沖縄の米軍住宅 (写真提供:AFLO)
2月10日にアメリカ海兵隊員が少女強姦容疑で逮捕された事件を受けて、沖縄では反基地の声が再び高まっている。この事件は、1995年9月に沖縄で起きた米海兵隊員3人による12歳小学生強姦事件を思い起こさせた。
当時も基地撤去、基地縮小の声が拡大したが、それ以降、沖縄県の米軍基地問題はまったく進展していない。日本での米軍専用施設面積の約75%が日本の国土の1%にも満たない沖縄に存在すること自体が問題だと以前から指摘されている。米軍基地問題に関して、1995年当時の
沖縄県知事・大田昌秀氏に話を聞いた。大田氏は知事退任後、2001年7月の参議院選挙で当選、2007年まで参議院議員(社会民主党)を務めた。
質問:
2月10日、アメリカ海兵隊員が14歳の中学生を強姦した容疑で逮捕された事件を受け、反基地感情が再び拡大しています。1995年の少女強姦事件を彷彿させますが、当時は日米両政府が翌1996年に日米特別行動委員会(SACO)最終報告を発表し、宜野湾市のアメリカ海兵隊の普天間基地返還をその目玉としました。しかし、その後、12年経っても普天間基地はまったく動いていません。なぜでしょうか。
大田:
政府も国会も「日米安保条約は非常に重要だ、日本の国益にかなう」と言いながら、自らはその負担と責任をまったく受け持とうとしません。アメリカ側は具体的に基地を移そうとしても、政治家や大臣は自分たちの選挙区に基地を移すことを拒否するわけです。今回の米軍再編に関しても同じことが言えます。
沖縄は海兵隊の普天間基地をすぐに返してほしいと言いました。しかし、代わりになる基地を沖縄内部にこれ以上つくらすと、基地が恒久化するおそれがあります。普天間基地はもう何年も経って老朽化していて、作り替えないとこれからやっていけません。
1966年に、現在の名護市辺野古あたりに米軍嘉手納基地以南の海兵隊等を全部集める計画を立てましたが、当時復帰前の沖縄には安保条約が適用されていなかったので、米軍は自分で建設費も移設費も負担しなくてはなりませんでした。ところがドルが下落してベトナム戦争が終結したものだからその計画が延びてしまったわけです。今、同じ計画を日本政府の金でやろうとしているわけです。アメリカ側からすると、こんなにありがたいことはないわけです。
今のところ、米軍は2014年までに海兵隊8,000人と家族9,000人をグァムに移すことを決定しています。私は、その8,000人の中に普天間のヘリ部隊も入れてしまえば新たな基地を作る必要はまったくない、それが一番解決が早いと言っているのです。しかし、日本のマスコミも沖縄のマスコミもそれをぜんぜん取り上げません。それは政府が一番嫌がることだからです。これでは、何も解決しないのも無理はありません。
現在、沖縄の経済は基地収入より観光収入のほうがはるかに大きいのです(1997年以降、観光収入は軍関係受取の約2倍、あるいはそれ以上)。観光のなかでもエコツーリズムが一番中心になってきていて、そのメッカが普天間基地の代わりに基地をつくろうとしている名護市大浦湾一帯なのです。一番海がきれいがところなのです。そこをつぶしてしまって、ジュゴンなども絶滅にしてしまったら、国際的非難を受けます。世界的に環境問題に関心が高まっている時期だけに反対が非常に強くなります。
昨年、沖縄の人々が新基地建設に反対していたら、海上自衛隊は掃海母艦「ぶんご」(5,700t、全長141m)を送り込んできて県民を威嚇しました。そういうことがあるから、沖縄の人々はこれ以上我慢できないということなのです。これからますます基地撤去の声が高まってくる懸念があります。日米両政府が大切にしているという安保条約が根底から危なくなりつつあります。アメリカ側は非常に柔軟に対応していますが、日本政府が問題です。国会議員の連中もまったく沖縄の事情を知りません。自分の選挙区では一切その負担を背負おうとはしないわけです。
質問:
沖縄で何が起きているか本土の人はまったく知らないと言われていますが、どうでしょう。
大田:
私が参議院議員をしている時に大手マスコミも部屋に来て私が今お話したようなことを話していますが、彼らは取り上げないのです。この前も那覇の事務所にテレビが来て、さかんにその話をしたのですが取り上げません。東京に帰ったら、抑えられてしまうわけです。
質問:
東京のテレビ局が来たというのは先日の事件が起きてからですか?
大田:
もちろん。東京のテレビ局が私のところに来たので、今の話をしたのですが、東京に帰ったら私の話は取り上げません。それが実態なのですよ。だから問題が片付くわけがありません。
質問:
名護の住民は、日本の多くの人が大浦湾にも来たことがないからあの海の美しさを知らないといっています。また、現地を訪れたアメリカの学者は、アメリカなら、大浦湾のような美しい場所に軍事基地を建設するという発想さえも出てこないだろうと言っていたそうです。
大田:
日本人の多くは大浦湾にも行ったことがないし、第一沖縄にこれだけ基地があることを知りません。アメリカ人も知りません。しかし、アメリカ側は沖縄の問題を本気で解決しようと、ウォルター・モンデール駐日大使(在任1993〜96年)あたりから非常に熱心に取り組んでもらったのですが、肝心の日本政府が動きません。目に見えない離れたところに基地を押し込めておいて、口では安保条約は国益にかなうとか言っているわけです。つまり、国民の一部を犠牲にする形で自分の国と国民を守ろうとする非民主的な、非人間的なやり方です。問題解決がこんなに長引いているのはそのためなのです。
ワシントンの国防情報センターの所長さんが沖縄に来たときに、彼に沖縄の米軍基地を見てもらいました。沖縄に基地があるのは地政学的に重要だからやむをえないなんて国会議員は言いますが、北朝鮮に本当に脅威があるとすれば韓国の方が25倍もの軍事力を持っているのだからアメリカ軍がいなくても大丈夫だと、もし韓国が対応できなければ、アメリカの兵士を増やせばいいじゃないかと所長さんは言っていました。また、北朝鮮が脅威だというなら九州北部に米軍基地を持っていった方がはるかに便利だと言っているわけです。それを、沖縄は地政学的に便利な場所にあるからと沖縄に過重に基地を負担させてもやむをえないという(日本の)国会議員の言い方なのです。
基地の削減と抑止力の維持ということを政府は絶えず言いますが、何に対する脅威なのか、どこから何を守ろうとしているのかぜんぜん説明していません。どこが脅威かもぜんぜん説明しないで、ただひたすらに抑止力の維持は大事だと言うだけなのです。大事だというけど、自らは引き受けないわけですよ。これが一番の問題です。沖縄と本土には温度差があるというが、私は温度差じゃない、鈍感なんだ、といつも言っています。