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コラム

野放し 悪徳獣医師

高村智庸2007/05/04
東京・多摩市にある動物病院のT獣医はまさに悪徳獣医師。ペットの具合が悪くなって、同動物病院に診てもらったところ、死亡したり、後遺症を抱えてしまったという被害が100件以上もあるという。
日本 事件 NA_テーマ2
 わが家には柴犬がいた。去年の7月、14才と10ヶ月で天寿をまっとうするように息を引き取ったのだが、犬を飼っていると、毎日の散歩で知り合った犬仲間ができる。散歩は、飼い犬に関する情報交換の場になり、どんなドッグフードが良いとか、ペットの健康管理や何処の獣医が親切に診てくれるとかいう情報を得ることもできる。

 同時にそれは日常の近所付き合いが広がってゆくことにもなっている。お腹が痛い、頭が痛い、気分が悪い……言葉を話せないペットたちが突然、吐いたり、熱を出してぐったりした時、ペット仲間からのアドバイスで助けられたことがあった。

インターネットで病院を探すと……被害の書き込み

 ところで、ペット仲間がいない人はインターネットや電話帳などで動物病院を探すことになる。そこで腕の良い獣医に巡り会えばよいのだが、東京・多摩市にある動物病院のT獣医はそうではなかった。ペットの具合が悪くなって、その動物病院に診てもらったところ、死亡したり、後遺症を抱えてしまったという被害が100件以上もあるというのだ。

 被害に遭ったという親子に話を聞いた。かなり大きいその黒い猫は、まだ足の動きが少しおかしかった。昨年の6月頃、5階のベランダから落ちて、前足2本が折れたようにぶらぶらになり、ぐったりしていたので、あわててその動物病院に連れて行った。「前足2本が骨折して、内臓を打っているので肺と肝臓が出血しているかもしれない、手術をしなければならないので今夜は預かります」と言われたという。翌日電話したところ、もう手術は終わったが、意識が朦朧としているので、もう少し様子を見なければならないということだった。

 しかし、心配になってインターネットで調べてみるとT獣医によって被害を受けたという書き込みが、何件も載っていたので、引き取りに行ったという。ところが預けた猫は白目を剥いて、意識朦朧で、異臭にまみれてぐったりしていた。肝心の骨折箇所は両足の真ん中あたりを3cmほど切って、一針縫った跡があるのだが、足はぶらぶらのままで添え木も包帯もしていなかったという。

 どんな治療をしたのか手術代と入院費で約40万円も取られたという。このまま家に連れて帰って大丈夫ですよと言われたが、おかしいと思い、別の病院に連れて行くと、折れた前足はそのままになっているという。なんの為に切って縫ったのか分からないし、骨折の治療は施されていない。このままだと歩けないようになるだろうと言われ、大学病院で再手術をして骨折箇所を金属のプレートで固定したという。T獣医には、食事はしないし、水も飲まないと言われていたのに、自宅に戻ってから水をやるとすごい勢いで飲むし、ヨーグルトもよく食べたという。

検査するので預かると言われて

 次のケースは愛犬が受けた被害だ。昨年9月、朝から元気がなく、水も食事も受け付けず嘔吐を繰り返していたので、かかりつけに連絡すると祝日のため休診だった。電話帳を調べて、祝日でも営業しているT獣医の所に連れて行くと、検査するので預かると言われ、一旦帰宅し、夜7時頃に呼ばれて再び行くと、「血液検査とエコーで調べたら、胃の中に塊があり、吐かせようとしたが吐いてくれない、このままだと腸閉塞になるので手術しかない」と言われ、気が動転したものの「避妊手術と同じくらい簡単で、明日には家に帰れる」という言葉を信じて、同意したという。

 帰宅してからインターネット上に被害者の書き込みが見つかり、被害者の会まであることが分かり、すぐ手術を止めて貰おうと電話したところ、すでに手術は終わったという。病院に行くと点滴もされずにぐったりしている。「胃の中に軍手が入っていました」と、新品のような白い軍手の片方を見せられた。請求された手術代8万円を払って、そのままかかりつけの獣医に見せ、翌日再手術することになった。

 問題の胃は2cmほど切って縫ってあったというが、その切り口から軍手を取り出すことは不可能であること、手術で切開した腹膜は縫わずにそのままになっていたという。金を取るため必要のない手術をされ、命を落とすところだった。

 そして3件目は命を奪われたケースだ。昨年7月、飼っている兎が菌に感染し体調が悪くなった。家の中で一緒に飼っている犬にも感染している可能性があるかもしれないので、かかりつけの獣医に見てもらおうとしたところ、夜間診療はしていないので、ホームページで捜してT獣医に診せたという。

 兎は通院で治療することになり、犬は検査入院ということになった。自宅に戻ってネット検索するとT獣医による被害例が何件も報告されていること知り、引き取りに行ったところ、ほんの3時間ほどしか経っていないのに、すでに死亡していたという。

 原因不明の突然死だと言われて愛犬の亡骸と対面した。納得がいかないまま、別の病院で病理解剖したところ、窒息死と診断された。気管支から硬く丸めたビニールが出てきたという。犬はいろいろな物を口にするが、誤って飲み込んだとしても気管支の奥まで入ってしまうことはあり得ないということだった。

 恐らく、丸めたビニールの塊を無理やり飲み込ませてから開腹手術をして、ビニールが胃袋から出てきたことにしようと考えたのではないかという。しかし無理やり飲み込ませようとした時に気管支の奥に詰めて、窒息死させたのではないかと話してくれた。この動物病院は飼い主が治療に立ち合わせてもらえないから、どんな処置をされたのかわからない。不審を抱いた飼い主がペットを引き取ろうとしても、高額な治療費を払うまで渡してもらえないという。

民事不介入というカベ

 そうしたトラブルが何回もあって、すぐ近くにある多摩中央署からパトカーが度々出動しているのだが、「民事不介入」ということで、取り合ってもらえないという。私の手元には100件ほどの被害内容のリストがある。どれを読んでも高額な治療費を払わされたにも拘らず「必要のない手術」と「すべき治療をしていない」ことによって死亡したか、後遺症を抱えているという報告だった。

 問題のT獣医が経営する動物病院のホームページには、「ペットは家族の一員であり、人と同様の手厚い健康管理を受けられるようにすることが私たちのつとめです」と書かれている。犬猫、うさぎ、リス、亀、爬虫類、鳥から野生動物まで、どんな動物でも24時間365日救急夜間も受入可能と書かれ、ペットホテルやペット美容室も備えていることになっている。

 院長自身について「世界トップの獣医療先進国と言われるアメリカに渡り、有名なニューヨーク市アニマルメディカルセンターなどで犬猫の医学を学び、世界一のレベルを誇ると言われるサンディエゴ動物園などでも獣医修業。2002年モデストマクリーン賞受賞。日本人として初めて、アメリカの動物園の獣医スタッフとなった。

 約4年間の留学を終え帰国。帰国後、全国各地の多くの動物病院から獣医師教育、獣医療指導等の依頼を受け短期間ずつの獣医療指導等を全国各地の動物病院で行った。その後、2003年末、東京都多摩市、多摩センターに動物病院を開院。(後略)」アメリカ獣医師会所属というタイトルで自己紹介している。獣医師として輝かしい経歴と腕前を持っているような内容になっている。

 このT獣医が勤務していたという都内の動物病院の院長に当時の様子を聞いてみた「見習い研修医として、診療の手伝いをしていました」しかし最初の1週間ほどで「内服薬を静脈内に入れようとしたのです。(そんなことしたら)死にますよ。死なないうちに発見できたから事故にならなかっただけです」常識として考えられないことだという。それで首になったという。

 さらに2003年3月初旬から2週間勤務したという静岡県磐田市の獣医科医院の院長は「助手について覚えるという見学の段階でした」。履歴書には臨床歴7年と書いてあるのに、どの先生でも知っているような、よく汎用される薬の名前を知らなかったという。「猫の5種混合を持って来なさいと言ったのに、犬の8種混合を持って来たのですよ」指示をちゃんとしているわけだから、それを間違えて持ってくるということはあり得ない、論外なことだという。

 「そういった初歩的な、超初歩的な部分で、彼の場合は落第していたと思って下さって結構です。診察する能力はありませんでした」。そして突然来なくなってしまったという。それから8ヶ月後に開業したと聞いてビックリしたという。元勤務先の院長が、ここまではっきりと断言するほど獣医師としてのレベルが低かったということなのだろう。

経歴と実際の治療との間に大きなギャップ

 「全国各地の多くの動物病院から獣医師教育、獣医療指導等の依頼を受け短期間ずつの獣医療指導等を全国各地の動物病院で行った」と自らのホームページに書いた経歴とはあまりにもかけ離れた証言をどのように解釈したらいいのだろうか。多摩センターにあるT獣医の動物病院はマンションの1階にあった。診察中と書かれた札が掛けられていて、若い夫婦が来ていた。名乗ったところ取材は拒否された。「予約もしないで……」と言うから予約すれば(取材に)応じてくれるのかというと、なにも言わずに奥の部屋に入ってしまった。

 大勢の被害者を出しながら営業を続け、新たな被害者を出していることが許せないと、被害者5人はT獣医に対して約1200万円の損害賠償請求訴訟を起こした。3月22日、東京地裁の判決はT獣医の敗訴だった。水野有子裁判長は「T獣医師の行為は計画的、常習的で悪質というほかない」とし、必要のない手術をしたことなどを認めた上で、治療行為を「詐欺」とまで断じて約316万円の支払いを命じた。

T獣医 損害賠償訴訟 地裁敗訴も控訴

 T獣医は高裁に控訴した。被害者達もT獣医が、獣医師の免許を剥奪されずに今も営業していることが許せないという。獣医師の免許剥奪について、所管の農林水産省に聞いてみた。蓄水産安全管理課の課長は、T獣医については以前からいろいろな相談が寄せられていたという。「私の知る限り、これほどひどい事例はあまりない」ということだった。獣医師法では獣医師が罰金以上の刑に処せられたり、獣医師道に対する重大な背反行為を起こした場合、大臣が獣医事審議会の意見を聞いて免許の取り消しや業務の停止という処分を下せることになっている。

 刑事裁判で罰金以上の刑が確定すれば免許取り消しになるが、「今回の場合は民事裁判で有罪になったと言っても控訴したことで高裁の結果を待つことになる」という。しかし、民事裁判でも有罪が確定すれば、農水省としては獣医師道に対する重大な背反行為に該当すると思うので審議会に諮問するように考えている、ということだった。結論はまだまだ先ということになるが、新たな被害者が出ないことを祈るばかりだ。
野放し 悪徳獣医師
ワイドショーリポーター高村智庸さん。
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