信越線の秋の風景(新潟県)。編集部撮影
1.無農薬野菜という幻
ちまたに、「無農薬野菜」という「基準すらない商品」があふれています。ヤフーや楽天で{無農薬栽培}とか{無農薬野菜}を検索して見て下さい。数え切れないほどの農産物が流通しています。無農薬・減農薬・無肥料・天然栽培、あまりにも混乱と不明な表示が多いので、JAS法で「特別栽培農産物」と呼称することに統一したのです。
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ガイドラインの改正のポイント
つまり、平成16年4月以降はJASに「無農薬野菜」という規格はないのです。おまけに、この特別栽培農産物という呼称は馴染みにくい上、PR不足もあって、市中の認知度は極端に低いのです。(*1)しかも、特別栽培の定義(後述)はあくまでもガイドラインであって罰則がありません。「無農薬」と表示しても「違法とは言えない」「正しい表示が望ましい」と農水省自信がHPで回答している始末です。
Q チラシに「無農薬野菜を使って加工」と記載してよいのか。
A 平成16年4月より「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」が施行されましたが、法令に基づいて遵守義務を課すものではありません。生産者、消費者双方のニーズに応じて制定されたという趣旨を踏まえ、当該ガイドラインの表示の規定に従って生産された原材料であるなら「特別栽培農産物野菜使用」などと表示することが望ましいと考えます。平成16年4月回答)
●農林水産省「
消費者の部屋」
●食品規格の根幹をなす「日本農林規格」では第12条で……
「何人も日本農林規格でない農林物資の規格について、日本農林規格又はこれに紛らわしい名称を用いてはならない」と定め、24条で、「違反した者は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する」と罰則もかなり厳しい。つまり違反すれば逮捕される事もあるのです。しかし、農水省は何を考えて「規格でないガイドライン」なるものを定めたのでしょう。紛らわしい無農薬表示を政策的に黙認しているとしか言えません。
これでは、「虫食いのない無農薬ホウレン草」などという商品がスーパーに並ぶ日も近いと思います。本来、「無農薬野菜から農薬が検出されたので改善指導した」などという珍事件があってはならないのです。無農薬栽培に自信があるのなら、その根拠と実績を表示させ、農薬検出は「違法」とし罰則も規定すべきではないでしょうか。このまま放置すると「無農薬」という新語は「全然おいしい」と同じような日本語になり、「無農薬レタスで肝臓障害」などという記事がちまたに溢れることになりかねません。
2.消費者のみなさんへ
よく考えてみて下さい。「本物の無農薬野菜」が……いつでも、好きなだけ、それなりの価格で宅配されてくるなんて不思議だと思いませんか?産地でシッカリ見てきたのですか? その農家に農薬のビンはほんとになかった? 種は? 育苗土は? 飛散は?……専門家の端くれですが、私にはとても信じられません。平成16年3月以前の規格を今でも表示してるのではありませんか? そんなに豊富にあるのなら、正々堂々と大型スーパーで売れば良い筈ですし、日本農林規格と表示すべきです。(殆んどの人は逮捕されます)
「農家は自家用の野菜と売るのは別々に作っている……」??ですって。「誤りの神話」を今も信じている消費者がいらっしゃるのは誠に残念です。近年「農薬汚染」とか「食品の裏側」「沈黙の春」などという書籍が注目され、いつの間にか「農薬は危ない」という神話が人々の潜在意識となっています。農薬は開発の段階で、厳しい基準をクリア出来たものだけが登録されています。農産物の生産現場では、平成18年5月29日農薬のポジティブリスト制度がスタートし、世界一厳しい基準で運用されています。(6項参照)消毒機を販売し、使用者の傍で、詳細に作業現場を見ている私は、「高価な無農薬野菜」を買う必要性を全く感じていません。まわりのプロ農家は「家庭菜園の野菜」の方をむしろ嫌がります。高齢者が昔の知識で栽培している事が多いからです。
3.特別栽培農産物
定 義
1.その地域で一般的に栽培されている農産物(慣行栽培という)での農薬・化学肥料の使用量の2分の1以下で栽培された農産物。
2.使用した農薬の種類、回数、化学肥料の量を表示しなければならない
基 準
比較対象としてその地域の慣行栽培の標準使用量が決められている。各県が策定した品目別の農薬と化学肥料の標準使用量データは、インターネットで検索することが出来る。ぜひ検索することをお勧めします。
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特別栽培農産物農産物に係る表示ガイドラインに基づき地方公共団体が定めた慣行レベル
4.トマトの実話 (半促成栽培=ハウスもの)
近郊の慣行栽培トマトの実際のデータを見せていただきました。化学合成農薬を20種類使用し、延べ48回の消毒をしました。(3種混合で1回使用すると3回消毒と勘定する決まりです)別に法律違反でもなく、ポジティブリスト制度下で「安全基準通りの防除作業」での正直な結果です。栽培暦の保存が義務付けられているから、こうしたDETAが簡単に入手できる時代なのです。さらに解説を加えますと、ハウストマトは9月の定植から翌年5月にかけての長期栽培です。
消費者の皆さんがお買いになったトマトの全てが48回もの農薬を浴びて育ったのではありません。(念の為申し添えます)果房も5段くらい付けますので、この農薬使用状況は標準的といっていいでしょう。一方、「特別栽培農産物」いわゆる減農薬トマトにチャレンジしたM さんの例では、12種類14回におさえています。これは、慣行の3分の1まで減らし、農家としてはかなり努力した結果です。1個のトマトに限っていえば限りなく無農薬です。しかし、普段こういう情報に触れていない消費者が、もしこれを「パックに表示」したらどう評価するでしょう。
「14回も消毒したの?」。
(定義の2)
「美味しさ」以前に「考え込んでしまう」のではないでしょうか。品質や履歴の公開が躊躇される本当の理由はここにありそうです。結果として、折角努力して作った「特栽トマト」も「農薬を抑えて安全な」などと名打って販売できません。基準どおりに表示をできないのです、店が並べてくれません。消費者心理に配慮しての流通が優先されるからです。正しい表示をすれば「美味しさ」が失われるどころか「買ってもらえない」ことになりかねません。せっかくの特別栽培農産物もネーミングの失敗でその普及は先が見えません。売れっ子のアイドルスターでも動員して、お臍をチラつかせながら、「セフティー・スイーツ」?とかのキャンペーンが必要なのかも知れません。
5.有機農産物
定 義
1.種まき又は植え付け前2年以上、禁止された農薬や化学肥料を使用していない田畑で栽培する。
2.栽培期間中も禁止された農薬、化学肥料は使用しない。
3.遺伝子組換え技術を使用しない。
表 示
平成13年4月1日から、名称の使用が規制されることとなりました。これにより、有機JASマークがない農産物や農産物加工食品には、「有機」や「オーガニック」の名称の表示ができない。農業関係者以外の方は、「主に有機物肥料を使って生産した農産物」という程度の認識です。しかし、有機農産物の生産基準は大変厳しいもので、新たに参入しようと思えば2年間は収入が見込めません。需要は多いと思われますが、採算性が疑問で統計上も生産者・生産量ともに横ばいです。(やめた人の統計はありません、届け出ない人がほとんどですから。ドンドン減ってる?筆者の感)
中には、無農薬・無化学肥料栽培「自然○○栽培の野菜」というタイトルで宣伝され(あたかも有機栽培らしく)、注文すると供給される商品は「自然○○栽培の野菜」が届きます。包装の表示には何処を探しても、無農薬・無化学肥料で作ったとは書いてない。(純朴そうなオバサンの顔写真だけあり)。かような農産物もあります。
つい先ごろも有機JAS表示違反が摘発され、排除命令が出ました。(*2)その内容は(認定生産工程管理者)が化学肥料を施肥したおそれのある用土で苗を育苗したため、有機農産物の日本農林規格に規定する生産方法に従ってないことを認識していたにもかかわらず、不正に格付を行って、有機JASマークを貼付していた。というものです。(現実離れの規格を作るから)
こうした生産者の苦労を踏みにじる悪徳業者や行政のお陰で、有機農産物の栽培や表示基準は益々きびしくなり、結果として消費者が求める「安全安心価格」からドンドン遠のいて行きます。農家が悪い訳ではない。小売業者が悪いのでもない。消費者はなおさら……。それが現状なのです。有機農産物より無農薬野菜の方が安全でおいしいと思っている消費者は多いのです。食品の安全が叫ばれ「おいしい」「まずい」といいながら作り上げて来た私達の「食の世界」です。平和日本の僅か数十年の結果であり、『悲しい現実』です。
6.農薬のポジティブリスト制度
中国野菜から基準以上の農薬が検出!。無認可の農薬が使用された。発癌性のある農薬云々。日進月歩の化学・薬学技術のお陰で農薬として使える物質は飛躍的に増えていきます。従来のように、コレコレの農薬は使用禁止と規制する方式ではとても書き切れなくなりました。禁止されていなければ(書いてなければ)使っても罰せられないから、潜りの生産者も出ていました。これを改め、この農産物にはこの農薬を残留濃度○○PPMまでは使ってよろしい。と表記しました。登録農薬以外は原則禁止、残留濃度0.01PPm以上検出されたら販売禁止です。所轄は厚労省医薬食品局。食品衛生法に基づき、「農薬等が残留する食品の販売等を原則禁止する制度」です。従来ともっとも異なるのは販売禁止です。販売業者も摘発の対象です。(*3)輸入農産物も同じ基準が適用されます。正規のルートで来るものは、ほぼ安心です。(加工品にも適用されます。)
どちらかと言えば、生産者保護になりがちの農水省と違って生産者も流通業者も同一の責任を問われます。もし市場に出荷しても販売禁止となると返品されてきます。生産者(農協も)は往復運賃を負担し、生産者名を公表されれば大きな痛手となり、信用回復には大変な努力と経費が必要です。場合によっては産地消滅になりかねません。生産農家も新しい制度を受入れ、指導機関の教えを真剣に聞き、日夜努力を重ねています。「厳しすぎる」といいながらも頑張っています。
ごく例外的に残留問題が話題になったこともあります。生産者の意図しない事象で、栃木のイチゴ・北海道のカボチャなどがマスコミの話題となりました。(参考1.2)しかし、農産物の流通量と検査件数の数に比べれば砂漠のダイヤ位だと思っています。(少し生産者寄りかな?)イチゴ事件などはDATAそのものがいい加減で発表され、新潟・栃木、両県知事の舌戦が展開されました。農機へのトバッチリもあります。飛散汚染の問題から散粉機は全く売れなくなりました。(在庫はゴミ)。ヘリの空散も姿を消しました……おかげで赤ちゃんもユックリ昼寝ができます。この制度が広く理解され、検査体制が定着すれば無農薬野菜は不要と思っています。
7.消費者の理解
農村をまわって、4000人以上の農家とお付き合いして来ました。しかし、無農薬栽培を10年以上続けた人は、たった1人しか知りません。宝船のイチゴで有名になったTさんです。(ローカルではTVでも紹介されたけど、後継者はいません。後に詳細を書きます)先に書いた有機米の違反行為の原因は「播種床」にありました。『化学肥料を施肥したおそれのある(用土)で苗を育苗』したと言いますが、殆んどの農家は育苗土を私共農機具店から購入します。「無肥料の育苗土」はめったに売っていません。種子は消毒して播くのがプロです。あっても流通量が少ないので非常に高価です。(こんな当たり前のことがマスコミには書かれません)
無肥料・無農薬は理想ではありますが、幾多の先人達が挑戦しても「安定・継続生産の技術」は未解決です。地球そのものが無菌状態ではなく、全ての生物は基本的に代謝の連鎖で成長していかねば存在出来ないのです。無農薬の物を食べて、抗菌手袋を使って、除菌スプレーしての生活が幸せですか?「食物」には直ぐにカビが生るのが日本の気候です。「虫が湧く」という言葉もある国です。これは「神の定め」と思います。自分だけは無農薬で生き続けたい……というのはチョットね……と思っています。
農薬のお陰で自給率は確実に向上しました。生産者も過剰労働からかなり解放されました。誤りの農薬知識でいたずらに「過剰な品質」を要求を続ければ農業を衰退させます。必然的にしっペ返しは私達消費者に還ってきます。消費者の正しい理解が、安定した農業経営の支えとなります。農薬中毒の報告は殆んど無いに等しいのに、衛生管理の不備による食中毒はあとを絶ちません。自然の摂理を知らず、じゃが芋の青皮・青芽を食べ下痢が発端で死んだ人も居ます。(自然毒は農薬よりきびしいこともある)
農産物は食料です。食料は「命」であって「グルメやスイーツではない!」と声を大にしたい立場であり、その世代です。いたずらに農薬を敵視しないで、安全で健康な食生活を考えて見て下さい。ポジティブリスト制度は、私達が農産物という食品を安心して食べられる画期的な制度なのです。生産者の実態を知り、消費者の思いを叶えてこそが食品です。食べて安全なのが当たり前でなくてはなりません。このれらの事を外視して「無農薬」を褒め称えたり、「無農薬特産物で農村振興を」と論じても「絵に描いた餅」だと思うのですが如何でしょう。
◇ ◇ ◇
参考法令
(*1)
特別栽培農産物
(*2)農水省発表
有機表示の抹消命令
(*3)
JAポジティブリスト制度の解説
残留農薬基準
残留農薬の例
栃木のイチゴ騒動
北海道ヘプタクロル残留事件
参考引用 徳江倫明氏
安全と環境と有機農業