報告集会の様子
5月13日(火)午後3時より東京地方裁判所で「君が代解雇裁判(平成19年〈ネ〉3938)」控訴審第3回口頭弁論がありました。(宮英俊裁判長)
「君が代解雇裁判」というのは、再雇用職員(1名は講師)に合格した教職員10名が、卒業式の君が代不起立で懲戒処分を受けたことを理由に合格を取り消されたことに対し、04年6月、再雇用職員の地位等を求め、東京都を訴えた裁判です。
提訴から3年後の07年6月、東京地裁は、職務命令がただちに原告らの歴史観・世界観等を否定するものではないとして、原告らの請求を全面的に棄却しました。原告らは控訴し、現在、東京高裁で審理が行われています。
控訴審第3回口頭弁論の今回は、原告(控訴人)のKさんと弁護団が意見陳述を行いました。
元教員のKさんの陳述
都立工芸高校で31年間教鞭をとってきたKさんは、都立で唯一の工芸教育を行い、ユニークで進取の気性に富み、自由と伝統を重んじる教育を行っていた学校の様子や、都教委の10.23通達によって「内心の自由の説明」が禁じられ、全員に君が代斉唱起立が強制されたことで、それまで学校が教育の原則としていた「最後まで議論し、納得する」という教育ができなくなったことなどについて語りました。
また、都教委が、職員会議での採決を禁止したことによって、教員は自らの意見を述べることができなくなり、議論ができなくなったこと、学校では、処分や強制異動に怯え、「なにを言っても始まらない」「できれば早く辞めたい」という教員が増えていることを訴えました。
Kさんは、学校に日の丸・君が代を持ち込むことに反対する理由として、自らの生い立ちについて話しました。Kさんはお父さんが戦死したため、3歳のとき里子に出されたそうです。Kさんは6人兄弟の末っ子で、2人の兄も同じように里子に出されました。Kさんは幼かったこともあって里親になつき、養子になったそうですが、すぐ上の兄は親をよく覚えていたため、里親に嫌われ、幼少時から働かされてまともに学校を出してもらえず、悲惨な境遇だったと語りました。
一家離散の憂き目に遭い、兄弟が不幸な境遇に陥ったのも、戦争が原因であることを考えると、戦争や「国家主義」に対して許せないとの思いが強く、「国家主義」や「軍国主義」の象徴としての「日の丸」「君が代」の強制に対しても、納得できない思いがあると主張しました。
また、都教委から派遣された職員が卒業式や入学式のとき校長の上座に座り、教員や生徒を監視していることに対し、改めるべきであるとし、学校の問題については、教員と生徒が活発に議論を行い、学校自ら問題を解決することが大事であると述べ、教員であるからこそ、都教委の通達や校長の起立命令に従うことができなかった信条をわかってほしい、と訴えました。
次に、弁護団から陳述がありました。
弁護団の陳述
弁護団は、都教委の10.23通達が、教員や子どもたちに与えた影響の大きさや、この裁判の本質は教育裁判であり、教育とはどうあるべきか、その問題はさけて通れないこと、「エホバの証人事件最高裁判決」で示されたように、思想・信条の自由が子どもたちにあるなら、教員にも思想・心情の自由が認められるべきだとし、教員が自分の良心にしたがって選択したことは認められるべきではないか、と主張しました。
控訴人(原告)は、不起立を子どもたちに押し付けてはいないこと、起立・不起立は内心の問題であり、都教委や教師が強制するものではなく、子どもたちが自らの判断で行うべきものであること、子どもたちは単純ではなく、それぞれの考えや意見をもっていること、たとえば、ある都立高校では、日の丸・君が代について、ある生徒は、自分の国の国旗や国家を尊重するのは当然であると主張し、また別の生徒は、国歌を歌っても歌わなくても個人の自由であると憲法で保障されていると主張するなど、活発な議論があったことを紹介しながら、裁判官のみなさんも自分の高校生のころを思い出し、子どもたちの瑞々しい感性を信じ、国旗、国歌教育のあり方について強制でいいのかどうか、今一度、考えてほしい、と訴えました。
Kさんと弁護団の陳述のあと、宗宮英俊裁判長が次回期日(9月2日午後3時。101号法廷)を決め、閉廷しました。被控訴人(被告)の東京都側からは、発言はありませんでした。
裁判のあと、弁護士会館で報告集会が開催されました。
報告集会
弁護団から今日の口頭弁論の内容と、今後の予定についての説明がありました。
弁護団のお話によると、現在、互いに準備書面を提出して争点を整理し、立証(証人申請)準備に入っている段階だそうです。弁護団は、憲法学者や元卒業生など7人の証人申請を行っているそうです。次回期日の前に進行協議があるので、証人調べについての話し合いを行い、秋以降、順次証人調べがあるのではないかとのことでした。東京都は、(一審で勝訴しているので)証人申請は行わないと言っているそうです。ちなみに、東京都が敗訴した「予防訴訟裁判」の控訴審では、東京都は10人の証人申請をしたそうです。
また、この裁判と並行して行われている「予防訴訟裁判」や、5月29日に控訴審の判決が出る「板橋高校裁判」などについてのお話がありました。
弁護団のお話のあと、参加者からの発言がありました。
この裁判の傍聴にバンクーバーから駆けつけたという「バンクーバー九条の会」の女性(日本人)は、「裁判を傍聴した感想は、国側の最大のターゲットである生徒たちにまで手が及んでいるということを感じました」と述べ、裁判に勝つためには世論を高める必要があること、そのために草の根に働きかけること、自分もこの裁判のことを多くの人たちに伝え、草の根の運動を通して広めていきたい、と語りました。
元教員で、現在、バンクーバーに在住しているという女性(日本人)は、カナダの人たちの多くは日本でこのような事件が起きていることに大変ビックリしている、と述べ、(東京都側が、国旗や国歌を尊重するのは常識だと主張していることに対し)「世界の常識は都教委の異常さに驚いている」と述べ、原告らの訴えを世界が応援していることを強調しました。
筆者の感想
日の丸・君が代裁判では、根津公子さんや河原井純子さんの「処分取消裁判」や、「嘱託不採用裁判」などの裁判を何度か傍聴したことがありますが、今回の「君が代解雇裁判」を傍聴したのは初めてでした。ほかの裁判同様、大変関心の高い裁判であることは、傍聴席98に対し、100人以上の希望者が並び、抽選になったことからもわかります。
一審では原告側の主張が斥けられ、敗訴したということですが、控訴審では原告側が7名の証人申請をしており、秋以降から随時証人調べが行われるということなので、引き続き、裁判を傍聴していきたいと思いました。それにしても、再雇用職員に合格しながら取り消され、裁判が始まってから4年が経過した現在も原告の方々が職に就けずにいることは、大変残念であるとの感想を持ちました。