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街

人を楽しませる「自己顕示」は清々しい

2003/06/18

 土曜日の午後、蔵造りの街、埼玉・川越を散策した。帰路、東武東上線に乗ると、珍しい人に出会った。絵や文字が細々と描かれた画用紙の帽子をかぶり、背中にも同じような紙がやたらと張り付いている。帽子に「世界初! 動く待ち合わせ場所」とある。

 比較的すいた車内だったが、彼はドアのところで車内に背を向けたまま立ち続けた。たぶん背中のメッセージを多くの人に読んでもらいたいのだろう。そんな無言の意思表示にこたえるかのように、何人かの乗客が目を凝らしはじめた。写真を撮る人もいる。私もその1人であった。

 「TVにも出演」「道徳の教科書にオイラの文章が使われた」などとある。面白そうなので話し掛けてみた。

 彼の話によると、川越にある尚美学園大学の学生、中沢健(たけし)君。小学生の頃から文章を書くことが好きで詩や小説を書いてきた。その作品を世に出すためには「クチコミがすごく大事」と考え、この姿で出歩くことにした。池袋や渋谷の繁華街で「サイレント紙芝居」などの路上パフォーマンスもする。この姿が待ち合わせの目印になる。それが「世界初! 動く待ち合わせ場所」なのだそうだ。

 話し始めるとすぐに、カバンの中から自己紹介を書いたコピーを取りだした。これまで雑誌で取り上げられた記事がいくつか載っている。見ず知らずの人からの質問が多いのだろう、なかなか用意周到である。私が彼のところから離れると、彼と同年代の青年が話し掛けた。そのセリフが振るっていた。「罰ゲーム?」

まさに、そう見て不思議のない風体である。しかし、中沢君は「罰ゲーム」どころか、進んでこの姿を晒しているのだ。目的はもっぱら自らを売り込むための自己宣伝だが、嫌みがない。純粋の自己顕示は退屈な車内を大いに楽しませてくれた。

 日本にもずいぶん増えてきたが、ヨーロッパの街角や地下鉄駅などでは音楽家が自らを売り込む演奏を繰り広げている。拍手が沸き、支援のカンパが投じられる。絵や工芸品を売る芸術家の卵も大勢いる。路上に詩集を並べる新人詩人もいる。

 日本人は自己顕示が少し足りないのではないか。
 中沢君の大胆な自己宣伝をみて、そう思った。 

(今金太郎)


電車の中でも自己宣伝する中沢健君





背中もいっぱい自己宣伝のメッセージ






 

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