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かくされてきた被曝「ぶらぶら病」

青木智弘2007/02/11
(前ページのつづき)

 8日に生活クラブ生協埼玉の講演会で、肥田舜太郎さんは低線量内部被曝の健康被害と、日本の核武装化の懸念などについて語った。
低線量の問題
 内部被曝は、原子力発電所が通常運転で環境に排出する程度の低線量でもおきます。というと、放射線には国際機関などの定めた安全基準があるだろう、と疑問を持たれるでしょう。その安全基準が問題なのです。放射線の安全基準は、米国政府などが都合よく定めた値に過ぎません。広島・長崎の原爆被害についてのABCC調査が元になっていますが、急性被害だけを調査したのです。

 低線量内部被曝の問題は、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故がおきるまで、着目されませんでした。チェルノブイリ事故の被災・被害は、ほとんどが内部被曝でおきていると言って過言ではない。外部被爆の被害はあまりなかったのです。

 米国では、内部被曝の被害は、核兵器関連だけでなく、スリーマイル島の原発事故でもおきました。スリーマイル事故では、スターングラス博士が州知事に何度も執拗に勧告した結果、4カ日後にようやく、一定距離内の妊婦に避難勧告が出されましたが、胎児らの被害は相次ぎました。そしてその後、スターングラス博士は、政府の批判によって白眼視されるのです。

ペトカウの発見
 重要なのはアブラハム・ペトカウ(カナダ)の1972年の発見です。ペトカウは放射線で、細胞膜が破壊できるのかを実験していました。牛の脳細胞で実験していましたが、高線量を瞬時に照射するのでは、なかなか細胞膜は破壊されないのです。

 ところが誤って、試料を低線量の溶液に落としたところ、細胞膜は低線量で破壊されました。微量の放射線、低線量なら細胞膜は容易に破壊できるのです。しかも、照射が長時間になればなるほど、細胞膜には穴があきやすくなります。

 ペトカウはノーベル賞級の大発見をしたのですが、米国政府や勤務先の圧力によって狂人あつかいされ、論文は印刷も出来なくなりました。しかし、ペトカウの説は、彼の知己を通じて、じわじわと拡がっていったのです。低線量・長時間、というのが内部被曝の健康被害として恐ろしいのです。

放射線の安全値の問題
 ABCC調査を元にして、放射線の安全基準は当初(1972年)、10分の1という良心的なものをBEIR(米国国立アカデミー・国立諮問委員会)は定めました。ところが改定で大幅に緩くなったのです。米国政府は、原子力発電にかかるコストを低減したかったのです。

 ところが基準を緩くした第2版以後、米国内の原発では小さな事故が頻発しました。そのことがあって、第3版は当初、13対4で、大幅な緩和案が否決されました。さほど緩まない第3版(1979年)は、米国政府が一度、全世界に配布しますが、そのあとでなんと回収、米国政府は4人の大幅緩和論者を中心に委員会を再構成、そこで大幅改定案を通してしまうのです(修正BEIR報告V・1980年)。

 以後、BEIR報告は、まったく信頼を失いますが、ほかに基準がないのです。

 日本で、よく原発でトラブルがおきた際に、翌日に施設長が「環境や人体への影響はない」と発表しますが、単に修正BEIR報告Vと比べているだけです。発電所所長は、医学には素人です。8〜30年の潜伏期間を無視してよく「人体への影響はない」などと、翌日に言えたものだと思います。

劣化ウラン弾
 米国は劣化ウラン弾の健康被害も隠蔽を続けています。原子力発電をするとウラン238というゴミが出ます。放射性物質なので破棄することは出来ません。

 原発はトイレのないマンションのように、ゴミはたまっていくばかりなのです。ウラン238は日本では、とりあえず300年、保管しようということになっています。それを何とかしようというのが核燃料サイクルです。

 ウラン238は使い道がなったくないので、米国政府は研究者に必死で研究させました。その成果として、機関砲の弾にすると便利だとわかったのです。戦車の分厚い鋼鈑を貫通し、しかも発熱してガス化します。破片も出ない。戦車の搭乗員は高熱で即死してしまいます。さらに放射性ガスも出るのです。

 しかしイラク兵、米兵は、劣化ウラン弾の危険を知らされていません。米兵は戦車の残骸の上で記念撮影したりするのです。ところが帰還して1〜2年すると「ぶらぶら病」になります。湾岸戦争症候群です。このことも米国政府は隠蔽しています。ベトナム戦争の枯葉剤被害と同様に隠蔽するのです。

 さて、救われなかった湾岸戦争症候群の米兵は、被団協の診療所に来るようになりました。はじめは広島や長崎の公立病院に行くのですが、体よくあしらわれるのです。そして被団協の診療所に来て「放射線の影響だという診断書を書いてください」ということになります。

ハンフォードの健康被害
 米国では核施設のあったハンフォード周辺の健康被害も深刻です。川のマスも被曝しています。川の水、食べるマスを通じて、人も被曝します。下流にまでその影響は深刻です。

 ハンフォードの被害者も「ぶらぶら病」としか思えません。被害者らは果敢に反核運動を行ったのですが、イラク戦争以後に大弾圧を受けています。

乳ガンはなぜ増えたか
 アメリカの白人女性の乳ガンは、1950〜89年に倍増しました。婦人運動の要請を受けて政府は原因を調査、大気汚染や化学物質のせいだと説明したのです。

 本来は企業系のいわゆる御用学者だったJ.M.グールドは、その説明に不審を抱き、たくさんのスタッフをやとって統計を分析しました。全米3053郡のガンの統計を調べてみると、乳ガン患者が増えている郡は1319だけです。

 1319の郡について、水や食べ物の汚染といったあらゆる諸要素との相関を、グールドは緻密に調べました。すると1319郡はすべて、100マイル(約160km)以内に、原子炉(軍用、発電用、研究用など)があったのです。

 1996年にその成果を、グールドは『内部の敵』という題の書籍として刊行しました。すると何と買占めにあって、この書は広まらなかったのです。隠蔽工作です。それでも少しずつ、グールドは成果を広めようとし、私のもとにも書は届きました。

 私は和訳を私家版でつくって、1000部だけ知己にわけました。林京子さんが上手に小説化してくれたので、ご関心ある方はそちらをお読みください。300ページの私家版製作は大変なので、『内部の敵』和訳そのものは、もうお分けしていません。

 私はいま、日本でも同じ相関がないのかどうか、確かめようとしています。日本では、原子炉が160km以内に無い県はないので、80kmで試行錯誤しています。作業の協力者を求めています。(筆者:肥田さんの作業の途中経過は『内部被曝の脅威』(ちくま新書)で、すこし触れられています)

原爆症認定訴訟について
 原爆症認定の訴訟では、大阪地方裁判所と広島地方裁判所が内部被曝の被害を認めてくれました。しかし、核の傘を容認する日本政府の首相は、内部被曝の問題を認めようとはしないでしょう。最高裁長官は首相が任命します。そのことを踏まえて、国は控訴控訴の連続で責めてきます。地裁の判断は覆すことができると思っているのです。
 
 内部被曝のメカニズムは、先ほど述べたように仮説はたっていて、あとは立証するだけです。ところが何十億もの研究費と、十何大学もの研究室の結集が必要でしょう。それが無理なので、当面は仮説と運動で頑張るしかないと覚悟しています。

 日本では原子力発電関連の労働者にも内部被曝の被害が明らかになってきています。私は原発事故やトラブルの応急措置をする「原発ジプシー」という人も診たことがあります。「ぶらぶら病」でした。被曝とひきかえに、多額のお金をもらって、危険な作業に従事した人です。

 ところがそういう人たちは、多額のお金とひきかえに、家族ぐるみで緘口令をしかれていますから、泣き寝入りなのです。被害がなかなか公になりません。

原発そのものへの疑問
 原子力発電所のゴミは、地下に保管されることになっていますが、放射線はやがて容器をこわし、地下水を汚染し、そして汚染は海水や表流水にも及ぶでしょう。

 たちの悪いことに原発は、稼動中に放射能を大気に出しています。政府は安全だと言っていますが、低線量内部被曝が問題であることをこれまで述べました。六ヶ所再処理工場は、原発1基1年分以上もの放射能を、1日で環境に出すといわれています。本格稼動したら、三陸沿岸の漁業に深刻な悪影響が出るでしょう。三陸沿岸の漁民は、いま、必死で反対しています。応援してください。

やがて日本は核武装か
 下北半島の大間に建設中の原子力発電は、核燃料サイクルを前提にしています。六ヶ所の核燃料再処理が前提です。しかしプルサーマル発電をしても、プルトニウムはどうしてもあまってしまうでしょう。

 最終的にプルトニウムは、核兵器をつくるしか使い道が無いように思います。私は、歯止めは憲法だと思っています。憲法が改悪され、日本が軍隊を持つようになったら、きっと核武装すると思います。(筆者(青木)注:現状では「米国が容認しないのでは」と見る向きも多いが、米印各協力の現状や、イスラエルの核武装を見ると、米国は将来的に日本の核武装を容認すると思われる)

 日本が本格的な軍隊を持つようになり、核武装するようになったら、軍産複合体は「止まらない」と私は思っています。歯止めは憲法しかありません。みなさんがもし、今日の私の話に共感してくれるのであれば、憲法を守り、いかす運動にも参画してください。日本人は時代や大勢に流されやすいと私は思うので、正直いって私は悲観的です。
 
次世代のために学んで欲しい
 核兵器も、実験も、探査も、研究も、原発も、放射線の被害は本質は同じです。被害者がガンで死ぬ頃には、その因果関係はわからないのです。わからなくなっているのです。

 ですから次世代のためにぜひ、核のことを、原子力の問題を学んでください。内部被曝の仮説と、日米政府の仮説を比較して、どちらが現状に即しているかをぜひ学んでください。それから、なぜ日本が戦争を始めたのかも、ぜひ学んでください。誰が、どこで、何のために、何をして、どういう行動の積み重ねで戦争が始まったのかを、ぜひ、今、次世代のために学んでください。

 日本人はこれまで、残念ながら次世代のために学んできたとは言いがたいのです。(了)

 (なお、生活クラブ生協埼玉では、肥田舜太郎さんの講演会に続いて、核燃料リサイクルなどの問題について、3月5日に鎌仲ひとみさんの講演会を行う予定です)
◇ ◇ ◇

ご意見板

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[34870] 内部被爆について
名前:能登貞人
日時:2008/06/11 16:06
すいぶん時間がたってからの意見ですみません。
私は全くの素人ですが、肥田先生の「内部被爆の驚異」を読み、本当に切実な思いにかられ、東電の資料などから現在の日本は74基もの原子力発電所に囲まれ全ての日本人が内部被爆している現状に気が付きました。なんとかこの(内部被爆)と云う言葉だけでも、多くの人に伝えられないものかと悩んでいます、何か良い考えはないでしょうか、教えて下さい。
[24874] それが‥‥
名前:青木智弘
日時:2007/02/19 18:02
夏野さま

 それがですね、日本の研究奨励予算や補助金などは、原子力関連とくらべて桁違いに、太陽光発電や風力発電、小規模水力発電の、研究や普及推進にあてられているものが少ないのです。政府は十分な比較研究もしておらず、私が以前に書き込んだ意見の論拠も、NPO・NGOの見解によっています。政官財の癒着はひどいですし、電力会社は大規模発電に拘泥していますし、日本政府はやはり、潜在的核兵器保有能力を持ち続けたいのだと思います。高速増殖炉に拘泥するのも、あそこで兵器用プルトニウムを精製したいからだとしか思えません。
[24772] >原発は廃止しても困らない
名前:夏野繁造
日時:2007/02/15 09:56
青木様

なるほど、
原発を廃止しても、効率化された電気機器や太陽光発電や風力発電、小規模水力発電の供給効率化等で補えるわけですね。
安心しました。

当然、政府は、十分な比較計算をして仮に原発がなくても、原発以外のエネルギー供給で産業や国民生活が円滑に保たれることは分かってる、しかし原発は推進してるわけですね。

これは国民の安全を見過ごし「原発業界」の利益を優先してるってことになってしまう。ここでも政官財の癒着があるんですかね。
[24755] 落とすしかないでしょう
名前:青木智弘
日時:2007/02/13 22:24
森田さま


 横須賀の住民にできることがあるとすれば、21人の市議と、現市長を落選させるしかないのでしょう。それから市議会を密室にしないこと。そういう地道な作業を戦後60年、一貫して、日本の人々は(私も含めて)怠ってきたような気がしなくもありません。
[24754] re:24714
名前:青木智弘
日時:2007/02/13 22:18
夏野さま


 返信が遅れて恐縮です。私は専門家ではありませんが、一人の市民として、かなり大雑把な私見を述べると、エネルギーの供給構造はその国の政策に大きく左右されますし、
 > こんにちの国民に、節電など  電力消費を三割減らす耐乏生活を強いる政策は無理ですよね。
 とも言っていられない(次世代の負担、あるいは今生きている人たちの将来負担(私は40才ですが、70になる頃には、自動車は運転できないでしょうし、そもそも食べる食い物に事欠くでしょう)が大)状況にはあるのですが、代替エネルギーの技術水準は、いまの需要をみたすのに充分だと思っています。


 原子力発電をとめれば、たしかに3割ほど電力供給は減りますが、それはそもそも1990年頃の水準で「耐乏生活を強いる」というほどでの水準ではありません。(日本と言う国の現況は、食料輸入が止まった時の方が、私には恐ろしいです)3割減=窮乏生活、と多くの人が思うことも、私には恐ろしいです。


 仮に3割減になったとしても、15%は電気機器の(すでになされている効率化)で乗り切れるでしょうし、のこる15%は電力供給源の分散化(太陽光発電や風力発電、小規模水力発電等は、1カ所あたりの供給力は少ないが、その分、発電所を分散化し、電力供給の効率化をはかる(原子力発電等の大規模発電所は、送電効率が悪い)で乗り切れるのではないでしょうか?
[24731] 住民の声を反映させる公的な仕組みを
名前:森田鉄平
日時:2007/02/12 22:21
横須賀港への原子力空母の入港は反対すべきです。
そのためには、住民投票のような公的な制度が必要です。


これに関しては2月8日に横須賀市議会で、住民投票を行う条例の議案が、31対10で否決されました。
蒲谷亮一・横須賀市長は05年の市長選挙の時には、原子力空母の入港に反対する旨を公約に掲げていたにも関わらず、手のひらを返したように、日米両政府の意向に沿ったことになります。
市長が公約を守らないようでは、選挙による投票では、住民の意見を市政に反映させることはできないことになります。


また、市議会議員の大半が住民の意見に耳を貸さず、政府の言いなりになることを選択しました。これでは地方自治のあり方、市議会の存在価値そのものを疑わざるを得ません。


横須賀のケースで憂慮すべきは、原子力空母の安全性はもとより、住民の声を反映させる公的な手段そのものを、議会によって絶たれたということです。


住民投票の結果に、法的拘束力を持たせることが理想ですが、せめて、市議会の決定と住民の意見が別物であることを、公的に認める制度を用意しておくべきだと思います。
現状では議会が決定したことが、本当に住民の望むものなのかどうかが検証できません。


住民が、市議会という密室で議決された結果を享受するだけの存在ならば、あまりにも馬鹿にした話です。
[24714] 代替エネルギーの開発状況は?
名前:夏野繁造
日時:2007/02/12 11:13
世界の動きに逆行してプルトニウム原発を推進する日本の政策には疑問を持ちます。

さて、日本の電力の約三割はすでに原子力エネルギーでまかなっているそうです。原発を廃止した場合、現在の電力消費量を維持する具体的方法をたてなければなりません。
私、不勉強なので、代替エネルギーの研究開発状況のことはよく知りませんが、政府や原子力関連業者の思惑は別にして、原発に代わる方策の実用化は将来的に可能なのでしょうか。

こんにちの国民に、節電など  電力消費を三割減らす耐乏生活を強いる政策は無理ですよね。
[24708] 釈迦に説法かもしれませんが
名前:青木智弘
日時:2007/02/12 00:36
 原子力発電にも反対しないとダメです。日本にはどんどんプルトニウムがたまっていて、平和利用で何とかできる量ではありません。現在たまっているプルトニウムがすぐ、核兵器に転用できるわけではないのですが、日本政府が黒鉛炉あるいは高速増殖炉を稼動すれば、すぐに兵器転用が出来ます(*)。平和利用と言う美名にだまされてはいけないと思います。あえて私見を述べれば、日本国籍を持つものは、北朝鮮を避難し、イランをこわがる前に、原子力発電を何とかすべきです。(* インドやパキスタンのように、日本が核武装しても、国際社会は「なんとなく」容認するでしょう)
[24679] 核兵器はいつでもどこでもだれでも反対しないと、
名前:夏野繁造
日時:2007/02/11 17:02
>日本が本格的な軍隊を持つようになり、核武装するようになったら、軍産複合体は「止まらない」と私は思っています。歯止めは憲法しかありません。・・・・日本人は時代や大勢に流されやすいと私は思うので、正直いって私は悲観的です。・・・・ですから次世代のためにぜひ、核のことを、原子力の問題を学んでください。


日本には、この頃ではもう絵に描いた、といった方が当たってる「非核三原則」があります。
つまり、沖縄には世界最大の米軍の核基地があることを多くの国民は知っていることや、最近では横須賀に常駐することが決まった原潜が、安全確認ができない原子力で推進するばかりか核魚雷や核ミサイルを搭載していることは間違いない事実である、などです。

はじめは遠くのほうで、或いは過去のこととして、自分には関係なく、単発的に発生していたことがだんだん繋がりをもち、取り返しがつかなくなってしまう、核の問題はそのような怖さがあります。

しかもその動きは、たんなるときの流れでなく、周到に画策され仕組まれ着々と実行されようとしている。
もう総論賛成・各論反対のご都合主義ではすまされない段階にきているようです。
当面できることは「小型核兵器なら保持容認」とするソーリ、憲法改定を国会の優先議題にしたいソーリ、を擁立する党は選挙でノー、とするしかない。
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