記者会見の様子
06年12月に改正された教育基本法は憲法違反だとして、東京都民らが、国や国会議員らに対し、損害賠償を求めた「教育基本法違憲訴訟」(平成19年〈ワ〉第24676号)の判決言渡が、5日、東京地裁でありました。この裁判は、弁護士のいない本人訴訟です。原告は、「ポケットに教育基本法の会」のメンバー245名。
昨年11月14日に開催された第1回口頭弁論では、原告らの意見陳述が終わったあと、矢尾渉裁判長が「合議をします」と言い、ほかの裁判官2名と退廷しました。矢尾裁判長らは、戻ってくるなり、いきなり結審を告げたため、原告らは一斉に忌避の申立を行いました。しかし、一審、二審、上告審といずれも忌避申立は棄却され、今回の東京地裁での判決言渡となりました。
筆者は第1回口頭弁論を傍聴し、その傍聴記を書いています(
証拠は全部却下する・「教育基本法違憲訴訟」初回結審の驚き)。そのときの印象では、矢尾裁判長は、最初から原告の発言をまったく無視して裁判を進めるといった、敵意むき出しの態度を見せているような感じがありました。これではとても公正な訴訟指揮を行っているとはいえないとの感想を持ちました。
弁護士のいない本人訴訟です。原告らは裁判については素人のみなさんです。素人のみなさんが、自ら難しい法律を勉強し、被告らの違法行為を立証するために膨大な資料を集め、それを読破し、準備書面としてまとめ、裁判所に提出しています。その労力は並大抵のものではないことを思うとき、自らの職務を全うする責務を負っている、職業裁判官である矢尾裁判長らの原告らに対する態度は、あまりに心無いものです。
矢尾裁判長らが第1回口頭弁論で行った、原告らの発言をまったく無視し、最後に口頭での陳述を許可したあと、不意打ちを食らわすようにいきなり結審を言い渡すというやり方は、きわめて問題があると思いました。1審、2審、上告審でその申立が却下されたとのことですが、裁判官に対する忌避申立の制度があっても、双方が納得する形で運用されなければ、意味をなさないとの思いを強くしました。
今回の判決言渡では、さすがに矢尾裁判長は、第1回口頭弁論のときのように、原告らを敵視するような態度を見せませんでした。しかし、判決の内容は原告らにとって厳しいものでした(左倍席は前回と同じ長博文裁判官、右倍席は変わっていました。今度の裁判官は澤野芳夫裁判官)。
主文
1.本件訴えのうち、次の各請求に係る部分を却下する。
1 教育基本法(平成18年法律第120号)が憲法違反であり無効であることの確認を求める請求
2 被告国に対して金銭の支払いを求める請求のうち、選定当事者である原告らが別紙2記載の選定者のためにする請求及び同別紙記載のその余の原告らの請求。
2.原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
3. 訴訟費用は原告らの負担とする。
最初、矢尾裁判長が、「本件訴えのうち、次の各請求に係る部分を却下する」と言ったので、原告側の主張のいずれかが認められたのかと思ったのですが、すべて却下という内容でした。矢尾裁判長らは主文のみ言渡し、退廷しました。入廷してから退廷するまでの時間はわずか1分にも満たない、短いものでした。原告席から「もっと真面目にやってください!」「なにも審理していないでしょ!」という抗議の声が上がりました。
判決言渡のあと、司法記者クラブで記者会見がありました。最初に、原告のSさんからこの訴訟についての解説がありました。
Sさんは、この裁判は、06年に改悪された教育基本法の違憲性を問うものであり、「憲法違反が主眼の裁判」であると強調しました。47年に制定された教育基本法は現憲法と一体をなすものです。思想統制が行われた戦前の教育によって戦争が起きたとの反省から、現憲法と教育基本法が生まれました。
改悪された教育基本法は、(2度と戦争はしないという)憲法の理念に反し、思想信条の自由や教育を受ける権利に違反するものであること、裁判所が違憲立法審査権を用いなければ行政府・立法府の暴走にだれも歯止めをかけることができないため、(1952年の「警察予備隊訴訟判決」の過ちを正し)憲法81条の違憲立法審査権の判断をすること、憲法99条違反(憲法擁護義務)などを主張したものであると語りました。
また、判決が、タウンミーティングの違法性について訴えていた原告の主張に対し、まったくふれていないことについても言及しました。
Sさんの解説のあと、Wさんが、原告の訴えに対する裁判所の判断がどのようなものであったか、判決文を見ながら説明しました。
判決では、教育基本法の違憲無効の確認請求については、「警察予備隊訴訟」判決の判例を踏襲し、「裁判所の審判の対象となるのは、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争に限られるところ、このような具体的な紛争を離れて、裁判所に対して抽象的に法令が憲法に適合するかしないかの判断を求めることはできないものというべきである」として、原告の訴えは退けられました。
国に対する請求については、原告らは松山地方裁判所で同種の訴訟を提起しているため、民法訴訟法(二重提訴の禁止)に反する不適法な訴えとして退けられました。また、懲罰的損害賠償の請求は、損害賠償制度の基本原則ないし理念と相いれないものであるから、その請求をすることは許されない、として退けられました。
東京選挙区の国会議員5名(小杉隆氏・下村博文氏・木村勉氏・島村宣氏・太田昭宏氏)に対する損害賠償請求については、「公権力の行使に当たる公務員の職務行為に基づく損害については、国又は公共団体が賠償の責めに任じ、職務の執行に当たった公務員は、個人として、被害者に対し、その責任を負担するものではないというべきであ」として、損害賠償を求める請求は理由がない、と退けられました。
結論として、原告らの訴えはいずれも不適法であるからこれを却下し、原告らの被告らに対する請求は、いずれも理由がないからこれを棄却する、というものでした。
裁判所の判断に対し、Wさんは、憲法が改正されていないのに、憲法の理念に反する改正教育基本法を成立させたのは、憲法99条(憲法擁護義務)違反であるとして、「控訴する決意です」と明言しました。
また、原告の男性は、政府でさえ認めている違法なタウンミーティングについて判決が一切触れていないことに対し、「(国民を)なめきったような裁判官が出した判決を問題にしなければならない」、と強い口調で批判しました。