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『福田君を殺して何になる』仮処分事件での陳述書の信憑性

林田力2009/11/16
 光市母子殺害事件のルポタージュ『福田君を殺して何になる 光市母子殺害事件の陥穽』の出版差し止めなどを求めた仮処分について、広島地方裁判所(植屋伸一裁判官)は平成21年11月9日、申し立てを却下した(平成21年(ヨ)第183号 出版一時差止仮処分命令申立事件)。

 これは光市母子殺害事件の被告人である「福田君」(以下、福田氏)が実名や写真が掲載されたとして、著者の増田美智子氏と出版社のインシデンツ(寺澤有代表)を相手に申し立てた事件である。仮処分決定は表現の自由や人格権、少年法など様々な論点に関係するが、事実認定における陳述書の信憑性についても興味深い視点を提供する。

 本件では増田氏と福田氏の間に原稿を事前に確認させるという約束が存在したかが争われた。福田氏側は増田氏が約束を反故にして出版を強行したと主張した。対して増田氏及びインシデンツ(以下、増田氏ら)は事前に福田氏が実名記載を承諾しており、原稿の事前確認の約束はしていないと反論した。

 仮処分決定は増田氏らの主張を採ったが、その事実認定では福田氏の陳述書がポイントとなった。陳述書は証拠の一種で、当事者や関係者の認識や体験を陳述した書面である。福田氏側は福田氏本人の陳述書を提出し、その中で約束があったと記述する。これに対して、増田氏らは陳述書の信憑性を形式・内容の両面から批判した。

 まず形式面である。福田氏の陳述書はワープロ打ちであった。この点から増田氏らは陳述書が福田氏の真意ではなく、福田氏の弁護士が勝手に作文し、福田氏に署名させただけである可能性があると主張した。これに対し、福田氏側は改めて福田氏直筆の陳述書を提出した(山岡俊介「書籍『福田君を殺して何になる』を巡って−仮処分に加え、本訴もした光市母子殺害元少年側」アクセスジャーナル2009年11月3日)。

 次に内容面である。増田氏は福田氏の依頼に応じて、福田氏の知人が福田氏に宛てた手紙を第三者に見せないことを約束し、それを誓約書にして福田氏に差し入れている。ところが、原稿の事前確認については誓約書に相当する文書が存在しない。これは原稿を事前確認する約束が存在しなかったことを裏付ける。

 増田氏らによる内容面の批判は以下のように、そのまま仮処分決定の事実認定の理由に使われた。「債務者増田から、本件知人から債権者(注:福田氏)に宛てた手紙を第三者に見せないことを約束する旨の本件誓約書を差し入れてもらっており、大事な約束事については書面化するとの考えは有していたことがうかがわれる」(仮処分決定書20頁)。

 一方で形式面の批判も陳述書の信憑性を崩す上で有益であったと考える。福田氏の陳述書が弁護士の作文であり、事実と異なるとの主張は、『福田君を殺して何になる』が福田氏を害するものではなく、単に福田氏の弁護団(安田好弘弁護士ら)に都合の悪いものに過ぎないという増田氏らのスタンスを裏付ける上で重要な意味を持つ。

 これは民事訴訟全般に通用する問題でもある。弁護士が作文する陳述書の問題点は、最高裁判所事務総局民事局の実情調査でも以下のように指摘されている。「陳述書の内容は、本人の供述を弁護士が加工したものが多く、あまり役に立っていない」(最高裁判所事務総局民事局「民事訴訟に関する地域の実情等」判例タイムズ1068号、2001年、49頁)。

 裁判が書面偏重主義に陥り、証拠調べが形骸化してしまうと、文書の真正性が問題にされず、文書を出したもの勝ちになってしまう。そのような不公正を許さなかった点にも、この仮処分の意義がある。

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