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【大気圏外】事故米騒ぎと官僚支配  ―政治の役割はどこに?

田中良太2008/09/14
「ニューズウィーク日本版」最新号は「世界的な食糧危機に、日本は備蓄米を国際市場に放出してリーダーシップを発揮することもできた」と書いている。今の事故米騒ぎの根底には、ウルグアイ・ラウンド合意による大量の備蓄米輸入問題があるが、日本の政治家はだれも言わない。官僚が出す政策を追認するだけの存在となっているからだ。
日本 お役所 NA_テーマ2
 ◆背景にミニマム・アクセス制度
 事故米騒ぎがどんどん拡大している。問題の根底には、事故米が、農水省にとって極めて有り難い存在であるという現実があるらしい。ガット・ウルグアイ・ラウンドの合意(1993年)によって日本は95年以降、年間約77万tのコメ輸入を義務づけられている。これがミニマム・アクセスの制度で、輸入された米はミニマム・アクセス(MA)米となる。MA米は国産米価格に影響しないよう、購入数年後に加工用で売却する。このため毎年100〜300億円の赤字となるという。

 ◆農薬が見つかっても輸入する
 食用とならない事故米の場合、価格は通常のMA米の10分の1程度。それでも輸入量のうちにカウントされるから、輸入に要する資金は少なくてすむ。だから「食用」として輸入した米から、農薬やカビが検出された場合も、輸出国に引き取らせることはなく、「非食用」に変更し、価格を変更するだけという処理にする。

 ◆糊の原料になるだけ
 事故米は工業用に使うだけだが、せいぜい糊の原料になる程度。買い手は少ない。保管料だけで1tにつき年1万円かかる。焼却するにしても1tあたり1万円の焼却費に加え運搬費がかかる。 

 ◆良いお客さんだった三笠フーズなど
 米穀加工販売会社「三笠フーズ」(大阪市北区)▼食品・飼料販売会社「浅井」(名古屋市瑞穂区)▼肥料製造会社「太田産業」(愛知県小坂井町)など大量に買ってくれるのは、在庫を抱えている農水省にとって、良いお客さんということになる。

 事故米を「加工用」と偽って販売する違法行為についてチェックが甘かったとされるが、そもそも「良いお客さん」を疑いの目で見ることなど、普通はしないだろう。

 ◆「コメ備蓄放出」の提案
 「ニューズウィーク日本版」9月17日号は、英「エコノミスト」誌前編集長ビル・エモットの「政権交代まで日本の漂流は終わらない」という文章を掲載している。

 その中に「日本は世界的な食糧危機に有効な対応を取れなかった。もしコメの備蓄を国際市場に放出したり、アジア諸国に大型の経済支援を実施していれば、中国に対抗してアジアでの発言力を高めることができたかもしれない。WTOのドーハ・ラウンドで、7月に交渉が決裂する前に日本がリーダーシップを発揮できた可能性もあった」と書いている。

 同誌は10日発売だから、エモットは事故米騒ぎを知ってこの文章を書いたわけではないだろう。

 ◆賛同の政治家はゼロ
 日本の国会議員にとってコメ問題は「基礎知識」であり、備蓄米の始末の悪さを知らないのは「もぐり」だと言っていい。「食糧危機だからこそ、備蓄米を放出して国際貢献したら」と言い出す政治家が1人もいなかったのは情けない。

 自民党総裁選の候補者5人の中にも、エモットの主張に触れ、「それこそ政治の役割」と言った人はいない。民主党代表に3選された小沢一郎も同じだ。国会議員本人はともかく、秘書の中にも「ニューズウィーク日本版」の福田退陣ショック論評を読んでいないなどということはあり得ないだろう。読んでいながら、議員に注意喚起するには当たらないと判断したのだろう。

 ◆読売の「備蓄拡大」記事
 国会議員だけではない。新聞の社説にだって、エモットのような提案は皆無だ。社説ではないが、読売新聞は今年1月1日付1面に、「小麦・大豆の備蓄拡大 国際争奪戦激化に対応/農水省方針」という特ダネ記事を掲載した。書き出しは、

 <政府が、輸入への依存度が高い小麦、大豆と、家畜に与えるトウモロコシなどの飼料作物について、現在の備蓄水準を引き上げる方向で検討に入ることがわかった。2009年度からの実施を目指す。> である。

 ◆経済面に「支援」の解説
 経済面トップには超大型の解説的記事が掲載されている。書き出し部分は以下の文章である。

 <農林水産省が食料の備蓄水準引き上げの検討に入るのは、日本の食料自給率が39%(2006年度、熱量ベース)と4割を下回り、先進国で最低水準となっていることに加え、世界の食物供給をめぐる状況が厳しさを増しているからだ。世界的な食料の争奪戦が始まり、一部の輸入食物では、日本企業の提示価格より高い値段で外国勢が買っていき、日本が「買い負け」する事例も出ており、農水省は食料確保に危機感を強めている>

 要するに読売は、この備蓄拡大政策の応援団を買って出ているのである。

 ◆官僚の予算・権限・人員拡大路線
 備蓄を拡大するためには、当然カネがかかる。コメではなく小麦、大豆でも、同様に始末に悪いものであろう。それを管理するには人手も必要だ。官僚はいつも予算・権限・人員を増やそうとするのだが、この場合「食糧危機」をネタにそれをやろうというのが農水省の作戦。それを後押ししたのが読売の記事であろう。

 ◆官僚が政策をつくる「常識」
 この展開こそ、日本の常識なのだ。官僚が「政策」をつくる。その政策を、メディアが「応援」の意味を込めて報道する。政治家は国会で認知するだけ。

 ◆エモット提案に二重のメリット
 エモットの提案のように、
 <食糧危機だからこそ、備蓄米を放出せよ> と言うことこそ、「政治」の役割のはずだ。

 国民にとって、日本の国際社会での地位が上がるというのは大きなメリットだ。他方では始末に悪い備蓄食糧管理のための予算と人員を節約できるというメリットもある。

 ◆官僚の使い走りが「政策通」
 ほんらい政治の役割は、官僚機構からは出てこない判断をするところにある。しかし日本ではメディアを含めて、官僚機構から出てくるものこそ「政策」なのである。食糧政策は農水省が決める。教育政策は文科省が決める。年金政策は厚労省が決める。各省庁が「族議員」という種族を飼っており、その手合いが「政策通」だと評価される。政治全体が、官僚たちの「使い走り」にすぎないシステムが成立してしまっているのだ。

 ◆自民党政権を終わらせるだけで十分か?
 この「日本の常識」を変えるにはどうすればいいのか? 自民党政権を終わらせることも一つの手ではあるが、それで十分かどうかは保証の限りではないだろう。
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