福祉事務所(昔は都道府県、今は多くの地域で市町村に事務移譲されています)は、生活保護申請のために来た人には、申請はさせないといけません。申請をさせずに追い返すのは「水際作戦」と呼ばれています。申請用紙を渡すまえに職員が理由をつけて追い返すことにより、保護の件数を予め抑制しようという手法ですが、もちろん、違法行為です。
その「水際作戦」=違法行為を働いた福祉事務所が、逆切れし、申請者を警察に訴え、警察が申請者を「不当逮捕」するという事件が大阪府内で発生しました。
10月27日朝、大阪の非正規労働組合「ユニオンぼちぼち」の組合員でもあるAさんは、いきなりやってきた大阪府警によって家宅捜索をされ、職務強要罪で令状逮捕されました。29日に送検、勾留延長もされ11月16日に起訴されてしまいました。
関西非正規等労働組合ユニオンぼちぼち
■受給は合法と当局も認めている
Aさんは福祉事務所から生活保護を受給していました。実は、申請にあたっては大変な困難が伴った末の保護決定でした。
Aさんは、勤務先で散々社長に罵られた挙句に不当解雇され、「ユニオンぼちぼち」に来られたのです。Aさんは労働法などを一生懸命勉強し、自分が争議の中心になって会社との交渉を行ってきました。しかし生活面は安定したものと言える状態にはなく、生活保護を申請することになりました。
日弁連によると、本来なら生活保護制度を利用できる経済状態にある人々に対しての実際の支給率はわずか9〜19.7%です。
その大きな要因として、水際作戦などの福祉事務所による申請への違法な拒否行為が挙げられています。(このあたりは、餓死事件が起きた北九州市の職員だった藤藪貴治さんの著書に詳しい)。
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Aさんの保護申請も御多分に漏れずというべきなのか、当初の保護申請は却下されてしまいました。困ったAさんは再度申請を行おうとしましたが、福祉事務所は素直に取り合ってはくれません。やむにやまれず自分の部屋からビデオカメラを持ってきて、福祉事務所の職員に訴えました。「生活保護の申請をさせて下さい!」
2ヵ月半後、この時の行為が職務強要罪の容疑にあたるとされ、Aさんは逮捕されました。逮捕の2日後、ユニオンぼちぼちの大阪事務所が家宅捜索されました。
しかし組合員が一緒に福祉事務所に話に行くと保護が支給されることが決まり、逮捕までの2ヵ月半の間Aさんは無事に保護生活を送っていました。現在も保護は廃止(取り消し)ではなく、逮捕・勾留による停止という状態になっています。受給はあくまで合法と認めているのです。
ですから、Aさんは生活保護を受給する資格がないのに恐喝して違法に受給をしたという容疑ではありません。あくまで、職員の冷酷な対応を受け、やむにやまれずカメラを回しながら訴えたことが容疑とされているのです。しかも、その映像が公開されたことはありません。
Aさんは逮捕前、生活保護を抜け出すために国の新しく始めた職業訓練制度を使い訓練校に通い始めていました。入学のための選考試験は簡単なものではなく、時には落ち込むこともありました。
しかし何度かの不合格を乗り越え、ようやく入学することができました。組合員の皆さんは喜んだそうです。そして、訓練はAさんにとって生きる張り合いになっていました。しかし、ようやく安定して訓練校に通えるようになった矢先に、突然逮捕されてしまったのです。このままではAさんは出席不足による退学処分になってしまいます。
■違法「先制攻撃」は福祉事務所
広島県では、権限は市町に移り職務は「形骸化」していますが、わたしも一応「福祉事務所職員」です。そのわたしから見ても、この逮捕はむちゃくちゃではないか、と思います。
もちろん、行政に不当な要求をしてくる暴力団などは、広島県内でも居て、そう遠くない過去にも、行政を脅したとして逮捕された例もあります。そういうものに対して毅然と対応するのは当然ですし、わたしも職場でそういう事態(やくざが押し寄せてきた場合)に対する研修を受けています。
しかし、このAさんの場合は明らかに正当な権利を行使しようとしたのに、職員に門前払いされた。違法行為を先に行ったのは職員です。
公務員は、職務で、住民と対しているときは、天下に恥じない行動をしていなければなりません。違法な行政をすれば、別にカメラに限らず、Twitterや、Mixi、ブログに投稿されたって仕方がないのです。
逆に言えば、カメラを回されて恥じるような職務=違法行為をしていることが問題です。(逆に言えば、公正な行政を担保するために、公務員には身分保障があるわけで、仕事が世間にオープンになるのが嫌なら最初から公務員にならなければ良いのです。)
やくざに屈するのも違法なら、水際作戦も違法です。どちらもいけないのです。
今のところ、行政側の誰が警察にAさんを告発したのかはわかりませんが、これは全くの「逆切れ」としかいえません。
■違法行政を加速させるな
今回の事例で有罪の判例を出させてしまったら、労働運動や社会運動においてビデオカメラを使うこと自体が抑制される恐れがあります。
また、公務員は違法な権利を抑制する行政をやりたい放題ということになります。水際作戦など、違法な行政行為を行なう。住民がそれにいらだってちょっと強い言葉でも発したら、すぐに警察を呼んで逮捕、なんてことがまかり通りかねません。
反貧困運動に従事する女性弁護士によると、最近では「市町村の福祉事務所では、わたしたちが付き添っても、『水際阻止』をしようとする職員に恫喝される」ケースがあるそうです。ただし、「都道府県に市町村の水際作戦を通報すると是正される」そうです。
たしかに、わたしの知る限り広島県で生活保護事務に従事されていた職員OBについては、「水際作戦は違法だ。申請はさせないといけない。市町村に生活保護を移管してから、市町村によって対応に差が出るようになってしまった」という認識の方しか存じ上げません。
今回の事例では、それこそ、極論すれば千葉法務大臣が指揮権を発動し、Aさんを公訴取り下げで釈放したって良いくらいだと思います。それならば、造船疑獄で佐藤栄作(後に総理、当時自由党幹事長)が逮捕を免れた場合の指揮権発動とは逆に良い意味でのものでしょう。
北海道の40代の男性は「民主党は何をしている。裁判なんていらない。すぐ釈放しろ。職員は解雇だ」と憤っています。行政とはそう単純にはいかないものですが、気持ちはわかります。
もちろん、こうした事態の背景には、生活保護の国庫負担率引き下げや地方交付税カットなどの財政問題も背景にはあります。カットされた交付税を復元するなどの措置をとりつつ、違法行為を加速しないような対応を政権は取るべきです。
組合ではAさんの即時釈放を要求し、また、裁判への支援を呼びかけています。
A君は無罪だ!生活保護申請に対する不当逮捕・起訴弾劾!!
参考
「派遣村から見える戦争と平和」湯浅誠さん、広島で大いに語る
日弁連・生活保護法改正要綱案