知人から連絡をいただいて、大手スーパーの誘致のために、11ヘクタールもの広大な優良農地がつぶされてしまったことを知った(関連サイト:
野田農場の危機)。以前から、こうしたことが全国的に起きていることを聞いていたので、この際、こうした現象がどういう意味を持つのか、述べておきたい。
まず第一に、日本のもっとも優良で、広大な農地が同じ形でどんどんつぶされていること。 郊外型のショッピングセンターが全国各地に乱立しているのは、皆さんよくご存じだと思う。 こうしたショッピングセンターには、驚く程大きな収容力を持つ広大な駐車場と、食事を楽しめる何軒かのレストラン、大型書店、ホームセンターなどが一堂に会しているのが多い。
それだけのものを立てられる平地はそうそうあるものではない。 ある場所を除いて……それが優良農地である。
ショッピングセンターを建てるには、当然ながら障害物も何もなく、とても平らで広大であることが必要である。これは農業を行う上でも非常に好条件だ。大型の農機具を持ち込んで、効率よく耕せるからだ。
その逆に、坂ばかりで平らなところがほとんどなく、狭い田んぼばかりの土地だと、小型のトラクターなどでちまちまと耕し、隣の畑に機械を移動させるのにも、畦を傷つけないようにいちいち持ち上げて苦労しなければならず、労力も時間もかかって非常に効率が悪い。
効率のよい農業を行うには、平らで広い農地であることが大切な条件だ。ところがそうした土地の条件は、ショッピングセンターの候補地としてはよだれが出る程魅力的な条件でもある。
他方、今の日本の農業の現状では、耕作しても儲けになるどころか、損が出てしまう。何しろ、コメの販売価格が安い。それならいっそ、「土地をほしい」と云って高額のお金を出してくれる人が出てきた機会に、売ってしまった方が……という風に動いてしまうのも、無理からぬ事だ。
ここで皮肉なのは、農業委員会や今回の区画整理組合などだ。本来こうした組織は、農地を農業以外の目的で使わせないために機能するものとして想定されている。意思決定には3分の2の同意がなければならない、などのハードルの高い合意形成が必要なのも、そのためだ。
だが現状では、この規定が農地保全につながるどころか、今回の事例のように、農地荒廃に役立つことになってしまう状態となっている。300年続けた農業を、これからも続けていきたい、続けるだけの値打ちがある程、優良な農地だ……と訴える人がいたとしても、その人達が3分の1より少数で、3分の2以上の人たちが「農業以外の目的であろうと、高く売ってしまいたい」と願えば、止めることができない。
これは何も名古屋だけの話ではない。全国で驚く程たくさんのショッピングセンターが建設されているが、その多くが、優良農地をつぶしてできあがっている。
優良農地は、出荷が容易なように道路も整備されている事が多いから、そのこともショッピングセンターなどにつぶされてしまいやすい、皮肉な条件となっている。こうなってしまうと、農水省が推進しているところの「農業の大規模経営」を行う上で最適のはずの農地が、ショッピングセンターに生まれ変わってしまう。
一台のトラクターで効率よく耕すには、いくつかの田んぼを一枚にまとめて広くできた方がよいが、それができる平らな土地は農業どころか、ショッピングセンターが建ってしまい、そのまわりの、坂のような土地でちまちまと耕すしかなくなってしまうのだ。
……そして、もう一つ。今後、全国各地でこのような計画は憂き目にあうだろう。
名古屋のこの誘致計画も、おそらく失敗する。
1月17日の朝日新聞夕刊(東海地区)の記事によると、「大手スーパーを誘致する計画」とある。まだ、建設の計画も立っていないという悠長な話なのだ。もしその通りだとすれば、農地をつぶしたとしても、ショッピングセンター建設の計画は破綻する可能性がある。
世界経済が急速に悪化していることは、皆さんご存じの通り。また、昨年の燃料高騰で自動車依存の生活に反省も進んでいることもあり、郊外型ショッピングセンターや、同じく郊外型のファミレスなどは、軒並み業績が悪化している。このことは、大手スーパーも敏感に察知している。採算がとれる保証がない限り、誘致に乗ることはないだろう。
もしそんなことになれば、優れた農地をすでにつぶしてしまったことは、返す返すも残念なことになる。田んぼを一から作り直して、そこそこの収量を上げるには、10年かかると云われる。田んぼとして機能するには、土壌構造が長い時間をかけて形成されなければならず、これはどれだけ優れた土木技術でも、どうしても数年はかかってしまう。
田んぼの再生は、非常に時間がかかるのだ。しかも300年もの永きにわたって育ててきた田んぼを再生するというのでは、いったい取り返すのにどれだけかかることだろう。 取り返しのつかないことをしてしまったのかもしれない。
取り返しのつかないことをした上に、誘致にも失敗すれば、余りにも悲惨な結末となってしまうだろう。
さらにもう一つ付け加えておこう。優良農地がショッピングセンターに変わることに、何らの痛痒も感じない人がいるだろう。
「優良農地であろうと、経済合理性にかなうならば、ショッピングセンターが建設されることに何ら問題はないではないか。日本は農業以外で儲けている国なのだから、食料は全部海外に依存して構わないのだ」という主張をする人がいるかもしれない。
それに対しては、別のところで述べた
「四つのパラダイム崩壊」の2番目をお読み頂けば、それで十分である。あるいは、
「政策空間」の最後の章をご覧いただいても好い。
日本は、これから、工業では十分に儲けられない時代に突入する。資源、食料が長期的に高価になっていく中で、工業製品やサービスはどんどん安くなっていく。
資源・食料インフレ、工業製品デフレの中で、どうして日本が、海外から食料を輸入し続けられるというのだろう?
日本は、将来起こりうる食糧危機に備えて、優良農地を大事にしなければならないのだ。しかし、私たちは、自らの鼻と口に綿を詰め続けているような状態なのかも知れない。いずれは窒息死するとも知らずに。