不当判決を訴える被告人のみなさん。(写真はすべて筆者撮影)
ビラ配布のため、自衛隊宿舎の敷地と階段部分に入った行為が住居侵入にあたるとして逮捕・起訴された、立川市内にある市民団体「自衛隊監視テント村」のメンバー3名に対する最高裁の判決言い渡しが、4月11日、最高裁第二小法廷でありました。
一般傍聴席41枚に対し、希望者が100名。抽選の結果、残念ながら筆者は外れてしまいましたが、支援者の方のご好意で裁判を傍聴することができました。整理券配布所の最高裁南門には大勢の報道陣がつめかけ、この事件に対する関心の高さをうかがわせていました。
手荷物をロッカーに入れ、筆記用具だけを持って金属探知機による検査を終え、階段を上って第二小法廷に入ると、最前列の中央左よりの席に座るようにとの係員からの指示がありました。整理番号に記された最前列のその席に座っていると、驚いたことに筆者の左隣には被告人3名が来て座りました。
当事者である被告人が法廷の中に入ることができないことに吃驚しましたが、せっかくなので、被告人の方に、最高裁では弁論が1回も開催されなかったことについて質問すると、「弁論は1回もなし」と頷きながら、「(弁論を)やったら勝ちなんだけどね」と答えました。傍聴席には、葛飾ビラ配布事件や板橋高校事件の被告人の方々の姿もありました。
今井功裁判長ほか2名の裁判官が入廷しました。裁判官の席は5つあります。横浜事件の再審の最高裁判決言い渡しのときは、4名の裁判官がいました。今回は3名なので、少ないとの感想を持ちました。6台のテレビカメラによる2分間の撮影のあと、判決言い渡しがありました。
主文 本件各上告を棄却する。
内田雅敏弁護士。
今井裁判長は主文を言い渡したあと、その理由について要旨を述べました。わずか2分にも満たない短いものでした。高裁の判決に沿った内容で、自衛隊の宿舎を「邸宅」と言い、その邸宅に管理主権者の許可なく入ったので住居侵入の罪に該当するものであり、この判断は憲法21条の表現の自由に違反するものではないことは過去の判例が示している、との主旨の内容でした。
今井裁判長ほか2名の裁判官がそそくさと逃げるように法廷を退廷すると、傍聴席がざわめき、「ふざけるな」「これで終わりかよ」「こんなことのためにわざわざきたのか」「言うだけ言ってさっさと出て行った」「高裁のまんま。(あんな判決なら)オレでも書ける」といった不満と抗議の声があちこちから聞こえてきました。
南門の前では報道陣に対し、被告人3名が不当判決を訴えていました。被告人の方の1人は、最高裁の判決の不当性とともに、「日本の民主主義は危うい」と述べ、法の番人であるはずの最高裁がその役割を果たしていないことに対し、危機感を募らせていました。弁護団の内田雅敏弁護士は、最高裁の判決を厳しく批判しながら、一審の判決の論理の素晴らしさを語り継ぐことの必要性を訴えました。
また、本来5人の裁判官でやるべきなのに、3人の裁判官で判決が書かれたことに対し、こんな重要な判決をたった3人だけで簡単に有罪判決を出したことに言及し、民主主義の根幹に触れるものであるとして厳しく批判しました。ちなみに、もう1人裁判官がいたそうですが、その裁判官は元検察官で、(この事件に)関与していたために、回避したそうです。
裁判を傍聴した板橋高校事件や葛飾ビラ配布事件の被告人の方々も「ビラを配っただけで逮捕されるなら、全国の何千、何百という人が捕まる。新聞の勧誘ができなくなる。非常識の極み」「杜撰な判決。傍聴人に説明できないので、裁判官はそそくさと2分ですぐ帰った。司法の恥ずべき1日となった。ビラを配布しただけで逮捕されるなら、路上でビラを配ることも、個人の家に配ることも危うくなる。住居侵入と言っていたが、治安維持法。市民の声を弾圧して知る権利を奪う。見ざる・言わざる・聞かざる。そういう社会を目指している。言論の自由を守るために頑張りたい」と述べ、それぞれ不当判決に対する憤りを訴えました。
最高裁の不当判決に対し、抗議の声をあげる。
筆者の感想
この事件があったあと、サンデープロジェクトの番組スタッフが自衛隊の宿舎に張り付いていたところ、ピザ屋やクリーニング屋や寿司屋が頻繁に出入りしていたそうです。しかし、彼らが逮捕されたという話は聞きません。
最高裁の判決では、判決は表現の自由を問うものではなく、あくまでも、自衛隊の宿舎であるところの「邸宅」に管理主権者の許可を得ないで入ったために、住居侵入の罪で有罪とするとのことですが、それでは、ピザ屋さんなどがパンフを配布するとき、一々許可を得て入っているのでしょうか。もし許可を得ていないとしたら、全員、逮捕し、起訴して有罪判決を下すのでしょうか。また、新聞の勧誘にくる人たちは一々許可を得て「邸宅」に入り、各戸の玄関のチャイムを押すのでしょうか。
素人でもおかしな判決であるとの感想を持つのに、法の番人と言われる最高裁が、傍聴人に充分な説明もできないような判決を下すことに、裁判官としての良心が痛まないのか、大変疑問を感じました。ちなみに、この今井巧裁判長らは横浜事件再審請求棄却、袴田事件再審請求棄却の判決を出した人たちです。
本来5名で出すべき判決をたったの3名で出したことも重大な問題ですが、弁護士さんのお話によると、当初は4名でやるはずだったのが、その中の1名は元検察で、関与があったため、急遽、外されたという説明を聞いて、このような市民生活に重要な影響のある裁判を、きわめて不透明な形で判決を出したことに対し、最高裁に対する不信感がさらに深まったような気がしました。
※立川ビラ配布事件
被告人3名は、自衛隊のイラク派遣の是非が問題となっていた04年1月と2月、「自衛隊のイラク派兵反対!」などと書いたビラを配布するため、自衛隊の宿舎の各戸の新聞受けに入れようとしたところ、無断で敷地に入ったとして起訴されました。一審の東京地裁八王子支部は04年12月、刑事罰を科すほどの違法性はないとして3人とも無罪とましたが、東京高裁が05年12月に逆転有罪としていました。
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