前回記事:
「日本警察の浄化をめざして」仙波敏郎氏講演(中)
〈検挙率の低下〉
私が42年前に警察官になった頃、刑法犯の検挙率は60%を超えていました。今は30パーセント台です。やがて、警察の裏金について知ることになり「こんなことをしていたら大変なことになる」と思いました。ところが、上からは「組織を維持するにはお金がいる。君は組織の敵か?」と言われました。
警察用語で、「てんぷら」という言葉があります。世間で言う「下駄をはかせる」わけです。からくりは簡単です。犯罪発生件数を下げて、検挙数を水増しするのです。
例えば、被害届の代わりに「現場臨場簿」を作る手法があります。これで書類を作れば、事件は犯罪認知件数にカウントされないのです。でも、そういうことは、警察署を訪れて書類を書かされる人にはわかりません。被害届を出そうと思って警察署を訪れ、「○△◇△簿」と書かれた書類を差し出されて「これに記入して下さい」と言われれば、それが被害届に関係する書類と思って、そのまま何の疑いも無く書類に記入するはずです。
そうやって、被害届とは異なる書類へ記入させ、犯人が捕まった時点で、被害届を作り直して、事件を処理するのです。そうすれば、必然的に検挙率はアップします。
もう一つは、一人の犯人を捕まえたら、それに類似した事件も、みんなその人間がやったことにしてしまうという方法もあります。
例えば、ある警察署で、犯罪に対する検挙数が4万件あったとします。検挙者数を見ると1万人になっているわけです。そうすると、検挙者が平均して、ひとり4件ずつやっていたということになります。しかし、実際にそんなことはあると思いますか。100の犯罪が起きたら、ふつう、犯人は100人、それぞれの事件ごとにいるのが自然ではないでしょうか。
そもそも、こうやって顔を出して、今言ったようなことを堂々と言えるのが私ひとりなのです。これがおかしい。但し、大河原さんも言える立場です。けれども、今、大河原さんは裁判で戦っています。もし大河原さんが裁判で勝って、警察官として復職したら、その時は、野人(である私)と美男子(の大河原さん)とで、全国を行脚できるのです――。
参加者からの質問に熱心に耳を傾ける。右は、元群馬県警警部補・大河原宗平氏(撮影筆者)
〈選挙に出ませんか?〉
衆議院選(注・09年8月投票)にオファーがありました。「必ず当選できるポジションを用意する…」というわけです。
でも、私が出れば、「何だ、仙波は政治屋になったのか」と言われるでしょう。私には(大河原さんのことをはじめ)やらなくてはいけないことが、たくさんあります。ですから、ことわりました。
先日のテレビ放映(注・09年5月)を見て、80いくつのおばあさんが「財産を贈与したい」と言ってきました。3日後にもまた電話があり、「私には身寄りがいないから、残ったお金を有意義に使って欲しい」とのことでした。ありがたいお話ですが、私はおことわりしました。
警察の裏金もそうですが、私たちの生活で〈お金〉は非常に大きな意味を持っています。〈お金〉は、人間社会に無くてはならないものですが、〈お金〉に自分の生き方をしばられてはいけません。〈お金〉に自分の倫理観が曇らされてはいけません。
『謝れない県警』(桂書房)を書いた松永定夫氏も富山県から応援に駆けつけた。
〈ドキュメンタリー番組放映をめぐって〉
私のことを取り上げたドキュメンタリー番組がありました。実は、あの番組が放映される3日前にテレビ関係者から電話があったのです。
「仙波さん、身を隠して下さい。(あなたを逮捕することで)あの番組を放映させないようにする動きがあります」
圧力をかけてくる団体と言えば――、みなさん、もちろんおわかりですね。
「番組を放映するな。もし、どうしても放映するなら、放映できなくするぞ」と。要は、そういうことです。番組放映前にその番組に出演している者を逮捕すれば、当然その人の出る番組は放送できなくなります。テレビ関係者にとっては大変なことです。何年間も、東京と松山の間を何十回と往復して、ようやく1本の番組に結実させたのですから。
だから、「(逮捕されないように)身を隠してくれ」というわけです。
放映予定日は、月曜日でした。
それで、私は3日前の金曜日に愛媛県警本部に出向きました。現職の時は、すぐ庁舎内に入れるのですが、今は退職していますから、受付で来訪の目的を言うのです。
「本部長に会いたい」―――私は用件を言いました。
すると、受付は本部長室に電話をつないで何か話しています。向こうは「ことわれ」と言ったようでした。
「じゃあ…No2でいい」
「…それもだめです」
仕方なく「何か、私に用はありませんか?」と昔のセクションに行きました。「何か用事はありませんか?」つまり「私を逮捕するような用事はあるのでしょうか?」ということです。みんな「…ありません」と言います。「じゃあ、帰りますが、いいですか」ということで、家に帰りました。
「あの番組を放映されたらまずい」ということで、そういう手を使うのです。
「いつでも来んかい」―――私自身はそういう気持ちでいました。
実際には、テレビ放映の10分前まで、「仙波さん、今どこですか!」「仙波さん、大丈夫ですか!(逮捕されていませんか)」…という具合に、安否を確かめる電話が入り続けて、ようやく放映となった次第です。
松永氏お手製の宣伝カー。松永氏は数日前から群馬入りし、講演会をPRした。その甲斐もあって、会場は立ち見も出るほどの盛況であった。
〈「警察見張番・愛媛」の立ち上げと冤罪の多さ〉
退職後に、私は「警察見張番・愛媛」を立ち上げました。「警察見張番」は、いちばん初めに立ち上げた、生田さんという方がいらっしゃいます、あ…、生田さん、ちょっとよろしいですか、今日も神奈川からはるばるこの会場に来て下さいました。
それで、生田さんに許可を頂いて「警察見張番・愛媛」が誕生したのですが、活動を始めてみると、全国からものすごい数の冤罪に関する相談が寄せられています。個々のケースに関する対応で、私は年内休みが無いほどです。
冤罪は、最近では「足利事件」がマスコミを通じて注目を集めていますが、それだけではありません。今日の大河原さんの「復職」をめぐる裁判も冤罪事件です。
高知県では、いわゆる「高知・白バイ事件」(注・06年3月)がありました。
警察用語では、「第1当事者」「第2当事者」という言葉があります。簡単に言えば「第1当事者…加害者」、「第2当事者…被害者」です。事故で言えば、「警察官が第1当事者となって起こした事故」は、幹部が責任を取らされるのです。
それを自分の任期中に起こしたら、次の異動時に、もうひとつ上のポストには昇進できない。だから指示が出るわけです。
「白バイを第2当事者(=被害者)にしろ」
バスの中にいた生徒たちは「バスは止まっていた。そこに白バイが高速でぶつかってきた」という内容のことをはっきり証言しています。
それらの証言を、裁判所は採用しませんでした。片岡さんは「自分に非がある」と認めていれば、執行猶予がついたでしょう。
「罪を認めていない(反省していない)」という理由で、片岡さんは刑務所に収監されました。これなども、さきほど痴漢事件で話した「認めれば、釈放してやる」と同じロジックなのです。
〈捜査費用800万円が…〉
先日も、千葉県で殺人事件がありました(09年7月、犯人は5日後に沖縄県内で逮捕された)。どこでもそうですが、捜査本部が設けられた場合、県警からの捜査費用は、次のようにして管理職のポケットに入ります。
まず警察署の会計課長が800万円を現金で下ろして来ます。400万円は、県警本部にキャッシュバックされます。
残り400万円です。そのうちの100万円を警察署長が取ります。以下、副署長らが順に「わしも50万円」「私は30万円」…と取っていきます。
だから、800万円の捜査費用が支払われても、結局使えるのは、150万円、200万円程度しか残らないのです。それで仕方なく、捜査員はガソリン代、携帯電話代…と自腹を切るわけです。あるいは、そうやって地道に捜査するのが馬鹿らしくなって、勤務時間中に駅前のパチンコ屋に行って時間をつぶすようにもなっていくのです。
以上のことから、警察の裏金を失くしていくことと、私たちの生活とが直結していることがおわかり頂けるのではないでしょうか。裏金をなくすことが、第一線で懸命に働く警察官に報いることになりますし、裏金を失くすことが検挙率アップにもつながります。裏金を失くすことが、私たちの生活を安全にし、また冤罪をなくすことにもなるのです。
※
今日はいろいろとお話しましたが、今述べたように、ここにいる大河原さんの支援をすることが、めぐりめぐって、私たちの子どもの世代、孫の世代の社会をよくしていくことにつながります。冒頭に紹介した、大河原さんに対する卑劣なやり方は、大河原さん個人の問題ではありません。多くの人が大河原さんの裁判に関心を持つことで、今日のテーマである『日本警察の浄化』がはじめて可能になると確信しています。
ご清聴ありがとうございました。
(了)
〔後記〕
本稿は、7月31日の講演内容をベースに、事実関係やデータなど、後日仙波氏本人に電話取材し、適宜加筆して文章にしたものである。