辞書で「永久機関」を引くと、以下のような説明がある。
えいきゅう-きかん 【永久機関】 goo辞書
第一種永久機関は、外部へ何らの変化も残さないで周期的に運転して外部に仕事をする機関。第二種永久機関は、エネルギーを熱として受け取り、これを仕事に変えるだけでほかに変化を残さない機関。第一種・第二種ともに、つくることは不可能であることがわかっている。
要するに燃料や電気を一切必要とせず、文字通り永久に稼働出来る機械の事だ。
上記の説明にもあるように、このような機械は物理学などの法則からしても絶対に存在し得ない。転じて「永久機関」とはそれそのものが胡散臭い詐欺まがいの代物と解釈される事もある。
ちなみに特許庁では、発明に該当しないものの一例として「永久機関」を名指しで挙げている。
特定技術分野の審査の運用指針:1.1 「発明」に該当しないものの類型 特許庁
以下の類型のものは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではないから、「発明」に該当しない。
(中略)
(3) 自然法則に反するもの
発明を特定するための事項の少なくとも一部に、熱力学第二法則などの自然法則に反する手段(例:いわゆる「永久機関」)が利用されているときは、請求項に係る発明は「発明」に該当しない。
(引用、以上)
それを踏まえて、先日掲載された毎日新聞の以下の記事をご覧いただきたい。
発電装置:太陽光や風力より効率良く、電磁力で電力供給−−木下さん開発 /神奈川 毎日jp(毎日新聞)
つまるところ電磁力を使った画期的な発電装置が発明されたという内容なのだが、記事をよく読んでみると妙な部分が出てくる事に気づく。さしあたり二点を引用する。
これまでの計測結果によると、回転速度によっては、始動用モーターの消費電力の100〜1000倍程度も発電可能。また始動に必要な電力は400ワットモーターなら乾電池(単3)1本でも足りるという。
始動時に5・5キロワットのモーターを使った場合、1個100ワットの電球30個を点灯させていて3キロワットを発電できているのに、モーターの消費電力は2・6ワットしかなかった。
多少なりとも科学の素養を持ち合わせている者であれば思わず笑い出してしまう表現である。たった2.6ワットの電力で、その1000倍以上の3キロワットも発電できるなど絶対にあり得ない。これは物理学の法則からして矛盾しているもので、技術の進歩とか職人技といった次元でどうにかなる話ではない。
仮にこの実験結果が事実ならば別のどこかでエネルギーを3キロワット以上消費しているはずである。消費しているのが物質ならば、それを作り出すのに必要なエネルギーが使われている事になる。
もっとも、こういった怪しげな「発明」は古くから数多く存在しているので取り立てて珍しいものではない。問題なのは、こんな怪しげな発表を疑いもせずに記事にしてしまう新聞記者の程度の低さだ。
似たような事案は最近でもあった。
昨年6月頃、ジェネパックスという企業が「ウォーターエネルギーシステム」なる機構を発明したと発表した。これは水を補充するだけで発電可能という、事実であれば世界規模のエネルギー問題をあっさりと解決してしまうようなものだ。
当然ながら、発表当時からこの機構には懐疑的な声が多かった。そして発表から半年以上経った現在、ジェネパックス社のホームページを開いてみると以下のような文面が出てくる。
GENEPAXのホームページに来ていただき、ありがとうございます。
弊社では、温室効果ガスの排出による地球の温暖化に代表されるような自然環境の破壊を食い止めたいとの思いから、これまで環境に負荷をかけないエネルギーシステムの開発に取り組んでまいりました。弊社が提案するシステムについては、多くの方から暖かいご声援をいただきながらも、一方では様々な障害を乗り越えるには至らず、弊社の力不足を痛感しております。また、開発に要するコストも膨れ上がっており、そのような状況の中で、弊社のリソースにも限界があるため、弊社としましてはここでいったん弊社のリソースを再整理して商品開発の計画を再考させていただくこととし、本ホームページを閉鎖させていただきます。
これまで弊社に対して暖かいご声援をくださった皆様には深く感謝申し上げます。弊社も地球環境の保護のために更に努力を積み重ねてまいりますので、皆様におかれましては今後とも地球環境にやさしいエネルギーの開発をご支援くださるよう、お願いいたします。
2009年2月10日
株式会社ジェネパックス
代表取締役 高橋 廉幸
(引用、以上)
小型の自動車に物々しい金属の箱をのせ、実際に自動車を走らせるデモンストレーションまでしてみせていたというのに「様々な障害を乗り越えるには至らず」とは笑わせてくれる。
さらに馬鹿馬鹿しいのは、この発表を仰々しく取り上げたテレビ番組や新聞があったという事だ。実際にその番組を目の当たりにした私は思わず椅子から転げ落ちそうになった。「いつからテレビ局は詐欺の片棒を担ぐようになったのか!?」と。
もっと言えば、この発表には地方議会の議員も絡んでいる。ずばり、大阪の市議会議員中川隆弘氏、および府議会議員の森みどり氏の二名である。いやしくも市政県政に携わる者が、こんなあからさまに怪しげな代物も見抜けなかったのか。
ジェネパックス、水から発電する新エネルギー技術説明会を開催 ファスニングジャーナル
ところで、前段の毎日新聞ではなく読売新聞だが、昨年そこの社会部長が大学の講演でこのように発言した事があった。「新聞を読んで世の中を幅広く知っていると社会に出て強烈に役立つ。インターネットと比べ、新聞は見出しや記事の大きさからニュースの価値判断が分かる」
だとしたら、毎日新聞が掲載したこの怪しげな永久機関もどきもまた、相応に価値のあるニュースだというのか。一度伺ってみたいものだ。
新聞記者各位には、このような掲載記事の低レベル化や掲載内容の恣意的な偏りこそが新聞不振(不信)の根源にあるという事を、改めて自覚していただきたい。それと同時に、それを受け止める我々も、「新聞に載ってるから」「テレビで放送されたから」と安易に信じたりしないよう、気をつけたいものだ。