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「残り5分」の世界の軍縮・核不拡散と市民− 明治学院大学国際学部教授 高原孝生氏に聞く

長岡素彦2008/08/28
核戦争による人類と地球の滅亡を午前0時に設定し、それまでの残り時間を示す「世界終末時計」の現在の残り時間は5分だ。「残り5分」の世界の軍縮・核不拡散と市民を巡る問題について、明治学院大学国際学部教授の高原孝生氏にお話を伺った。
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「残り5分」の世界の軍縮・核不拡散と市民− 明治学院大学国際学部教授 高原孝生氏に聞く | <center>明治学院大学国際学部教授の高原孝生氏</center>
明治学院大学国際学部教授の高原孝生氏
 核戦争による人類と地球の滅亡を午前0時に設定し、それまでの残り時間を示す「世界終末時計」(Doomsday clock)の現在の残り時間は5分である。

 今回は、「残り5分」の世界の軍縮・核不拡散と市民を巡る問題について、明治学院大学国際学部教授の高原孝生氏にお話を伺った。

■現在の軍縮・NPTと今回の「核軍縮、核不拡散と原子力エネルギーの平和的利用」をテーマとした国連軍縮会議についてどのように思われますか。

 まず、今、軍縮を掲げた会議であるなら、それを成功させなくてはいけないと思います。現在は軍備、軍事をめぐって、これからの世界がどっちの方向に向かうかの分岐点だからです。

 冷戦後の一時期、軍縮、軍備管理を安定化させる力が主流になっていましたが、98年頃から雲行きが怪しくなりはじめました。印パの核実験、そして翌年のNATOによるユーゴ空爆は、その象徴的な現れだったと思います。

 それまでの冷戦後の国際政治、軍縮会議の動きをみると、多少の曲折はありますが、既成の軍縮の達成を元にその上にさらに合意を積み上げていくという全体の方向性については、安定感が広がりつつありました。国際的なルール作りが進み、軍事主権の露骨な主張がいっそう抑制されていくという、今後の国際社会のイメージが、それなりに共有されつつあったとも言えます。とくにアメリカのクリントン政権の初期には、軍事から非軍事に向かう「コンパージョン」の流れがあり、国防予算の伸びは押さえられました。

 核軍縮の領域では、95年にNPT・核不拡散条約(NPT Nuclear Non-Proliferation Treaty)を無期限延長するという合意が成り、そこでの約束を受けて翌年にはCTBT・包括的核実験禁止条約が署名されます。2000年のNPTの再検討会議でも、核廃絶に向けて一歩進んだ合意文書が採択されました。

 ところが、その後に成立したブッシュ政権が、公然と従来の国際合意をないがしろにする諸政策を打ち出します。そして、9・11事件に対して「対テロ戦争」(テロとの戦い)という間違った対応に世界中を引きずり込んでしまいました。これが98、99年頃からみられはじめた国際合意・国際組織を軽視する傾向に一気に拍車をかけ、一方的な軍事力行使を控えるという国際規範が、目に見えてほころびはじめています。2005年のNPT再検討会議は、何の合意文書もつくれないという結果に終わってしまいました。別の言い方をすると、軍事化に対する規制の崩壊が、世界各地で進行しているのです。

 このような中でNPT体制は、今のところ、どうにか維持されています。実はNPT自体に問題がないわけではありません。しかし、問題があることを認識した上で、2010年のNPT再検討会議を成功させなくては、国際社会のタガが危険なほどにゆるんでしまいます。去年からNPTの再検討会議に向けた準備委員会が始まっていますが、そうした危機意識が諸国に広がりつつあるように思います。

 ご承知のように今、非常に問題になっているのは「米印原子力協力協定」で、これはNPTの原加盟国であるアメリカが、当のNPTに公然と違反して、NPT未加盟のインドの核計画に手を貸すという、まさにルール違反の協定です。

 こうした横紙破りが大国の都合でまかりとおってしまうことに対して、国際社会の立場から"NO"と言っていかなくてはなりません。特に日本は経済大国ですから、アメリカに意見をできるはずだと思われていますし、このような核軍縮の領域では被爆国として発言する責務があり、本来、期待を寄せられる立場です。

■軍縮の必要性や戦争の危機が国内で普通の人たちに聞こえてこないのはなぜでしょう。
 もっと報道する必要があります。軍縮問題について、メディアの記者たちが、研究者たちと知識を共有して、的確に問題を人々に知らせていくことが重要です。民主主義の時代ですから、軍縮・平和のために、報道の果たすべき役割はきわめて大きいのです。

 異常気象やそれに伴う自然災害については、近年になって「地球温暖化」という枠組みでメディアが取り上げるようになり、国際的な取り組みを含めて解説するようになりました。今や地球温暖化を真面目に取り上げないような政治家は、有権者の支持を得られないでしょう。軍縮問題は遠くて難しいもののように思われがちですが、実は生活・生存につながるような重大な問題ですから、同じことが必要です。

 軍縮をめぐる状況は非常に深刻なのです。まさに「5分前」の状況が眼前にあります。冷戦の終結後、テレビや新聞であまり報道されなくなったので、なんだか問題は済んだかのように思われていますが、ぜんぜん解決していません。

 まず核戦争の危機は去っていません。冷戦期にあったような核大国間の一触即発の対立状況は、今日、なくなりました。しかし、奇妙なことに、米ロの間で核ミサイルの「警告即発射」態勢は解かれておらず、未だに少なくとも2000発が、冷戦期と同様の態勢で配備されています。攻撃の誤認や核兵器システムの異常動作の可能性をゼロにすることはあり得ないので、誰も望まなかったような偶発戦争が勃発してしまう危険は減っていません。この「警告即発射」態勢の解除には、すぐにでも取りかかれるはずで、核軍縮NGOはずっとそれを主張してきました。

 核兵器の解体が進行中ではないかという意見もあるかと思いますが、依然として2万発以上の核兵器があり、その破壊力は、第2次世界大戦で使われた火力(2発の原爆を含む)の2000倍以上になります。その管理が国によって不完全であることを考えると、慄然とさせられます。

 核兵器は、非人道的な大量破壊兵器ですから、化学兵器、生物兵器と共に、禁止されるべきものです。核兵器禁止条約を求める動きが現在、世界各地で起こっています。そうした報道も、もっとしてほしいところです。

 大量破壊兵器の一つ、化学兵器は、その所持を含め、国際条約で完全に禁止されています。先だって、中国大陸に残した旧日本軍の遺棄毒ガスの処理をめぐって、防衛省関連の汚職事件が報じられましたが、日本は化学兵器禁止条約でこれをきちんと無害化する義務を負っています。遺棄毒ガス弾は日本側の推定でも70万発あり、漏れたガスで現地の人に被害も出ています。こういうことを報道が伝えることも重要です。

 大量破壊兵器の禁止と共に、通常兵器の軍縮も進めなくてはなりませんが、このところ、逆に軍拡が進行しているのが現実です。世界の平和と軍備について経年的に調査・発表しているストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の2008年度版年鑑によると、07年の世界の軍事費総額は1兆3000億ドル (約140兆円)を超えました。これは前年比実質6%の増加で、2002年以来、この増加傾向が定着してしまっています。

 これは公開された数字を元に計算しているので、実際はもっと多いという指摘もあります。日本にとって周辺諸国の軍事費の増大のニュースは、すぐに「脅威論」に結びつけられがちですが、もっと大きい視点が必要だと思います。軍事費は基本的に非生産的です。本来、別のことに向けられるべき膨大な資源が浪費されているという、市民の視点からの批判が必要です。よく言われるように、砂漠の緑化や、伝染病の撲滅は、今使われている軍事費のほんの一部で可能になるのです。

 軍縮が促進されることは、憲法で戦争を放棄して軍事に関して自らの手を縛っている日本のような国にとってこそ、合理性があります。軍事力は依然として国際政治の権力要素ですが、アメリカの圧倒的優位とグローバリゼーションの進行の元で、その比重はどんどん下がっています。そして、軍事力で勝負できない諸国にとっては、その方が、ずっと都合がよいのです。

 先進国、途上国を問わず、軍事費を社会福祉や医療、教育、環境保全にまわすという理性の声が、国内であまり盛り上がっていないように見えるのはなぜでしょうか。私は、民主国家においてさえ、事実が十分に市民に知らされていないことが大きいと考えています。これを突き詰めると軍産複合体・軍産官学の癒着に行き着きます。

 この点、兵器産業が政治力を持っている欧米先進国と違い、平和憲法を維持してきた日本は、戦争利権の構造化の程度が、まだ小さいのです。武器輸出が原則禁止されていることを海外の人に話すと、一様に驚かれ、賞賛されます。これは地球的な視点から大事にすべき、わが国の姿だと思います。その意味で日本のメインストリーム・メディアは、比較的にものを言いやすい立場にあります。上述の米印原子力協力協定に主要紙の社説が疑問を呈しているのは、当然とはいえ、心強いことです。

 軍縮の議論では、市民は自国の軍備も問題にすべきで、そこでもジャーナリズムの果たすべき役割は大きいように思います。5兆円近くもある日本の防衛予算は、もっと減らせるのではないでしょうか。在日米軍の作戦計画には、日本が侵攻されることを想定したものは存在しないと聞いています。

■今回の国連軍縮会議に伴う「軍縮さいたま市民ミーティング」についてお伺いします。
 ぼくら自身が勉強する場としたいと思っています。みんな勉強不足ですから。そして、周りの無関心を変えていくためのきっかけづくりになるといいですね。軍事化をすすめる側は情報も知識もすごいですよ。まあ、それで生活しているわけですから当然ですが……。これに対抗するのは、本当に大変です。国によっては、命に関わります。しかし、だからこそ、声を出せる人には、発言する責任があると思います。少なくとも2008年のこの時点では、軍縮・非軍事化へと方向転換することこそが、とるべき道です。実際、例えば核廃絶に向けて、新しい動きが出てきています。日豪が共同議長を務める委員会など、今後注目すべきものも多いので、いっそうジャーナリズムに期待したいのです。

■インタビューを終えて

 まず、「残り5分」の状況について日本のメディア、特に営利メディアについて期待とともに厳しい言葉を頂いた。営利メディアはもちろん、市民メディアもこのことをきちんと受け止めるべきであろう。

 尚、高原孝生氏も参加する「市民主体」の「軍縮さいたま市民ミーティング」は8月30日にさいたま市内で行なわれる、とのこと。

(参考)
□市民から発信する平和 - 軍縮って何? 「軍縮さいたま市民ミーティング」
(軍縮さいたま市民ミーティング実行委員会)
日本語
Local Capacity for Peace-learning to abolish war
同英語
「国連軍縮会議」外務省
□「核兵器不拡散条約(NPT)の概要」外務省

■プロフィール 高原孝生 (Takao Takahara)  
明治学院大学国際学部教授、明治学院大学国際平和研究所(PRIME)所員。国際政治学者。平和研究の立場から核兵器を中心とする軍縮問題を専攻。米コーネル大学とメリーランド大学で研究員を歴任。パグウオッシュ会議日本事務局メンバー。NPO法人ピースデポ理事、日本平和学会理事。

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