政治  
TOP > 政治
日本 人権 防災・復興
便利だけですまないIC旅券:入管法改正案の問題点(上)
2006/05/10

 参議院で審議中の入管法改正とその背後で進められている、日米合同の入管システム構築の動きは、世界の人々(市民)の監視をすすめるという点で、大きな問題である。この問題に、多くの人々が関心を寄せてくださることを願ってやまない。

(1)アクセンチュア社が日本の入管システムのソフトウェア開発を10万円で落札
 衆議院で可決され、9日から参議院で議論が始まった入管法改正案は、極めて重要な内容のものである。

 まず、長くなるが、保坂展人衆議院議員のブログから引用する。
【入管法審議で問題にした指紋情報・顔写真データなどの生体情報の「認証装置及び自動化ゲート」のソフトウェア開発と実験の業務を、わずか10万円(運営業務費用9万円・成果物作成費用1万円)で、バミューダに本社を置くアクセンチュア株式会社が落札 (平成17年9月12日)している事実が記されていた。あまりに低額なので、法務省大臣官 房会計課入札室がヒアリングした記録が公表されている。よく読んでみよう。

「本件実証実験・試行運用の運営に当たって、契約業者は、
 1・海外機関での生体情報認証技術を利用したシステムの設計、開発、プロジェクト管 理を行った際の成果及びノウハウを活用し、必要最小限のカスタマイズで作業を履行することが可能なこと、

 2・入国管理局の刷新可能性調査、最適化計画策定で蓄積した成果及びノウハウにより効率的に作業を実施することが可能なこと、

 3・アクセンチュア(株)は、会社全体の方針として、国土安全保障領域に力を入れているが、入国管理局向けのカスタマイズにより、成果及びノウハウの蓄積を行い、潜在顧客を開拓するための実行能力を強化することが可能であるので、経営戦略の一環として、入札価格により作業を行うことなどから、当該価格で履行可能と判断したため」とある。

 この業務の海外での実績があると言ったら、どこなのか。昨日、入管局長に訊ねた。  「アクセンチュアは、アメリカでUS-VISITを手がけておりまして」という答弁だった。

 日本が2番目に導入するわけだから、アメリカしか該当国はない。ところで、なぜ10万円なんだろう。いくら経験があるとは言っても、年間750万人の外国人の指紋・顔写真の採取とイミグレ版ETCのような「自動化ゲート」の実験となれば、どう考えても 10万円はないだろう。その謎を解くヒントが次に記載されていた。

 当該契約期間中における他の契約請負状況
 「出入国管理業務」及び「外国人登録証明 書調整業務」の業務・システムの最適化計画策定
 (法務省入国管理局)

 同社は現在、日立製作所が閉鎖系のレガシーシステムで構築してきた出入国管理局システムの「刷新可能性調査」(平成16年・5880万円)を受注して、平成17年1月に「出入国管理システム刷新可能性調査報告書」を発表している。
 http://www.moj.go.jp/KANBOU/JOHOKA/SAITEKIKA-KOBETSU/ko-05.pdf

 さらに、アクセンチュア社は、同調査を土台にした「最適化計画」を(平成17年6月・9492万円)で受注している。「最適化計画の仕様書」には、「入国管理局出入国管理情報管理室ならびに、IC旅券など認証システム試行運用及び自動化ゲートシステム実証実験(仮称)の受託業者 に対して、適宜助言を行う」と書かれている。この9492万円の契約を結んだアクセンチュア社が、3カ月後にたった10万円でこの業務に自分で名乗りをあげた。助言どころか、自社を指名したことになる。

 さらに、アクセンチュア社は「 次期登記情報システム開発に係るプロジェクト統合管 理支援業務(法務省民事局)」「検察総合情報管理システムのシステムテスト、導入等作業(法務省刑事局)」も請け負っているということもわかった。バミューダに本社置くアクセンチュア社は、私たちが知らないうちに、法務省関係だけでも、「登記」「検察」「入管」のデータベースに深く関与し始めている。】


(2)国境管理における生体認証の導入の2つの側面

(1)日本人にはIC旅券、外国人には指紋採取

 さて、このアクセンチュア社の落札にはどのような意味があるのであろうか。
 国境管理における生体認証の導入については二つの側面がある。一つは自国のパスポートの中に生体認証情報を組み込むことであり、もう一つは外国人の入国の際に顔写真と指紋を採取して入国審査や犯罪捜査などに活用することである。

 この2つのことは当局によって故意に区別され、別々に議論されているが、この2つのことは一体的に議論がなされるべきであり、世界中の法執行機関が共同して進めている人の国境を超える移動について、ITテクノロジーを利用した飛躍的な規制強化という文脈の中で統一的に捉えられるべきである。

(2)便利だけですまないIC旅券の導入
 外務省は2006年にIC旅券を導入しようとしている。この旅券の特徴はIC(集積回路)を搭載し、国籍や名前、生年月日など旅券面の身分事項の他、所持人の顔写真を 電磁的に記録することである。IC旅券もこれまでと同じように冊子型であるが、中央 にICチップ及び通信を行うためのアンテナを格納したカードが組み込まれる。我が国 が発行するIC旅券の生体情報としては、今のところ「顔画像」のみを記録することとされている。

(3)外国人には入国の際の個人識別情報の提供義務付け
 法務省は現在開会中の通常国会に、原則16歳以上の外国人が入国する際、指紋や写真などの個人識別情報の提供を義務づける出入国管理及び難民認定法の改正案を提出している。この法案は要注意人物のリストと照合し、犯罪者の上陸を水際で防ぐことを目的としている。同様の手法を導入しているのはアメリカだけとされる。

 現在法務省が準備中の法案においては、提供を義務づける個人識別情報を「指紋、写真その他の個人を識別することができる情報で、法務省令で定めるもの」と定義しており、その提供を拒んだ場合は、退去を命じられるとされている。

 また、法案では、退去強制の対象に「市民や国家を対象としたテロ行為を犯す恐れがあると法相が認定した者」が新たに付け加えられている。入国する航空機や船舶の長に、乗員・乗客名簿などの事前提出を義務づける規定も設けられる。

 まさに、外国人の多くを潜在的な犯罪者もしくはテロリストと見なして、指紋と顔写真の提供を義務づける世界に類を見ない異常に厳格な出入国管理体制が、アメリカ に続いて我が国において世界に先駆けて構築されようとしている。(つづく)

(海渡雄一)

     ◇

(筆者は弁護士)

ご意見板

この記事についてのご意見をお送りください。
(書込みには会員IDとパスワードが必要です。)

メッセージはありません