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コラム

【大気圏外】英語教育偏重は止めるべきだ―「可能でもやらない」という姿勢を

田中良太2008/12/25
 英語は必須の伝達手段だとして、文科省は学習指導要領を改正し、高校の英語教育を英語で行うことに決めたようだ。しかし、欧州では逆に「英語帝国主義」を見直す方向だ。英語教育の強化がなぜ日本で提案されるのか、不思議だ。日本の学校教育なのだから、まず日本語をしっかり教えるべきではないか。英語強化はその後で考えれば良い。
日本 教育 NA_テーマ2
 ◆文科省の改正案
 5年後の2013年4月から、高校の英語教育は原則として英語で行うことになるのだそうだ。文部科学省が22日発表した高校学習指導要領の改正案で、英語教育の強化が最重点となっている。日本語を使わない授業のほか、習得する単語の数も増やし、中学校の履修も含めて約3,000語とするという。

 ◆可能かどうか疑問
 「学力崩壊の時代に、そんなことできるの?」という疑問がまず浮かぶ。朝日の社説(23日付)は 
 <高校指導要領 英語で授業…really?>というタイトル。

 <高校の英語の先生たちの中には、頭を抱える人も少なくないだろう(書き出し)>
 <あいさつや簡単な呼びかけを英語でするだけなら、これまでと大差はない。しかし、文法を英語でわかりやすく説明したり、生徒の質問に英語で答えたりすることは簡単ではないだろう。できたとしても、どれほどの生徒が理解できるだろう>

 ◆現場は混乱
 いきなり英語で授業、と言われても現場は混乱するばかりだ。使える英語を身につけるためには、どうすればいいのか。そのために英語教育をどう変えるべきなのか。その道筋と環境作りを大枠で整えることが先決であり、文科省の仕事ではないか。

 <教師の育成やカリキュラムの検討はもちろん、入試問題の改革も視野に入れなければならない。11年度から全面実施される小学校高学年での英語活動も含めて、総合的な検討が必要だ>
 <指導要領は大枠にとどめて、実際の運用は学校に任せる。それが現場の力を引き出すことにつながる(結び)>

 などの文章はいちいち「ごもっとも」というほかない。

 ◆「まず妥当」と読売
 読売の社説は 
 <高校新指導要領 「脱ゆとり教育」をどう生かす> で、例によって指導要領改正案全体については肯定的内容。しかし「英語で授業」については、

 <改定案で疑問なのは英語だ。「聞く、話す、読む、書く」という四つの能力を総合的に身につけられるよう再編成し、中学校レベルの基礎的な授業も行えるようにしたのは、まず妥当だろう。

 ◆英語の授業は「無理」
 しかし、「授業は英語で行うことを基本」としたのは、無理がないか。会話をはじめ、実社会で使える英語力の育成が狙いのようだが、性急な改革は消化不良を起こす恐れがある。

 どういう授業を目指すのか。文科省は、説明会や今後出す解説書で狙いを明確にすべきだ。> と指摘された。

 ◆必要なやるべきか否かの論議
 しかし、可能なことと、やるべきことは違う。例えば高校でケータイ小説の読み方、書き方を教えるとすれば当然可能だろう。しかし「やるべきでない」という主張も出てくる。まず実現しないだろう。英語教育の強化が何故いま提案されるのか、不思議というほかない。

 ◆脚光浴びた「日本語のみ」の益川氏
 今年のノーベル賞授賞式で「日本語」は一躍脚光を浴びた。物理学賞受賞者の1人、益川敏英氏は英語を一切使わず、日本語で押し通した。それは益川氏が「英語をしゃべらないのではなく、英語をしゃべれないから」(本人の弁)ということにすぎない。

 ◆異例の日本語祝辞
 この行動をうけて、授賞式でスウェーデン王立科学アカデミーの幹部らが「小林先生、益川先生、あなた方の業績に感謝します」と、日本語での祝辞を述べた。どうやらこれはまったく異例のことのようだ。

 ノーベル賞授賞式、記念講演という場を支配しているのは英語らしい。益川氏の「日本語」が、英語支配に風穴を開けたようなのだ。

 ◆欧州連合での「英語論議」
 そういう展開になったのは理由がある。欧州連合(EU)の公用語問題である。2001年、当時のプローディ欧州委員長(イタリア)が膨らむ事務経費の削減を目指し、委員会内部で使用する言語を英語に一本化し翻訳コストを節約する改革案をまとめた。EUは加盟国の言語をすべて公用語としている。その時点で公用語は11言語もあった。会議の同時通訳と文書の翻訳費用は年間2億ドルに上っており、そのムダを省くことを狙った改革案だった。

 ◆「加盟国すべての言語が公用語」再確認
 これに対してフランスとドイツが猛反発、両国外相が「単一言語主義はとても容認できない」と抗議文を送りつけた。仏独両国は、文化面では英国にひけをとらないという自負があり、欧州統合の主役を演じてきた実績もある。「英語の支配」は許せないという姿勢をとった。

 この騒ぎでEUは「加盟国言語すべてが公用語」という原則を再確認した形だ。

 ◆公用語20言語・同時通訳190通り
 その後、EUは東に拡大。2004年5月、ポーランド、チェコなど中・東欧8カ国とマルタなど地中海の島国2カ国が加盟して、加盟25カ国・公用語20言語となった。

 同時通訳の場合、11言語だと55通りが必要となる。20言語になると理論的には190通りに膨張する。しかしフィンランド語からギリシャ語などという小言語同士の場合、英仏独などの大言語を経由した重訳とする「リレー通訳」方式をとることによって克服。加盟国が増えても、「すべて公用語」の原則を貫いているという。

 ◆英語帝国主義見直しに一石
 こういう脈絡の下で欧州では、「英語帝国主義を見直そう」という考え方が強まっていたのである。そこに益川氏の「日本語のみ」という行動があったので、スウェーデン側がすぐに反応して、日本語での業績発表ということになったようだ。

 引用した朝日の社説は、益川氏に触れて以下のように書いている。

 ◆「益川氏の日本語スピーチは英語下手の象徴」(?)
 <たしかに日本人の英語下手はよく知られるところだ。ノーベル賞を受賞した益川敏英さんのスピーチは、その象徴といえるかもしれない。中学、高校と6年間学んでも、読み書きはともかく、とんと話せるようにならない。

 ますます国境の垣根が低くなる世界で、英語は必須の伝達手段になってきた。だから英語教育を変え、会話力を育てたい。それはその通りだ。そのために授業自体を英語での意思疎通の場と位置づける。その発想もいい。>

 ◆その認識こそ恥ずかしい
 「何だこれは」と悪罵を投げつけたくなるような文章だ。益川さんの行動を「英語下手の象徴」と恥ずかしがるようでは、日本を代表する大新聞の社説として、あまりに低レベルでしかない。

 ◆英語上手の背景に、英国支配の歴史
 アジアでいちばん英語が上手いのは、インド人、シンガポール人といったところだろう。それぞれ英国に植民地支配された時代があり、とくにインドは、「母国語」を一つにはできなかった。このため高等教育が英語でしかできなかったという事情がある。

 ◆しっかりした日本語教育が最優先
 日本の学校教育なのだから、日本語をしっかり教えよう。その上で英語だ……という主張になるべきだろう。

ご意見板

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[40102] 日本の英語教育は特殊
名前:竹内春一
日時:2009/01/03 16:48
日本の英語教育は特殊です。例えば、中学、高校、大学は英文科を卒業しても日常英会話ができない人が70%以上あると思われる。
英文科在校生で英会話ができるのは英語のサークル活動をしていたものだけでした。


その理由は文化の違いが一番大きい。韓国、中国、タイのアメリカへの留学生の多くも英会話が下手でした。会話というのは、日常生活の表現が基本です。日常生活を英語で表現する機会がない状況での、一番良い訓練は、演劇を英語ですることでしょう。いかに英単語を覚えても、文法を覚えても、日常会話はできない。これは事実です。

文部官僚も自分でできないことを現役の教師に押し付けるのは良くないです。自分でこうすれば、英語で英語教育ができるというお手本を示すのが、日本の文化です。
[40046] 官僚の思いつきに振り回される教育行政
名前:中西俊
日時:2008/12/30 09:30
官僚は、自分の在任中に、何か「これはオレがやった仕事だ」というものをつくりたがる。

人間は、だれしもが、社会の中で自分が存在していることを確認したがるものだから、わからないわけではないが、自分自身を標準的なモデルとして発想することにムリがある。

ある官僚は、自分自身が受けた教育を振り返って、もっと自由にものごとを考える余裕が欲しかったと考えたので、「ゆとり教育」を唱えて行政に反映させた。

その結果、彼の名前は、教育行政史に残ることになって、彼は満足した。

ある官僚は自分のすぐれた知能を平均的と考えた。すると「ゆとり教育」は時間のムダと判断して、以前の教育に戻そうと唱え、行政に反映させた。

その結果、彼の名前も教育行政史に名前が残ることになった。

オメデトウサンと言いたいところだが、国民は大迷惑。

さて、英語教育はどうか。受験英語を無視したところは、やはり官僚個人の思いつきとしかみえない。
[40008] 今回は例外的に「お気に入りクリック」できず
名前:浜地道雄
日時:2008/12/28 11:52
いつもながらの快刀乱麻の田中さんの記事、
期せずして、私も英語教育について益川氏の英語に
ついても触れて書いたところでして、殊に興味深く拝読。


でも、今回は例外的に「お気に入りクリック」ができませんでした。


1) まずタイトル「英語教育偏重」は止めるべきだ、は穏当でない。
「可能でもやらない」という姿勢をとのことですが、可能ならぜひやっていただきたい。


2))「英語帝国主義見直しに一石」は深読みすぎではないでしょうか。
>「英語帝国主義を見直そう」という考え方が強まっていたのである。そこに益川氏の「日
>本語のみ」という行動があったので、スウェーデン側がすぐに反応して、日本語での業
>績発表ということになったようだ。


そうだった(細川氏の「日本語のみ」にスエ―デン側が反応)のかなあ? 
「英語帝国主義を見直す欧州」の何か事例があればご教示ください。(興味があります)


3)> 日本の学校教育なのだから、日本語をしっかり教えよう。その上で英語だ……という
>主張になるべきだろう。
この論議はしばしば出てきます。
しかし、経験的(元々、社会人になるまで英語には触れず。
商社マンとなって外国出張にほっぽり出された。男女四人の
子供は日米両方で教育を受けた)には、英語を学ぶと日本語力育成に
悪影響がある、というのはありません。


ほんの一例ですが、英語は文法的にロジカルですから、
「まあ、その辺は何ですから」と言った表現は許されず、きちんとした表現思考の練習になります。
(勿論、「曖昧文化」も美しいのですが、今の日本語の乱れはそれと無関係ですね。
徳目教育の問題だと私は主張します)


むしろ、それ(日本語対英語 論争)以前に日本の若者に必要なのは
「考えのまとめ」「発表」という訓練だと実感します。

「日本語で言えないこと」を英語で表現できるわけがない、といつも
学生には言ってます。


関連拙稿:
普段から英語を使おうとする姿勢
[39964] 英語教育
名前:村上久三郎
日時:2008/12/26 10:57
 杉山記者のように「英会話学校」での勉強は非常に役立ちます。英語勉強の目的には例えば次のものがあるでしょう。

@文法の多少のミスが許される英語。
 外国友人との会話、買い物、外国人を観光案内する英語などがあ げられるでしょう。
A文法ミスが許されない英語。
 企業などでの業務用や学術論文などが含まれるでしょう。
 この場合は文法が不可欠です。

 このように、文科省は何を目的として英語を教えるかですね。
上記Aを目指す人で、文法をしっかり勉強した人は、成人後でも、英会話を短期間勉強するだけで、急速に伸びますね。
 一方、文法をよく知らないで、教育を長年受けた人は「あっという間に」追い越されてしまいます。

 要するに自分の英語勉強の目的を「お金儲け」に繋げたい人は
まず文法をしっかりやっておくと良いかと思います。
[39961] ほぼおっしゃる通りだとおもいます
名前:杉山秀樹
日時:2008/12/26 07:23
大学生になれば、さすがに基本は英語の授業(ができるくらい)でないとそれまで何やってだったんだ思うのが通常の感覚ではあると思いますが。
日本の英語教育ははっきり言えば「英語でサインできればいい」レベルでしかありません。大学まで9〜10年かけてこれかよって感じです。

あまりに受験のための文法パズルに偏り過ぎていて、受ける身としては苦痛だけという気がします(私自身そうでした)
そのせいで、現在、英会話学校に通っております(笑)

村上さんのご意見とは異なりますが、少なくとも最初は少々文法的に間違っていても外国人とコミュニケーションがとれることの方が重要で、文法が正しいか否かは上達する中で修正して行けばよいと思います。
その方がたぶん、生徒としても楽しいし勉強のし甲斐があるでしょう。

教師の能力的制約が大きいので英語だけなのでしょうが、それならばまず全部じゃなくて大学教育から変えていかないとどうにもならないでしょう。
文法的には他のヨーロッパ言語と比べると簡単なので、英語を足がかりとして使うのは悪くないと思います。スペイン語をかじったことがありますが、結構単語などヒントになりましたよ。文法で挫折しましたが。

日本語の教育が先というのはおっしゃる通り。話題がなければしゃべれてもどうにもなりません。小さい時から教えても、覚えるのも速いですが忘れるのも速いですよ。開始年齢を下げる必要は全く有りません。
[39953] 英語教育
名前:村上久三郎
日時:2008/12/25 23:21
 文科省や大学は、英語教育の「目的」を分かっていないと、せっかくの英語教育が「英語ママゴト遊び」で終わることも十分予想されますね。
 インドやシンガポール人は英語を話せますが、高学歴者でも文法ミスが非常に多いです。
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