活動する活火山などが身近にあると「災害」に敏感になると思うが、ちょっと活動しても大して被害が出なければ、ついついその存在を忘れてしまう。寺田寅彦が「天災は忘れたる頃来る」と言ったのは、良く言い当てている(ただし、寺田寅彦が本当に言ったかどうかは怪しく、中谷宇吉郎だという説もある)。
私の家から浅間山は直線距離で約35kmで、よく見える。
今年2月2日未明の噴火では10万tの灰が噴出し、2004年9月の噴火と同程度で南東方向に細長く伸び、房総半島南部まで達したという(産業技術研究所)。噴火警戒レベルは2(火口周辺規制)から3(入山規制)に引き上げられた。
噴煙を上げる浅間山(4月7日)。この日、気象庁は警戒レベルを3から2に下げた(群馬県磯部温泉から矢本真人撮影)
注目すべき事は、この噴火は予知され警報が出ていた。嬬恋村では2月1日に災害対策本部が設置され防災無線で注意を呼びかけていた。降灰による野菜などへの被害が心配されたが、他にはこれと言った被害は出なかったようだ。小規模な噴火ではあったが、火山噴火の予知は今までは有珠山噴火しかないので、観測体制の成果だろう。
その後も小規模な噴火があったが、2月2日の噴火を上回る規模の噴火はないという(前橋地方気象台)。
確かにここしばらくは、通常のたなびく程度の噴煙であったが、今月7日に上空に噴煙を上げているのを見た。昼間は霞ではっきり見えないが、朝・夕には、はっきり確認できる。また活発になってきたかと思った。
噴煙も通常の状態になった浅間山(4月9日、矢本真人撮影)
ところが、4月8日の新聞で警戒レベルを3から2に下げると気象庁が発表した。火口から4kmの範囲に影響を及ぼす噴火の可能性は低くなったというのが理由らしい。しかし、前日の7日には空高く噴煙を上げているのが見えた。前橋地方気象台に「噴煙が上がっているのに、どうして警戒レベルを下げたのか」聞いてみた。
担当者によると、地震活動、火山ガスの量、微動、周期の短い地震回数や噴火につながる数など、いろんな観測データを総合的に見て判断しているのだという。噴煙が1日上がったからと、警戒レベルをどうこうするわけではないと言う。
HPの「噴火予報・警報 浅間山噴火警報」でも火山性地震は2月2日の噴火前に見られた周期の短い地震の増加は認められないし、地殻変動に特段の変化はない。火山ガス放出量も減少が挙げられている。
今回の噴火はそんなに大きくはなかったが、最近では2004年9月1日の噴火は「ドーン」という大きな爆発音が響き、大きな空振も観測された。小諸では「ビュー」という突風音がし、北軽井沢では「ドスン」と上下に大きく揺れを感じたという。降灰も多く、噴火の直後に軽井沢に行ったが路線バスが粉塵を巻き上げながら走っており、道路の路肩には灰が履き集められている光景を見た。
この時は、私も異常を感じて気象台に情報を送った。8月中旬過ぎに岡山の実家に帰るために、上信越自動車道の妙義松井田ICから入り横川SAを越え橋を渡った辺にさしかかった時、通常では匂わない硫黄の臭いがした。家内も「変ね」という。そして噴火したので気象台に日時、場所と状況をメールで送った。
しばらくして気象台から連絡があった。「上に報告したいので確認させて欲しい」と言う。「当時の気象状況(風向)からはちょっと考えられないのだが・・」という。私も「この道はよく利用しているが、こんな臭いがしたのは初めてだ」と言っておいた。
この程度の規模の噴火はかなりの頻度であるようだ。あの大物理学者、寺田寅彦も1935(昭和10)年の8月に2回、千が滝のグリーンホテル、星野温泉に宿泊していた時に浅間山の噴火にあい、爆音、噴煙、降灰、空振についていろいろ検証している(「寺田寅彦随筆集」第5巻「小爆発2件」より)。物理学者の検証だから面白い。
しかし、こんな程度の噴火ばかりではない。
1108年には噴火によって追分け火砕流が流下し、南北麓は火砕流で埋めつくされた。1783年の天明の大噴火は悲惨だった。5月から噴火が始まり、浅間山山麓の集落では降下火砕流による被害が発生。8月には火口から東側に向かって吾妻火砕流が流出、北側には鎌原火砕流が流出した。
鎌原火砕流は山麓斜面を浸食し、岩屑雪崩となって下って行った。集落は埋没し466人が死亡した。岩屑雪崩は吾妻川になだれ込み、洪水を引き起こし利根川流域で大きな被害を引き起こしたという(「火山災害の研究」損害保険料率算定会、平成9年9月)。
この1700年代は大きな災害が続いた。1707年はM8.4の宝永大地震、それから49日後には富士山大噴火、1780年桜島噴火、そして1783年に浅間山の天明の大噴火だ。今回も浅間山の噴火と同時に桜島の噴火も観測されたことは、何か関連がありそうな気がする。
専門家の間でも浅間山の噴火は単に浅間山の噴火というだけではなく、首都直下型地震、関東内陸部地震、さらには富士山噴火、東海大地震につながる恐れもあると見られている。
人間というモノがいかに忘れっぽいか、それに反して自然というモノがいかに頑固で執念深いモノであるか(随筆「津浪と人間」より)。今世紀前半には確実に巨大地震などが発生する「災害の時代」に入っている。身近な自然の変動に注目していきたい。