12月9日、神奈川県横浜市「横浜人形の家」において、フォーラム「マニフェスト改革の新展開をめざして」(主催かながわローカル・マニフェスト推進ネットワーク、後援自治体学会、協力日本青年会議所神奈川ブロック協議会等)が開催された。
マニフェストを通じた日韓交流や、松沢成文神奈川県知事や首長のマニフェスト評価など、神奈川で積極的な活動を進める、かながわローカル・マニフェスト推進ネットワークの総会・松沢知事の第2回マニフェスト大賞受賞記念フォーラムという位置づけで、松沢成文神奈川県知事をはじめ、北川正恭氏(早稲田大学マニフェスト研究所所長)、曽根泰教氏(慶應義塾大学大学院教授)、田村明氏(法政大学名誉教授)らを招き、地方議員、自治体職員、NPO関係者、研究者、政治や地方自治に関心を持つ市民など約150名が参加した。
「ローカル・マニフェストの成果と展望〜日韓交流を含めて〜」
について鼎談をする、曽根氏(左)、松沢氏(中央)、北川氏(右)
※以下、鼎談内容
“次のマニフェスト”に求めるもの
曽根
マニフェストの新展開ということで「新しい」ところをご紹介いただこうと思います。マニフェスト大賞は、私も審査員をつとめました。話では簡単ですが、ダンボール一個も応募作品の書類があるんです。それを「読め、評価しろ」と、北川先生のところから送って来ます(笑)。ただ、読んでいると、どこの県かどこの市かわからなくなるほど、同じようなことが書いてあることがけっこう多い。
それで、“次のマニフェスト”を求めたいというところがありまして。今回、松沢知事がグランプリになられましたが、いまはこれが日本の到達点だなと思っています。私だけが高い評価をしたのではなく、全員の審査員が高い評価をしました。どこが到達点かというと、マニフェストを使いこなしているんですね。使いこなすということは、きれいごとではないんです。各会派・政党に対して、挑戦状をたたきつけるということなんです。県民に対しても「これをやるけど、本当にいいの?」という訴え方をしている。本来ならトゲもあるし、きれいごとではないものだと思います。マニフェストの見栄えがいいっていうのはたくさんありますが、われわれが望むべき“いいマニフェスト”ってなんなんでしょう。
北川
マニフェストも、ローカル・マニフェストで、いいものがだいぶ整ってきています。いまは、立案、作成、検証、実践と、“理論”から“実践”の段階です。ぼつぼつ5年近くがたって、“実践”ということが評価の対象になっています。マニフェストサイクルができているかどうかが問われてきているんだと思います。選挙とか政治はあらゆる総合力の結果ですから、誠に俗人的な色彩が濃くなります。ですが、政策中心にやっていくというウェートがぐんぐん高まっていかなければ、なにを機軸にして有権者が選ぶのかということを厳しく問うていかないといけないんです。
ある町長さんが合併を経験して、市長選でマニフェストを書かれました。それで、当選して私のところへ来られて「学校を出てからこれほど考えたことなかったよ」というんです。それで、「あんた、町長3期やられたんでしょ。その間なにやっていたの」といったら、「毎晩宴会」だと。「握手と、葬式と、結婚式に出てた」と。こういうのが政治家だったんです。脳から汗が出るほど考えたのは初めてっていうんですから、まずは政治家の資格要件の問題なんですね。どういう方が、政治家になるかということを本当に変えていかなくてはなりません。政策を脳から汗が出るほど考える習慣をだんだんと浸透させるということが一つです。
もう一つは、必ず、総合計画とマニフェストは、どこかでバッティングします。私は“総合計画論者”でして、総合計画がなくてもいいとは思っていません。ただ、総合計画は、よほど見直さないと地方分権は進んでいかないと思っています。官僚は、自分たちの組織―係から課、部、局、首長と―は完全に温存されているわけです。国の補助金・交付税とかをみながら、全部積み上げていくんですね。こういう政治手法を官僚主義といいます。一般の日本用語だったら社会主義です。だったら、首長は全然いらないということに気づかないといけません。だからこそ、首長は脳から汗がでるほど政策を考えて、有権者・主権者に判断を問わないといけないんです。
そして、首長が問うた結果のマニフェストに、役所の職員が忠実に従うということでなければ、民主主義でなく社会主義国家・独裁国家につながるという恐怖心を行政官たちがもたないといけません。官僚は自分たちのできる範囲のことしか書きません。サプライサイドのできることです。それでは、なんの感動も共感もおぼえませんし計画経済になってしまいます。やっぱり、民が選ぶという、「by the people、of the people」というところを本当に育てていかないといけません。行政は市民のためにやっていると思っていますが、それがほとんど失敗しちゃっているんです。ですから、市民が成熟して「住民の住民による」ということがマニフェストを通じて明確に理解されていけばいいと思います。
検証も、一般市民がNPOをつくってそう簡単に評価できるものでないと思います。まず、チェック機関は県議会、市議会だと思います。だけど、いまの議会はほとんど追認機関で「あってもなくてもよい」とか「汚い」とか世間一般ではいわれているんです。議案も97%は無修正で、ほとんどの提案は全部通っていくんです。それが地方議会だと。
だけども、マニフェストで政策を出したら、首長とものすごいバッティングするでしょう。だから、執行部もものすごく緊張するんです。議会と執行部はいい緊張関係をもって、それにもとづいて努力していかないと。議会がチェック機能を徹底的に鍛え上げてくれないと困るんです。政務調査費もデタラメで、そんなのでチェックできるのかと。議会が立ち居地を変えないと、本当にいい善政競争にならないときづいてもらわないといけません。そうしなければ、議会は全然相手にされないということになります。
今回、はじめて第2期分権改革で中央政府に対して、“地方政府”という言葉が政府関係の書類で高らかに書かれたんです。いままでの正式文書では“地方公共団体”でしたから。それと、監査事務局。監査事務局は、体裁は監査委員長が選任していることになっていますが、神奈川県はどうか知りませんが、三重県の場合は前日に知事が電話で「委員長さん、こういうことにしたいんです」というんです。議会事務局長もそう。監査委員長もこっちを見てるんですよ。こんなものが監査なんてとんでもない。だから、なににもとづいて判断していくかというと、マニフェスト・政策が中心になるんです。そういうことになると、いいマニフェスト型行政経営になるんだと思います。
ビジネス・モデルは、神奈川にある
曽根
いまのご指摘は、とても重要な点です。「参議院議員選挙で書いたマニフェストって政策として実行できるのか?」って、議会は第一の役割にチェックがあるんです。議会は、市民以上にチェックができる立場にあるわけですから、第一義の仕事ですよね。議会でも個人でも「マニフェストを書きたい」という声はたくさんあります。でも、第一にやるべきことがあるんです。それが、わかっているようでわかっていなくて「わたしの成果で、質問しました」っていってくるんですね。はたして、それが成果になりますか。大学生が授業で質問したからって成果になるでしょうか。
ヒントでありますが、議会はマニフェストや条例をつくる以上に、首長をどうチェックするかなんです。そこで重要な点は、いまの福田政権が「参議院で野党に多数をとられちゃったから大連立だ」って。そんなの、世界中にありますかっていうんです。すると、ドイツが出てきて「ドイツの連邦参議院ってねじれてますか」っていわれるんですが、ドイツの参議院は選挙やっていません。州の代表ですから。
衆議院は、与党は3分の2あるんです。ただ、議会の動かし方を知らないんです。それで、努力もしないで「大連立だ」って。なにを考えているんだと、われわれが批判するんですが。神奈川県の実例があるでしょう。首長は、少数派でも、条例を通すでしょう。「これが政治なんですよ」ということをアメリカとかの例を出さずに神奈川県の例を出すんです。つまり、知事が少数派であっても、マニフェストを実行することができる。このことをすこしフォローしてください。
北川
ちょっと、補足を。私らが、なぜ怒っているかというと、福田さんと小沢さんが努力もせずにすぐに密室で談合しようとしたでしょう。松沢さんをみてみろと。4年間、議会に叩かれっぱなしですよ。それでも厚い木を切るごとく努力なさって、県議会の先生方も本当に立ち居地が変わってきた。いま、本当に国会は機能していませんよね。私も幹事長室に長年いましたからよくわかっていますが、与党のほうは審議をまず絶対させない、審議ゼロで議案を通すというのが腕がいいことなんです。今回、はじめて衆議院と参議院がちがうから、ここではじめて民主政治がはじまるんです。
ここで、皆さんにぜひご理解いただきたいのは、全国ではこんなことがいっぱいおこっているんです。首長がマニフェスト型でやると、議会と必ず政策論争がおきます。それでも、そのなかでみんなが最大の努力でやるというのが民主主義だと思うんです。だから、談合的な密室の会議が許されないといっているんです。では、そのビジネス・モデルの松沢知事どうぞ。
松沢
ビジネス・モデルというモデルがあるかはわかりませんが。争点になる条例案などを議会の皆さんに理解いただいて通すということは、とても大変なことです。一期目でいい例をあげますと、水源環境保全税というのがあったんです。ふつう、選挙で増税をうたう人はいないですけれど、「森林環境税を導入します」と増税をうたったんです。選挙が終わって急に態度を変えてやるのが、増税なんですけれどね。ですが、私はやる以上はマニフェストできちっとうたおうということで出しました。
この条例は、前知事のときから、県議会の皆さんも「やろう」ということで議論していました。環境税は必要だという認識はあったんで、簡単には否決できないんです。でも、野党的立場が多いですから「松沢知事が掲げる政策は全部つぶしていこう」という議会の考え方もあったんです。それで、増税の幅をどれくらいにするのかというところから交渉がはじまって、税収でどういう事業をやっていくのかと、最大会派の自民党幹部とえんえんと議論しました。ふつう、県議会の場合は1回の根回しをして議案を通すんです。それが、長い間の慣例でした。政策を競っている条例案でもです。逆に、通せないとなったら出さないんです。知事が恥をかくからです。私の条例案は、通るか通らないかわからないけど「とにかく出せ。議場で議論すればいいじゃないか」といって出しました。1回目は、継続審議です。そして、この条例案は3議会にわたって議論しました。
これまでは、こういうことは神奈川県至上ほとんどありませんでした。だいたいは、議案が1回で通るのなら出す、通らないなら出さないということです。だから、いままでの議会の慣例というのは、あってなしにしなきゃいけないんですね。「知事、これまで県議会でそんなことありませんでした。否決されたら知事の恥になりますから、絶対やめましょう」っていう、議会事務局の職員や県の総務課の職員の意見ばかり聞いていてはダメなんです。私は、「いいや出せ。公約だ。議会とも以前から議論しているじゃないか。これでいこう。ダメならダメで、3回でも4回でも出しなおせばいい」といいました。そうやって議会との接点をみいだして、1年がかりで通していく。職員の皆さんにとっては大変な作業ですけども、そうやるわけです。
多選禁止条例もそうです。1期目のときは、2回出して2回ともつぶされました。ならば、「知事選でもう一度、公約のトップで出そう」と。それで、知事選で勝たせていただいて「よし、もう1回いくぞ」といって、9月に出しました。最初の議会の反応は、「つぶしだ」ということで野党の皆さんはまとまっていたと思います。そこで、国の動きなど、さまざまな情報をいれて議会の皆さんを口説き落とすわけです。これは、かなり“裏”の政治もやらないとだめです。政治は“表”もあれば“裏”もある。“表”の政策議論だけでなくて、私や副知事が議員の皆さんを夜討ち・朝討ちして、影響力のある議員を口説き落とすんです。最近は記者さんが夜討ち朝駆けしませんが。そうして、どうにか方向性をつくらせて通していきました。数だけでいったら、争点のある条例は通らないんですね。でも、神奈川県議会では、マニフェストで約束したからにはなにがなんでも通す。そのためには、職員とも意識を共有して、これまでの議会対策と全然違った意識をもってもらう。そうでなければ、これからの政治はできないと思います。
もう一点、議会の関係でいうと、以前の県政はオール与党でした。共産党以外は、みんなで担いでいましたから。よいいい方でしたら、議会と知事さんはすごく仲良かったんです。逆に、悪いいい方でしたら、“裏”でみんな決めるということです。「本会議なんてセレモニーでいいや。シャンシャンと決めよう」というのが地方政治だったんです。私も15〜20年くらい前は県議会議員をやっていましたが、そのときは知事さんと各会派が毎回飲むんです。だから、料亭はそうとう儲かっていましたよね。当時、知事と副知事、自民党、社会党、民社党、公明党が、懇談会と称して料亭で宴会をするんです。「まあまあ厳しいこと言わないでくださいよ。立場があるんですから」となだめたり、「おまえら騒がないでやるから、これをきいてくれよ」と、そこで全部決めていくわけです。これを続けていたら、若い政治家の皆さんは「みんな腐っちゃうなあ」と思ったと思うんですね。私が知事になってからは、根回しのための料亭の宴会はまだ1回もないです。というより、議会の皆さんに「たまには一杯飲みましょうよ」といっても「おまえなんかと飲みたくない」と断れちゃいますから(笑)。知事や幹部も飲むことは重要かもしれないですが、飲みすぎて時間をつかわなきゃいけないというのは、お互い苦痛でもあるんです。議員も幹部も「また、今日も宴会」では政策議論はできません。妥協をつくることが目的ですから。
そういう時間は、もうほとんどありません。料亭政治はいま、ほとんどなくなってきています。たまに会派でよばれていくと、政策議論をやりますから、さっぱり中華料理なんかで終わっちゃうんです。その分、さまざまな会合に出たり、県民の皆さんと意見交換したり、タウンミーティングしたりできますよね。知事も、議員さんもそうです。「政策は議場でやりましょう」という文化に変わってきていることは、地方政治もだいぶ変わってきているんだと思います。そうやっていかないと、いけないでしょうね。
韓国に技術移転したマニフェスト
曽根
もう一つ神奈川県の例でいうと「韓国にマニフェストが技術移転した」といっているんですが、きっかけは神奈川県の大会だったと思います。松沢知事と私は、韓国でやる大会は最初のときから参加しています。今年は、この3名で参加しました。
韓国のことをちょっとご紹介します。いま、大統領選挙が行われていますが、日本の議院内閣制とはちがうし、韓国の独自性もあるんですね。それと、なにがちがうって、党が責任をもたないんです。大統領選挙のときに、ちがう党になっていたりする。あるいは再選のない大統領ですから、マニフェストサイクルのまわし方ができない。「過去をチェックして、次を」と、いう“次”がない。ちょっと独自な性質なもんですから、われわれもいろいろと提言はしています。
韓国にもいくつか面白い事例があります。韓国では、選挙管理委員会がマニフェスト実践本部にかなり協力しています。選挙管理委員会が「マニフェスト選挙をやるためにどうしたらいいか」というパンフレットをつくったりしているんです。日本のより、かなり踏み込んでいるんです。韓国のなかでも、踏み込んでいるという人もいますが。あるいは、政策をプールして、政策銀行みたいなものがあってもいいのではないか。それをひきだして自分の政策として訴えることも必要かなと。
現状を申し上げると、李明博(イ・ミョンバク)さんの支持率が高いのですが、李明博さんと面会ができるんで、マニフェストの話をしに北川さんと面会に行こうとしたんです。そうしたら、前の晩に、4000億ウォンの不正蓄財の件で記者会見をすることになったとかで、前日の晩に変更になったんです。それで、朝の8時かなんかの記者会見の前に会いたいと。行ったら行ったで、やっぱり間に合わないから後にしてくれと。そんなこともあって、最近のBBK問題(株価操作)、警察のほうが一応クリアになったんで、このままでいけば李明博さんが勝つんでしょうけど。前と違うのは、朴槿恵(パク・クネ)さんがむかしでいくとハンナラ党から出ちゃうんですね。党をわらずに、収まっているのが前と違うのかな。
先々週も韓国にいってまいりましたが、今月19日が投票です。制度も歴史もちがうんですが、韓国でマニフェストを一生懸命やってくれている人がたくさんいます。われわれとしては、きっかけをつくったにすぎないわけです。実践的に、あちらに学者も市民団体もマスコミもいっぱいいるわけですから。だから、そうした人たちと一緒にやっていくのがいいんじゃないかなと思います。順番からいっても、神奈川県に多大なご協力いただかないと実行できないんですが、来年は日本で学術大会をやりましょうということになっています。松沢知事、そのあたりをお話ください。
松沢
韓国との交流で驚いたのは、選挙管理委員会の積極性です。マニフェスト改革に対して、ちゃんと協力してくれるんです。日本の場合は、マニフェストは政治運動でもありますから、選挙管理委員会は「まったく公平に」ということで、公職選挙法を守る細かいことばかりいって心を開いてくれないところがあるんです。
マニフェスト運動を成功させるためにはいくつか条件があります。一つは、候補者全員がマニフェストを研究して具体的な公約を出すこと。そして、有権者にとって比較検討させる場をつくることが絶対に必要なんです。JCの神奈川ブロックの皆さんには、前回の知事選のときに、公開討論会と合同個人演説会を合わせて3回やっていただいて、3人の候補者が相対して政策を比較できる場所をつくっていただきました。マニフェストを個人が出したからといばっているのではなくて、「どの人の政策が一番実現性がありあそうか」「一番私たちの考えにフィットするか」と比較検討のなかから選べるんですね。今日は両先生いらっしゃいますが、これを法律上の義務としちゃうような改革ができないのかと思うんです。人口規模によって2回でも3回でもいいんです。大きいところなら3回くらいやらないと人が集まらないでしょう。議会は人数が多すぎてダメかもしれませんが、首長の選挙なら絶対できます。マニフェストを出すだけでなく、候補者が集まって討論会を行って、有権者が誰が一番いいのかなと比較する。これは韓国から学んだことで、日本でもできないかなと思っています。
それから、韓国の関係で驚くのは、日本も金権政治・血縁政治といいますが、韓国はもっともっと強いんです。地方であれば、もっと強い。みんな出身者を応援したり地域政治みたいのがあって、なかなか政策が前面に出ないんですね。これを政策中心にしようというのは、日本よりも壁が厚い。そういうふうに韓国の政治風土をみています。ただ、「日本のマニフェスト選挙・政治を学びたい」という皆さんも出てきていただいて、いいパートナーだなあと思っています。これまで曽根先生と一緒に2回韓国に行って交流してきましたけども、次はぜひ神奈川に韓国のマニフェスト改革をやっている皆さんを呼んで日本との交流を実現したい。公開討論会の義務づけや、マニフェスト選挙を成就するために「一般の県民が政策をみて投票をする」という行動原理を有権者に身につけてもらうこと。そのためにはどうしたらいいのか、政治風土がちがいながらも、そんな議論ができればと思っています。
それと、神奈川県では、県立高校の生徒に模擬投票をやらせています。参院選からはじめて、昨年のモデル校は8校でした。高校生に、成人だったらどの政党がいいかと、選挙の勉強をさせるんです。相模原の高校では、選挙管理委員会が本番と同じ投票箱、投票用紙をもってきてくれました。投票箱も投票用紙もまったく本物の選挙と同じにして、ある意味で訓練をするんですね。高校生の投票率は、89%だっていっていました。すばらしいですよね。いまの一般選挙より高いんです。高校時代から、「もうすぐ20歳になる。選挙権ももらえる」とトレーニングをしておく。こういうことをやっていけば、民度があがっていきますし、若い人の投票率がどんどんあがりますよね。こういうことが教育のなかから必要だなと思いまして、神奈川県から実践していきたいなと思います。
北川
韓国で驚いたことは、中央選挙管理委員会が5大政党にむかって「ただいまから、マニフェスト選挙にしましょう」と流したことです。それに対して、日本の選挙管理委員会はなにをやっているか。ティッシュペーパーを配ったり、車でテープを流したりして「今度の日曜日、選挙にいってください」とやっているんです。私は、あれでも効果はあると思いますが、はたして投票率がどのくらいあがったのか、PDCAサイクルで検証を全然やっていないですよね。
これまで日本の選挙管理委員会が、国民が「選挙は自分たちのものだ」と思えるような運動をしてきたかというとまったくしていません。本当に残念に思います。松沢さんの模擬投票のお話もありましたが、高校と中学校が一つある小さな町では、生徒だけの町議会議員を決めるんです。議会がはじまると、そこへ本物の町長さんが50万円の予算をつけるんです。そうすると、高校生が真剣な議論をする。例えば、われわれが普段きづかないような、通学路の途中にある防犯灯がなかったときにはちゃんと報告されて議会で可決するんです。
私たちは、20歳以下が民主主義に参加することをカットしているんですね。20歳以上しかダメというのは、近代国家では日本だけになってきているんじゃないでしょうか。みんな16歳、18歳まで選挙権をおろしています。だから、子どものころから「自分たちの学校のことは自分たちで」「地域のことは地域で」というように訓練しておかないと、偏差値教育だけではダメです。選挙のあり方も、特別の人たちが勝手にやってというでなしに、学生さんや主婦の方にも公開して「選挙はみんなのものだ」と本当に変えていく努力がなければいけません。
この選挙権の問題などにしても、いろんな点で公職選挙法を変えていく一つの運動のモデル、あるいはきっかけとしてマニフェスト運動をひろげていこうと考えています。政治行政が「for the people」というのはほとんど錯覚に近いですね。これは官尊民卑の発想です。だから、市民の責任もきちっと問わなければなりませんから、マニフェストという道具で「選挙であなたも契約書に投票したんだから」という意識をつくっていかないと。韓国も、まだまだなんです。韓国の学生と話していたら、一党支配だと。これだけのことを選挙で決めるっていう国はそんなにないですから、日本ならモデルをつくれると思って、一生懸命やっていきたいと思います。
どうなる新展開〜ネット選挙、模擬投票・ハイスクール議会、甲子園
曽根
マニフェストはまがりなりにも4年半たって、改革運動のなかでは成功した方だと思います。非常に運がよかったということもあると思うんです。選挙制度改革のときはもっとボコボコに叩かれました。「選挙制度に政治改革を内証化し」「熱病にうかれた政治改革運動は」と、いま、新聞社の幹部になっている人たちもそういっていたんですね。マニフェスト運動がある意味で運がよかったというのは、マスコミも学者もはじめから反対する人がそうはいなかったということです。現実に、政党も候補者もマニフェストを使うことによって当選するんだったらやりましょうといいますから。本心はわかりませんけどね。マニフェストのサイクルは、好循環に入っているのだと思います。さて、4年半の経験をふまえて、これからどういうことができるのか、何をしたらいいかをお話ください。簡単でないことは、北川さんからお願いしましょう。
北川
政治家の資格要件が変わらないといけませんね。これまで議会は町内会の役割という面もあったから、人柄のいい人を選ぶということも多かった。これも選挙ではありますが、地方分権の法律は、第一期が1995年。第二期が2006年12月です。増田寛也総務大臣によりますと、その個別法ができるのが2009年の秋の臨時国会。あと2年くらいということです。そうすると、自らの手で地方政府をつくらなければいけない状況になります。
ですから、首長の候補者も、「自分たちは、神奈川をどうしたいか」ということを前面に出さないといけない。神奈川力を高めようとすると、国とバッティングする場合もありますが、協力する場合もあります。まずは、主体性を確保することが必要だと思います。地方政府ということになれば、二元代表制ですから、議会は条例を提案し制定する権利もあります。監視機能、チェック機能もある。条例制定の機能があることによって、首長といい緊張感のあるパートナーシップもうまれてくる。そうやって地方が変わっていければ、中央も変わらざるをえないと思います。
分権はスタートしましたし、新聞で最近にぎわしている自治体財政健全化法でも、いろんな点で自治体がチェックされてどんどん破綻に追い込まれていきます。すなわち、地方も経営をしていくということですから、一つのビジョンでまちをつくりだし、最小の経費で最大の効果をあげなくてはいけません。そういうことを、政治家を志される候補者に植え付けないといけないでしょう。選ぶ有権者も「本当に、自分たちの手で」という意識に変わっていかなければならない。
そのためには、気づきの道具が必要です。例えば、マニフェストを通じて公職選挙法を変えていく。インターネットで政策が自由に飛び交って議論できるように、インターネット選挙を開放することも考えないといけません。新たな日本をつくり直すということです。日本は、140年間中央集権できましたが、成熟した社会になれば、それぞれ地域にあった個性的なまちづくりが必要です。地域主権でつくりあげていくという気持ちが、主権者にも為政者にも行政官にもうまれればと思っています。
松沢
どんなふうに進めていくのかは難しい点です。私は、いくつかの層があると思っています。一つは、有権者層です。民主政治における、よき市民にふさわしい素養をもった有権者をどれだけつくれるかが大事です。模擬投票も神奈川県でスタートしました。私は、教育委員会にはっぱをかけて「全校でやれ」といっています。ボトムをあげないといけませんから、一部のモデル校だけでやっても仕方がない。神奈川県で育ったすべての高校生は、成人しても投票率が高いということにならないといけません。
また、JCの神奈川ブロックの方には、ハイスクール議会をやっていただいています。夏休みに、ハイスクール県議会をやってみたいという高校生に手をあげてもらうんです。それで、130名くらいの高校生に本会議場に集まってもらいます。私や県議会議員の先生方も出て、答弁もつくります。環境の問題、治安の問題というように高校生で委員会をつくって、県議会と同じ制度をとります。本会議でスタートして、本会議で閉じるんです。その間、知事への質問もあります。そうやって、自分たちのまちのことを自分たちで議論して自分たちで決めていく。それが当たり前なんだということを体験してもらう。そういうこともやっていかなければと思います。教育の面で有権者の意識を高めていくのがまず一つです。
二つ目は、実践者である政治家です。首長も議員も、もっともっと有権者とのコミュニケーションを強くしなければいけません。県であれば県政で何が問題なのかをいろんな媒体で伝えていく。そうして、できるだけ多くの意見を聞くということです。神奈川県は人口が多いですから、県民が900万人いて県議会議員は100人ちょっとです。でも、どれだけの県民が県議会から県政報告をきいたことあるでしょうか。知事の顔を見たことがあるでしょうか。ほとんどいないと思います。それでも、とにかく住民とのコミュニケーションをとる。そういうことをやらない議員は選挙に通らないという風土をつくっていくことが大事だと思います。そういう意味では、まだまだ政治家の努力が足りないんだと思っています。
三つ目は、しくみづくりです。有権者層が徹底して、「自分たちが」という意識をもってやっていくことです。それが、しっかりと政治行政の運営にいかせるようにしないといけません。選挙のしくみ、マニフェストのような政策誘導のしくみ、議会運営のしくみ、議会や県政への参加のしくみ。そういったしくみづくりが必要です。
よく「地方自治は民主主義の学校」といいますが、民主政治の土壌は地方から変えていかないといけません。国政は変わっていかないでしょう。地方自治に意欲がない人が、国政でいくら選挙で選んでもよくなるはずがありません。地方から土壌をつくって、最後に国が変わっていくんだと思います。私も、先ほど国政が劣化していると厳しいことをいいましたが、逆からいえば、私たち地方がしっかりとしたものをつくれるかどうかが日本の政治全体を変える鍵を握っているんだと思います。
曽根
いろんなご意見いただきました。私たち3人性格が違うんですけど、これがいいんですね。北川さんは、基本的に政治家、運動家なんです。「みんな、やろうや。いいでないか、やろうや」と楽観的にすすめようとする。
でも、後づけ、理屈づけしないといけないことがたくさんあります。議会のマニフェストは、議員連盟なんかの方が一生懸命だったりするんですけど、われわれの仲間の某大先生で「議会なんて、マニフェストを書けるわけがないじゃん」っておっしゃる方もいる。でも、現実には議員で書きたい人がいるし、可能にしないと前に進まない。で、理屈づけするには「会派なら書けます。会派が書くマニフェストなら責任とれます」という。「大統領制だとマニフェストかけないんですか」とくれば、「書けるじゃない」と。そういう理屈づけを私がやってきました。
松沢さんは、運動・理屈ではなく、実例としてこれだけのことをしていることが非常に重いんですね。この世界はすでに、紙に書いてあること、教科書に書いてあることじゃないんですよ。韓国に技術移転したっていいましたが、ノウハウは全部公開しました。で、具体例、実例として「マニフェストをつかっている知事がいるよ」といえる。松沢知事がいまの日本の到達点だといいましたが、これだけの水準の実例があるのは大変ありがたいんです。
また、中学生や高校生にもマニフェストがわかるようにするにはどうしたらいいかということもあります。先日、慶応の学生が編集している雑誌で「高校生にマニフェストを読ませるためにはどうしたらいいか」と、インタビュー受けたんです。難しいこといってもしかたないですから、マニフェストって工夫なんだと思います。
松沢知事のおっしゃられたようなハイスクール議会というのもありますが、もう一つあります。JCの方にいつもいっているのですが、甲子園って野球であれだけがんばるんだったら、政策も各地域から代表で全国大会をやって、最後の試合で勝ったら、議会を握る人、内閣を握る人って、それをやる試合、決勝戦をやってもいいんじゃないかと。これ、アメリカではやっているんですね。最後はタキシードを着てカクテルパーティーがあるんですけど、日本もできないかなと。本当はぼくらはやりたいんですよ。だからといって、慶応大学だけでやるわけにもいけませんし。JCにご協力いただければ、全国に700くらいのLOMがありますから。地区予選でやって、50チームくらいが最後にやってみるというような底上げですよね。野球だけで日本の社会が動くわけではありませんので、毎日新聞、朝日新聞が高校野球を報道するのに一生懸命なら、ハイスクールの決勝戦があってよいんじゃないかなと思います。
さて、議論が思わぬところに発展するというのがわれわれのいつもの例ですが、マニフェストはとどまるところがないんです。サイクルがまわりはじめた。さらにまわしたい。そして、さらに前に進めたい。これが、マニフェストの一つの使命だと思います。われわれだけでなく皆さんの参加が基本ですし、皆さんだけでなく皆さんの次の世代が参加してくれるかがもっと大きな課題です。そういうところが、本日の結論かなと思います。
早稲田大学マニフェスト研究所 草間剛