FOOMA(社団法人 日本食品機械工業)JAPAN 2008 国際食品工業展が、2008年
5月27日から30日まで、東京ビッグサイトで開催された。
筆者は、職域として農業機械工業会に属していた。仕事柄、農産物が圃場から収獲され流通に乗るところまでをつぶさに見てきたが、加工・流通・販売の分野は未経験であった。今回はFOOMAの併催シンポジウム、フードテクノロジーフォーラムに午後から参加したので、その一部を報告する。この種の催し物への参加は初体験なので、要領を得ない部分については御容赦いただきたい。
参加フォーラムの概要(●は筆者の感想)
(1)紫外線励起によるコメの鮮度評価法
紫外線照射を応用して、米の鮮度を測定できる可能性が出てきた。この方法は、非破壊測定という点が画期的で、販売品そのものを、玄米でも精米でも鮮度測定が可能。
●精度が上れば実用化は早そうだが、鮮度と味が比例する訳ではないので、実用性の点で「魅力は少ない」と感じた。
(2)ユビキタス社会でのトレーサビリティーの研究
システムを統一するには、「基本コード」の統一が前提だが、「業会別」「メーカー別」など各々が独自のコードでシステム開発が進められており、お互い、譲る気配がないという論旨の講演であった。
●食品全体の「トレーサビリティー」と「セーフティーチェーン」は遥か彼方と感じた。
(3)牛肉偽装をDNAにより判定する
この分野は肉牛生産者の実態を良く知っているので興味深く聴講した。今回はDNAマーカーによる牛肉識別技術に関して、開発チームの研究者自身の「研究開発の経過と成果発表」という機会に接する事が出来た。以下がその概要である。
はじめに
2001年、我が国で初めてBSE感染牛が確認され大きな社会問題となった。現在のところ、我が国のBSE感染牛は乳用牛(ホルスタイン種)で確認されているのみで、これらの感染牛は焼却処分されている。しかし、この感染牛の発生は牛肉の安全性に対する消費者の不信を招き、牛肉の需要が激減した。さらに、業者対策の一環として食用牛肉買取制度が施行されたが、豪州牛を国産牛と偽って業界団体に買取らせようとした「牛肉偽装詐欺事件」が発覚し、消費者の牛肉に対する信頼は地に落ちてしまった。
牛肉の場合、偽装表示は様々なケースが考えられるが、乳牛や交雑種を黒毛和種と偽ることが偽装表示の対象になり易い。また、輸入牛肉を国産牛肉とする偽装表示は消費者にとって安全性の観点から最も心配されている。これらの偽装問題は食品流通モラルの低下が直接の原因であるが、牛種の品種を簡便に判別する手段がなかったことも要因となっていた。
国産牛肉の品種
国内で飼育されている肉用牛は、黒毛和種を中心とする和牛4種と若干の外国種である。中でも繁殖メス牛は黒毛和種が90%を占めている。他方、乳用牛はほぼ全てがホルスタイン種で、若干のジャージー種がいる。乳用牛のオスは搾乳とは無縁であるため、子牛の段階で去勢され肉用として肥育され国産牛肉として出荷されている。また、黒毛和種のオスとホルスタイン種のメスとの交雑種(以下F1と記す)も肉質が和種に近いことから数多く生産されている。
輸入牛肉
BSE問題で米国産牛肉の禁輸が実施されるまでは、輸入牛肉の50%づつが米国と豪州から輸入されていた。禁輸の間は豪州産牛肉がほとんどとなったが、禁輸が解けて次第に米国産が増え続けている。その他の国としてはカナダやニュージーランドが若干ある。
国内で消費される牛肉の生産国別の割合。国産は42%。
国産牛肉間での偽装表示
ホルスタイン種は肉質の点で黒毛和種と偽装されることは少ないが、F1は平均価格も安価であり、肉質的にも高品位なことから、これを黒毛和種と偽称販売されるようである。牛肉の品質と安全性については、トレーサビリティー制度が実施されているが、個体差は指摘できても品種の違いは指摘できない。これを補完する意味でも、黒毛和種とF1とを判別する簡便な技術の確立が必要である。
和牛の品種鑑別技術
牛肉偽装は主に枝肉から小売の間に行われると考えられるので現実的には小売の生肉を鑑別する必要がある。牛の品種別鑑別法の障壁は遺伝的多様性であるが、AFLP法を適用し、2500回100万本以上のDNAバンドを解析して4つのマーカーを開発した。このマーカーを使用した場合の
F1の誤判別率は99.3%の信頼度が得られた。
豪州産牛の識別
豪州からの輸入牛肉はクインズランドを含む亜熱帯気候の地域からのものが多く、インド系の牛やその交雑種が多い。この特性に着目し、7つのマーカーを発見し、鑑定精度は検出率90.9%、信頼度が99.3%で国産牛と豪州産牛とを識別可能となった。
実用化が可能との発表。
米国産牛の識別
残るは米国産だが、万年教授によれば、既に70%ほどの目途は付いており、年内には技術開発が完成するだろうという明るい報告がなされた。
まとめ
国産牛における品種鑑定技術は、既に農水省指導の基で抜き取り検査も実施され、マスコミにも取り上げられて来た。(NHK-TV等) これらの鑑別法は「不当表示」をする者がいなければ、無用の技術であるが、我が国の表示制度や消費者が持つ不安を考えた場合、科学技術に基づいた「抑止力」は必要であろう。(参考:会場で頒布されていたフォーラム誌)
研究発表する万年英之(まんねん ひでゆき)准教授。
●この方法で、牛肉のDNA判定は「国産牛の品種判定」と「国産牛と豪州牛との区別」がほぼ完璧にできる。実用可能であり既に2004年2月には神戸新聞にも掲載された。
●「国産牛と米国牛」とのDNA判定は、因子の特定にもう少しの時間が必要だが2008年中には目途がたち、2010年には全ての牛肉がDNA判定が可能になるだろう、と開発者の自信に満ちた研究成果が発表され、大いに力づけられた。
●市中の精肉が偽装表示された場合、ベテランがそれ見分けて「牛肉偽装が行われている」と追及しても、科学的データがキッチリしないことには「判決」という訳にはいかない。このDNA判定方法が早期に確立され、流通・小売の段階で厳しいチェックがなされ、悪徳業者が一掃されることを期待したい。それが実現すれば、牛肉の信頼性は飛躍的に高まり、生産者・消費者が共に大きな恩恵を受けることになる。1日も早い実用化が望まれると感じた。
●その後長期間にわたり、BSE牛は発生していないが、牛肉は元の消費量(2000年の水準)に戻っていない。
●筆者はフォーラムの質疑で「豪州の牛が産んだ黒毛和種に対して、DNAに色を付けるようなことは出来ないか?」と聞いた。万年英之氏(神戸大学大学院農学研究科准教授)は「それは牛肉偽装問題とは別の次元であり、そういう案件が発生しない方法を検討すべきでしょう」と笑い顔でお答えになった。生命科学の発展は思わぬ事態を生むこともある。現実に「体外受精の黒毛和種をホルスタインに生ませたものは和牛なのか?」という複雑な問題さえ発生している。この時もDNA判定は待望される技術であろう。
●食品の偽装表示は生産者が実行する事は稀で、多くは流通・販売の段階で行なわれる。それにしても、我が国の食品は縦割り行政の弊害をまともに受けている。ミートホープ事件も比内地鶏事件でも、結局JAS法も食品衛生法も違反は立件されず、起訴罪状は詐欺と不正競争防止法違反(虚偽表示)ということで落着した。食料品である農畜産物が、流通の段階から農水省の管轄を離れる現行制度はここでも問題を残している。この種の判定技術が
防止・抑制の効果を生むためにも、行政サイドの勇気ある対応を望む次第である。
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拙稿:
生産現場から見たBSE法
参考資料
農業機械学会フーテックフォーラム頒布資料
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