撮影筆者
数年前からの読者ならご存知と思うが、著者の増田美智子さんは元JanJan編集部員だ。
今はなくなった「日本版オーマイニュース」の編集長(当時)鳥越俊太郎氏の「退任」をスクープした。
当時、鳥越氏は全面否定していたが結局、数ヶ月後に退任することになった。スクープが証明されたことになる。
その結果として “オトナの問題”が生じたらしい。このあと、増田さんは日本インターネット新聞社を退社することになった。
・鳥越俊太郎さん、しっかりしてください/07/01/14 増田美智子
2月にインシデンツから発行された「報道されない警察とマスコミの腐敗 − 映画『ポチの告白』が暴いたもの − 」の取材で、代表の寺澤有さん(ジャーナリスト)と一緒にお話しをうかがったときの増田さんは、退社のいきさつについては詳しくは語らず、恨み言も言わず、にこにこと爽やかに対応してくださった。
・「報道されない警察とマスコミの腐敗」著者に聞く
その際に「いま、光市母子殺害事件の被告人を取材していて、本にしたいと思っている」と語っていた。それがこの書籍だ。
「光市母子殺害事件」の裁判では、一審、二審で無期懲役、最高裁では二審判決を破棄し広島高裁に差し戻した。
そして2008年4月に、広島高裁は差し戻し控訴審で死刑の判決を下し、弁護側は即日上告している。
この事件に関して、大阪府の橋下知事が弁護士時代に「各弁護士会に対して弁護団の懲戒処分を求めよ」と“アジって”物議をかもしたが、後に謝罪している。
朝日新聞が10月8日に、「実名掲載『何のため』 『元少年』本一部で販売 作家ら疑問の声」として、この書籍の出版を取り上げた。
しかし記事は、「作家ら」の意見を借りているだけで、「実名掲載」(のみ)を問題にしているように読めた。
少年法に従って実名を出さないために、「元少年」というなんとも“そらぞらしい表記”を使い、安全な場所に身を置きながら本質の議論を避けているように思えた。
「実名掲載『何のため』」というが、既に「週刊新潮」では初公判後の1999年8月に被害者家族の本村洋さんの手記(被告人の実名入り)を掲載していた。が、当時は仮処分の申し立てはされていないという(弁護団は異なる)。
このとき被告人は18歳の少年だったが、現在は28歳になっている。当時、朝日新聞は「週刊新潮」記事に対して批判を展開したのか、しなかったのか、は知らない。
さて、本の内容だ。
著者が、「本当に死刑が妥当なのか」という疑問をもって、2008年4月末に被告人に手紙を送ったことが始まりだ。
弁護団による“取材妨害”?をものともせず、同8月4日に広島拘置所で初の面会をとげ、対面取材は25回を数える。手紙でのやりとりもし、近隣の住民や同級生らへの取材も試みた。
【 国民が福田君の実像をきちんととらえられていない今、彼が死刑になることが、本当に社会にとっていいことなのだろうか 】
1審山口地方裁判所の弁護人は中光弘治弁護士、2審広島高等裁判所は定者吉人、山口格之両弁護士だった。
最高裁では定者吉人、井上明彦両弁護士が担当した。後にこの二人の辞任を受け、安田好弘、足立修一両弁護士が担当。
広島高等裁判所(差し戻し控訴審)では本田兆司弁護士を弁護団長として、安田好弘弁護士(主任弁護士)以下総勢21名の弁護団となった。
なお、著者は1審の中光弘治弁護士、2審の定者吉人、山口格之両弁護士に、そして控訴審の弁護団にも取材を試みたが拒否されたという。
【 今枝仁弁護士解任の真相 】
著者の取材に応じた弁護士はたった一人、控訴審で死刑が求刑される2日前に、弁護人を解任された今枝仁弁護士だった。
記者会見で安田好弘弁護士(主任弁護士)は、解任の理由を「被告人の信頼を失ったから」としていた。
著者が被告人に今枝弁護士解任の理由を聞いている。
それには「お答えしかねる」とし、さらに「どこかに出したりしないというなら、お話しします」と答えた。
著者が「だったら、聞かないほうがいいな」と言ったにもかかわらず、彼は次のように語ったという。
「・・・(今枝先生は)弁護団のなかではいちばん話しやすくて、信頼してたんだよ。(中略)ほかの約20人は、やっぱり『弁護士』『弁護士』していて、考え方とかで衝突することもあったみたい。・・・」
「僕は、今枝先生の解任には最後まで抵抗していたんだよ。(中略)だから、解任は、僕にとっては本当に断腸の思いだったんだよ」
【 匿名の名もなき殺人犯として死刑が執行されてもいいのか 】
著者は、「実名」を記すことについては本人の了承を得ているとし、理由を次のように書いている。
「匿名報道が被告人の人格を理解することを妨げている」
「名前や顔写真が出ないことで、モンスターのようなイメージがふくらみ、それが死刑を望む世論を形成しているのではないか」
凶悪犯罪が起きるたびに登場する“モンスターのようなイメージ”は、週刊誌やTVのニュースショーで増幅される。それは、弁護団へのいわれなきバッシングに繋がっているのではないか。さらには筋違いな「死刑廃止論バッシング」にもなっているように思える。
だからこそ、死刑廃止論者の安田好弘弁護士が主任をする弁護団に風当たりが強いのではないか。
その視点から見れば、この著者はむしろこの弁護団にシンパシーを持っているようにさえ感じる・・・と思うのは私だけだろうか。私自身が安田好弘弁護士にシンパシーを持っているからなのかもしれないのだが。
発行元の「インシデンツ」のサイトには、現在次の告知が載っている。
「10月9日から『福田君を殺して何になる ― 光市母子殺害事件の陥穽(かんせい)― 』の注文受付は中止しています。
在庫はありません。増刷も流動的ですので、予約の意味でのお振り込みもやめてください。」
・インシデンツ
初版は4000部を刷ったという。