【伝統構法も崩壊の危機】
筆者は昨年9月の記事【建築文化崩壊元年(1)〜(4)】のなかで、
07年6月20日に施行された “改悪建築基準法”が、世界に誇るわが国現代建築の文化を崩壊させると書いた。
その後、各地での建築着工数の落ち込みによる国内総生産(GDP)の下落、建築設計者、構造設計者の廃業、工務店の倒産など、 “官製破壊” が顕著になった。それに加え、“改悪建築基準法”によって、「伝統構法の文化」までもが絶滅の危機に瀕している。
伝統構法とは
伝統構法とは、いわゆる「在来工法(木造在来軸組工法)」のことではない。
世間で言われている在来工法は、北米から入って来た2×4工法(枠組壁工法)と対比的に呼ばているものだ。ルーツをさかのぼれば、遥か昔から我が国に伝わる「伝統構法」に行き着くのだが、現代では双方は全く異なっている。
1950年に建築基準法が制定され、一般の木造建築は筋かい(斜材)で主要な壁を固め(近年は合板などのボードも使われる)、柱と梁(はり)の接合部等を金具で緊結するように定められた。その後、基礎と土台の基準も厳しくなり、使うべき金物の種類も数も規定され増加してきた。それは住宅金融公庫の共通仕様書によって支えられてきた。様々な技術も開発されてきた在来工法には沢山の支流もできている。
一方、「伝統構法」は、柱は石の上に土台を介さずに直接置く「石場立て」であり、柱と梁は金具を使わず仕口(しぐち)と呼ばれる複雑な加工により接続する。そして筋かいは使わない。壁には貫(ぬき)と呼ぶ水平の太い部材が使われる柔軟な構法だ。
しかし、これらの伝統的技術は、建築基準法では全く位置づけがされてこなかった。伝統構法に関わってこなかった筆者は認識することはなかったのだが、それは「行政不作為の結果」と言えよう。
そのような厳しい状況の中でも、「伝統構法」を愛する建て主に支えられ、大工・棟梁・設計者達は、様々な工夫や小さな妥協を重ねながらも伝承して来た。
そして、平成12(2000)年に新しい計算法「限界耐力計算法」が導入された。この計算法は、鉄筋コンクリート造などの大規模な建築のために開発されたものだったが、安全性への評価に疑問を呈する研究者もいて、あまり普及してはいない(5%以下とも)。
ところが皮肉にも、こと「伝統構法」においては、「救いの神」になっていたのだ。ただし、作年前半までの6年ほどの間は。
それがドンデン返しされた。07年6月の法改正で、「限界耐力計算法」は新設の適合性判定機関によるピアチェックの対象になった。そのため、「伝統構法」を採用するには小住宅であっても、過大な費用の増加と確認申請期間の延長とで、極端に採用し難い状況になってしまった。こうなると、こんどは「行政の作為」に思えてくる。甘く言えば、昨今の行政の見込み違い、シミュレーション能力の不足でもある。つまり先読み能力の欠如だ。
公開フォーラム【このままでは伝統構法の家がつくれない!】
そのような危機的状況の中で7月12日、東京・新宿の工学院大学アーバンテックホールで、公開フォーラム「このままでは伝統構法の家がつくれない!」が開かれた。定員250名の募集に対して申込みは3週間前には定員に達し、最終的に400人の申し込みがあったという。当日会場に入りきれない人達はロビーでスクリーンを介して参加した。
主催者は6団体(財団法人・住宅産業研修財団優良工務店の会、職人がつくる木の家ネット、特定非営利活動法人・伝統木構造の会、有限責任中間法人・日本曳家協会、特定非営利活動法人・日本民家再生リサイクル協会、特定非営利活動法人・緑の列島ネットワーク)で構成される「これからの木造住宅を考える連絡会(これ木連)」。
以下敬称は略し、要点のみ記す。
フォーラムは、13:10に開会した。
【現場報告】 このままでは伝統構法の家がつくれない!
1)綾部孝司(綾部工務店・棟梁・一級建築士)
「昨年6月の建築基準法改正前は25〜50万円だった伝統構法の構造計算費用が、改正後は倍になった」「建築確認申請の申請料は1.6万円から18万円(ピアチェック含む)に上がった」「申請の期間は、7日から最長70日、あるいはそれ以上になった」「構造設計者の仕事が飽和状態で引き受け手がいなくなった」「伝統構法をチェックできないという理由で、行政に申請の受付を拒否される」「民間確認審査機関に、国の方針が流動的なので(儲からないから)と断られた」などの話しのあと、
「自国の文化を(このようなフォーラムで)話し合わなければ残せないという状況」を嘆いた。
2)古川保(すまい塾古川設計室・一級建築士)
「地元熊本県で年商100億円でトップだった木村建設は倒産、当時2位だった多々良はこの6月に倒産した」「小規模な住宅なのに限界耐力計算に頼らざるを得ないため、適合性判定機関へ送るという矛盾」「限界耐力計算はチェックできないから東京の機関に出してくれと、地方の確認申請窓口で言われる」「結果的に、カンタン住宅が横行している」「いま偽装を防止するには、建てないのが一番」「乾燥材の奨励はおかしい。新しい熊本城の梁はヒビだらけだが、(構造的な)心配はない」
【講 演】 「伝統構法」を取り巻く状況の変化
山辺豊彦(山辺構造設計事務所・構造家)
「低い含水率(15〜20%)の木材で生じた問題。高温乾燥材は計算偽装問題より大きな問題となる可能性を含んでいる」「1次設計、2次設計の基本理念を」など、木造に精通した構造家としての専門的な問題点を指摘した。
【パネルディスカッション「これからどうなる、伝統構法」】
パネリスト:綾部孝司、古川保、山辺豊彦(いずれも前出)、越海興一(国交省住宅局住宅生産課木造住宅振興室室長)、鈴木祥之(立命館大学グローバル・イノベーション研究機構教授)、大橋好光(武蔵工業大学工学部建築学科教授)
司 会:岩波正(三和総合設計)
コーディネーター:後藤治(工学院大学建築都市デザイン学科教授)
左から、後藤、岩波、大橋、鈴木、越海、山辺、古川、綾部の各氏
司会者の出す質問に一人ひとりが答える形式で進められたが、設計者、構造設計者、施工者、研究者、官僚と多岐にわたり、結論は収斂せず、筆者の力量不足もあるので印象に残った部分のみを記す。
Q:好きな建築は?
・高山市の
吉島家住宅が世界最高の民家(大橋)。 ※筆者も同感。
・水前寺公園の
古今伝授之間(古川)。
Q:改正建築基準法の問題点は何か?
・ 偽装防止で始まり、(事後処理は)国の責任が問われない方向へ進んだ。内部告発で判明したのだから、内部告発を制度化すべきだった。「ガンは直ったが患者は死んだ」では本末転倒だ。(古川)
・ 改正後も木造に関する記述はほとんど変わっていない。「適判(構造計算適合性判定)」の制度新設は、審査側に能力のない人間が多いことを国が認めたことだ。(大橋)
・ 判定根拠の一部になってしまった基準法。(設計者達が)適判を避けて、(許容応力度計算)ルート1で済ましているので、適判に行く件数が現在半減した。このままこの法律が続くほど、構造設計者にとって魅力のない世界になっていく。(山辺)
・ 「新耐震」のときは十分な検討期間があったのに対し、今回は・・・」。大学で、構造を学ぶ学生が激減する一方で、求人は構造系が多いという現実。構造設計者が「明るく」仕事できるようにしてほしい。法に「伝統構法」の記述がないという問題は大きい。(鈴木)
・ 木造のできる建築士が少ない。木造がわかる確認検査機関も少ない。できれば見ない(審査しない)で済ませたい確認検査機関。伝統構法用の図書省略制度をつくる方向で考えたい。(越海)
・ (今の法の運用は)食品中毒が心配だからといって、カップラーメンを使うようなもの。仕様規定に合わないものを認めよう(性能規定)とし始めていたのに、先の改正で駄目になってしまった。(古川)
・ 土台とアンカーボルト(の規定)に縛られて石場立てができない。大工の技術は、材料の良いところ悪いところを認識して使う(エコロジー的にも)合理的な技術。(綾部)
Q:(伝統構法が法的に位置づけられるまで)あと3年は待てない。対策は?
※ は筆者注(ただし独断)。
・ 申請を受け付けてもらえない。対応してほしい。(綾部)
・ このままでは、「リカチャンハウス」ばかりになってしまう(笑)。(古川)
※リカチャンハウス:ハウスメーカー住宅及びそれに類する住宅を揶揄する表現。かつて「ショートケーキ住宅」(早大理工学部建築学科の石山修武教授命名)もあった。
・ 現在、構造設計者が疑いの目で見られている。(山辺)
・ 「建築確認は要らない」論者なので、「建築指導課」に戻らせてもらえない。これでまた遠のいた・・・(笑)。(越海)
※越海氏の所属する「住宅生産課木造住宅振興室」は、混乱の元凶「建築指導課」のある国交省住宅局に属している。複雑な心境!
・ 国交省が、伝統構法の研究に多額の予算を確保したのは初めてのこと、評価したい。(大橋)
最後に、
「失ってはいけないもの つないでいきたいもの」と題する決議文が読み上げられて18時20分に閉会した。
以下は筆者の意見だ。
国交省は、文化をどこまで“壊せば”気が済むのか!
大工・職人・建築士・建築家・構造家を、どれだけ“殺せば”気が済むのか!
1950年の建築基準法制定以来度々の改正を経て、
「建築関係法令集」は数倍の厚さになり、
関係出版社を潤わせながら、
建築基準法は約60年延々と、
実務を知らない官僚と、実務を知らない学者と、巨大な外郭団体によって決められ、
07年の大改正では、とうとう未曾有の大混乱を起こした。
そして、いまだ継続している。
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