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真実は私が知っている!「世田谷国公法弾圧事件」判決

ひらのゆきこ2008/09/21
「世田谷国公法弾圧事件」の判決公判が東京地裁で開かれ、厚生労働省課長補佐の宇治橋眞一さんに罰金10万円の有罪判決が言い渡されました。弁護団は「30年前の事件の判例に従っただけで、その後の社会状況の変化を全く見ようとしない投げ出し判決」と強く批判しました。
東京 裁判 NA_テーマ2
 9月19日、東京地裁で「世田谷国公法弾圧事件」(平成17年特〈ワ〉第5633)の公判が開かれ、罰金10万円の有罪判決が言い渡されました。

「世田谷国公法弾圧事件」について

 05年9月10日、厚生労働省の課長補佐の宇治橋眞一さんは、そこが警察官の官舎であることを知らず、「しんぶん赤旗」の号外を配布していたところ、住民の警察官に騒ぎたてられ、住居侵入罪で逮捕されました。その後、宇治橋さんが国家公務員であることがわかると、住居侵入罪ではなく、国家公務員法違反で起訴されました。

 国家公務員が休日、職場と関係のない場所で政党のビラを配布していた行為が、刑事事件の刑罰に値するようなことなのか。政党のビラの配布は表現の自由・政治活動の自由として憲法21条で保障されており、集合ポストへのビラ配布は住民の平穏やプライバシーを侵害することはもちろん、その恐れすらない行為として、なんら犯罪行為とはならない。

 現行犯逮捕の要件を充たしていないにもかかわらず、警察・検察は宇治橋さんを住居侵入罪で逮捕し、違法捜査を利用し、国家公務員法違反で起訴したことは、日本共産党に対する差別的捜査であり、違法な起訴であるなどとする弁護団の主張に対し、検察側は論告で、猿払判決により国公法・人事院規則による政治活動の禁止は憲法に違反しないなどとして罰金10万円を求刑しています。

真実は私が知っている!「世田谷国公法弾圧事件」判決 | <center>不当逮捕を訴える宇治橋眞一さん</center>
不当逮捕を訴える宇治橋眞一さん
判決言い渡し

 国公法弾圧事件では、すでに目黒社会保険事務所職員の堀越明男さん(堀越事件)が一審で有罪判決(罰金10万円、執行猶予2年)を受けています。この裁判に対する関心も高く、あいにくの悪天候にかかわらず、東京地裁には大勢の支援者らが詰めかけました。103号大法廷には入りきれず、裁判を傍聴できない人たちも多数いました。注目されている裁判とあって、テレビカメラが入り、2分間の撮影のあと、判決言い渡しがありました。

 「主文。被告人を罰金10万円に処す」

 小池勝正裁判長が主文を言い渡すと、傍聴席からざわめきが起こりました。抗議の声はあがりませんでした。主文を全部言い終わってから、報道陣がどっと法廷から出て行くのが見えました。

 宇治橋さんは、納得がいかないような表情で被告席に戻りました。最終弁論で宇治橋さんが「何が悪いのかさっぱりわからない」と言っていたのを思い出しながら、ビラを配布して10万円の罰金刑を受けることに、「さっぱりわからない」と思っているのではないか、とその心中を思いました。

 約2時間に渡り、小池裁判長が読み上げた判決文の内容は、弁護人の主張をことごとく退けるものでした。その一方で、警察・検察の主張を全面的に認め、弁護団が主張した捜査の違法性についても、なんら違法性はないとして、お墨付きを与えました。

 検察官の言うことは全部正しくて、宇治橋さんの証言は「信用性がない」とする裁判所の判断は、長々とその理由を述べている割にはまったく説得力がなく、裁判官は常識が著しく欠落しているのではないかとの疑念を持たざるを得ませんでした。

 たとえば、宇治橋さんは、(警察・検察が主張する)現行犯逮捕ではなく、世田谷署で逮捕されたと証言しています。複数の警察官にパトカーに押し込まれ、世田谷署に連れて行かれ、30分後に逮捕されたのだそうです。

真実は私が知っている!「世田谷国公法弾圧事件」判決 | <center>東京地裁に抗議のシュプレヒコールをする支援者の人たち</center>
東京地裁に抗議のシュプレヒコールをする支援者の人たち
 この宇治橋さんの証言に対し、判決は、被告人は現行犯逮捕ではないと主張するが、もしそうなら、(任意なのだから)同行を断ることもできたのに、それをしなかったのは合理性に欠ける、などとして「信用性がない」と結論づけています。

 しかし、警官に取り囲まれ、話を聞きたいから署まできてくれ、と言われた場合、ごく一般の市民がそれを拒否することができるでしょうか。法律の専門家でもない一般市民が、任意だから同行を求められても拒否できる、などとその場でとっさに判断し、行動に移せるかどうか、裁判官は全く想像することができないのだと思いました。

 判決を聞きながら思ったのは、宇治橋さんを有罪にするために、宇治橋さんの証言を故意にねじ曲げて解釈し、まったく合理性に欠ける論理を展開しているということでした。どうでもいいようなことをやたら詳細に述べて目くらましを行い、肝心の部分で説得力のある根拠を示さず、都合のよい結論を導き出す。

 驚いたのは、法秩序のため、最高裁の判例に従うのが下級審の立場、との見解を示したことでした。最高裁の判断に従うのが下級審のとるべき立場であるとするなら、地裁や高裁の存在意義が問われることになり、自らその存在を否定することと同じだということにまったく気づかない、驚くべき見解だと思いました。

 休日に職場と関係のない場所で政党のビラを配布した宇治橋さんの行為は、公務員の中立性を損なうものではなく、国公法違反の起訴にいたる要件にあたらないという弁護団の主張に対し、裁判所が否定する見解を述べたくだりで、それまで静まり返っていた傍聴席がにわかにざわめき、抗議の声があがりました。

 裁判を妨害するというほどの声ではなく、低い、つぶやきに近い声です。そのざわめきに小池裁判長が敏感に反応し、「傍聴席は黙っていなさい」とヒステリックな声で注意を与えました。威圧的なその態度を見ながら、判決に対する自信のなさの表れのような印象を受けました。

 判決を読み終えたあと、小池裁判長は傍聴人に退廷するように命じました。法廷を出て行く傍聴人を高い場所から見下ろしている3人の裁判官を見ながら、彼らはいまどんなことを感じているのだろうか、とその心の中を覗いてみたいような衝動に駆られました。

 そして、「ひどい判決だった」「最悪」「恥ずかしくないのか」「独断と偏見」「共産党のビラで世の中がひっくり返るんだそうだ」「人間の心がない」「最低裁判官」「下級審の務めだそうだ」と口々に不当判決に対するやり場のない怒りをぶつけながら退廷する傍聴人たちの声を聞かせてやりたいと思いました。

宇治橋さん「真実は私が知っている」

 裁判のあと、宇治橋さんが、小雨がそぼふる中、裁判所の前で、支援者や報道陣に対し、判決の不当性を訴えました。

 「警察の言うことは全部正しいという判決でした。しかし、真実は私が知っています。警官が偽証をしたことも、本人たちが一番知っていることです。あの裁判長は、警官が証言をしたとき、答えに詰まると、助け船を出した。そのことは裁判を傍聴した人たちはみんな知っています。下級審が最高裁の判決を覆すことはできないと言ったが、恥ずかしくないのか。それなら下級審なんか要らない。高裁や最高裁がどんな判断をするか、確認したい。裁判所の良識が問われている」

 宇治橋さんの訴えのあと、東京地裁の不当判決に対し、抗議のシュプレヒコールをしました。

真実は私が知っている!「世田谷国公法弾圧事件」判決 | <center>記者会見で発言する宇治橋眞一さんと弁護団</center>
記者会見で発言する宇治橋眞一さんと弁護団
記者会見

 午後4時30分から弁護士会館で記者会見がありました。

主任弁護士

 残念な判決。この裁判は、宇治橋さんの有罪・無罪ということだけでなく、日本の政治活動の自由が問われているという位置づけで闘ってきました。判決は薄っぺらで、司法の役割を放棄しました。投げ出し判決。永田町のように、もうやめた、という判決。

 猿払判決に依拠しているが、猿払判決のころと状況が変わっている。アメリカのハッチ法の改正や国際人権規約で公務員の政治活動を認めるのが世界の常識となっている。また、郵政民営化などでこれまで国家公務員が携わってきた仕事を民間がやるようになり、国家公務員だけが政治活動を規制されるのはおかしい。

 猿払判決が維持され、下級審である裁判所はそれに従う立場だと言っている。国公法は違憲であるというこちらの主張に対し、きちんと答えていない。前例である猿払判決をもってきて通過した。人権を守る最後の砦を裁判所は放棄した残念な判決。同種の判決が出ているが、いずれも民主主義と人権を守る立場から判断しない。強い憤りを感じている。ただちに控訴して闘うことを考えている。

弁護団団長「これは裁判ではない」

 投げ出し判決。コピー判決。95%が猿払判決をそのまま糊付けしてつないだものだ。残りの5%は堀越事件の地裁の判決からもってきている。司法の職責を果たしていない。まったく無責任な判決。怒りを持っている。

 30年前の猿払判決の時代といまはちがう。猿払判決に対しては憲法学者らが厳しく批判している。その後、理論的蓄積が発展しており、この裁判でも4人の学者先生に証言をしてもらった。それを否定するならまだわかるが、無視し、猿払判決をもってくる。

 これは裁判ではない。宇治橋さんがどういう思いでビラを配布したのか。その人間に対する思いがまったくない。刑事裁判というのは、21条もあるが、被告人とされた人の行為は、どのような考えに基づいてやっているのか。あくまでも被告人の思いが大事。その行為に対して刑罰を科すことの是非を判断するものだ。これは裁判ではない。

 堀越事件も政治活動が職場の業務になんの影響もなかった。宇治橋さんと同じ。こんな判決なら、2年半も証拠調べをする必要はなかった。郵政が民営化され、社保庁も民営化されると規制がなくなる。民営化でこの問題が議論になることはなかった。公務員の規制の根拠がなくなることについて、まったく無視している。裁判所はもっとまじめに職責を果たしてほしい。

宇治橋さん「高裁、最高裁の認識を見届けたい」

 宇治橋 この判決について自分がどう思うかというより、この判決をマスコミや国民がどう受け止めるかを知りたい。猿払判決が社会的常識なのか。裁判所は3審制なので、高裁、最高裁の認識を見届けたい。

質疑応答

 質問 今日控訴をするのか

 弁護団 明日になるかもしれないが、いずれにしても速やかにやる。

 宇治橋 2週間あるので、その間にすることになる。

 質問 この判決の一番の問題はなにか。

 宇治橋 2点。1点目は、事実に基づかない警察の証言だけを取り上げたこと。2点目は、国家公務員だけを規制している。オオカミ少年と同じ。2人の証人が証言していたが、公務員がなにかを自分1人で決めるということはあり得ない。組織の中の一員。思想信条や党派的なものが発揮できると裁判所は言っていたが、組織というものをわかっていない。

 質問 堀越事件と比較して、罰金刑になぜ猶予がつかなかったと思うか。

 宇治橋 マスコミのみなさんが、堀越事件について猶予がついたことで、限りなく無罪に近い有罪と書いた。罰金に執行猶予がついたので、検察は控訴した。その反動ではないか。

 主任弁護人 裁判所は宇治橋さんが課長補佐であることを強調していた。元上司にきてもらい、(宇治橋さんの仕事の)統計の仕事に主観が入るかどうか証言してもらった。入らないと証言したが、裁判所は無視して主観が入らないことはないと言っていた。結論ありきの判決。つじつま合わせに裁判所は苦慮したのではないか。

 弁護団長 執行猶予のついた社会保険庁の事件はまれな判断。限りなく無罪に近い判決。評価が広がったので、そういう部分で同じことを繰り返したくないということがあったのではないか。

 司会の弁護士 堀越事件に執行猶予がついたのは、堀越さんの行為によって職場の中立的な運営が阻害されたのかが問われた。裁判所は、阻害されなかったと判断した。だから執行猶予がついた。本件の場合、裁判所は判断していない。判断ができないから判断をしないとしている。

 質問 今日の判決を国民がどのように判断をするか、と言ったが、公務と関係ないことをして刑事罰を問われることに批判的な意見が多いと思うか。

 宇治橋 どのような受け止め方をするかわからない。国家公務員が勤務時間外に政治活動をすることが許されないのは、国民の信頼を得ることができないからだと裁判所は言っていた。だが、国民の信頼を損なうのは、ビラを配ったりすることではなく、汚職とか、行政の失政だと思う。事務次官が汚職事件を起こすといった…。私生活でビラをまいたら公務の中立をそこねるのか。(国民が)そうだと考えているなら甘んじて受けるが、そうではないのではないか。
◇ ◇ ◇

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-[37423] 真実と罪名との間  富塚学 (2008/09/23 08:47)


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