2007年度後半の、前年比建築着工統計値が極端な落ち込みを示す一方、建設費の上昇は異常なものとなった。戸建て住宅、共同住宅(マンション)だけでなく、すべての建築コストとともに販売価格が大幅に上昇した。
6月時点の事務所建築コストは、すでに前年比15%上がっていたが、別の要因による年末以降の建設費上昇はそれどころではなかった。一方で、後半からのリートの下落とあいまって、株式市場は右往左往の大混乱になった。
その結果、1980年代後半に起きた“バブル”の時のように、建築コストの上昇は品質の低下を招き、建築紛争が年毎に増加していった。
しかし、原因は当時とはまったく違っていた。バブルの原因は、経済運営の失策や不動産関連融資の垂れ流し、時代の異常な空気などによるものだった。対して2007年の場合は、史上最悪の建築行政ミスに起因していた。行政ミスとは「“改悪”建築基準法」、「“改悪”建築士法」等のことだ。
最も顕著なことは、それ以降わが国には優れた建築がほとんどつくられなくなってしまったことだ。住宅は個性のない工業化住宅が100%近くを占めた。共同住宅もオフィスビルさえも規格化された。表層だけに違いを持つハリボテ建築ばかりになった。
それにより、街並みには心地よい空間が減った。「建築空間」ではなく、「緑化」だけが心地良さや潤いを受け持った。むろん、創造的なアイデアを競う「設計競技」は開催されなくなった。法律が、創造の余地をほとんどなくしてしまった(設計の自由度を拘束した)からだ。
この状況は、わが国の建築家を絶望的な気分にさせた。
創造性を追究する意欲的な建築家や構造家は、2008年五輪をバネに成長する中国を含むBRICS諸国やNIES諸国・地域など海外に仕事の場を求めた。才能豊かな次代を担うはずの建築家も、わが国を見限った。専門教育に入る前の段階で、わが国の大学を忌避して外国へ向っていったのだ。
実社会では、数多くの建築設計事務所が閉鎖をよぎなくされた。建築家の設計した工事を支えてきた中小の優良工務店、ゼネコンは多くが立ち行かなくなるか、大手ハウスメーカーや大手ゼネコンの傘下に入った。
木造伝統工法を担うべき腕のいい大工・棟梁も、ほとんどがいなくなった。国が、伝統技能継承の場までも事実上、改悪建築基準法によって潰したからだ。行政を私物化する国交省住宅局官僚が目論んだ通りに進んだ。天下り先だけに恩を売った……はずだった。
……以下は、私の強い期待だが、後世の建築史には
こんな文章が記されるかもしれない……
しかし、2007年7月に参議院で第一党となった民主党と他の野党は、官僚の横暴と陰謀にようやく(全く、ようやくだったのだが)気付いた。そこで、天下り制度を事実上全廃し、同時に民営化した外郭団体への課長補佐クラス以上の天下りも禁止した。すべての省庁を対象にした。残念ながら、「文化」という建築への高邁な理解でなく、ただ政権の奪取をする確実な方法の一つとして選択した方策ではあったのだが。
ともかく、それを国民が評価し、しばらくして行われた衆議院選挙でも民主党は第一党に躍り出た。比例区の指定席≠ヘ無くなり、官僚出身の政治家は厳選された。真摯に政治を志す官僚だけが、堂々と選挙区から出馬して信を問うた。
2013年の参院選挙では、業界の支持を期待して出た前国交省次官が得た票数は、10万にも遠く届かなかった。彼は明らかに、民意とズレていた。以来四半世紀。政権の交代はあっても、民意は確実に尊重されるようになった。少数意見の代表として第三党の存在意義も強固なものとなった。
悪法をつくった当時の建設官僚の名前は、国土交通大臣以下【史上最悪の建設官僚名簿】としてWEBに残されている。編纂したのは「NPO法人・史上最悪の建設官僚の名を歴史に記す会」。この名簿の出現によって、「1〜2年でポストを変わり、省と関連団体を渡り歩くことでシャッフルし、責任の所在を不明確にするという官の悪習」は通らなくなった……」。
◆◆◆◆◆
いずれにせよ本年に始まった「建築文化の崩壊」は、今後10年以内には歴然としたデータで確認されることになるだろう。
近い将来から、建築雑誌に掲載される優れた建築作品の多くは欧米や、BRICS、NIESの建築だけになり、わが国の建築は2007年以前のものだけが、「建築史」のなかに残されるだろう。悲しい!
【前触れ】
国土交通省は8月31日に、7月の「新設住宅着工戸数」が前年同月比23%減少したと発表している。極めて、きわめて小さな前触れだ。
『日経アーキテクチュア』07年7月9日号記事/
視界不良の建基法大改正
【「視界不良の建基法大改正」という記事/建築実務者のほとんどが突きつけたNO!】
『日経アーキテクチュア』誌2007年7月9日号の特集
「視界不良の建築基準法大改正」には、6月末にウェブ上で実施した回答が集計されている。
この法改正で「実務に影響がある」と回答したのは98%だ。
この法改正で「建築物の質は向上するか?」には、75%が「変わらない、もしくは低下する」としている。
さらに、
「消費者の信頼を回復できると思う」としたのは、わずか9%だ。
建築実務者の大多数が現建築行政にNOを突きつけたことがおわかりいただけるだろう。このサイトを(紙の誌面も)日頃読み、アンケートに答えた建築技術者は意識が高い層と見て間違いない。それがNOを突きつけている。
安倍内閣ほどにも支持していない。このようなブーイングはかつて見たことがない。
しかし、官僚は予想もしなかったことなのだろう。もちろん、社会のことなぞ気にしていないからだ。
それほどに世間知らずで傲慢なのだ。
【改正建築基準法施行にあたっての所感/日本建築構造技術者協会】
6月25日に社団法人・日本建築構造技術者協会は、
「改正建築基準法施行にあたっての所感」なる次のコメントを発表している。
「(前略)時間不足であったことは否めず、建築物の構造設計・監理に係る業務を誠実に行ってきた大半の技術者に対して、不必要な規制強化にならないようにとの観点から協力した当協会にとっては満足できる結果とはなっていない。」
さらに、「
構造設計関連の告示公布はわずか一ヶ月前であり、6月20日付で公示を補完する技術的助言が発信されたものの、告示・技術的助言を補完・解説し、構造設計実務を行う上で不可欠な技術基準解説書の公開は7月以降、講習会は9月以降に予定されている。
審査・検査に係る告示が6月20日に官報掲載されたことなども含め、告知・浸透活動の立ち遅れは否定できない。
このままでは、運用面での大きな混乱が予想されるとともに、やたらに構造設計者の無用で膨大な作業を増やすばかりとなることが懸念される。(後略)」
※太字は筆者による。
現在の大混乱を明確に予測している。
こんな「法改悪」がまかり通った元凶は、視野が狭く独善的で実務を知らない官僚と外郭団体の横暴、その言いなりでフォローする御用学者、さらに全くコントロールできなかった政治であった。
【前代未聞!怒る建築メディア】
『建築ジャーナル』07年7月号記事/
もう黙っていられない 建築基準法改悪
月刊誌
『建築ジャーナル』07年7月号の特集は、
【もう黙っていられない建築基準法改悪】だ。
リード文から引用する。
(引用開始)
(07年)6月20日、
改定建築基準法が施行された。国土交通省が耐震偽装事件発覚を発表した2005年11月から約1年半というスピード法。
これで耐震偽装事件の原因追究も、中途半端なまま強制終了か。
今回の改定建築基準法について、『建築ジャーナル』は断固反対の立場を表明する。体裁だけを整えた、技術者否定、国民軽視の改定法であるためだ。この改定によって、日本の建築文化と建築家が危機に立たされている問題について、取り上げたい。
(引用終り)
見出しには、
「改定で建築家生命が奪われる?」、「裏付けのない安全性確保」、「なぜ建築団体は抵抗しないのか」、「適合性判定は形骸化した建築確認と同じ」、「改定建築基準法を突破する術」 とある。
※太字は筆者による。
『日経アーキテクチュア』07年8月13日号記事/
動かない建築確認で大混乱
隔週誌
『日経アーキテクチュア』、『日経ホームビルダー』とそのウェブサイト
『KEN-Platz』も激しい。WEB上で行った共同アンケートには、1000人以上の建築実務者が自主的かつ積極的に回答し、悲痛な声を上げた。
特定分野の技術者を対象に、しかもWEB上行ったアンケートにこれほど多くの人たちが答えたということに、多くの建築技術者が強い危機感を持っていることが伺える。
建築実務者からの怒りと困惑の声だ。
建築専門誌がこれほどまでに実務者の立場を理解し、国交省を真っ向から追及している姿は感動的ですらある。
【NB(日経ビジネス)online 山岡淳一郎氏による論考】
緊急提言! 現場知らずの「耐震偽装対策」が招く危機 制度の煩雑化が招く大混乱、品質低下、価格上昇につながる恐れ
8月6日にアップされた論考だが、正しい理解に裏付けられた的確な論考である。なお、改定された「建築基準法」は6月20日付けで施行されている。
抜粋しながら引用する。
(引用開始)
一般メディアは、まだ、まったく触れていないが、下手をすると
経済に大打撃を与えかねない状況なのだ。
(中略)
国交省住宅局建築指導課の独善的な『思いこみ』が、建築設計の現場を大混乱に陥れている。国は耐震偽装への対応策として建築基準法を改正し、建築確認の厳格化を打ち出した。偽装も見抜けない確認審査ではダメだ。徹底的にチェックしろ、と号令一下、通達(「建築確認の指針」)で縛りをかけた。が、これが
現実と乖離した机上論だった。
(中略)
確認を厳しくして、劣悪なデベロッパーや建設会社、設計事務所が淘汰されるのであれば消費者は歓迎しようが、どうもそうではない。厳格化が煩雑化にすり替えられ、
天下りの集金システムが築かれつつある。設計会社の多くは面倒な手続きと設計行為の調整に戸惑い、確認申請を出すに出せない。窓口となる自治体の建築指導課は閑古鳥が鳴く。
(中略)
法改正の最大の眼目である「建物の安全性」が高まるのかというと、疑問符だらけなのだ。
耐震偽装を防ぐつもりが、逆に総体的な安全性に赤信号。角を矯めて牛を殺しかねない状況なのである。
(中略)
今回の改正で確認の対象となる建築計画を徹底的に実施設計に近づけ、厳密化させる指針が示された。一見、出発点を明確にしたようだが、実務の限界を超えた対応を求めている。例えば内装のクロスについても、製品の品番とともにメーカーの認定証をつけろ、との指示。全建材にこの方針が貫かれようとしている。
構造上の安全性とはほとんど無関係なことにまで偏執的に厳密さを要求しているのだ。
そのうえ設計の変更についても、よほど軽微な変更以外は、工事を止めて確認を取り直せ、と通達している。これは、費用と工期に重大な影響を及ぼす。(中略)
国交省の狙いは、弱小潰しか。資金的にも新制度に耐えられるところだけが生き残ればいいとの腹だろう。しかし、それでは自立的に建築を志す人材が育たない。安い報酬で、激務を強いられ、責任ばかり押しつけられたらどうなるか。産科医師が、激減している状況を見ればいい。建築界も、創造現場の芯が、空洞化する恐れがある。
(後略)
(引用終り)
※太字は筆者による。ぜひとも原文をお読みいただきたい。
【法改定で確認申請窓口大混乱】
耐震偽装事件を契機として、再発防止のために
(と国民を欺いて)行われた建築関係法規改定のうちの一つ、
「“改悪”建築基準法」が2007年6月20日に施行された。20日の直前まで駆け込み申請が目立ったが、20日からは申請がぱったりと止まった。止まった原因のすべては杜撰な建築行政にあった。シミュレーションをしたとは思えないほど
タイムスケジュールが穴だらけだったのだ。
新しい法規が施行されたにもかかわらず、施行日現在で申請手続きの具体的な内容が決まっていなかった。
さらに、改竄を契機に106本あった認定構造計算プログラムはこの日をもって認定が失効した。だが、新しいソフトは認定どころかいまだ完成していないのだ。5月7日に朝日新聞WEB版に載っている。
耐震偽装対策、計算ソフト改訂遅れ 新制度に間に合わず
「国交省が示すべきプログラムの基準の検討が長引いて最終決定ができず、ソフト会社の対応が大幅に遅れてしまった。」とある。
基準を決めなければソフトは開発のしようがない。遅れた原因は国交省にあるのだ。
6月20日の改定法施行以降の記事は下記の通り。
【改正建築基準法】「詳細な内容を理解している」は4%にとどまるアンケート結果・第1弾 2007/07/04
98%の回答者が、法の改定で「大なり小なり影響がある」と回答している。
「周知不足の法改正」が現場を襲う 2007/07/31
2回目以降のアンケートに関する記事については次回に紹介する。が、あまりのボリュームにまとめきれずに苦慮している。
【国交省による前代未聞の大失態とは】
昭和25(1950)年の
法制定以来最大の汚点と言い切って間違いないだろう。
法の施行日時点で、審査する側(特定行政庁や民間確認検査機関など、いわば国交省の身内)も運用方法が判らないのだから、申請者は申請したくてもできないという状況に陥っている。
申請書の様式を定めた
「施行規則」と「審査に関する指針」はそれぞれ6月19日と20日に交付されたというのだから、あきれた異常事態だ。申請者も、審査側もそれから熟読して体制を整えるのだから、20日に申請できるわけあるまい。設計は数ヶ月以上をかけてするものだ。しかも、大臣認定の構造計算プログラムなしでは、構造設計も進められずに構造設計者は困惑している。
「まじめな建築士」は改正建築基準法で仕事にどんな影響を受けたのか 2007/07/24
(引用開始)
「心配のしすぎではないか。まじめに仕事をしてきた一級建築士なら、改正法が仕事に与える影響はさほどないはずだ」。改正建築基準法が施行された直後の6月22日、国土交通省建築指導課のある職員はこう語った。同日付のケンプラッツの記事「80%が『仕事に大きな影響がある』─緊急アンケートに大きな反響」に目を通したうえでのコメントだ。
(引用終り)
腑が煮えくり返る思いだ。この
まったく判っていない職員の能天気なコメントにはあきれるばかりだ。
さすがに8月27日には法改正を行った担当官が謝罪している。
社団法人・日本建築士事務所協会連合会が開いた「緊急会議」に出席した、国土交通省の小川冨由・大臣官房審議官(前建築指導課長)は、周知の不徹底について「深く反省している」と述べた。建築確認申請が滞っている現状を認め、申請手続きの円滑化に取り組むことを明らかにしたというのだが。
しかし、
「周知の不徹底」以前に、「改悪」について詫びるべきだ。詫びてもしょうがないのだが。
法を6月19日の状態に戻す(つまり、「改悪」をなかったことにするのだ)以外に解決策はあるまい。「なかったことにする」ことはあり得ないと思われるだろうが、「改悪」自体があり得ないことだったのだから。
【改正建築基準法】「間取り変更」でトラブル必至 2007/07/25
「
新たな確認検査制度では設計期間が延びるうえに、工事途中の計画変更も厳しくチェックされる見通しだ。
着工後、施主が「やっぱり間取りを変えたい」と言い出せば、計画変更届の確認が下りるまで現場は止まりかねない。建築確認を申請する前に設計を終わらせ、追加変更のないように工事を完了するには、施主とのやり取りにも細心の注意が必要になる。」、「住宅会社と施主が『設計施工一貫請負契約』を結ぶ場合、契約書には引き渡し日を記入する。確認申請に今まで以上の日数がかかることは確実だ。
プランが煮詰まらないまま契約を急げば、竣工が遅れて遅延損害金を求められる事態にもなりかねない。」
これほど、専門メディアが厳しく追及しているなかで、
大新聞は無視を極め込んでいる。なんと鈍感なのだろうか。各紙文化欄の記者達は“仙人”なのか。
あなた達の書くネタが消滅するのですよ!
この経済にも大影響を与えかねない大混乱を経済部、社会部の記者もスルーしていられるのですか。
歴史には、『信じられないことだが当時のマスメディアには恐るべき無関心があった。』と書かれますよ。
【消費者(建築主、住宅購入者)は怒りを設計事務所や建設会社に向けないで】
すべての元凶は国土交通省と外郭団体、御用学者、政治家、そして情報を正しく伝えないマスメディアにあるのだから。
そして、
どれほど“鈍感力豊かな”政治家でも、この異常事態を見過ごすわけにはいくまい。
次回は、未曾有の大混乱の中で着々と“集金システム”の整備にいそしむ外郭団体も取り上げたい。
◇ ◇ ◇