「北朝鮮が日本を狙って、中距離ミサイル・テポドンの発射実験を行った」と大騒ぎになったのは、11年前、1998年8月31日のことだった。このときメディアが過剰反応したのは、政府が無関心だったからだといえる。
その経過については昨年11月30日付
<元厚生次官宅連続襲撃事件と「真実の報道」 その2.北朝鮮テポドン発射事件という空騒ぎ>で書いたのだが、必要な部分だけ繰り返そう。
その日正午過ぎ、北朝鮮は「ミサイル」を発射した。射程1,500km以上の新型ミサイル「テポドン1号」で、その「弾頭」は日本列島を飛び越え、青森県三沢市の北東約580kmの太平洋上に落下した。
このミサイル発射について防衛庁は、8月中旬から米軍情報を得ていた。しかしこれまでどおり射程の短いノドンだと即断していた。当日の31日には米軍から「発射した」との連絡を受け、午後1時半記者クラブの加盟各社に、「本日正午すぎ、日本海に向けて弾道ミサイル1発が発射された」という文書を配布した。
その後米軍から、「日本列島を飛び越えた」という情報提供があったが、防衛庁は「他国の情報だから」と発表を控えた。しかし韓国国防部は記者団の質問に対して、「最終的な着弾点は太平洋上だ」という事実を明らかにした。
8月31日夕方のテレビニュースは、大騒ぎになった。各社とも共通して<韓国は「日本列島を飛び越えた」と発表しているのに、防衛庁はそれが事実か否かも、明らかにしていない。ミサイル弾頭の列島横断があったのか、なかったかによって、日本にとっての意味はまったく違ってくるのに、いったいどうしたことなんだ>といった抗議トーンの報道になった。
それを受けて新聞各社は朝刊向けの取材攻勢を展開する。防衛庁は、深夜になってようやく、「三沢沖着弾」をしぶしぶ認めた。
新聞は翌9月1日付朝刊から「北朝鮮がミサイル発射実験」一色の報道となった。9月1日付朝日朝刊紙面の大騒ぎぶりなども、前記<空騒ぎ>記事で紹介しているので、参照願いたい。
今回はうって変わって、政府が強い関心を示している。麻生太郎首相がこの件について最初に発言したのは3月2日。「首相ぶらさがり」記事によると、その時点で首相は
(1)国連の安保理決議1718(北朝鮮に「弾道ミサイルに関するすべての活動の停止」を求めたもの)違反であるということははっきりしている
(2)自衛隊法上は対応はできる、
の2点を明言している。「仮定の問題には答えられない」と言うことが多い首相としては珍しいことだ。
この首相の積極姿勢があったから、27日の安全保障会議で破壊措置命令の発令を決めるという運びになったのだろう。しかし今回は、<過剰反応ではないか?>という疑問がすぐに浮かんでくる。
軍事問題なのだから、「敵に手の内をさらけ出す」マイナスがある。そもそも弾道ミサイル防衛システムで、迎撃できるかどうか分からない。政府筋(おそらく鴻池祥肇官房副長官)は23日、「あっちがピストルを撃って、こっちがピストルを撃って当たるわけがない」と述べた。また中曽根弘文外相も24日の記者会見で「難しいのは事実」と認めた。
これに対して浜田靖一防衛相をはじめ、防衛族議員は強く反発したが、その反発によってかえって「不確かさ」が印象づけられる。
「米海軍はこの6年間で15回の試験を実施し、うち12回に成功」などというデータが示されている。しかし試験のときは、必ずミサイルが発射されることになっており、準備を整えている。コースなども想定の範囲内だ。
「実戦」の場合、どのコースをとるのか、高度はどの程度か、まったく予知できない。そういう条件の下で、「ピストルの弾丸で、ピストルの弾丸を撃ち落とす」ことは至難の業だろう。
迎撃に失敗した場合、北朝鮮に「日本の防衛力など張り子の虎」とバカにされることは必然だろう。それも覚悟して麻生政権は何をやろうというのだろうか。
麻生首相の判断はおそらく、「失敗なら失敗でいい」というものではないか。迎撃に失敗、北朝鮮にバカにされるような事態になれば「より精度の高い弾道ミサイル防衛システムを構築する必要がある」という主張が、正当でかつ緊急のものとして国民に認められる。
折からの不況で、国費を投じて需要を喚起することが「正しい」とされている。この機会に、弾道ミサイル防衛システムに兆単位のカネを投じることを、09年度第1次補正予算の「目玉」にしよう……。麻生首相の本当の狙いは、ここらあたりにあるはずだ。
すでにイージス艦3艦が展開している。地上発射型のPAC3(地対空誘導弾パトリオット3)も秋田・岩手両県に向かっている。4月4−8日の打ち上げ予告期間に入ると、メディアがばらまく緊張感は、「恐怖感」に近いものになるのではないか。それによって北朝鮮に対する国民の心情は、憎悪に近いものになるだろう。
国民が持っている「反北朝鮮感情」というものを強める意味でも、自衛隊を「実戦」に出動させることは有意義なのである。
経済危機克服のためのこうしたやり方は、ひょっとすると有効かもしれない。自動車とともに軒並み赤字に転落している電機各社は、イージス艦やPAC3などのコンピューターシステム特需で潤うかもしれないのだ。
しかしそうした「国策」は、満州事変を起こしたりして「日中15年戦争」にもって行った当時の陸軍と同じパターンなのではないか? 彼らの行動にも、金融恐慌を発端とした昭和初年の不況を乗り切るという意味が込められていたのである。
朝日は28日付朝刊2面<時時刻刻 迎撃準備、手探り>で、以下のように書いている。
<破壊措置命令の発令を決めた27日の安全保障会議。首相は「緊張感を持って毅然とした態度で臨むように」と指示した。麻生派のある議員は「危機管理に成功すれば支持率が上がる。不謹慎な表現だが、神風だ」。首相周辺は北朝鮮に厳しい態度を示すことで、求心力を高めたいと期待する>
金正日が発射してくれる弾道ミサイルこそ、自分自身の人気も、日本経済を救うための財政支出も運んできてくれる。
「政権の座にある血縁政治家」という本質はまったく一致している。麻生首相は不人気と経済危機に悩み、金正日もまた、脳こうそくで倒れて激痩せしているという。
中東紛争では、イスラエルの対アラブ強硬派と、PLO(パレスティナ解放機構)のファタハなど武闘派の利害が一致し、互いに戦うということで連帯していると指摘されている。両勢力内の和平推進派(イスラエルでは労働党など、PLOではアッバス議長ら)を「共通の敵」として、じつは手を握っているという見方である。
隣国にいる「危機」を抱えた2人の権力者が、がっちり手を握って助け合っている構図だ。日本の反発が強ければ強いほど、金正日の権力も安定する。