派遣先が毎日変わる「日雇い派遣」(「スポット派遣」とも)の労働者が仕事にあぶれたときに支給されるはずだった「日雇雇用保険(通称・あぶれ手当)」が、適用開始から4ヵ月経った現在でも、全国でまだ1人にも支給されていないことが分かった。窓口のハローワークが「常用就職でない」と労働者の申請を片端からつき返していたのだ。安倍政権時代の「再チャレンジ支援」から続く有名無実の政策が口実となっていた。
「常用雇用化への支援」を名目に、日雇派遣保険給付申請を拒否するよう指示した厚労省通達
派遣大手の「フルキャスト」渋谷支店は昨年11月中旬、厚生労働省に日雇雇用保険の適用事業所として申請し、認められている。今月に入り、フルキャストからの派遣で働く東京・中野の40代の男性が日雇い派遣の閑散期となってあぶれたので、地元のハローワークに日雇雇用保険の申請に行ったところ、窓口で拒否された。
男性が理由を尋ねると、「本省から『常用就職の意志がない者には給付してはならない』との通達が来ている」と言われた。「常用就職」とは、正社員と非正規社員とを問わず、同じ会社で働き続ける就業形態を指すようだ。男性は「常用」の意味がよく理解できなかったが、手当の申請はあきらめざるを得なかった。
制度がありながら給付しないとは奇怪な話だ。日雇い派遣は基本的に「非・常用」のはずではないか。「常用就職の意志」とは、いったい何をいうのだろう。
筆者が21日、厚労省に問い合わせると、職業安定局雇用保険課給付係の担当者が次のように答えた。「そもそも(安倍内閣時代に再チャレンジ支援との関連で問題となった)ネットカフェ難民対策などに由来している。彼らの常用就職を支援しなければならない。(派遣のような)『非・常用』にこだわると、支給は難しい」
よく分からない「常用」「非・常用」について、「期間的に、例えば1年未満・1年以上といった線引きをしているのか」と尋ねると、担当者は「具体的に決めているわけではありません」。世間的な常識で理解して、ともいう。「常用」の定義はあいまいなままだ。
「日雇い派遣労働者で『日雇雇用保険』の給付を受けた人は、実績として何人いるのか」と更に尋ねたところ、「現状で支給に至っている人はいない(つまりゼロ人)」と、給付係の担当者はあっさり認めた。
これには耳を疑った。申請に来る派遣労働者が常用か非・常用か、判断する基準を決めてない。それなのに、「常用でなければ日雇雇用保険は適用しない」ことだけはしっかり指示している。役所側の恣意で「常用就職でない」と判断できる仕組みだ。派遣労働者たちは常用就職など簡単にできないからこそ、皆苦労しているのではないか。日雇い派遣労働者にとっての「日雇雇用保険」は、絵に描いた餅だ。
実は、厚労省はこの交渉の直前、昨年11月6日付で「日雇派遣労働者に対する雇用保険に係る取扱いについて」という通達を各都道府県に出していた。それには「(日雇い派遣労働者は)日雇派遣労働に固定化することがないよう常用雇用化に向けた支援を講じていくことが必要」とあり、実質的に「申請があっても日雇い派遣を続けるなら拒否せよ、常用雇用になるなら受け付けよ」との指示になっていた。
厚生労働省(左側)と派遣ユニオンとの交渉(参院議員会館で、筆者撮影)
昨年11月13日に参院議員会館で行われた「派遣ユニオン」との交渉で、厚労省は次のように約束した。
「日雇い派遣をずっとやっていこうという人については、その人の人生観を否定するわけではない。常用化に向けての相談を行わなくても『あぶれ手当て』は支払う」
厚労省はユニオンや立ち会った関係者たちに「面従腹背」していたことになる。
「再チャレンジ政策」で、決まった働き口のない「ネットカフェ難民」のような人たちに、安定した職を世話する政策を政府が打ち出したことはある。それも雇用情勢の一段の悪化と安倍内閣の早期退陣で雲散霧消してしまったことはよく知られている。厚労省はこの「非・常用を常用に」という政策実体のないスローガンだけを墨守していたわけだ。むしろ、日雇い派遣の保険適用を表面受け入れるふりをしながら実質拒否する口実としてこれを使った、というのが実態に近いのではないか。
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派遣会社から携帯のメールに「明日○○に行って下さい」と連絡がくれば、仕事にありつける。連絡がなければ仕事にあぶれる――。日雇い派遣労働者は山谷や釜ケ崎の建設労働者に勝るとも劣らぬほど不安定な状態に置かれている。
日雇雇用保険は、そんな彼らにとって文字通りの命綱となるはずだった。「再チャレンジ」「セーフティーネット」などと言えば聞こえは良いが、そんなキレイごとではない。給付申請を拒否された男性は「厚労省は俺たちに死ねというのか」と憤っている。
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