「借金問題は必ず解決できる」。熱い議論が交わされた。
平成20年6月発表の警察庁統計資料によると、平成19年の自殺者数は年間33,093人(千葉県は1,381人)だ。そのうち経済的困窮による原因が7,318人(同263人)とされる。経済的問題を解決すれば7,318人の命が救えることになる。
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警察庁統計資料
国内の消費者金融利用者は約1,400万人、そのうち1人で5件以上から借り入れている200万人が多重債務者とされる。借りる側の自己責任が問われるが、過去に無理な形で組んだ住宅ローンなど少し背伸び気味で人生設計を推進する多くの市民が対象となっている。進行している景気後退局面の中ではさらなる広がりが懸念されよう。
多重債務者の弁護を数多く手がけた宮本勇人弁護士は基調講演のなかで、多重債務者の定義について、「借金で困っていて、支払い不能に陥るおそれがあり、額と件数は問われない」と位置づけた。借金を返すために借金をする。収入だけで返済は可能だが、余裕のない状態で返済していて、病気や冠婚葬祭などの出費が大きな負担となるケースだ。これらは、多くの生活者に当てはまる事由だ。
多重債務者の定義に沿った正確なデータはないが、全国破産申立件数みると、平成10年から増えていて平成15年の約25万件をピークに、16、17、18年で段階的に減少したという。原因について宮本弁護士は、「15年当時は過払い金返還が困難だったが、その後の最高裁判決により過払い金返還が容易になったことも一因だろう」と分析した。
続いて講演した全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会(東京・神田)の本多良男事務局長は、「借金なんかで死んではいけない」と声高に呼びかけた。「借りていることが恥ずかしく、1人で孤立してしまい、家族や友人に相談できない。その結果、最後には10日で3割・5割の超高金利で貸し付けるヤミ金融被害に陥ってしまう。日常生活の中で頻繁に流されているテレビCMなどの影響もあり、借りる側の個人責任だけでは片づけられない社会問題だ」と指摘する。
同協議会では昨年1月、「借金の解決は必ず出来ます」と書いた看板を24時間体制で受け付ける電話番号を併記して山梨県の富士山麓・青木ヶ原樹海入り口に設置。その結果、現在までに42件の電話があった。
昨年11月には、千葉県の42歳の男性が、リストカットをしたり樹海をさまよったが死にきれず、保護された警察官から同協議会に相談したらどうかと言われた。もらった3,000円のポケットマネーで東京・神田駅まできたら倒れ、駅に迎えに行った相談員が救急車を呼び、病院に連れていった。凍傷で足指の一部を切断したが、4月に退院し生活保護を受けながらリハビリを続けている。回復したら債務整理を進める予定だという。
政府の多重債務者対策本部有識者委員会のメンバーでもある本多さんは、18年12月に出資法の上限金利引き下げ、グレーゾーン金利廃止を柱とする貸金業法の改正が全会一致で可決成立されたことを、「大きな成果だ」としている。
「多重債務者対策本部有識者会議」は昨年4月、多重債務者の発生を防止するためには「貸し手」に対する強化とともに、現在200万人を超えている「借り手」対策が必要として、「多重債務問題改善プログラム」を決定した。国、自治体および関係者が一体となって実行することを提言している。
プログラムの内容は次の通り。
1.丁寧に事情を聞いてアドバイスを行う相談窓口の整備・強化
2.借りられなくなった人に対する顔の見えるセーフティネット貸し付けの提供
3.多重債務者予防のための金融経済教育の強化
4.ヤミ金融撲滅に向けた取り締まりの強化
また今年6月、ヤミ金業者「五菱会」に対する訴訟で、最高裁判所が「借りた金は利息だけでなく元金も含めて借り手が支払った金額を損害として取り戻せる」とした画期的判決を出した例を挙げ、「ヤミ金融から交付された金は貸し付けという形をとっているだけで、通常の金銭の貸し借りのような借りたものではないから、利息はもちろん元金も返す必要はない」と説明した。
さらには、「多重債務問題の根元は貧困にある」と続ける。1,000万人を超える年収200万円以下、1,700万人の不安定な非正規雇用者の存在を示し、「これらの問題を解決することが大きなカギを握っている」と発言。貧困問題を今後の大きな課題に掲げ、「病気や急な出費時に低利で安心して借りられる公的な貸し付け制度を充実させることが必要だ」と提言した。
消費者金融などの借金問題で苦悩する人の相談活動を20年以上にわたり行ってきた、クレジット・サラ金被害者の会「ちば菜の花の会」の近藤あき子会長と共に、同会の支援によって自己破産手続きを実施した千葉在住のKさんが、自身の体験を次のように語った。
【昨年12月27日に友人に50万の借金の申し入れをした後、自殺しようと思っていた。借金は自己責任だと思っていた。会社経営がうまくいかなくて10年前から多重債務状態だった。同時に妻が統合失調症にかかり、あらゆるところから金を借り、約1000万になっていた。死のうと思ったがカミさんがいるので死ねなかった。
友人やサラ金から借りて返しては借りることをくり返していたが、「ちば菜の花の会」に相談して助けられた。自己破産宣告をした後、毎週のように相変わらずヤミ金だかサラ金から融資の案内がきている。これからは、借金をすることなく生活していくことが過去の借金苦という病苦から回復できたことになると考えている。そのためには、こうした会合に出席して周囲の力を借りていきたい。昨夜電話してきた友人は、子供が放火犯で、ヤミ金スレスレのところから金を借りていて、たいへんな状況だ。借金は金の問題だけではなく、教育、家庭、仕事など色んな問題が複合的に絡み合っている。】
「多重債務問題の解決と生活再建へ向けて」のテーマ行われたパネルディスカッションでは、講師3名に加え千葉県消費生活指導員の佐藤陽子さん、「千葉いのちの電話」北原悦子さんが参加。コーディネーターは千葉司法書士会の伊見真喜さんが務めた。
いのちの電話への相談は、経済的理由などはっきりとした理由ではなく、その周辺の状況に関する相談が多いという。
「リストラされて次の仕事が見つからないとか、借金がかさんで奥さんが子供を連れて実家に帰って子供に会いたい。夫にギャンブル癖があってお金がいくらあっても足りない。親が借金して住居を転々として成人した後も落ち着いた生活ができないなど、経済的問題は根深い。うつ病も多く、仕事ができないため貧困。休職して給料はもらっているが復帰できだろうかなど、本当に困っている時は親しい人や身近な人には相談できないという心理が働いているようだ」と深刻な精神状態にある相談者の心情を明かす。
「実生活の中で話をしても聞いてもらえないため、孤立や孤独が原因となって追いつめられて、自殺にいたってしまうこともある」と。
「4割が借金を繰り返してしまうことが問題」と佐藤さんは指摘する。多重債務で半年前に整理した57歳の男性は、「ダイレクトメールがくるのでまた債務整理をするときに弁護士に払う費用を借りると屈託なく話す」。自己破産すると「官報」に掲載されるため、それを元にサラ金やヤミ金からダイレクトメールがくるという。「責めるのではなく、心情的にていねいに聞いていく姿勢が必要」とした。
シンポジウムでは、借金をしてしまう本人と支援者らが正面から向き合い、民間団体と自治体が一体となった上でそれぞれの立場で連携を取り、問題対策を進めていくことの重要性を確認しあった。
【参考連絡先】
・千葉県弁護士会:千葉市中央区中央4−13−12 電話043−227−8431
・千葉司法書士会:千葉市美浜区幸町2−2−1 電話043−246−2666
・ちば菜の花の会:千葉市中央区中央4−4−1
・千葉県消費者センター:船橋市高瀬町66−18 電話047−431−3811
・ちばいのちの電話:相談窓口電話043−2273900 千葉市中央区本町3−1−16、CIDビル内