引っ越し中のぶーちゃん。バークシャーという種類です。
5月6日(火)
3日目の朝は、待ちに待った快晴でした。私が宿泊していた部屋はヤギの小屋と隣接していて、窓からは親ヤギと子ヤギが仲良く草を食べている姿を見ることができました。朝露を浴びた新緑はとてもまぶしくて、太陽の光を浴びてうれしそうな草花が愛しくて、朝ごはんの前に農場を散歩して、五月晴れを満喫するところから農場体験最終日の1日が始まりました。
今日の作業は、パンづくり、黒い子豚のぶーちゃんの引っ越し、「やかまし村」の旗づくりでした。どれも参加したかったのですが、私が選んだのは、ぶーちゃんの引っ越しと旗づくりです。
黒い子豚のぶーちゃんは、ほかの兄弟たちより体が小さくて、呼吸器も弱くて餌をうまく食べれないので他の子豚たちとは別の部屋で生活していました。「やかまし村」では、家畜と一緒に暮らせる家を作ろうという目標があり、このたびぶーちゃんは、スタッフのタイちゃんと一緒に暮らすことになりました。
住み慣れた部屋から出るのは怖いらしく、柵を外しても、ぶーちゃんはなかなか外に出てきません。餌でおびき出そうとしても、前足をかけたところで躊躇してしまいます。後ろから押してみたり、みんなで応援して、ぶーちゃんがなんとか小屋の外に出た時は、歓声があがりました。そこから距離にして100m弱の新しい部屋まで誘導します。
これは意外とスムーズに運び、普段陽のあたらない小屋にいたぶーちゃんが、陽光を浴びつつ、緑あふれる農場を歩く姿はとてもかわいくて、人間たちはぶーちゃんを囲んで大行進しました。ぶーちゃんの新しいおうちは、高床式の小屋の床下に、おがくずをしきつめた、ふかふかの部屋です。新しい部屋にもすんなり入居。おがくずまみれになりながら、フガフガ部屋をうろついていました。
段ボールの筆で味わいのある文字になりました
ぶーちゃんの引越し後は「やかまし村」の旗づくりが始まりました。昨日のうちに旗を立てるための木が、きれいに皮をはがされ、白木のポールとして形も整えられていました。25mもの長さがあるそのポールはかなりの重量があり、男手10人で、旗を立てる予定の場所まで移動しました。これを地面に立てるのは本日最後の大仕事です。
旗の材料は、幅60cm、長さ10mの白いさらし数本と、パラグライダーの残骸からとってきたチタンの棒、ワイヤーと、赤と青と黒の水性ペンキ。ここからどんな旗を作っていくか、イマジネーションをフル稼働させて考え続けました。
まずは、さらしを5mずつに切り、それを4本横につなげることにしました。つなぎ方はあえて、全部縫ってしまわないで、50cmごとに横にかがっていくやり方にしました。4枚の布が端によってしまわないようにしたいとか、試行錯誤を重ねて、どうにか旗の掲げ方が決まり、その後、文字は黒いペンキで塗ろう、そして周りに、赤と青でみんなの手形と足型を押そう!そう決まってからは作業も急ピッチで進みました。
今回一緒に参加した仲間のうち二人が実はデザイナーということもあり、斬新なアイディアで、20mの高さからも「やかまし村」という文字が見えるよう、布いっぱいに文字が描かれました。
下書きができたところで、ペンキを塗るためのハケがないことに気づき、またここで知恵を絞ります、手で塗っていく、軍手にしみこませて色を付けていく……。いろいろ試してみて、少ないペンキを効率よく使うには、ダンボールを文字の幅に切り取り、そこにペンキをしみこませて、塗っていく方法に決まりました。濃淡もついて、味のある文字が仕上がっていきました。
文字が完成した頃には、パンも焼き上がり、おやつに焼きたてのパンを食べた後、みんなで手形と足型を押すことに。こうなったら、動物たちにも参加してもらおう!とアヒルの吉田さん、猫のスウィング、犬のトマトにも足にペンキを塗って歩いてもらいました。
最後の仕上げは、顔拓にしよう!と、一人のスタッフがやる気まんまんに顔を提供してくれました。こうして、私たちの「やかまし村」の旗が完成しました。
完成した旗をみんなでわいわいと外に持ち出し、ついに木のポールを大地に立たせる作業が始まりました。25mのポールには5本のローブが結ばれていていました。ロープで引っ張ってポールを起こしつつ、四方からバランスをとっていきます。
深さ140cm1辺が80cmほどの正方形の穴の中央に、うまく立つようみんなで力を合わせてひっぱります。ポールそのものも男性4人がかりで支えます。もしどちらかの力が強すぎたり、弱すぎれば、バランスを崩して倒れてしまいます。人の上に倒れた場合大けがは間違いありません。土と砂利で穴を埋め続ける間、みんな緊張の面持ちでロープをひっぱり支え続けました。
無事にポールが立ったあとは、もう一本しかけてあった、いくつもの輪っかを作ったロープを使って、ポールを上まで登り旗を掲げます。人が登ると聞いた時は、そんな危ないことをしなくてもいい方法はないのかと、色々考えてしまいましたが、「大丈夫だよ」と全く問題ないという顔をして、スタッフのタイちゃんがひょうひょうと登り始めてからは、とにかく見守ることにしました。そして、立てたばかりのポールが倒れないように、ポールの下では男性陣がしっかりポールを支えました。
でも、半分くらいまで登ったところで、ポールを立てたり、土を固める際にもめいいっぱい力を使っていたこともあり、思っていた以上に筋肉が疲労していたようで、手に力が入らなくなってきたタイちゃんが「思ったよりきつい!」と言った時には冷や冷やしました。
それでも引き返すこともなく、ゆっくりゆっくり休みつつ登り続け、旗をかけるフックに手が届くところまで着いたところで、大急ぎで下から旗をローブで引き上げました。
タイちゃんが旗をかけ、無事に下まで降り切ったときは、ホッと胸をなでおろすのと同時に感動の涙があふれてきました。みんなでタイちゃんの健闘を称え、そして風にたなびく「やかまし村」の旗を見上げた時、とても誇らしい気持ちになりました。
本当にこれが最後のプログラムで、この後私たちはあわただしく帰り支度をして東京に帰っていきました。この3日間、普段の生活では考えたり感じたりすることが難しい、命の尊さや、人間も自然の循環の中で生かされているということや、買うのではなく作り出すことの楽しさを満喫させてもらいました。
私の農場体験記も以上となりますが、「いたるところにfarmを、いたるところをfarmに」という農場の旗印を胸に刻み、また「やかまし村」に帰ってこよう、そして日々の暮らしの中にファームを作り出していこう…そう思えた農場体験でした。