園を紹介します。室温・換気・水流・水温・肥料濃度、全てが人口環境です。「コンピューター管理で IT 農業」とうたうには格好の話題です。テレビなど視聴率狙いの記者なら、必ずこのキャッチフレーズで報道します。

穂の国発 農産物はいま(15)水耕栽培のミニトマト | <center>(写真2)一段目が色づきました。これから収穫期に向います。</center>
(写真2)一段目が色づきました。これから収穫期に向います。
 白マルチの下に僅か5cmの深さの水耕ベッド。中身は栽培栄養溶液だけです(養液といいます)この園では7段目までを収穫目標にしますので、草丈は2〜3m程度です。

穂の国発 農産物はいま(15)水耕栽培のミニトマト | <center>(写真3)7段目まで収穫が進んでも元気のいい樹形 
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(写真3)7段目まで収穫が進んでも元気のいい樹形 
 写真(3)で頭上に見えるのは室内空気の循環ファンです。筆者の店で納入しました。(宣伝はいけませんね)室内環境を整えるには強力な味方です。水と同じように空気もよどまない方が良いのです。調温・調湿……色々な役目があります。エネルギーの有効利用と環境整備に活躍します。

      3.水耕栽培のコツ

 筆者は、この農園と20年以上のお付合いをして来ました。お父様の後を継いだ現オーナーのYさんは、次の様に語ります。
 
【順調に生育している期間はせいぜい1/3】
【なにかしらトラブルがあるのが普通】
【良くなるのは遅く、悪化するのはアッと言う間】

 この3点を回避するため、7段までの短期栽培とし農薬も最小限度に抑えています。

【子育てと同じですよ。悪くなる前にはなかなかわかりません。突然ですから……】
【いかに早く気づくかが勝負です】
              
 言うは易しですが、

 これが出来るようになるのに最低5年。否、10年はかかるでしょう。水耕栽培とは「トラブル解消の技術」そのものであり、そこが農業経営の勝負でもあります。水耕にチャレンジしても解決方法に迷いが出て、又、土耕栽培に戻る農家もあります。

 農業技術は季節や天候という自然現象との戦いです。春の失敗を再現して対処方法を探るには、1年後の春を待つ以外に方法は無いからです。成功の経験を生かすのも同じことです。水耕は順調に生育してくれれば、それこそ「水商売」です。養液をポンプで水をグルグル回し、極く微量の肥料を添加するだけです。1t300円の水が100万円に化けるのも農業の魅力です。なにしろトマトの90%以上は水分ですからね。

(次ページにつづく)
◇ ◇ ◇

ご意見板

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[34201] 環境負荷がかからない農業はありえないのでは
名前:中西俊
日時:2008/05/16 08:39
減農薬減化学肥料栽培や特別栽培農産物が、どれほどの環境負荷を生み出すかについては、科学的データが揃っていなてと思います。

従って、データがあるていど揃ってから、議論したほうがよいと思います。

ついでに言いますと、無農薬無肥料栽培というものがあります。無農薬無肥料栽培ですから、環境負荷が限りなく少ないと考えられると思いますが、そこに至るまでの「土づくり」に莫大な環境負荷をかけなければなりません。
そういうわけで、環境負荷がかからない農業はありえないのではなかろうか、と考えています。

表示ルールの変更は、「猫の目農政」そのものです。それに振り回される農民の姿を伊吹記者は報告しています。

「猫の目行政」は農政だけに限りません。今、話題の高齢者医療問題にも現れています。
しかし、新しい方針にもとづく行政をすすめる場合は、試行錯誤はつきものですからやむを得ないと思います。

ただし、この行政を受ける農民や国民から言えば、ぼやくのも当然のことです。
[34192] 食料生産の現地報告です
名前:伊吹春夫
日時:2008/05/15 21:42
この記事は3部作になっています。
(16)と(17)も、お読みいただきたいと思います。
[34187] 伊吹さんへ
名前:山田ともみ
日時:2008/05/15 17:57
>環境問題は別の次元でお願いできませんか?。
 

とのことですが、では環境負荷を別に考えるのなら水耕栽培も「特別栽培農産物」も、何がよいのかがもっとわからなくなります。
 

記事の書きぶりから、伊吹さんは減農薬に対して肯定的であり、慣行栽培より安全な野菜を提供できるとお考えではないかと思われますが、それを支持する客観的なデータはありません。消費者に影響があるのは商品段階での残留農薬量ですが、残留農薬量に影響するのは適切に行われた最終散布からの日数であって散布回数ではないとされているのはご承知のとおりです。減農薬や無農薬という表示に「優良誤認」の恐れがあると考えるのは自然なことです。それでも特別な表記を求めるというなら「特別栽培農産物」などというしかなかったのでしょうが、そこには「環境負荷が少ない」というような点に美点を見出すしかないと思います。記事中でご紹介の農水省ガイドラインの記載でも「このガイドラインに基づく表示を行う農産物は、農業の自然循環機能の維持増進を図るため、化学合成された農薬及び肥料の使用を低減することを基本として、土壌の性質に由来する農地の生産力を発揮させるとともに、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した栽培方法を採用して生産することを原則とする。」となっていて、安全安心などとはどこにも書かれていません。環境問題を別扱いにしてくれ、というなら、消費者にとって「特別栽培農産物」の優れている点など別にないですよ。
 

水耕栽培については、「ゲームの最中にルールが変った」から「特別栽培農産物」ではなくなった、というよりはむしろ、「もともと試合に参加することを想定していなかった参加者が登場して、もともとの参加に対するルールと同じルールを摘要することを求めてきたので、そんなことはできない、と告げた」というのがふさわしいと思います。


私は消費者嗜好と生産の実情を理解しないなどとはいっておりません。生産者としては慣行栽培産品と差別化できる表示を行いたいのはわかりますが、特別であるという表示の中身に具体性が乏しく、実際消費者にとっては「直感的な印象」以上ではないのであれば、そういうところで勝負するのは無理があるのではないか、というのが私の考えです。
「特別栽培農産物」だからよいトマトだ、というのではなく、おいしいからよいトマトだ、ということを売りにしていただきたい、というのが私の願いです。
[34184] 環境問題は別の次元でお願いできませんか?。
名前:伊吹春夫
日時:2008/05/15 14:49
山田ともみ さま(筆者より間違いの連絡があり、訂正しました=編集部)


コメントありがとうございます。
JanJanの記事掲載の性質上、この板で一言申し添えます。


>・水耕栽培の生産者は、これこそ「特別栽培農産物」と思っておられるかもしれませんが、・・

●これは生産者がそう思っているのではなく「表示基準」がそのように変更を要求した結果です。(表示しなさい。と改正しました)


>・環境負荷という観点では慣行栽培に勝るのかは疑わしいでしょう。・・

●環境負荷に優しいことを農産物に要求するのであれば、品質基準を別の角度で定義すべきと思います。
例えば、「環境負荷係数の表示制度」という方法もあるのでは?。


>・全く新しい環境で育った植物を、農薬・化学肥料の使用量が少ないので「安心・安全」と考えるのは、現在のところ全くの直感的印象に基づくもので・・・

●最も直感的に論じられているのが「無農薬」「減農薬」「化学肥料撲滅」ではないでしょうか?。


ナス・キュウリ・トマトなど、多くの野菜が残念ながらハウス栽培で通年供給されています。
消費者嗜好と生産の実情を報告した記事です。生産者の声にも耳を傾けて頂きたいと思います。
[34178] 水耕栽培について
名前:山田ともみ
日時:2008/05/15 09:54
「特別栽培農産物」表示に関する規定の変化の経緯と水耕栽培の関係はよく知りませんでしたので、興味深く拝見しました。ただ、この経緯を、
 

>「安全安心」を消費者も歓迎していたのに「ゲームの最中にルールが変った」
 

と考えるのは一面的に過ぎると私は思います。
「特別栽培農産物」と呼ぶに足るものは何なのか、ということにはいろんな考えがあってもよいと私は思います。水耕栽培の生産者は、これこそ「特別栽培農産物」と思っておられるかもしれませんが、ご紹介の農水省の文書にもあるように、基本的に栽培のための栄養分は全て化学肥料なので、環境負荷という観点では慣行栽培に勝るのかは疑わしいでしょう。(また、こういう個々の事例に対し随時対応しなければならないのは当然なので、これをもって「ネコの目農政」などと言ってしまっては、行政側も立つ瀬がないと私は思います。)
 

さらに、周囲の環境から隔離され、常に一定かつ十分な栄養供給下という極めて特殊な環境で育つ植物が、その環境に適応するため自ら起こすかもしれない変化に関してはこれまで十分な検討はされていないという指摘もあります。全く新しい環境で育った植物を、農薬・化学肥料の使用量が少ないので「安心・安全」と考えるのは、現在のところ全くの直感的印象に基づくもので、それ以上ではないように思います。
 

[34172] 安全食品を安全と表示出来ない制度に苦言
名前:伊吹春夫
日時:2008/05/14 23:16
佐藤弘弥 さま

コメントありがとうございます。


今回のミニトマトの記事は、生産者の生の声をお伝え出来ます。
次稿(16)と(17)の2編もお読みいただきたいと思います。

食糧生産の現場へ「環境負荷問題」を持ち込む風潮が着々と進められています。特別栽培農産物は国民の消費する農産物の1%にも満たい微量です。
特別栽培農産物に(有機農産物を含めて)これほどの負担を要求してよいものかと感じています。


Yさんの農園は農業者として立派な成績をおさめています。
都市の皆さん!。
国産農産物を買ってください。これが最高の応援になります。
[34161] ネコの目農政で振る舞わされる農家の姿が活写されていて感動しました
名前:佐藤弘弥
日時:2008/05/14 16:18
伊吹春夫 さま

日本のネコの目農政に振り回されるトマト農家の現実の姿が、良く出ている素晴らしい記事です。いつもながら、伊吹さんの写真のトマトが美味しそうで、しかも可愛らしい。

昨日、同じようなトマトを食べましたが、フルーツのような甘い味で、びっくりしたのを覚えています。本当にネコの目のように、クルクルと変わる農政では、せっかく意欲的に頑張っている農家の人々も、またかと、意欲をなくしてしまいます。

この記事の農園の取組が軌道に乗ることをお祈りします。佐藤弘弥
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