出港式が延期になり、係留中の日新丸と捕鯨船(11月15日、写真提供:Greenpeace)。
■人員が減った日新丸船団
17日、この捕獲調査の主体である日本鯨類研究所が、プレスリリースを発表した。
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第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)の第三次調査の出港について(pdf版)
はじめ、このプレスリリースにはhtml版とpdf版があって、本稿を書いた時点では前者は標本採集計画数を「クロミンククジラ850頭±10%、ナガスクジラ10頭、ザトウクジラ50頭」とし、後者は「クロミンククジラ850頭±10%、ナガスクジラ50頭、ザトウクジラ50頭」としていた。どちらかが誤記と思われるが、国際捕鯨委員会(IWC)に2005年に提出された計画書では、後者ということになっている(追記:前者は訂正するためか19日から削除された)。
私がここで注目するのは、船団の陣容である。プレスリリースの標題にもあるように、日本が1987年から行っている南極海鯨類捕獲調査は第二期に入っており、今回がその3回目となる。そこで「第三次調査」と銘打ってあるわけだ。
2005年にIWCに提出された第二期の計画書によれば、第二次までは、ミンククジラが850±10%(765〜935頭)、ナガスクジラ10頭、第三次からはミンククジラが850±10%(765〜935頭)、ナガスクジラ50頭、ザトウクジラ50頭を捕獲することになっている。頭数でいっても、1,000頭を超える規模であり、商業捕鯨が中止になる直前の南極海での捕獲規模の半分を超えるところまで拡大したといえる。それだけではない。ナガスクジラもザトウクジラも、ミンククジラよりかなり大型のヒゲクジラである。
国立科学博物館の
海棲哺乳類(鯨類)図鑑によれば、ミンククジラのオトナ(雄)が6〜9tなのに対して、ザトウクジラは30〜40t、ナガスクジラは60〜70tあるという。ざっくり計算しても、ザトウクジラは4倍、ナガスクジラは8倍の大きさということになる。つまり、調査のために処理するクジラの総重量は、最大でミンククジラ1,600頭分を超えることになる。十分に成長した個体ばかりを狙う商業捕鯨とは違うといっても、取り扱う重量からいえば、商業捕鯨時代の規模までもう少し、という規模である。
ところが、今回の総乗組員は、昨年より25人も少ない。過去2年間よりも、クジラの処理規模は1.5倍を超えるのに、である。標本採集船(捕鯨船)の乗組員も昨年より3、4人少ないが、いちばん目立つのは、捕鯨母船、つまりクジラを採寸したり解体したりする日新丸の乗組員数が9人少ないことだ。その一方で捕鯨作業に直接従事しない(財)日本鯨類研究所の調査員数が18人と、こちらは三次までのなかで最も多い。
全体の構成比でみると、調査員が増えて、実際の解体加工業務に従事する乗組員が、前回、前々回より減っていることになる。乗組員1人当たりの作業量は倍増といってもいい。そんなことが可能なのだろうか。
可能だとすれば、これまで「遊ばせすぎていた」ことになる。一般企業では考えられないだろう。順当に考えれば、作業量が増えるのである。しかし労働環境の安全を確保するという意味ではむやみには増やせないだろう。この陣容が、捕獲計画をフルスケールで展開するとは考えにくい第1の理由である。
ではなぜ人員が減ったのか、ひとつは実際の調査計画が公表されている規模よりも小さい可能性がある。もうひとつは、辞退者が多く補充が追いつかなかった可能性がある。今年、日新丸船団は2人の犠牲者を出している。1人は南極海での火災の際に逃げ遅れ(2月)、もう1人は北西太平洋で作業中に事故で亡くなった(8月)。その後、職場環境は十分改善されたのかどうか、本人に意欲があっても家族が乗船に反対したっておかしくはない。
■身の丈の3倍ある捕獲計画
第2の理由は、この捕鯨船団の冷凍倉庫の容量である。この船団はもともと、日新丸の冷凍倉庫が1,750t程度、目視船である第2共新丸が250t程度といわれている。これで約2,000t、南極と北西太平洋と、同船団が従事している捕獲調査で持ち帰ってきて販売に回される鯨肉(脂肪層、内臓を含む)は多くても2,100tほどだった。第一期調査の時代は、最大でミンククジラ440頭が捕獲されていた。
では第二期に入り、捕獲規模がミンククジラだけでも倍近くに増えてからどうしたかというと、冷凍倉庫付きで燃料補給ができるオリエンタルブルーバード(パナマ船籍)が登場する。この船は、船団と常に行動を共にするわけではない。船団がある程度捕獲・処理を進めたころに南極海に到着し、各船に給油し、箱詰めされた冷凍鯨肉を転載して日本に持ち帰ってくるのである。
その規模は第一次(2005/2006)には約1,500tだった。第二次(2006/2007)は日新丸が火災を起こしたことで捕獲が中断され、約1,000tを積み替えて持ち帰るにとどまった。同船がどれほど積載可能なのかは不明だが、計画書通りに捕獲し、第一期と同じ程度の歩留まりで鯨肉や脂肪層を採取して持ち帰るとするならば、全体の量は6,000tを超えてもおかしくはない。つまり日新丸船団「2杯分」を、オリエンタルブルーバードに持ち帰ってくれるならば、それくらいの鯨肉生産量が可能、ということになる。
ただし、それが可能かというと、容量もさることながら同船のチャーター料が問題になるだろう。日新丸船団が満庫になるのを見計らって来てもらい、転載して給油して帰ってもらえば最も効率がいいが、4,000t積んで帰ってもらうためには、再び日新丸船団が満庫になるまで待っていてもらうか、もう1度来てもらうかしなければならない。どちらが安いのか不明だが、原油が高騰しているときに2度の運搬は選択しそうもない。
では、ずっと南極海で待機してもらうのか。1頭の処理に1時間と仮定し、24時間操業で加工したとしても、2,000tの箱詰めには18日くらいかかることになる。その間、同船はなにもすることがない。タクシーを何週間も待たせるようなものである。
そこまで経費をかけて、4,000tを持ち帰らせるだろうか。これが、フルスケールで捕獲計画を実行しないのではないかと思わせる第2の理由である。
■始まっている「生産調整」
ちなみに、2006年2月20日朝、当時の松岡利勝農水大臣が、日新丸火災の件で、記者からの質問に対して「今、3,500t獲る調査捕鯨の予定で行ったんですよね。今、2,050トンぐらい獲っていると。そして、中積み船と言って移し替えて持ってくる。それに1,000tぐらい移し替えて、あと1,050tぐらい残っていると。これが電気系統が故障していれば冷凍が効かなくてということだったんですが、それは大丈夫のようでしてね。だから、それを積み替えた後どうするのか」と語っている。
(農林水産省・大臣等記者会見「松岡農林水産大臣記者会見概要 平成19年2月20日(火) 8:41〜8:53 於:衆議院議員食堂前廊下」)
この発言は興味深い。日本の調査捕鯨では、持ち帰る肉の量をあらかじめ決めていることがわかる。また、松岡大臣の関心は鯨肉の収量にあり、調査のための標本(クジラの個体)がいくつ確保できたかどうかにはない、ということもわかる。曲がりなりにも「調査」なのだが、標本が無事かどうかという言及は、公式発表のどこにもない。
この「3,500t」という数字は非常に興味深い事実を示している。この重量は第二期が始まるときにすでに決まっていたと推定できるのだ。第一次調査で調査副産物として持ち帰られた鯨肉の総量もほぼ3,500tである。第一次で捕獲したミンククジラの数は853頭で、捕獲計画の中央値だ。第一期の調査では、つねに最大値の440頭(計画書では400±10%となっている)を捕獲していたのと対照的で、あと82頭捕れるところを、捕らずに帰ってきているのである。
そしてまた、南極海で調査捕獲しているミンククジラ(クロミンククジラ)1頭あたりの鯨肉(脂肪層、内臓を含む)の収量が、第一次の場合は1頭平均約3.7tと、第一期の捕獲調査よりも0.6tほど少ないのだ。捕獲されるミンククジラの平均体重が小さくなった、という報告はどこにもない。第一期であれば持ち帰ったであろう約500t分を持ち帰っていない。捨ててきている。
ありていにいえば、第一期よりも肉の採り方が雑になったのである。骨が白く見えるほどきれいに肉をこそげ取る作業を放棄し、内蔵を丁寧に回収する作業をやめ、南極海に投棄してきているのがわかる。投棄自体は、国際条約上認められている範囲だが、見る人が見れば「もったいない」し、「肉、先にありきの調査捕鯨なら、無駄な殺生をするな(少ない数で丁寧に収穫しろ)」ともいいたいだろう。そのせいか、第二次は1頭平均4.02tと、やや一期の収量に近づけているが、やはり0.3tほど少ない。
鯨肉の売り上げで運営されているような調査捕鯨なのに、なぜ売れるものを捨ててきているのだろう。
■躍起になる鯨肉在庫処理
それは、農林水産省が毎月発表する冷蔵水産物流通量という統計情報を見ればわかる。鯨肉がだぶついているのである。(
農林水産施策について(統計)>水産業:農林水産省)
在庫量は右肩上がり、今年計画書通りに捕ったら鯨肉が爆発するのが分かる。
この統計では、日本各地にある主な大型冷凍倉庫の中身を調査している。小規模なものまで精緻に調査しているわけではないし、倉庫間での移動分が「出庫/入庫」としてカウントされるから、生産量を見るには適していない。だが、鯨肉の動きの大まかなところを掴むことはできる。この統計によれば、2000年以降、北西太平洋鯨類捕獲調査の規模が次第に拡大したのにともなって、在庫量が増え始めている。
■ザトウクジラを本当に捕るのか?
これらのことから考えると、ミンククジラを最大可能な935頭も捕るだろうか、という疑問がわく。またナガスクジラ50頭とザトウクジラ50頭も「満額」で捕獲するとは考えにくい。ミンククジラは長年調査捕鯨実施以前から捕獲してきた「なじみ」の肉である。それですら第一、二次は「850頭前後で止めよ」と指示が出ていたのだ。
ナガスクジラは、30年近くブランクがあったとはいえ盤石のネームバリューがある。しかしザトウクジラはどうだろう。これまでの調査捕鯨の実情だと、「新顔」の鯨肉はかならず販売で苦戦している。日本の沖合で捕るニタリクジラ、イワシクジラがそうだ。
ザトウクジラは、1964/1965を最後に捕獲が禁止されてきた。このとき日本が捕獲したのは43頭である。食い応え・市場の反応が未知である半面、見応え十分なホエールウォッチングの目玉として名が知られている。そのため、反捕鯨国のなかでもオーストラリア政府やニュージーランド政府は、自国周辺を回遊するザトウクジラが狙われるとあって反応が大きいのである。フィン(尾びれ)の裏側の模様で個体識別が進んでいるザトウクジラは、研究者たちにとっては「あの子たちのどれか(誰か)」である。これらの反発を無視して捕ってくるほど、ザトウクジラの肉に魅力があるとは思えない。
鯨肉の在庫は、過去2年くらい「調査捕鯨1年分」に匹敵するほどふくれあがっていた。2005年5月には水産庁の肝入りで鯨肉販売ルート開拓のための合同会社「鯨食ラボ」(中田博社長)を立ち上げたりして、販売促進を進めた。それもあって、以前にくらべると在庫の捌け方は上向いたようだが、「生産調整」もしているのだから捌けて当たり前ともいえる。そこへもってきて南極海鯨類捕獲調査が第二期に入り、2007/2008からは第一期の3倍もの収獲が可能な規模の捕獲計画に突入するのである。
この間、「ザトウは捕らないことになった」とのウワサが流れている。しかし今のところ確認されていない。調査捕鯨の正当性を繰り返し説明してきた日本が、捕らない理由をどう説明するのだろうか。本当であれば興味深い。
日新丸船団がいったい何種・何頭のクジラを捕り、何トンの鯨肉を持ち帰るか。答えは遅くとも来年4月までには明らかになる。なにはともあれ、スタッフは誰1人として欠けることなく、帰ってきてほしい。