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「JCO臨界事故住民健康被害訴訟」控訴審はじまる

ひらのゆきこ2008/07/06
1999年9月30日の東海村JCO臨界事故の際、道路一本隔てた工場で作業をしていた経営者夫妻。事故直後、妻は激しい下痢や胃潰瘍などの症状を起こし、その後、PTSD(心的外傷後ストレス障害)及びうつ症状となって長く寝込み、自殺未遂で入院しました。また、夫は、事故前に回復していた皮膚病の症状が事故後悪化し、さらに悪化した状態が続きました。
関東地方 裁判 防災・復興
 2002年9月、原告夫妻は、これらの症状は臨界事故によるショックやストレス、被曝の影響によるものであるとして、JCOとその親会社の住友金属鉱山に対し、損害賠償を求める訴訟を水戸地方裁判所に提起しました。

 東海村JCO臨界事故は、高速増殖実験炉「常陽」向けの燃料加工中におきました。一般には不適切な容器を用いたことが臨界事故を招いたとされていますが、硝酸ウラニル溶液の「40リットル均一化」という国の注文の方に問題があった(取扱量が多すぎた)とする見方もあります。

 2008年2月、水戸地裁は、原告夫妻の訴えを全面的に退ける判決を言い渡しました。原告側は控訴し、東京高等裁判所での審理が開始されました。7月3日(木)午後10時30分より東京高裁で、「JCO臨界事故住民健康被害訴訟」控訴審第1回口頭弁論が開催されました。

「JCO臨界事故住民健康被害訴訟」控訴審はじまる | <center>事故後、閉鎖を余儀なくされた原告夫妻経営の工場(2006年9月、荒木祥・撮影)</center>
事故後、閉鎖を余儀なくされた原告夫妻経営の工場(2006年9月、荒木祥・撮影)
 控訴審第1回口頭弁論では、控訴人(原告)側の意見陳述がありました。その後、その意見陳述に反論する形で、被控訴人(被告)側からの陳述がありました。原判決(一審判決)の誤りを正し、再度、証拠調べを行って審理を尽くしてほしいという控訴人側の主張に対し、被控訴人側は、一審ですでに審理は尽くされているのでその必要はない、というものでした。双方の主張の主な内容は次の通りです。

健康被害と臨界事故との因果関係

(筆者は、控訴人代理人による意見陳述をすべてメモすることができなかったので、「控訴理由の骨子」と題する準備書面(1)から、メモとつき合わせながら、意見陳述の内容について以下の通りまとめました)

1.原子力損害賠償法の解釈について
2.控訴人らの被曝線量について
3.因果関係についての判断機基準についての判断の誤り
4.控訴人の健康被害と本件臨界事故との因果関係について
5.立証計画について

 とくに、争点となる健康被害と臨界事故との因果関係についての主張について、控訴人代理人は次のように主張しました。

 事故直後、妻が激しい下痢や胃潰瘍などを生じ、その後PTSDとなり、長らく寝込み、自殺未遂で入院することになったことに対し、3名の専門医が、臨界事故との関連性を指摘しているにもかかわらず、JCO側の反証は、カルテと一般的な文献以外、一度も本人の診察をしていない医師の意見書のみであったのに、因果関係を否定した原判決は誤りである。

 さらに、妻が主張するような健康被害(下痢、口内炎、胃潰瘍)は、原爆症の治療に長くかかわった医師が、低線量の中性子被曝によっても起こる可能性があると述べていることに対し、原判決がなんの根拠もなく否定したことについても、不当である。

 妻の精神症状の事故起因性については、地下鉄サリン事件やチェルノブイリ事故など、多くの被災者にPTSDの症状が出ており、妻の感じた恐怖は多くの地域住民にも共通のものであり、放射線でPTSDは発症しないという原判決は暴論であり、地域住民が感じた恐怖は法的保護に値するものであるとした上で、国が安全だと言っているのだから怖がるほうが間違っているという原判決の誤りを正してほしい。

 また、夫の健康被害と臨界事故との因果関係については、原判決は、夫の皮膚症状の悪化が臨界事故直後10月上旬の草刈りが原因だと認定しているが、事実誤認。11月中旬から悪化し、12月初旬にひどく悪化したこと、カルテ、写真、本人尋問に加え、主治医が事故との因果関係があると診断していることなどを踏まえるべき。

 東海村の臨界事故は、世界の原子力開発史上、歴代3番目の規模の臨界事故であり、住宅地で発生した唯一の事故である。JCOはバケツを使うなど違法な作業をしていた、原告夫妻は、JCOの敷地内で被曝した者を除けばもっとも近距離に分類される場所で被曝した者である、しかも、その場所に工場を持ち毎日業務を続けざるを得ない者である。

 東海村という原子力産業従事者とその親類縁者が多くを占める土地柄で、JCOの敷地に隣接した住民が口をつぐむ中、マスコミが原告らの工場に殺到し、取材が集中したのは必然である。事故の規模、事故にいたる悪辣無軌道ぶりからマスコミ取材が長期間集中的に行われたことは、原告自ら招いたものではなく、その対応によるストレスから過労に陥ることは、今回の臨界事故のような場合は想定できる。

「JCO臨界事故住民健康被害訴訟」控訴審はじまる | <center>事故後、ウラン濃縮事業から撤退したJCO東海事業所(2006年9月、上の写真の敷地内から、荒木祥・撮影)</center>
事故後、ウラン濃縮事業から撤退したJCO東海事業所(2006年9月、上の写真の敷地内から、荒木祥・撮影)
被控訴人側の主張

 控訴人の主張に対する反論は、JCOの親会社である住友金属鉱山の代理人が行いました。被控訴人代理人は、最初に、原判決の結果、住友金属鉱山に法的責任はないというのが住友金属鉱山の立場、と強調したうえで、控訴人が主張していることは原審で十二分に審理されたうえでの判決であり、(原判決批判は)判決の読み方の問題、と切り捨てました。

 争点である因果関係については、高度の蓋然性の立証が求められるとし、経験則に照らしても因果関係は認められないと原判決は判断しており、線量評価についても(控訴人は)1日がかりで主張していたが、国際的に認定されたICRP(国際放射線防護委員会)の勧告を否定、ICRR(国際放射線研究会議)という反原発の考えをもった人が作った組織の主張に依拠して「既応のある人はなんらかの影響がある」と引用しているが、独自の論であり、具体的濃度について示していない、と断じました。また、中性子の特段の影響の可能性について指摘した意見もあるが、因果関係が認められない、として切り捨てました。

 原告の妻のPTSDについては、診療記録、看護記録が焦点となっているが、あたかもカルテの読み方が間違っているように言っていたが、原告の主張は変遷しており、PTSDは後付けの議論であり、賠償の目的のために持ち出している、と断じました。その理由として、最初、原告の身内が医師にアプローチし、そのとき、具体的な症状をきちんと話しておらず、そのうえで診断書をとっていること、原告以外に訴えている人がほかにいないことなどを挙げました。

 控訴人側は控訴審での証拠調べを主張しているが、これまで出ているものはすでに一審で審理は尽くされているものばかりであり、再度審理をする必要性はないとの考えを示したうえで、「これ以上の審理は不要である」との主張をしました。

控訴審の行方

 双方の主張のあと、寺田逸裁判長から、控訴人側から出ている陳述書(医師と原告の知人の陳述書)と準備書面等の確認と、これから提出予定の書面等についての質問がありました。そのうえで、裁判所としては、すでに争点については明確になっており、さらに弁論を重ねるか否かについて検討したい、との発言がありました。

 寺田裁判長は、最後の機会なのでもう一回期日を入れ、そこで控訴人側の主張を立証してほしい、としながら、証拠調べについては、これまで提出された書面と、これから提出予定の書面をみてから判断したい、と述べ、大きな争点については終わっているので、主張については厳密に考えたうえで、申立をしてほしい、と控訴人側に要請しました。

原告、弁護団の報告会

 裁判のあと報告会があり、弁護団より、今回の意見陳述の内容についての説明がありました。また、控訴審にあたり、原告の知人から素晴らしい内容の陳述がとれたことや、すでにその陳述書を裁判所に提出していることなどが報告されました。

 原判決は、原告が主張した骨格の部分が削られており、アンケート調査などでも、たくさんの地域住民がPTSDと同じ反応を示していることが明らかになっているそうです。原判決では、原告側が心骨を注いで主張したことがごっそり抜け、無視されていることから、控訴審判決の中にそれを入れさせることが重要であることを弁護団は強調しました。

 また、被曝と健康被害の因果関係については医師の診断で立証されていること、中性子線被曝の人体実験は不可能であり、具体的な数字を示すことはできないが、専門医らの証言であり得ることが明らかになっていること、原判決はそれらの証言を一切無視していること、なぜ判断しないのか、その理由を示すことができないことなど、原判決の不当性を弁護団は糾弾しました。

 マスコミ対応についても(原判決は)好きでやったなどとしているが、JCOで働いている人やその親族は話ができない状況にあり、原告夫妻は日立市の住民で、東海村に働きにきていたことから、取材が殺到したこと、自らマスコミに応じたのではないことなどを強調したうえで、カルテをJCO側は悪いように解釈し、判決は悪いほうに書いている、と述べ、判決が読み誤っていることを指摘しました。

 原告ご夫妻からも発言がありました。大勢の傍聴人に対して感謝の気持ちを述べたあと、現在の体調や、今日の裁判に対する感想を語りました。原告ご夫妻の心情を逆なでするような発言を繰り返していた住友金属鉱山の代理人に対し、どのような感想をもちましたか、という参加者の質問に対し、妻は、「なんでわからないのかな、この人、といつも思う」と静かな口調で答えました。

 そのほか、参加者から、まったく内容の異なる最高裁の判例を引き合いに出し、「高度の蓋燃性」の証明を主張している原判決の誤りを正すためには、医療事故などの判例と放射線被曝と同じレベルで議論をすることの間違いを、相手の弁護士にも認識してもらう必要があるのではないか、との意見がありました。

 その意見に対し、弁護団は、広島や長崎の被爆者に対する原爆訴訟と原発事故の住民訴訟では大きな違いがあり、アメリカの落とした原子爆弾で被害にあった原爆訴訟の原告の方々と、国策として行っている原発事故で被害にあった住民が起こしているこの訴訟では、国の対応が大きくことなることを指摘しました。住友金属鉱山の代理人の発言の背景には、原発の安全神話を守るというなみなみならぬ国の決意が示されており、いわば国家を背負い、国家の意志として原子力推進をしている相手に対し、法律論で対峙することは困難であるとの考えを示しました。

筆者の感想

 筆者は、初めてこの裁判を傍聴したのですが、住友金属鉱山の代理人が、原告に対し、PTSDは損害賠償目的のための後付け、と決めつけるような口調で言い放ったときは、大変びっくりしました。

 臨界事故が起きたとき、テレビも新聞も連日この深刻な事件を報道していました。その被害の大きさは、この事故で死傷者が出ていることに加え、現在もJCOが操業中止に追い込まれていることからも、容易にうかがい知ることができます。

 当然、周辺住民に被害が及ばなかったとは考えられず、実際、JCOの施設の向かいの工場で作業をしていた原告夫妻が、事故直後に健康被害を受け、主治医など複数の専門医が、事故との因果関係を証言しています。なんの罪もない住民に甚大な被害を与えた当事者が、さらに追い打ちをかけるような残酷な言葉をよくも投げつけることができるものだと、驚きを禁じえませんでした。
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