海上自衛隊の護衛艦「たちかぜ」の1等海士が、上司である2等海曹からのいじめを苦にして自殺したとされる事件の審理が26日、横浜地方裁判所で行われた。いじめが自殺の原因ではないとする被告側の主張に対して、原告の代理人は、いじめられることによる自殺は予想ができた(予見可能性)とする準備書面を提出。いじめと自殺の因果関係を説明した。
原告である遺族は、自殺した1等海士に対して暴行や恐喝を繰り返していた2等海曹と、2等海曹の行為を知りながら十分な対処をせず安全配慮義務を怠った国に対して、合わせて約1億3000万円を請求していた。

海上自衛隊装備品ギャラリーから)">
訴状などによれば、自殺した1等海士(当時21歳)は、2003年に海上自衛隊に入隊。同年12月から船務科電測員として勤務を始める。一般的に、電測員は無線通信やレーダーなどで作戦上の情報を扱う。1等海士は2004年10月27日午前10時32分ごろ、京浜急行立会川駅ホームから、通過する電車に向かって飛び降りた。
複数の部下に対していじめを繰り返し、1等海士の自殺の原因になったとされる2等海曹は、内規に反して護衛艦内に電動ガンなどを持ち込み、1等海士ら部下を射撃の対象としていた。2等海曹(当時34歳)が所持していたのは、ヘッケラー&コッホ社製MP5という短機関銃を模した威力の高い電動ガンなどで、戦闘指揮所(CIC)内でサバイバルゲームを度々行い、部下らを強制的に参加させるなどした。
また、別の部下に髪型をパンチパーマにすることを強要し、断られるとガス銃で射撃。甲板での部下の作業中、手際が悪いといって、左顔面、首筋を叩き、倒れた部下の腹部に蹴りを加えるなどの暴行に及んだ。
さらに、手製のナイフをちらつかせ、自分がヤクザと知り合いであるといって周囲を威圧。サラ金の借金を返済するために、わいせつ画像約300本が収録されたCD−Rなどを部下に強制的に買い取らせた。1等海士ら2人の部下から代金として15万円を受け取った、とされている。
1等海士は自殺する前、2等海曹による暴行を上司に申告していた。この上司は2等海曹に対して1度指導を行ったとされており、複数の上司も暴行があったことを知っていたというが、それにもかかわらず事件が起こった。
原告側が準備書面で主張した予見可能性は、「いじめがあれば自殺は起こるかもしれない」という予想が可能だったかが、重要な点だ。この点について、原告側は(1)いじめによる自殺は社会問題になっている、(2)防衛庁は自衛隊員が自殺する問題についての対応を具体的に行っている、などの点から、「被告の国の公務員らには、被告によるいじめを制止し、謝罪させた上で上長に報告し、しかるべき処分をするべき義務があった」(訴状)としている。
2等海曹は暴行や恐喝などに関して、1審で既に懲役2年6月(執行猶予4年)の有罪判決を受けているものの、国が事件の調査報告書などの情報開示に難色を示していることから、1等海士の遺族はこの裁判とは別に、「たちかぜ」艦内での暴行実態を記した調査報告書などの文書提出命令を裁判所が国に対して出すよう求める訴訟を行っている。
これを受けて横浜地裁は9月21日に文書提出命令を出すが、現在は高裁での抗訴審の途中。ここで新たな証拠が出てくれば本訴にも影響を及ぼしかねないとして、原告、被告側ともに、文書提出命令をめぐる裁判の経過を見守る構えだ。
次回審理は、3月19日に行われる。