◆文藝春秋の名物コラム・赤坂太郎
月刊誌「文藝春秋」の売りもののひとつが「赤坂太郎」というペンネームで毎号掲載されている政界裏話である。
現在書店に置かれている2月号(今月10日発売)のタイトルは、<小沢政権「閣僚名簿」の意外な顔ぶれ>。
07年11月号(10月10日発売)以降、赤坂太郎ものは、文藝春秋のホームページで読めるようになっている。
今年2月号は、
http://bunshun.jp/bungeishunju/akasakataro/0902.html で読める。そこからバックナンバーにさかのぼることも可能だ。
◆内閣支持率半減の衝撃
2月号の文章は、昨年12月9日(火)の情景から始まる。その前日の8日が、あの衝撃的な「内閣支持率半減の日」だった。各紙が行っている世論調査による麻生内閣支持率は朝日新聞22%、読売新聞20.9%、毎日新聞21%、共同通信25.5%。
<国民的な人気の高さを買われ、9月の自民党総裁選に圧勝した伊達男のあまりに早い凋落ぶりに、党内はパニック状態に陥っていた>と書いている。
◆麻生首相が各派会長に電話
赤坂太郎によると、麻生太郎首相はこの朝、自民党各派の会長につぎつぎ電話した。以下、引用である。
<「ご心配をかけて申し訳ない」。いつになく殊勝な口ぶりの麻生に対して、各派の領袖たちは「支持率なんて上がったり下がったりするもの。気にすることはない」「若い連中が焦ってワーワー言っているが、直に落ち着く」とそろって激励の言葉を口にした。(中略)
◆「官房長官を挨拶に伺わせます」
麻生もさすがに容易ならざる事態に立ち至っていることは自覚していた。だからこそ、領袖たちへの電話で必ず言い添えた殺し文句がある。「手間は取らせませんが、官房長官を挨拶に伺わせますから、時間をつくってやってください」。
この状況で首相が官房長官を差し向ける用向きはただ一つ、官房機密費のお裾分けだった。正式名称は内閣官房報償費。「国政の円滑な推進」のために官房長官の判断で自由に使えることになっている年間15億円近い領収書の要らない秘密資金だ。一般に「権力の潤滑油」と呼ばれるが、今回は麻生から党内の顔役たちへの迷惑料であり、各派所属議員の協力を取り付けるための懐柔資金だった。
◆懐柔資金は最低1千万円
官房長官の河村建夫は清和会(町村派)代表世話人の前官房長官・町村信孝、平成研究会(津島派)会長の党税制調査会長・津島雄二、番町政策研究所(高村派)会長の前外相・高村正彦ら派閥領袖に加え、首相経験者の事務所にも麻生の名代として足を運んだ。河村が訪問時、あるいはその前後に届けた金額は一説に「派閥の規模によって違うが、最低でも1千万円」(党関係者)といわれる。
◆国会議員にも大盤振る舞い
一般の議員にも麻生は大盤振る舞いをした。自民党執行部が12月11日に党所属議員の指定口座に振り込んだ年末恒例の「もち代」。早期解散を見込んだ選挙事務所開設などで出費がかさんだとして、毎年支給される250万〜400万円の支部交付金に加え、麻生指示による選挙活動費200万円が上乗せされていた。衆院の現職だけで304人、6億円を超える特別手当である。>
◆前例のない使い途の暴露
官房機密費については、01年の外交機密費横領事件でその存在が公然のものとされた。事件をきっかけに
歳川孝雄著
「機密費」(2001年8月、集英社新書)
という本まで出たが、これほどあからさまにかつ具体的に、機密費の使い方が活字になったのは、初めてではないか。
◆麻生側近・朝日の曽我編集委員が執筆?
しかもこの「赤坂太郎もの」の執筆には、麻生首相の「側近」といわれる朝日新聞編集委員・曽我豪が関与しているといわれている。新潮社刊の月刊誌「新潮45」08年12月号(11月18日発売)に政治ライター、上杉隆氏が<「麻生総理と朝日新聞編集委員」のただならぬ関係>を書いたことは、本コラム昨年12月9日付
<朝日新聞取材メモねつ造事件の処分に見る尻尾切り体質> で紹介した。「新潮45」の文中で上杉は、「麻生陣営のスタッフのひとり」の話として
「曽我さんといえば(中略)『いや今月の赤坂太郎、なかなかの力作だろう。いい出来栄えだろう』と自画自賛したのも覚えています。なんでも文藝春秋のゴーストをしているのが自慢のひとつだったようです」という言葉を紹介している。
それに続けて
<果たして、あの名物コラム「赤坂太郎」は本当に曽我氏なのか。その件も合わせて、2通目の質問状を曽我氏に送った。だが、本人の回答は得られなかった>
と書いている。
◆「麻生もなかなかやる」の賞賛を期待?
麻生側近の曽我が、官房機密費のばらまきや「もち代」の上乗せを公然と書く意味は何だろう? 「麻生もなかなかやる」という賞賛の世論でも期待しているのだろうか? 私にはとても理解しがたい感覚である。
もっとも赤坂太郎については、筆者複数説もある。新聞記者が書いているにしても、雑誌感覚で文章を仕上げるのは文藝春秋編集部員であるはずという説もある。上杉が書いていることは真実であるにしても、麻生の大盤振舞を暴露したのは曽我ではない、という可能性もあることを断っておかなければならない。
いずれにしても麻生は「永田町の掟」をしっかり守っている政治家であるらしい。
◆回避された「消費税政局」
22日午前、自民党の財務金融部会と政調審議会は、政府が提示した2009年度税制改正関連法案の消費税に関する付則案を了承した。「消費税政局」は回避されたわけだ。
「朝日」は2面の大半をつぶすような<時時刻刻 増税の道、論より体面>を組んだ。
◆官房機密費が動いたのでは?
その中に、以下の文章がある。
<「離党とか、そういうことはしない。予算には全面的に協力する」
中川元幹事長は21日夜、東京都内のホテルで河村官房長官とひそかに会い、折衷案を受け入れる考えを伝えた。>
冒頭に引用した「赤坂太郎」の文章からすると、河村官房長官は、このときも官房機密費を運んだことにならないだろうか?
以下の文章も気にかかる。
<(首相は)自ら執行部に造反対策を要請し、先週には大統領就任式出席でパラオに滞在していた森元首相に電話。「中川さんをどうにかして」と頼み込んだ。>
「執行部」とあるのは「自民党執行部」だろう。執行部や森喜朗を動かすためにも、官房機密費を使っているのではないか。
こんな疑いを持たざるをえないのである。
◆予算委質問も、新聞・テレビの報道もない怪
それにしても文藝春秋の活字になっていることが、どうして予算委員会審議で取り上げられないのだろうか? ひょっとすると野党にも「お裾分け」があったのだろうか。
新聞、テレビはどうなんだ、という気にもなる。文藝春秋で活字にしているのだから、それをコラムか何かでとりあげることは容易だろう。どうしてそんな記事を見かけないのか。不思議でならない。