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前報では文芸社を提訴した高村さんについて書きましたが、今回は文芸社から提訴され、その裁判の記録を『「文芸社商法の研究」名誉毀損事件 〜裁判で明らかになったこと〜』(渡辺勝利編集、東京経済発行)として出版した渡辺勝利さんについて紹介します。 渡辺さんは東京経済という出版社の経営者であり、MBC21という自費出版会社の役員です。渡辺さんは協力出版や共同出版についてかねてから疑問を抱いており、この商法の問題点について精力的に発言していました。文芸社は同業者である渡辺さんの発言に神経を尖らせていたといえましょう。渡辺さんは提訴されてからも、自費出版業界の倫理確立のために自費出版クラブを立ち上げて活動されています。 渡辺さんが提訴されたのは、自費出版クラブ設立のために30部ほど作成した『文芸社商法の研究』と題する冊子が文芸社の手にわたったことに起因します。文芸社は平成14年7月に、『文芸社商法の研究』の複数の記述が名誉毀損にあたること、また文芸社の社会的評価を低下させる表現を用いて業務を妨害したとして、1億円の損害賠償と訴訟費用の支払いを求め、7人もの弁護士の名を連ねて提訴しました。 この裁判はあくまでも『文芸社商法の研究』のなかで文芸社が名誉毀損であると指摘した記述が真実であるかどうか、または真実であると信じたことについて相当の理由があるかどうか、さらに業務妨害が認められるかが問われたものです。渡辺さんが同業者だからこそ、名誉毀損・業務妨害として提訴したのだと思います。高村さんも、月刊誌「創」(2002年11月号)に投稿した私も、文芸社から名誉毀損で提訴されていません。 この裁判の判決は、記述の一部は名誉毀損が成立するとして被告に300万円の支払いを求めたものの、業務妨害は棄却しました。また、訴訟費用の20分の19は文芸社負担です。 渡辺さんはあえて控訴せず、裁判の記録を公表することで文芸社商法の問題点や裁判の本質を社会に問うことを選択しました。高村さんにしても渡辺さんにしても、判決にこだわらず、文芸社商法は問題があり、それを「公表」することに意義があると考えたのです。私自身も、判決よりその過程で明らかになったことに大きな意義があると考えています。 私は渡辺さんが提訴されたことを知ってから、私の契約書や文芸社から提示された見積書内訳表などの資料を渡辺さんに提供しました。これによって文芸社は裁判のなかで、私に提示した見積書内訳表の金額について証言をしなければならなくなりました。 私がもっとも興味を抱いたのは、この見積書内訳表の金額について文芸社がどのように説明したり証言するかということでした。私は文芸社と解約した時点では、印刷や製本などのハード面での費用は実費として算出されたものと信じており(文芸社の本の制作費なのですから当然です)、実費であるとの証明が困難な編集費やデザイン費を水増ししていたと考えていました。 ところが裁判の中で渡辺さんは、印刷や製本などの見積金額も一般的な取引価格より過大な請求であることを指摘したのです。渡辺さんが印刷業者との取引価格を知る出版業者だからこそ、そういう主張ができました。これを知ったとき、私の見積金額はハード面でもソフト面でも不当な請求であり詐欺にあたると確信しました。さらに制作費への利益の加算は、文芸社社員の証人尋問によって文芸社自身が認めることになりました。 では、利益の加算が正当かどうかという問題が、なぜ裁判で問われなかったのでしょうか?それは渡辺さんが「協力出版は自費出版である」という考え方をしていたからです。渡辺さんは、文芸社の協力出版は会社の利益を含む制作費を著者が負担しているのであり、実態は自費出版と変わらないのに、本の所有権が文芸社にあることがおかしい(独禁法上の優越的地位の乱用にあたるのではないか)という見方をしていました。協力出版を実態から見るなら、契約書がおかしいという考え方になるのはよくわかります。 しかし、法的に見るなら「どういう契約を交わしたか」が問題とされます。著者は本の所有権が文芸社にあるという契約を交わします。このために裁判では渡辺さんの記述は名誉毀損になってしまいました。 協力出版では文芸社の本をつくるという契約をしますから、制作請負契約(自費出版)とはいえません。このことは文芸社自身が裁判で主張しています。ですから本の所有権が文芸社にあることではなく、著者に請求する本の制作費が実費ではないことを問題にすべきです。協力出版は一般的に「自費出版」として捉えられてしまうことが多いため、利益の加算という水増し疑惑が盲点となりがちです。 前報の高村さんの裁判でも、渡辺さんの裁判でも、著者に請求する制作費に利益が加算されていることが正当かどうかについては、裁判での争いの対象となっていなかったため、なんら審理されていません。文芸社問題のもっとも核心的な水増し疑惑については、いまだに裁判で審理されていないのです! 文芸社は判決が出たあと、「全面勝訴」としてマスコミに文書を送りました。「勝訴」を強調することで、自社の商法の正当性をアピールしたかったようです。しかし、勝訴といえるのは名誉毀損が認められた一部の記述だけです。 この裁判では制作費に利益を加算していることを文芸社が認めましたが、それはこの商法の疑惑を解明するうえでとても大きな収穫でした。しかし、文芸社は制作費に加算している利益の額や文芸社の負担する費用の額について、なんら具体的な数値を示していません。ここに、この商法の疑惑解明の難しさがあります。 ◇ ◇ ◇
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