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NHKの番組に期待を寄せる「同性愛者などLGBT」〜<NHKは変わったのか>今村裕治ディレクターに聞く 

中井伸二2008/10/20
いまNHKでは何が起きているのか。「性同一性障害」「ゲイ/レズビアン」シリーズの番組制作を担当された今村裕治ディレクターに、直接お話を伺った。今回の取材を通してNHKの目指す番組作りの「心」が見えてきた。公共放送だからできないのではない。公共放送だからこそ、同性愛者などLGBT―――日陰者と蔑まれてきた人間たちへも、平等なスポットライトを当てることが可能なのだ。このことこそが、公共放送の意義ではないかと、あらためて気づくこととなった。
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NHKの番組に期待を寄せる「同性愛者などLGBT」〜<NHKは変わったのか>今村裕治ディレクターに聞く <BR>
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NHK制作局のある建物(記者撮影)
 いま、NHKに期待を寄せるLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーなどのセクシュアル・マイノリティー)は多い。NHKは、このところ”LGBTに優しい”スタンスをとり始めているように感じられるからだ。

 まず、NHK教育テレビの福祉番組『ハートをつなごう』―――。この番組は、2006年4月にスタートし、今年で放送3年目に入っている。月末のみ、おおむね月に一度の番組だが、個別テーマを30分枠に分けて2日連続で放送する。福祉を主たる切り口とし、毎回、障害/病気、あるいは悩みを抱える当事者たちの生の声を交え、ビデオレポートやスタジオ討論によって問題点を洗い出す。

 これまで、発達障害/シングルマザー/障害者/ひきこもり/子どもへの虐待/貧困/認知症、そして性同一性障害(GID)といった個別テーマを取り上げてきた。

 この番組が、レズビアンやゲイ(同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)やトランスジェンダー(性の揺らぎを感じる人たち)にまで広くスポットを当てていることが、いま、LGBT当事者のあいだで注目されている。NHKによるセクシュアル・マイノリティー関連の放送は、これまで民放(商業放送)で取り上げられてきた”興味本位な内容”より遙かに公正な”当事者寄り”だ。しかも、これらの特集はヘテロセクシュアル(異性愛)の人たちにも認知され、反響を呼んでいる。

 今年、4月28日と29日、9月29日と30日に「レズビアン・ゲイ(同性愛者)」をテーマに、10月1日と2日に「LGBT」をテーマに、それぞれ番組が構成された。

 また、NHK教育テレビは『ETVワイド・ともに生きる』でも「LGBT」をテーマに据えた特集の放送を予定している(11月1日〔土〕・午後9時30分〜午後11時30分)。

 加えて、NHKのインターネットサイト『NHKオンライン』上には、LGBT特設サイト「虹色」が設けられ、LGBT向けの情報発信、相談窓口の案内、メッセージボードなどのコミュニケーションサービスを展開している。比較的、若いLGBTにターゲットを設定し、視聴者の意見を取り入れながら双方向のやり取りができるような、コミュニケーションツールとしてのサイトにしてゆく方針(本格始動は10月29日から)。

 いったい、いまNHKでは何が起きているのか、いないのか。「性同一性障害」「ゲイ/レズビアン」シリーズの番組制作を担当された今村裕治ディレクターに、直接お話を伺った。 

◇◆◇


●「どうせ、性同一性障害しか扱ってくれないのでは」の声に……

 そもそも、今村ディレクターがレズビアンやゲイを取り上げようと思ったきっかけは、番組のテーマに性同一性障害を据えて放送したこと。ブログなど、ネット上で示された感想を調べているとき、どこかで「どうせ、性同一性障害しか扱ってくれないのではないか」というニュアンスの言葉を目にした。「そんなことないのになあ。扱うけどなあ」と、今村ディレクターは素直にそう感じたと言う。

 日本では、社会一般の性同一性障害についての認知と関心、理解が高まる反面、同性愛者については”置き去り”にされている傾向がある。今村ディレクターは、「確かに、そうした不満は、実際に同性愛を取り上げてこなかったメディアの側にいる人間として、その通りなのだろうと感じます」と同じ認識。今後は、そうした声を真摯に受け止め、視野の広い番組作りをしていきたいと抱負を述べた。

●いっぽうで「そんな番組を作って、大丈夫なの?」の声も……

 レズビアンやゲイを取り上げる企画は、すんなりと通ったようだ。企画は、プロデューサーを通して局内の提案会議にかけられ、審議され採択された。特に問題もなくOKが出たという。NHKの局内では、このように提案が採択されていたにも関わらず、心配をしたのは、むしろレズビアンやゲイなどLGBTの当事者たちだったようだ。

 「こんな放送をして大丈夫なんですか……って、レズビアンやゲイの方たちから、すごく心配をされましたよ」と、今村ディレクターは少し困った表情で笑った。LGBT当事者が案ずるより産むが易し。NHKの制作局には、もともと偏見などなかったと理解するべきなのだろう。疑心暗鬼になっているのは、LGBT当事者の側だけなのかも知れない。

●公正な番組だからこその期待感「NHKは変わったのか?」

 ともすると、レズビアン・ゲイなどLGBTの当事者は、NHKが大きな方針転換を図ったのではないか、といった想いを抱く。これまで、とくに民放では、LGBTがほとんど真面目に取り上げられてこなかっただけに、当然、芽生える期待感である。

 その点について、今村ディレクターは、NHK=「公共放送」なので、民放では取り上げないテーマであっても、積極的に発信したいと答えた上で、次のように説明された。

 「民放が間違っているとか、どちらが正しいということではありません。言わば、番組の中に正しい面と間違っている面があるわけで、視聴者の皆さんからご指摘を受けるなどして、偏っていると反省した点については正して行き、バランスをとって行きます」

 「こういう番組を、あまりやってこなかったことで『バランスを欠いていた』という反省はあります。ですから、あえて『NHKが変わった』と言うのなら、これまで取り上げてこなかった問題にこそ、注目しようとしていることをもって変わったと言うことができるかも知れません」

 やはり、本記者を含めLGBT当事者からすれば、NHKの姿勢は好ましい方向に変わっていると言える。ただ、それがドラスティックな変化かとなると、決してそのようなことではない。今村ディレクターは、こう続けた。

 「LGBTは、とても興味深いテーマですが、LGBT当事者の皆さんが想像されているほど、僕は特別に意識して制作しているわけではありません。LGBTだけではなく、他にも取り上げているテーマが数多くあります。発達障害、引きこもり、依存症など、これまでメディアがあまり積極的に扱おうとしてこなかった問題に触れようとしている点では、LGBTも他のテーマも、制作サイドとしては同じです。LGBTだけを特別にということではありません」

●直球の福祉番組はNHKの王道

 今村ディレクターによれば、番組を制作する側から考察すると、これまでNHKが残念ながら取り上げてこなかったが、しかし大きな情報として求められているテーマを発信していくことは、NHK本来の姿勢として、実は当初から受け継がれてきたはずの原理だ、との認識にもなるようだ。

 「僕が担当しているのは、まさしく”直球の福祉番組”だと思っています。これほど”公共放送的”な番組は、他にないのでは……とも思います。福祉番組はマイノリティー・サービスと言われます。マイノリティーの問題に正面から取り組み、取材をして、その姿を発信してゆく仕事は、”NHKの王道”を行っている番組であると、僕は思っています」

 テーマを超えて結びつくケースがたくさんある。発達障害でありながらゲイである人がいる。同性愛者の自殺率が高いといったデータは、ストレス・メンタルヘルスの問題と切り離せない。つねにいろいろなテーマの結びつきを考慮しながら制作の方法を考えていると、今村ディレクターは強調する。

●番組を見ていない人たち・見られない人たちとの繋がり

 4月末に、『ハートをつなごう』でレズビアン・ゲイの特集を放送したあと、中高生から届いたメール投書に”ある特徴”があったことが、今村ディレクターには印象深いのだと言う。それは「放送を見られなかったけれどもメールしました」といった意見投書が、意外なほど多かったこと。

 実家で暮らし、家族にカミングアウトしていないユース(10代〜20代前半)のLGBT当事者が、実際、たくさん存在する現状がある。家の居間に一台しかテレビがないため、レズビアン・ゲイ特集を家族と一緒に見ることはできなかったが、インターネットの情報で番組を知ったというユースLGBT当事者からのメールが多数、寄せられたそうだ。

 番組という情報さえ、しっかり発信していれば、番組を見ていない人へも、何らかの形でその情報が届いている。今村ディレクターにとって大きな発見だった。そして、考えさせられたと言う。

 「こういう番組をNHKでやっているよ、という話を聞くことだけでも、若い当事者にとっては、大きな支えになっているんですね。LGBTの問題に限らず、小さな声をひろっていくという福祉番組、マイノリティー・サービス、それらの意義を感じたように想います」

 もちろん、それは媒体がNHKという巨大放送局であるからこそだという一面も忘れてはならない。それだけ影響力が絶大だからである。LGBTに関する公正な情報が、NHKあるいは民放のようなマス・メディアによって頻繁に発信されることに、如何に重い意味があるか、如実に示されている。

NHKの番組に期待を寄せる「同性愛者などLGBT」〜<NHKは変わったのか>今村裕治ディレクターに聞く <BR>
 | <center>NHK制作局のある建物(記者撮影)</center>
NHK制作局のある建物(記者撮影)
●寄せられた多彩な意見

 今村ディレクターによれば、視聴者から寄せられた意見には、

*LGBTが抱く、多様な選択肢を提示して欲しい。同性愛者が全員、同性結婚を望むわけではない。シングルライフにこだわっている同性愛者も大勢いる。そういった多様な姿を取材して欲しい。

*LGBTの苦悩を、もっと深刻に表現して欲しい。逆に、LGBTだからみんな悩んでいるとも限らないので、もっと明るく伝えて欲しい。

……などがある。

 また、ヘテロセクシュアル(異性愛)の人たちから、性について考え直す良い機会になったなどの建設的な感想が、意外に多いそうだ。

 『ハートをつなごう』は、同じテーマを継続して、繰り返し取り上げる特徴があり、また、そうすることに意味を見出している。LGBTに関する問題認識は、何回も継続して考えることを通じ、一層、ヘテロセクシュアルの人たちの意想へも深く浸透することが期待できる。

 テーマを継続するために必要なのは、視聴者からのメールによる投書。それに尽きると、今村ディレクターは言う。批判も含め、視聴者・当事者から寄せられる意見を吸収してこそ、次はこれ、その次はあれと前進・継続することのできる番組なのである。

 「若い層だけが、視聴者のターゲットなのではありません。たまたま、これまで放送したレズビアン・ゲイ特集では、まず、若い層の抱える問題について、入り口として取り上げようとしたに過ぎません。今後、『ハートをつなごう』では、いろいろな年代の(もっと年長の)LGBT当事者が抱えるであろう(パートナーシップ制度などの)問題をクローズアップすることも有り得ます」

●誰が偉いわけでもない

 レズビアン・ゲイなどLGBTが、社会に蔓延する偏見から救われるため、NHKが一般社会的な意識改革をリードすることを、ついつい期待して求めたくなる。しかし、公共放送という性格上、一定の方向性を持ってオピニオンリーダー的存在になることは、むしろ避けられるべきなのは当然のことでもある。この点について、今村ディレクターは次のように語った。

 「言うまでもなく、社会意識を変化させるなどという大それたことは考えられません。でも、視聴者が何かに気づいてくれたらいいなあと、そんな思いはあります。ヘテロの人たちが一方的に気づくということではなく、LGBT当事者にも、気づいて欲しいことがあります」

 「たとえば、ヘテロとLGBTと、どちらが性について本質的なことが言えるかなんて、どちらが言えるというものでもないと思います。どちらが、より深く考えているから偉いというものでもないでしょう。誰にも決めることができないと思います」

 「セクシュアリティーは、個人と個人のプライベートな関係性の中で見えてくることなので、そこに優劣など付けられません。正面からしっかりと向かい合って、その人その人の悩み、楽しみ、恋愛などについて、きちんと表現していきたいです。そして、番組をご覧になる方たちが、それぞれ何かに気づいて下さることがあったらいいなあと、僕はそんな風に考えています」

◇◆◇


 今回の取材を経て、今村ディレクターのお話から、NHKの目指す番組作りの「心」が見えてきた。公共放送だからできないのではない。公共放送だからこそ、同性愛者などLGBT―――日陰者と蔑まれてきた人間たちへも、平等なスポットライトを当てることが可能なのである。このことこそが、公共放送の意義ではないかと、あらためて気づくこととなった。

 何より大事なのは、LGBT当事者が積極的にNHKの制作サイドへ、意見を発信することだ。思いの丈を存分にぶつければ、NHKは、きっと何かを返してくれるだろう。

 また、心強いのは、今村ディレクターが、今後も継続的に同性愛者などLGBTについて、個別的なテーマをおりおりに掲げ、意見の分かれる問題についても討論などの機会を作ることを検討したいとしていることだ。そこで話し合われる内容は、もちろんヘテロセクシュアルの人たちにも伝わる。

 一気に高い視聴率を稼いで、大々的に加勢を得てしまうと、萎んでしまうのも、あっと言う間だろう。『ハートをつなごう』は、多少、地味であろうと、視聴率が低かろうと、放送内容には相当な配慮が施されており、完成度は高い。

 息切れをしない番組作りになることを、心から願っている。

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