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今月1日に放送再開を予定していたBSデジタルラジオ放送局World Independent Networks Japan株式会社(以下「WINJ」と略記・東京都渋谷区恵比寿4-20-3・佐竹昌之 代表取締役社長・昨年11月より放送休止中)の放送再開延期が発表された。 「完全デジタル化に伴う新システム構築」のためというのが公表されている理由だが、実際には同社は資金的にかなり厳しい状況にあり、再開のめどは立っていないとも言われる(「日刊合同通信」2007年2月6日)。WINJはBS放送中、現在まで唯一残ったラジオ局だ。 2005年夏の「BSデジタル放送はハイビジョン放送を中心とする」という方針変更に基づき、同年9月〜翌年3月にかけて、他の既存放送局系のラジオ放送や、独立系のデータ放送事業者が一斉にBSデジタル放送から撤退する中で、2006年4月以降も放送を継続していたが、昨年5月頃から、数時間の無音状態、編成プログラムと異なる時間や内容の番組が流れるなどの放送事故がしばしば発生、夏以降はこうした事故が日常的に頻発するようになり、監督官庁への事故報告も行われず、連絡がとれない状態となったため、ついには総務省の調査が入り、結局、3ヶ月間の放送休止を申請するにいたった。 放送事業といえども、経営がうまくいかなければ放送休止、免許返上も起こりうるのは止むを得ないことかもしれない。だが、単に「一事業者の経営の問題」と切り捨てられない問題が今回の事態の背景にはある。もともとBSアナログ放送時代から続く、わが国初のBS有料ラジオ放送「セント・ギガ」(衛星デジタル音楽放送梶jの経営が行き詰まり、それを合併吸収した潟純Cヤービーが「Club COSMO」と局名を変更して放送を継続したものの僅か半年で破綻、その放送免許と番組資産を引き継ぐ形で2003年秋にスタートしたのがWINJである。 当事3万5000世帯ともいわれる有料加入者を抱えたBS放送が突然倒産・停波すれば、その社会的影響は大きいということもあってか、この引継ぎは異例のスムーズさで行われた。だが、問題は、引き継いだWINJの経営陣は、放送局を安く買い取って高く売り抜くためのマネーゲームの手駒としか考えていなかったと思われる点にある。 新規加入者獲得やスポンサー獲得のための積極的な営業はほとんど行われず、有料課金システムの構築もされずに実質的なノンスクランブル放送=無料放送が行われていた。このような状況でCMもなく聴取料収入もないのだから、事業として成り立つはずのないことは自明のことであったといえよう。 加えて、2007年12月に予定されるBSデジタル放送電波の再編により、WINJは現行の3チャンネルから15チャンネルへと周波数帯域を移動することになった。これは「周波数の効率的利用」のためということになっているが、実質は、既存のBSテレビ放送事業者が現行の放送をしている周波数帯域において、より高画質のフルハイビジョン放送を行うために電波の帯域を広げる必要があり、そのため、各周波数帯域に残存しているデータ放送・超短波(ラジオ)放送などの小規模事業者をまとめてひとつのチャンネル(NHKと同じ第15チャンネルの空き帯域)にまとめて押し込んでしまおうというものであった。 この再編は移動する事業者にとっては何ら利益のない、むしろ移動による経済的不利益とシステム再構築を余儀なくされる負担以外の何物でもないものだ。これまでは、同じく有料放送を行うWOWOW(株式会社WOWOW・東京都港区元赤坂1-5-8・廣瀬敏雄 代表取締役社長)と同帯域にあることで、放送のスクランブル化など、有料放送に必要なシステムを廉価で利用できていたWINJは、今回の移動・再編により、新たに独自のスクランブル・有料課金システム構築をしなければ有料放送ができなくなってしまうことになった。 そのような(ラジオのみの)システムは現存しないため、既に新システム開発の余力のないWINJにとっては、実質的には完全無料放送に移行するしか選択枝がなくなってしまったということになる。ただでさえ経営の苦しいBSラジオ放送事業の将来のビジネスの可能性までもが狭められてしまったのだ。「周波数の効率的利用」の名のもとに、こうした既存テレビ事業者中心の都合による、いわば「電波の地上げ」が行われた結果である。 こうして、BS民放の初期からの歴史あるラジオ放送局セント・ギガの流れを汲むBSデジタル放送唯一のラジオ放送が現在放送休止となり、再開のめども明確ではないのだ。このまま、休止期間が6ヶ月に及べば、放送法により免許の取り消しもあり得る事態だ(放送法「第52条の24項2の1」、電波法「第76条第3項」)。 放送事業をマネーゲームのように捉え、何らの営業努力をしてこなかった同社の経営責任は当然だが、そのような事業者に免許を与え、しかもそれを放置してきた所轄官庁の監督責任も問われてしかるべきであろう。また、ハイビジョン放送フル規格の実現という大目標のために、将来のデータ放送・超短波放送事業者の事業の可能性を狭めてしまうような「電波の効率利用」についても疑問が残る。 残念なのは、WINJの放送内容そのものに対する評価は決して低くはなかったという点にある。もともとセント・ギガ=ClubCOSMOの番組遺産を引き継いだ形となったWINJは、当初こそセント・ギガとは別のスタイルを強調する編成ではあったが、結局はセント・ギガから引き継いだ「音楽及び自然音による番組」を編成の中心とせざるをえなかった。音のメディアとしての衛星ラジオの役割を深く見つめたコンセプトに根ざしたそれらの番組は、映像・目に見えるモノの価値ばかりに関心が集まる現代にあって、音で伝えることの意味、世界や地域、自然の音に耳を澄ますことの大切さを感じさせてくれるユニークなコンテンツであった。 そして皮肉にもWINJになり、ノンスクランブル放送が続いたことによって、それまで一部の有料加入者しか聞くことのできなったこうしたセント・ギガ時代からの優れた番組やそのコンセプトを受け継ぐ新作番組が多くの一般リスナーの耳に届くことになった。その反響はインターネット上のいくつかのサイトでも知ることができる。また、WINJが番組制作用の音源素材として用いている「音の風景(サウンドスケープ)」の録音は日本・各地の自然や文化を記録した貴重な音の遺産でもある。 こうした録音素材と放送番組は、録音・制作後、既に15年以上経過しているものもあるにもかかわらず、今も多くの聴取者の支持を得るなど、その価値を保ち続けている。わが国のラジオ放送文化・音の文化史の上でも極めて貴重な文化遺産であるといえる。これらの放送文化財の保全・継承がなされるかどうかも今後大いに気がかりな点である。 WINJが新たに放送再開日としている3月1日まで残り2週間あまりに迫った現在、放送再開に向けた告知や試験放送などの動きはまったく伝わってこない。このまま、再開されずに終了してしまうのか、どこか別の企業に買収されるのか?、その場合、貴重な文化財としての番組や音源はどうなってしまうのか。何よりも、BSデジタル放送という準基幹放送の中で本当にラジオ放送がなくなってもよいものかどうか。 国の施策には、BSデジタル放送における超短波(ラジオ)放送は「1以上」(平成17年7月13日付 総務省報道資料「放送普及基本計画の一部変更に関わる電波監理審議会の答申」と定められている。防災・災害時の告知機能も含めて考えれば、全国一波で届くラジオ放送の存在意義は決して少なくないだろう。当事者及び関係諸団体による継続への一層の努力と所轄官庁の適切な指導を期待したい。 |
BSデジタルラジオ放送局「WINJ」
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