釜ヶ崎解放会館の現在の様子(大阪市西成区で筆者撮影)
大阪市西成区の釜ヶ崎(あいりん)地域のほぼ中央付近、要塞のように堅固な西成警察署の近くに「釜ヶ崎解放会館」がある。ここに入居している釜ヶ崎地域合同労働組合や「釜ヶ崎炊き出しの会」などが、日雇い労働者からの相談をはじめ、労働、医療、生活相談まで地域で暮らす人たちの支援をしている。
この会館を住所として住民登録していた2,088人の住所が2007年3月29日、大阪市の職権によって削除された。市としては前例のない一括削除である。
発端は06年12月7日付の読売新聞の記事だった。「44平方メートルに3,300人住民登録・居住者なし? 経緯は謎」という見出しで、「架空登録」と報じた。市民グループの代表にコメントを求め「異常で不気味」という談話まで引き出して載せた。読売新聞はさらに同12月16日付紙面で「選挙権行使を調査」の見出しで続報を掲載、住民登録問題で大阪市選挙管理委員会が、登録で選挙権を得た人が実際に投票したかを調査することを明らかにした、と報道。「違法投票」という文言を交えた記事だった。
確かに事実に基づいた記事ではあったが、釜ヶ崎での住民登録や労働環境の歴史と現実を無視した一方的な内容だと私は思う。「正義」を錦の御旗のように振りかざした、実に後味の悪い報道だった。釜ヶ崎解放会館側と、西成区役所の現場では、住民登録について不文律の合意があったと思えるからだ。西成区役所は大量登録を把握しつつも、日雇い労働者が多い釜ヶ崎では、仕事で1年のうちの多くを地方で過ごす人も多く、そうした人たちが解放会館に住所を置くことを認識していたからである。
だが新聞報道があった以上、市側はこのことに手をつけざるを得ない形となる。報道からまもなく調査が始まり、年明けには解放会館の住民登録削除という「シナリオ」が着々と固められていった。
昨年1月には同会館前で立ち入り調査に入ろうとする市職員と会館側で一時、もみあいになった(同)
解放会館の住民登録を大量削除した市はその後、全区での調査を開始、07年10月までに1,231人について居住の実態がないとして住民登録を削除している。解放会館分を含めると半年あまりで3,000人以上の住民が「抹消」されたことになる。コンピュータ上では削除は簡単だが、削除された人たちは運転免許証、選挙権、日雇い保険、国民健康保険などあらゆる面で不利益を被ってしまうことになる。数字の背景に多くの生活が控えていることを踏まえての処置だったのだろうか。
大阪市市民局では「同一場所での多数の住民登録を受けて調査した結果、居住実態を確認できなかった場合について住民登録を消除しました。今後はこうしたことが起きないよう、受け付けの段階で事実確認をして未然に防ぐ方針です」としている。だが、釜ヶ崎では簡易宿泊所(ドヤ)を「生活の拠点」としている労働者が多く、こうした人たちに十分な周知徹底と説明をしなければ、地域に即した住民サービスを提供できないのではないだろうか。
次回は解放会館に事務所を構える釜ヶ崎地域合同労働組合委員長の稲垣浩さん(63)に住民登録削除についての経緯を聞く。
関連リンク:
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同一住所地における多数の住民登録事例等の調査結果について(大阪市報道発表資料)
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釜ヶ崎2000人の住民登録、大阪市が削除、前代未聞の措置
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