千葉県東金市の保育所園児が亡くなった事件で、殺害に関与した疑いがあるとして逮捕されている男性について、検察の請求で3月16日までの精神鑑定が決まった。この事件で、逮捕直後の報道への疑問は尽きない。男性が逮捕される前から容疑者扱いされたことで、視聴者や読者には強い先入観が植えつけられ、この事件に対する見方をミスリードしてしまった可能性が高い。マスコミの安易な犯人扱いと偏見は「いつでも誰にでも」降りかかってくる恐れがあることを指摘したい。
逮捕直後のNHKニュース画面
この事件の弁護人である副島洋明弁護士が事務局を務めている「知的発達障害者刑事弁護センター」が発行しているニュースレターについて、このほど副島弁護士から引用の許可をいただいたので紹介する。この中でマスコミ報道の問題点が的確に指摘されている。
レターの中で男性については「K君」と表記されているので、そのまま引用する。マスコミ報道については「被害児の遺体発見直後(2カ月半前)から、K君を容疑者とする取材がはじまり、それは皆さんもご存じの通り、TBSをはじめテレビ、新聞が競ってK君へのさまざまな“予断”にみちた取材報道を繰り返していました。しかし、母親は息子のK君がマスコミの“えじき”になっているということを、逮捕後の報道まで全く知らされていませんでした」とした。
そして「マスコミは、K君が知的障害のため通常の人と比べて自己防禦能力が弱いことをわかっておりながら、その『弱さにつけ込む』が如き誘導的取材と撮影をおこなってきております。私はこのことが本当に許せません」と強く批判、これまでのことでも「警察・検察による虚偽というか誇張した怪しげな情報操作によって、マスコミがいかに社会に間違った犯罪情報を流布してきたか、そのことによって、いかに容疑者とその家族を苦しめ、重罰化におとしいれてきたかをわかっていただけていると思います」と報告されている。
この事件の報道は沈静化しているが、視聴者や読者が抱いてしまった偏ったイメージは消えたわけではないだろう。事件の関係者ではない人々は日常生活に埋没して事件を忘れてしまう。しかし、一度植えつけられた印象は拭い去ることが難しく、だからこそ初期のマスコミ報道は慎重を期さなければならない。逮捕報道から1カ月を経過した現在まで報道について自問自答し検証した新聞、テレビはあっただろうか。探してみたが見当たらなかった。
レターでも触れられていたが、2005年2月に宇都宮市で重度知的障害者であった男性が強盗事件で誤認逮捕されたことがある。昨年3月の裁判では違法な捜査があったことも認定された。警察・検察による自白への誘導があったことは明白だ。
東金市の事件は解明されるまでにはまだ時間を要するが、報道は消えることはないし、最近でも捜査側の情報を一方的に流す傾向は変わっていない。事件がどういう推移を辿ろうとも、予断と誘導尋問のような取材手法があったことは事実である。マスコミは自省して改めなければ、捜査側と共同で人権侵害を繰り返すことになるだろう。
記者クラブ問題で論陣を張っているジャーナリストの上杉隆氏はこの事件報道について「ダイヤモンド・オンライン」のコラムで「軽度とはいえ、知的障害のある容疑者の氏名を、全記者クラブ所属メディアが横並びで、一斉に実名報道に踏み切っている点に違和感がある」と指摘している。東金の事件の報道に背景に記者クラブという横並び体質があり、集団で同様の内容を報道することで責任を免れると考えていたならば間違いである。
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