◆中国に断られた「幻の3月末訪中」
ロンドンで2日行われたG20サミットの前、麻生太郎首相は訪中するはずだった。共同通信が3月4日付で<日中両政府は、麻生太郎首相が今月末に訪中し、胡錦濤国家主席や温家宝首相との首脳会談を行う方向で最終調整に入った>という北京特派員電を流した。
朝日新聞は6日付朝刊政治面に<麻生首相、28日訪中で調整 胡氏・温氏と会談へ>という見出しの記事を掲載した。<政府は麻生首相の中国訪問の日程について、28、29両日とする方向で調整に入った。胡錦濤国家主席、温家宝首相と会談する。4月2日のロンドンでの金融サミット(G20)に向けて、金融危機対応を中心に議論する見通しだ。> という断定的な予定記事に仕上げている。
共同電は<日中関係筋が三日、明らかにした。>と書いているが、これは北京の日本大使館がネタ元のときの常套句だ。朝日は「政府は」と書き出しているのだから、外務省が「最終調整」だと認めたのだろう。
いずれにせよこれは「幻の訪中」に終わった。中国に断られたのである。東京新聞は17日付夕刊で<首相、月末訪中を断念>という記事を掲載している。河村建夫官房長官が同日午前の記者会見で明らかにしたという記事だ。
<河村氏は、断念の理由について「日程的になかなか折り合わない」と説明した。政府高官は同日、「中国が尖閣諸島をめぐる国内世論に配慮した」と指摘した。
日中両政府は、4月2日の金融サミット前に麻生首相が訪中し、日中首脳会談を開催する方向で調整していた。しかし、麻生首相が、同島が日米安保条約の対象となると発言したことに対し、香港の団体が5月に同島への上陸を目指すことを決めるなどしたため、中国が麻生首相の訪中に慎重になったとみられる。> と、中国が断った理由を説明している。
尖閣諸島問題が理由だというのは「表向き」であろう。中国が断った本当の理由は「G20を前に日本と話しても無意味」と判断したからだろう。
◆大きかった胡錦涛の存在感
じっさい、2日ロンドンで行われたG20サミットでは、中国の胡錦涛主席が、主役のはずのブラウン英首相よりも目立っていた。20人の首脳が並ぶ記念撮影では、ブラウンの左隣(「向かって」である。以下同じ)で「大きな顔」をしていた。ロンドン入りした1日には、立て続けにオバマ米大統領、ブラウン首相、メドベージェフ露大統領と会談、会議の「主役」の一人として存在感を発揮していた。
記念撮影で麻生太郎首相を探すと、3段で並んだ後列の右寄り、日本の閣僚記念撮影でいえばナントカ庁長官がいたあたりでようやく見つかった。
この位置どりは、会議事務局(事実上英外務省)がつくったものらしい。中国と日本に関する限り、英国の「評価」がにじみ出ているのではないか。
英国の評価だけではない。この外交舞台で、オバマ米大統領が今年後半訪中すると決まった。その後、日本政府がオバマの年内来日を目指して折衝中であることを明らかにした。オバマ訪中と訪日は、当然「一つの旅」となり、訪韓も加わるだろう。オバマは、訪中のついでに訪日するのだ。
◆「最初」にするだけで喜ぶ日本
オバマ政権の国務長官となったクリントンは、外国訪問デビューが日本。引き続き、インドネシア、中国、韓国とアジア各国を歴訪した。「アジア重視」は事実だが、日本のメディアがそろって報じた「日本重視」は、「ひいき目」にすぎない。日本訪問で失敗はあり得ないから、デビューは日本がいい。「米日協議は終えている」という実績をつくった方が、中国に対する発言に「重み」がつくという判断だったのだ。クリントンアジア歴訪の、ホンバンは中国で、日本は前座と位置づけられていたのだ。
オバマ本人と外国首脳の会談も日本がトップ。2月24日午前、ホワイトハウスで日米首脳会談が行われた。この日は午後、米国大統領にとってもっとも重要な議会での施政方針演説が行われる日だった。「就任後100日間に何ができるかで評価が決まる」といわれる大統領にとっては、命運を決める日だったのである。
首脳会談終了後の記者会見で「なぜ日本との首脳会談が最初だったのか」と聞かれたオバマは「日米関係が重要だからだ」と答えた。しかし、じっさいにはその重要な日に処理しても何の影響も受けない「軽い仕事」と判断したのだ。欧米メディアはこの真相を見抜いているからこそ、「たった1時間の会談のために1万1千キロの長い旅」などという皮肉な論評が行われた。
米国務省は、「日本は最初にするだけで喜ぶ」と知っているのである。新聞論調でさえ、首脳会談、外相会談の中身を問うていない。「最初」であることを「米国の日本重視姿勢の現れ」などと喜んでいるものが多いのだから、あきれる。
◆外交舞台でまで口害
G20という外交舞台で、麻生はまたも「口害」をまき散らしてしまった。英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューの中で「財政出動の重要性を理解していない国がある。それがドイツだ」と、他国批判を展開してしまったのだ。この発言が開幕当日2日付の同紙1面トップとなり「麻生首相はG20の分裂をあらわにした」の見出しがついた。
メルケル氏は1日の会見で「ドイツの景気対策は、欧州連合(EU)などからも評価を受けている。早まって財政出動を進めるようなことは無意味だ」と発言したが、麻生発言に対する不快感を込めたものであることは間違いない。
普通の会社員でも学ぶ処世訓に、「他人への批判はできるだけ避けること。どうしても言わなければならないときは、まず本人に告げること」があるだろう。まして一国のトップは、それぞれ自国では、国政選挙で勝たなければならない宿命を背負っているのである。自国の野党の攻撃材料になるような発言を他国の首脳にやられては「たまらない」という気持ちだろう。
もっともドイツ社民党がこの麻生発言を引用してメルケル政権批判を展開する可能性は皆無と言っていい。EUがいかに健全財政を重視してきたかは、あのイタリアが財政赤字を克服した経過を見るなら明らかだ。すでに現代史の必須知識となったともいえるEUの姿勢について、麻生は何の知識も持っていないことを、自ら暴露してしまった。
野党は、「麻生が首相に居座り、経済と外交をやる日が1日延びるごとに、日本の損害は大きくなる」と国民に訴えるべきだろう。
◆G20時代への移行期 日本はどうする?
いま国際政治は、「G20サミットの時代」へと移行しようとしている。それまでは「G8(主要8カ国)サミットの時代」だった。1975年11月、仏ランブイエ宮殿で第1回がG6で始まったのが、主要先進国サミットの時代の始まり。それから34年で、ようやく「先進国が世界をとり仕切る時代」は終わろうとしている。
今後は先進国+途上国の時代に変わる。「途上国の盟主」であることを自他ともに認める中国の存在感・発言力はますます強まるはずだ。
日本の首相として、その「時代の流れ」をどうするのか? 受け入れざるをえないと考えるのか、それとも食い止めるための戦略・戦術を練るのか? 麻生太郎にそういう問題意識があるようには見えない。
◆軽い首相だから、諸国の扱いも軽い
そんなことを考えない「軽い首相」だから、諸外国の扱いも軽くなる。自分自身が軽く見られているという実態が見えないからこそ「外交が得意」「経済と外交は麻生がいちばん使えると言われている」などと胸を張っている。それが私たちが選んだ首相のホントの姿なのである。