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生活保護基準引き下げ見送り・地域間格差是正方針に大きなまやかしとトリックあり

山本ケイ2007/12/15
専門家は、生活保護基準の引き下げについて「被保護者は圧倒的に都市部に多いですから、結局生活保護費の総額は縮小される懸念が強いと思われます」とし、厚労省が進めようとしている是正について真っ向から反論している。
日本 貧困 NA_テーマ2
 生活保護基準の引き下げについて、新聞報道では厚生労働省は食費や光熱水費など生活扶助部分の引き下げは見送るとしている。都市部の基準額を引き下げ、低い地方を上げて地域間格差を是正する方針で、年間予算の総額は維持するという。しかし、ここに大きなまやかしとトリックがあることが専門家の分析で分かった。

 社会保障論、医療経済学、社会福祉の経済学を研究分野とする東京学芸大学教育学部鈴木亘・准教授は「都市部の基準を下げて、地方を上げるというのは一見中立的に見えますが、被保護者は圧倒的に都市部に多いですから、結局生活保護費の総額は縮小される懸念が強いと思われます」とし、厚労省が進めようとしている是正について真っ向から反論している。

生活保護基準引き下げ見送り・地域間格差是正方針に大きなまやかしとトリックあり | <center><b>貧困から抜けきれず路上に放り出される危険も</b>(写真はイメージです)</center>
貧困から抜けきれず路上に放り出される危険も(写真はイメージです)

 厚労省は社会・援護局長の私的研究会である「生活扶助基準に関する検討会」の報告によって生活保護基準の見直しを図ろうとしているわけだが、鈴木准教授は検討会の分析方法について問題があることを指摘、地域格差是正という方針は以下の4点により、まやかしやトリックがあることを解説した。

(1)
 検討会の分析では、地域差縮小を観察されたのは、所得階層を5つに分けた中の下から3つの階層の合計、つまり生活保護とはあまり関係の無い、中間所得層を多く含んだ層を対象として地域格差という事実が得られたとしている。地域格差以外の分析は、生活保護の比較対象として、所得階層を10に分けたうちの下から1番目の低所得階層のみを比較対象としているから、地域格差縮小だけ中間階層を中心としたサンプルで比較することには何かトリックがあると思われる。逆に言えば、本来比較すべき低所得階層では地域格差縮小は観察されていないということがいえる。

(2)
 本来比較すべきは物価の違いなはずだが、検討会ではなぜか生計費(消費額)の比較をしている。物価が高い地域では、同じ物品でもなるべく安い商品を購入する努力をするはずであり(たとえば、米を買うにせよ、高い地域ではコシヒカリではなく、もう少しブランドの低いものを買うなど)、物価差よりも、生計費の方が格差が縮小して見える。ここにも地域格差を縮小させたいトリックがある。

(3)
 検討会の分析では、家族のいる世帯について1人あたりの生計費を得るために、平方根を使う「等価所得」の計算をしている。これは、厚生労働省が常に用いている生活保護基準の「等価所得」の計算式と異なる方法。なぜ、突然、計算の仕方を変えたのか不思議に思ったが、このやり方を使うと、格差縮小が大きく見えるというトリックになっている。つまり、格差縮小という結果が得られやすいように、1人あたりの生計費を得るための計算方法を変えたというトリックがある。

(4)
 本来は住宅扶助も含めて比較をすべき。都市部では、住宅扶助として決まっている金額で得られる住居は極小で劣悪な住宅が多く、住宅扶助が足りないために、共益費部分も多くなる。しかし、地方では住宅扶助で十分に居住環境のよい部屋が賃貸でき、共益費部分もあまり多くない。したがって、生活扶助部分だけを抜き出して、生活費として比較するのは本来、非常におかしな比較であるということが言える。

 つまり、検討会は本来、低所得層と生活保護基準を比較検討すべきところを中間所得層と比較していること。くらしに直結する物価は無視して、生計費で比較したこと。住宅扶助は外して比較することで格差を大きく見せようとしたこと。このような点で、まやかしとトリックがあるというわけだ。

生活保護基準引き下げ見送り・地域間格差是正方針に大きなまやかしとトリックあり | <center><b>北九州市で男性が餓死した自宅</b></center>
北九州市で男性が餓死した自宅

 生活保護の問題点について調査・分析し、行政に様々な提言をしている生活保護問題対策全国会議(代表幹事・尾藤廣喜弁護士)も10日付で「『級地』の見直し(生活保護基準切り下げ)も許されない!」とする緊急声明を発表。地域間格差があるということには十分な裏付けがないとして抗議している。

 今年、北九州市では生活保護打ち切りによる餓死事件が発生、生活保護のあり方について適正な運営がされていないことが全国的に問題になっているにも関わらず、社会保障費削減という大きな流れの中で、弱い部分にしわ寄せをしようとしている行政に不信感を覚える。予算総額は維持するというが、上記のようなまやかしの検討が続けば、いずれはなし崩し的に減額に追い込まれる恐れもあり、今後も厚労省の生活保護政策について十分に注意して見届ける必要がある。

参考:
生活保護問題対策全国会議ブログ(抗議声明掲載)
生活保護制度の概要(厚生労働省)
朝日新聞関連記事

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