大保川の支流の滝
大保川は、かつて沖縄八景の一つと歌われた風光明媚な塩屋湾に注ぐ全長13km余の2級河川だ。大保ダムは沖縄北西部河川総合開発事業の一環として、内閣府沖縄総合事務局北部ダム事務所が1993年に基本計画を告示、95年、関連道路工事が開始された。2002年にダム本体工事が着手され、まもなく完成予定。完成すれば沖縄で二番目に大きな規模を持つダムとなる。
今後、09年度には試験湛水(※)が行われ、2010年度以降に供用開始される。やんばる(国頭村、東村)に既に5つある他の国管理ダムと同様、水道水の供給を主目的とし、洪水調節機能なども兼ねるという多目的ダムである。
(※編集部注)【湛水】水をたたえること。
3月のやんばるの森は、萌え出る新緑でむせ返るようだ。黄金色の新芽と花(雄花・雌花)が同時に樹冠を飾るイタジイ。赤い新芽をちりばめたイジュ。樹冠いっぱいに真っ白い花を咲かせるクロバイが、今年はことのほか目だつ。シャリンバイ、アオバナハイノキ、ハクサンボクなどの花も今を盛りと咲き乱れ、山々は命の息吹であふれんばかり。林道沿いではウグイスが喜びの歌を歌い、谷間からはヤンバルクイナの呼び声が聞こえる。
イタジイの新芽と花
大国林道(大宜味村と国頭村にまたがる全長35.5km、総幅員5m、沖縄県管理の広域基幹林道)に車を置いて、山道に入った。尾根道を辿り、水没予定区域にある大保川支流の滝をめざして急斜面を降りる。
川に降りる手前にロープが張られていた。ダム湖の水の最大水位を示すもので、川床からこのロープまでが伐採予定なのだ。
川に降りるとすぐ目の前に、美しい滝と滝壺が現れた。「これがなくなるなんて信じられない!」と声が上がる。林床は新芽(丸いゼンマイ)をいっせいに芽吹かせたシダに覆われ、その間からケラマツツジの朱色の花が覗いている。岩の上には渓流性のリュウキュウツワブキが群生し、水の上に枝を差し伸べたアマシバは白い花を咲かせていた。
支流を少し下ると大保川本流と合流する。一つの岩に幾種類もの苔が緑の小宇宙を作り、ランの仲間のキンギンソウがあちこちで蕾をふくらませている。本流を少し上ると、そこにも小さな滝があった。このあたりも水没地域に含まれるという。
奥間川流域保護基金代表の伊波義安さんが「このダムを止めきれなかったことが悔やまれるね」とつぶやいた。同基金は、大保ダムとセットの事業として計画されている奥間ダム建設に「待った」をかけている。建設に反対する同基金の所有地がダム本体の建設予定地にかかっていること、奥間川を愛する地元の人々がダム事務所の説明を拒否していること、などから、実質的な凍結状態にあるが、ダム事務所は、大保ダム完成後に奥間ダムを着工するという姿勢を変えていない。
ハクサンボク
奥間川は自然豊かな美しい川だが、大保川もそれに劣らぬすばらしい景観を持ち、全長約5kmの奥間川に比べるとダイナミックさでははるかに勝っている。惜しむらくは、流域に村のゴミ処分場があったり、畜舎廃水が流れ込んで水質が悪化し、村民が川にあまり愛着を持っていないため、ダム建設によって川が失われることに関心がないと、ある村民から聞いたことがある。
しかしそれは川の責任ではない。大保川流域には奥間川と同じようにたくさんの炭焼き窯の跡があり、人の暮らしに貢献してきたことを物語っている。水没予定地に完全な形で残っている炭焼き窯が最近発見されて地元紙でも大きく報道され、大宜味村教育委員会ではこれを移設保存する作業を進めている。
お世話になった川を恩知らずにも汚したのは人間だが、川を浄化できるのも人間だ。汚染の原因を取り除いて愛着を取り戻し、この川を守ることもできたのではないかと、今さらながら後悔が胸を噛む。大保川流域はイタジイやオキナワウラジロガシの古木も多く、絶滅危惧種のノグチゲラにとっては最良の生息地だった。川を歩き、写真や映像も含め大保川のすばらしさを伝える努力をした人たちも少なくないけれど、ダムを止めるには力が及ばなかった。
さらには、大保ダムの残土で塩屋湾に隣接するイノー(サンゴ礁の内海)を埋め立てる事業が進行中であり、大宜味村は山も海も失いつつある。この埋立事業に対しては村民の間から反対運動が起こり、私も注目しつつ応援したが、土建業や運送業などの利益を代表する議員が村議会の大勢を占め、反対する議員はただ一人という状況の中で押しきられてしまった。ブルドーザーや重機が唸りを上げる埋立地の前を通るときはいつも、胸が締め付けられる。
「悔やんでも悔やみきれないが、せめては、これを教訓にして、これ以上のダムを造らせないことだ」と伊波さんが言った。私も、そして同行したみんなが同じ気持ちだったと思う。
県民の水は既に足りており、これ以上のダムは必要ない。仮に不足する場合でも、節水や、ダムに頼らない水源を開発するなど、方法はいくらでもある。私たち人間の便利さや欲の追求によって既に満身創痍のこの島の自然を、これ以上破壊してはならないと、改めて思った。
キンギンソウ
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本流にある小滝
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大保川の流れ(本流)
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クロバイの花
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さまざまな色を見せる新緑の山
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