小林鶴三さん(長野県木曽郡・小林ヘギ板店)
製材にノコギリが使われ始めたのは、室町の頃からであるといわれる。それまで、家屋などの板は丸太を割るという方法で作られていた。「しなる」ほどの薄さまで割られた板は「ヘギ板」と呼ばれる。ノコギリやカンナを使わないことで、独特の木肌と木目の風合いが出る。
ヘギ板は「曲げわっぱ」で知られるお櫃(ひつ)、弁当箱などのほか、数奇屋建築の装飾的な天井板にも使われてきた。0.6〜0.7ミリほどの薄さにまで削ぐことができるというヘギ板職人。その技を今に伝える小林鶴三さん(長野県木曽郡在住)が8月29日、竹中工務店東京本店のイベント会場で妙技を披露した。
厚手の板材をナタと木槌で2つに割る。
100名ほどの観客を前に、「なにせ田舎者ですから緊張します」と照れる小林さん。大きめのまな板を倍の長さにしたくらいの板材に木槌(きづち)とナタで小気味よく切れ目を入れていく。1センチほどの厚さに割られた板に、さらに8つの切れ目を盛り、巧みにナタと手を使って一枚一枚引き剥がす。元の板から1ミリほどの板が出来るのに10分とかからない。出来たヘギ板が配られると、会場にはヒノキに似たいい香りが漂った。板を手にした人々は、口々に「いいニオイ」、「きれい」と言いながら、初めて見る木肌の感触を確かめていた。
驚く観客の反応を前に、小林さんも思わず笑顔がこぼれる。
「これは、ほんとに手仕事でなければ出ない木目なんです。なんにも(加工)しなくても、木はこれだけきれいなんだってのを知ってもらいたくて今日は来たんですよ」
手を使って丁寧に剥がすことで、ヘギ板は木の繊維を壊されない。だからノコギリや機械で製材し、ニスを塗ったものではとうていかなわない自然の色と光沢が出る。しかし、どんな木でも板にできるわけではない。メの詰まった、つまり年輪が詰まって硬く、なおかつ弾力のある材質でなければ薄く割ることができない。樹種もネズコ(別名・クロベ)やサワラに限られている。
「へぐ」=「剥がす」のは手作業。
いま、最良の木は木曽地方にしかない。自然環境の変化で、ヘギ板に適した木は年々減っていてとても厳しい状況にあるという。昔の建築様式の家が減り、使われる機会が少なくなっていることも、存続を危くしている要因のひとつである。
早業に見えるヘギ板作りだが、元材の木には個性があるので、微妙に左右の手の力加減を調節している。古代から連綿と受け継がれる職人の経験が一瞬の技に注がれる。手仕事の繊細さは機械化で替えることはできない。小林さんの技術が伝承されていくためにも、木の美しさを知ることのできるこうした機会がもっと増えてほしいと思う。
足と手で力加減を調節して「へぐ」 。
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ニスを塗って仕上げたような板。
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まっすぐな板・不思議なことに丸太からノコで伐り出した材木から「へぐ」ことはできない。
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8月29日、竹中工務店・東京本店にて。
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右上の道具・木っ端をクサビのように入れて板を割る。
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ヘギ板網代を使った天井(小林ヘギ板店ホームページより)。
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