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8日に生活クラブ生協埼玉の講演会で、肥田舜太郎さんは低線量内部被曝の健康被害と、日本の核武装化の懸念などについて語った。
低線量の問題
内部被曝は、原子力発電所が通常運転で環境に排出する程度の低線量でもおきます。というと、放射線には国際機関などの定めた安全基準があるだろう、と疑問を持たれるでしょう。その安全基準が問題なのです。放射線の安全基準は、米国政府などが都合よく定めた値に過ぎません。広島・長崎の原爆被害についてのABCC調査が元になっていますが、急性被害だけを調査したのです。
低線量内部被曝の問題は、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故がおきるまで、着目されませんでした。チェルノブイリ事故の被災・被害は、ほとんどが内部被曝でおきていると言って過言ではない。外部被爆の被害はあまりなかったのです。
米国では、内部被曝の被害は、核兵器関連だけでなく、スリーマイル島の原発事故でもおきました。スリーマイル事故では、スターングラス博士が州知事に何度も執拗に勧告した結果、4カ日後にようやく、一定距離内の妊婦に避難勧告が出されましたが、胎児らの被害は相次ぎました。そしてその後、スターングラス博士は、政府の批判によって白眼視されるのです。
ペトカウの発見
重要なのはアブラハム・ペトカウ(カナダ)の1972年の発見です。ペトカウは放射線で、細胞膜が破壊できるのかを実験していました。牛の脳細胞で実験していましたが、高線量を瞬時に照射するのでは、なかなか細胞膜は破壊されないのです。
ところが誤って、試料を低線量の溶液に落としたところ、細胞膜は低線量で破壊されました。微量の放射線、低線量なら細胞膜は容易に破壊できるのです。しかも、照射が長時間になればなるほど、細胞膜には穴があきやすくなります。
ペトカウはノーベル賞級の大発見をしたのですが、米国政府や勤務先の圧力によって狂人あつかいされ、論文は印刷も出来なくなりました。しかし、ペトカウの説は、彼の知己を通じて、じわじわと拡がっていったのです。低線量・長時間、というのが内部被曝の健康被害として恐ろしいのです。
放射線の安全値の問題
ABCC調査を元にして、放射線の安全基準は当初(1972年)、10分の1という良心的なものをBEIR(米国国立アカデミー・国立諮問委員会)は定めました。ところが改定で大幅に緩くなったのです。米国政府は、原子力発電にかかるコストを低減したかったのです。
ところが基準を緩くした第2版以後、米国内の原発では小さな事故が頻発しました。そのことがあって、第3版は当初、13対4で、大幅な緩和案が否決されました。さほど緩まない第3版(1979年)は、米国政府が一度、全世界に配布しますが、そのあとでなんと回収、米国政府は4人の大幅緩和論者を中心に委員会を再構成、そこで大幅改定案を通してしまうのです(修正BEIR報告V・1980年)。
以後、BEIR報告は、まったく信頼を失いますが、ほかに基準がないのです。
日本で、よく原発でトラブルがおきた際に、翌日に施設長が「環境や人体への影響はない」と発表しますが、単に修正BEIR報告Vと比べているだけです。発電所所長は、医学には素人です。8〜30年の潜伏期間を無視してよく「人体への影響はない」などと、翌日に言えたものだと思います。
劣化ウラン弾
米国は劣化ウラン弾の健康被害も隠蔽を続けています。原子力発電をするとウラン238というゴミが出ます。放射性物質なので破棄することは出来ません。
原発はトイレのないマンションのように、ゴミはたまっていくばかりなのです。ウラン238は日本では、とりあえず300年、保管しようということになっています。それを何とかしようというのが核燃料サイクルです。
ウラン238は使い道がなったくないので、米国政府は研究者に必死で研究させました。その成果として、機関砲の弾にすると便利だとわかったのです。戦車の分厚い鋼鈑を貫通し、しかも発熱してガス化します。破片も出ない。戦車の搭乗員は高熱で即死してしまいます。さらに放射性ガスも出るのです。
しかしイラク兵、米兵は、劣化ウラン弾の危険を知らされていません。米兵は戦車の残骸の上で記念撮影したりするのです。ところが帰還して1〜2年すると「ぶらぶら病」になります。湾岸戦争症候群です。このことも米国政府は隠蔽しています。ベトナム戦争の枯葉剤被害と同様に隠蔽するのです。
さて、救われなかった湾岸戦争症候群の米兵は、被団協の診療所に来るようになりました。はじめは広島や長崎の公立病院に行くのですが、体よくあしらわれるのです。そして被団協の診療所に来て「放射線の影響だという診断書を書いてください」ということになります。
ハンフォードの健康被害
米国では核施設のあったハンフォード周辺の健康被害も深刻です。川のマスも被曝しています。川の水、食べるマスを通じて、人も被曝します。下流にまでその影響は深刻です。
ハンフォードの被害者も「ぶらぶら病」としか思えません。被害者らは果敢に反核運動を行ったのですが、イラク戦争以後に大弾圧を受けています。
乳ガンはなぜ増えたか
アメリカの白人女性の乳ガンは、1950〜89年に倍増しました。婦人運動の要請を受けて政府は原因を調査、大気汚染や化学物質のせいだと説明したのです。
本来は企業系のいわゆる御用学者だったJ.M.グールドは、その説明に不審を抱き、たくさんのスタッフをやとって統計を分析しました。全米3053郡のガンの統計を調べてみると、乳ガン患者が増えている郡は1319だけです。
1319の郡について、水や食べ物の汚染といったあらゆる諸要素との相関を、グールドは緻密に調べました。すると1319郡はすべて、100マイル(約160km)以内に、原子炉(軍用、発電用、研究用など)があったのです。
1996年にその成果を、グールドは『内部の敵』という題の書籍として刊行しました。すると何と買占めにあって、この書は広まらなかったのです。隠蔽工作です。それでも少しずつ、グールドは成果を広めようとし、私のもとにも書は届きました。
私は和訳を私家版でつくって、1000部だけ知己にわけました。林京子さんが上手に小説化してくれたので、ご関心ある方はそちらをお読みください。300ページの私家版製作は大変なので、『内部の敵』和訳そのものは、もうお分けしていません。
私はいま、日本でも同じ相関がないのかどうか、確かめようとしています。日本では、原子炉が160km以内に無い県はないので、80kmで試行錯誤しています。作業の協力者を求めています。(筆者:肥田さんの作業の途中経過は
『内部被曝の脅威』(ちくま新書)で、すこし触れられています)
原爆症認定訴訟について
原爆症認定の訴訟では、大阪地方裁判所と広島地方裁判所が内部被曝の被害を認めてくれました。しかし、核の傘を容認する日本政府の首相は、内部被曝の問題を認めようとはしないでしょう。最高裁長官は首相が任命します。そのことを踏まえて、国は控訴控訴の連続で責めてきます。地裁の判断は覆すことができると思っているのです。
内部被曝のメカニズムは、先ほど述べたように仮説はたっていて、あとは立証するだけです。ところが何十億もの研究費と、十何大学もの研究室の結集が必要でしょう。それが無理なので、当面は仮説と運動で頑張るしかないと覚悟しています。
日本では原子力発電関連の労働者にも内部被曝の被害が明らかになってきています。私は原発事故やトラブルの応急措置をする「原発ジプシー」という人も診たことがあります。「ぶらぶら病」でした。被曝とひきかえに、多額のお金をもらって、危険な作業に従事した人です。
ところがそういう人たちは、多額のお金とひきかえに、家族ぐるみで緘口令をしかれていますから、泣き寝入りなのです。被害がなかなか公になりません。
原発そのものへの疑問
原子力発電所のゴミは、地下に保管されることになっていますが、放射線はやがて容器をこわし、地下水を汚染し、そして汚染は海水や表流水にも及ぶでしょう。
たちの悪いことに原発は、稼動中に放射能を大気に出しています。政府は安全だと言っていますが、低線量内部被曝が問題であることをこれまで述べました。六ヶ所再処理工場は、原発1基1年分以上もの放射能を、1日で環境に出すといわれています。本格稼動したら、三陸沿岸の漁業に深刻な悪影響が出るでしょう。三陸沿岸の漁民は、いま、必死で反対しています。応援してください。
やがて日本は核武装か
下北半島の大間に建設中の原子力発電は、核燃料サイクルを前提にしています。六ヶ所の核燃料再処理が前提です。しかしプルサーマル発電をしても、プルトニウムはどうしてもあまってしまうでしょう。
最終的にプルトニウムは、核兵器をつくるしか使い道が無いように思います。私は、歯止めは憲法だと思っています。憲法が改悪され、日本が軍隊を持つようになったら、きっと核武装すると思います。(筆者(青木)注:現状では「米国が容認しないのでは」と見る向きも多いが、米印各協力の現状や、イスラエルの核武装を見ると、米国は将来的に日本の核武装を容認すると思われる)
日本が本格的な軍隊を持つようになり、核武装するようになったら、軍産複合体は「止まらない」と私は思っています。歯止めは憲法しかありません。みなさんがもし、今日の私の話に共感してくれるのであれば、憲法を守り、いかす運動にも参画してください。日本人は時代や大勢に流されやすいと私は思うので、正直いって私は悲観的です。
次世代のために学んで欲しい
核兵器も、実験も、探査も、研究も、原発も、放射線の被害は本質は同じです。被害者がガンで死ぬ頃には、その因果関係はわからないのです。わからなくなっているのです。
ですから次世代のためにぜひ、核のことを、原子力の問題を学んでください。内部被曝の仮説と、日米政府の仮説を比較して、どちらが現状に即しているかをぜひ学んでください。それから、なぜ日本が戦争を始めたのかも、ぜひ学んでください。誰が、どこで、何のために、何をして、どういう行動の積み重ねで戦争が始まったのかを、ぜひ、今、次世代のために学んでください。
日本人はこれまで、残念ながら次世代のために学んできたとは言いがたいのです。(了)
(なお、生活クラブ生協埼玉では、肥田舜太郎さんの講演会に続いて、核燃料リサイクルなどの問題について、
3月5日に鎌仲ひとみさんの講演会を行う予定です)
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