最近、高速無料化について見直しの機運が高まっている。鳩山首相は2009年11月2日、必ずしも国民の支持が得られていないとして、マニフェストの修正を示唆した。
また同3日に野田財務副大臣は、概算要求でおよそ6000億円が計上されていることについて「試行の額としていくら何でも多すぎる」として同様に絞り込みを提案するとともに、公共交通と競合する路線は避けるべきだという考えも示した。(各社報道)このように現実的な見直しの機運が高まっていることを歓迎したい。
高速無料化で物流コストの低減が期待され、物価の低減を通じて、高速を利用しない人に対しても便益があると主張する人がいる。もちろんその効果はゼロではないが、高速料金が直接タダになることと比べて、金額的な大きさはどのていどだろうか。これを検討するために、産業連関分析を使って、消費者価格にどのくらいの低減効果があるかを試算した結果を紹介する。これはよく報道されるように、原油価格の上下や、賃金の上下によって、消費者価格がどのくらい影響されるかといった試算と同じ手法である。
基本的に、消費者が商品やサービスを購入する価格は次の関係で決まる。
消費者価格=生産者価格+貨物運賃+商業マージン
貨物運賃が、高速無料化で一定の割合で低下することは容易に理解できるであろう。また生産者価格の中にも輸送コストが含まれている。こちらはもっと複雑な関係で、商品が製造されるまでには、原材料から加工まで多くの場所を持ち回ったり、複数の工程を組み合わせて製造される。それぞれが相互に影響を及ぼすので、輸送コスト低下の影響は、単なる積み上げ計算では求められない。しかし産業連関分析によってそれらを総合的に計算することができる。
詳細は各種参考書を参照していただきたい。EXCELだけで計算できるので、興味のある方は自分で計算できる。消費者価格の低下率のいくつか例を示すと─
食料品 0.3%
衣類 0.4%
電気製品 0.9%
他の研究者の計算でも同程度の結果が得られているので計算は妥当だと思う。これを「家計調査年報」のデータを使って、具体的な額に換算してみると、平均的な世帯で、食料品が月に200円弱安くなるていどである。食料品が月に200円安く済めばありがたいと思う人もいるだろうが、高速無料化の影響が実感できるとはいえないのではないだろうか。
一方、高速無料化で公共交通の経営が困難になり、路線の撤退が懸念されている。もし路線バスが撤退し、タクシーを使わざるをえなくなったらどうなるだろうか。平均的な数字で計算すると、たとえばバスで350円の距離がタクシーで2000円といった負担になる。もし、東京・大阪圏を除いた地方圏で、本当にバスが崩壊してしまったら、全国では2兆円以上の負担増加になる。
つまり、高速道路利用者が節約したいと思っている金額が、ほとんどそのまま交通弱者の負担に回る。食料品が月に200円弱安くなったところで、一回でもタクシーに乗れば消えてしまう。これが無料化の「経済効果」なるものの実態である。
また民主党の「高速道路政策大綱」によると、高速道路に関する累積債務の処理方法として、国債への借り換えが提案されているが、利子の支払いなどで年間1兆2600億円の財政負担が必要とされている。これを一般財源から支出するとすれば、世帯あたり税負担は月額1000円ていどに相当する。これは平均であって、実際は所得によって負担率が異なるが、いずれにしても物価の低下に比べて割の合わない話である。
図は、年収クラス別の「バス代」と「他の自動車等関連サービス」の毎月の支出額の比較である。「関連サービス」というのは、ガソリン代・保険・駐車場代などを除いた維持費用で、高速料金はこれに含まれている。年収クラスによって、バス代の支出は差が少ないが「自動車関係費用」は大きな差がある。これからみても、高速無料化は年収の多い世帯ほどメリットが厚い一方で、年収が少ない世帯はむしろマイナスをこうむる。
年収と交通関係費月額支出
さらに「渋滞解消でCO2の削減になる」という説明も疑わしい。これまで複数の専門機関が検討を報告しているが(*1)いずれも「増加する」との結果を示している。部分的に渋滞解消の効果があっても、日本全体として自動車の交通量そのものが増加する影響が上回るためである。高速無料化の「効果」について科学的根拠が失われているのだから、マニフェストを訂正したほうが国民に対して誠実であろう。
(*1)気候ネットワークホームページ
http://www.kikonet.org/research/freeway.html