トップ > メディア > 「永久機関」を堂々と報じるマスメディアの危機
メディア

「永久機関」を堂々と報じるマスメディアの危機

瀬田隆一郎2009/03/25
 3月19日の毎日新聞・神奈川版で、電磁力を使った画期的な発電装置が発明されたと報じられた。しかし、記事をよく読むと物理学の法則からして矛盾のある内容である。こうした「発明」は世に少なくないが、怪しげな発表を疑いもせず記事にしたり仰々しく持ち上げるテレビ番組があることにこそ問題があろう。
日本 マスコミ NA
 辞書で「永久機関」を引くと、以下のような説明がある。

 えいきゅう-きかん 【永久機関】 goo辞書
 第一種永久機関は、外部へ何らの変化も残さないで周期的に運転して外部に仕事をする機関。第二種永久機関は、エネルギーを熱として受け取り、これを仕事に変えるだけでほかに変化を残さない機関。第一種・第二種ともに、つくることは不可能であることがわかっている。

 要するに燃料や電気を一切必要とせず、文字通り永久に稼働出来る機械の事だ。
 上記の説明にもあるように、このような機械は物理学などの法則からしても絶対に存在し得ない。転じて「永久機関」とはそれそのものが胡散臭い詐欺まがいの代物と解釈される事もある。

 ちなみに特許庁では、発明に該当しないものの一例として「永久機関」を名指しで挙げている。

 特定技術分野の審査の運用指針:1.1 「発明」に該当しないものの類型 特許庁

 以下の類型のものは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではないから、「発明」に該当しない。
(中略)
(3) 自然法則に反するもの
 発明を特定するための事項の少なくとも一部に、熱力学第二法則などの自然法則に反する手段(例:いわゆる「永久機関」)が利用されているときは、請求項に係る発明は「発明」に該当しない。
(引用、以上)

 それを踏まえて、先日掲載された毎日新聞の以下の記事をご覧いただきたい。

 発電装置:太陽光や風力より効率良く、電磁力で電力供給−−木下さん開発 /神奈川 毎日jp(毎日新聞)

 つまるところ電磁力を使った画期的な発電装置が発明されたという内容なのだが、記事をよく読んでみると妙な部分が出てくる事に気づく。さしあたり二点を引用する。

 これまでの計測結果によると、回転速度によっては、始動用モーターの消費電力の100〜1000倍程度も発電可能。また始動に必要な電力は400ワットモーターなら乾電池(単3)1本でも足りるという。

 始動時に5・5キロワットのモーターを使った場合、1個100ワットの電球30個を点灯させていて3キロワットを発電できているのに、モーターの消費電力は2・6ワットしかなかった。

 多少なりとも科学の素養を持ち合わせている者であれば思わず笑い出してしまう表現である。たった2.6ワットの電力で、その1000倍以上の3キロワットも発電できるなど絶対にあり得ない。これは物理学の法則からして矛盾しているもので、技術の進歩とか職人技といった次元でどうにかなる話ではない。

 仮にこの実験結果が事実ならば別のどこかでエネルギーを3キロワット以上消費しているはずである。消費しているのが物質ならば、それを作り出すのに必要なエネルギーが使われている事になる。

 もっとも、こういった怪しげな「発明」は古くから数多く存在しているので取り立てて珍しいものではない。問題なのは、こんな怪しげな発表を疑いもせずに記事にしてしまう新聞記者の程度の低さだ。


 似たような事案は最近でもあった。
 昨年6月頃、ジェネパックスという企業が「ウォーターエネルギーシステム」なる機構を発明したと発表した。これは水を補充するだけで発電可能という、事実であれば世界規模のエネルギー問題をあっさりと解決してしまうようなものだ。

 当然ながら、発表当時からこの機構には懐疑的な声が多かった。そして発表から半年以上経った現在、ジェネパックス社のホームページを開いてみると以下のような文面が出てくる。


 GENEPAXのホームページに来ていただき、ありがとうございます。

弊社では、温室効果ガスの排出による地球の温暖化に代表されるような自然環境の破壊を食い止めたいとの思いから、これまで環境に負荷をかけないエネルギーシステムの開発に取り組んでまいりました。弊社が提案するシステムについては、多くの方から暖かいご声援をいただきながらも、一方では様々な障害を乗り越えるには至らず、弊社の力不足を痛感しております。また、開発に要するコストも膨れ上がっており、そのような状況の中で、弊社のリソースにも限界があるため、弊社としましてはここでいったん弊社のリソースを再整理して商品開発の計画を再考させていただくこととし、本ホームページを閉鎖させていただきます。

これまで弊社に対して暖かいご声援をくださった皆様には深く感謝申し上げます。弊社も地球環境の保護のために更に努力を積み重ねてまいりますので、皆様におかれましては今後とも地球環境にやさしいエネルギーの開発をご支援くださるよう、お願いいたします。

2009年2月10日
株式会社ジェネパックス
代表取締役 高橋 廉幸
(引用、以上)

 小型の自動車に物々しい金属の箱をのせ、実際に自動車を走らせるデモンストレーションまでしてみせていたというのに「様々な障害を乗り越えるには至らず」とは笑わせてくれる。

 さらに馬鹿馬鹿しいのは、この発表を仰々しく取り上げたテレビ番組や新聞があったという事だ。実際にその番組を目の当たりにした私は思わず椅子から転げ落ちそうになった。「いつからテレビ局は詐欺の片棒を担ぐようになったのか!?」と。

 もっと言えば、この発表には地方議会の議員も絡んでいる。ずばり、大阪の市議会議員中川隆弘氏、および府議会議員の森みどり氏の二名である。いやしくも市政県政に携わる者が、こんなあからさまに怪しげな代物も見抜けなかったのか。

 ジェネパックス、水から発電する新エネルギー技術説明会を開催 ファスニングジャーナル

 
 ところで、前段の毎日新聞ではなく読売新聞だが、昨年そこの社会部長が大学の講演でこのように発言した事があった。「新聞を読んで世の中を幅広く知っていると社会に出て強烈に役立つ。インターネットと比べ、新聞は見出しや記事の大きさからニュースの価値判断が分かる」

 だとしたら、毎日新聞が掲載したこの怪しげな永久機関もどきもまた、相応に価値のあるニュースだというのか。一度伺ってみたいものだ。

 新聞記者各位には、このような掲載記事の低レベル化や掲載内容の恣意的な偏りこそが新聞不振(不信)の根源にあるという事を、改めて自覚していただきたい。それと同時に、それを受け止める我々も、「新聞に載ってるから」「テレビで放送されたから」と安易に信じたりしないよう、気をつけたいものだ。
◇ ◇ ◇

ご意見板

この記事についてのご意見をお送りください。
(書込みには会員IDとパスワードが必要です。)

[43852] 訂正
名前:井和代治郎
日時:2009/04/05 06:20
[43850]下から四行目


電解液反応による発電蓄熱なら、

電解液反応による発蓄電なら、

[43850] いつもながらずさんな記事ですね
名前:井和代治郎
日時:2009/04/05 06:13
瀬田隆一郎さん


個人的にあなたには何のうらみもありませんが、
どうもあなたの記事にはいつも首をかしげるのです。


そもそもこれって毎日新聞神奈川支局に電話一本入れればいいことじゃないですか?
毎日新聞社の対応も含めて記事にしてはじめて「市民新聞」らしい情報記事といえるのではないでしょうか?
それを、毎日新聞へのインタビューもなく一方的に「永久機関」だと断罪するのはどんなものでしょう?
毎日の記事によれば「効率よく」「電力供給」となっているだけで「永久機関」とはどこにも書いていない。
そもそも発電の原理を解説し、毎日の記事が述べる「効率のよい発電装置」のどこがどのようにおかしいか、図解で説明するべきです。これじゃ科学記事にもなににもなっていない。


ま、わたしもいちいち毎日新聞社に電話するほどヒマではないですが、わたしのような科学オンチの素人が考えてもカンタンな話しなのです。
この記事のキモは回転する永久磁石の動力源を何にするかということにつきるでしょう。フレミングの右手の法則からすれば、磁界を横切る導体があればいいのだから、磁界であり導体でもあるモータの効率のよい駆動電源があればいいことになる。たぶん、そのモーターの芯に電流が垂直方向に発生するということでしょう。


ふつう、モーターの動力には電気がつかわれている。問題はその電源の発生装置だ。
この装置の場合、電源の発生装置は風力でも波力でも太陽光でもなければ、いわゆる家庭用の電源でもない。じゃあ、ほかに何があるか?
地球の磁場でも使うか?(笑)
しかしいまどきは科学も発達して、非常に効率の良い電池が生まれつつある。あくまで一例だけどたとえばレドックス・フロー電池なんかどうだろう。
電解液反応による発電蓄熱なら、ほぼ半永久的な廉価電源になりうる。この電池でモーターを回転させ、高速になったところで別の装置に切り替える。(たとえばリニアのような)


わしは電気はまったくの素人だから専門的なことはわからないが、「効率のよい」動力と言う以上、可能性がゼロだとは否定できない。さまざまに検討を重ねてから批判されてはどうか?






[43647] 永久機関か…☆
名前:さとう☆ふみあき
日時:2009/04/02 00:53
このペンネームは規定外です。

お手数をおかけしますが、規定に基づくペンネームにご再考をお願いいたします。記者IDをお書き添えの上、ご希望のペンネームを edit@janjan.jp までお送り下さい。(編集部)

【ペンネーム規定】
 『JanJan』の署名は、本名を原則とします。ただし、記事の内容によって筆者を保護する必要がある場合には、登録したペンネームを許可します。ペンネームは1人1つに限り、著名人と紛らわしい名前、記号的な名前、ふざけた名前、下品な名前は認めません。ペンネームは、姓と名の両方をもち、一般的に使われている名前の範囲のなかで考えていただくようお願いします。
[43183] 水を差すわけではありません。
名前:村上久三郎
日時:2009/03/26 08:12
 私は、この記事・議論に水を差すために書いたのではありません。さらに、私は発明の内容を全く知りません。単に、「出力とエネルギーの違い」の一般的なことを書いただけです。
したがって、私の意見は、この記事の意見から的を外れている可能性が充分あります。
 議論を続けられる事を希望いたします。
[43177] どうも
名前:瀬田隆一郎
日時:2009/03/26 02:58
> この発明の「構造」と「単位」を明確に理解していませんと、話がごちゃごちゃになる可能性があります。

読みやすさを優先した都合上、その辺りの表現がいい加減になってしまったのは否定出来ません。
今後の教訓にしたいと思います。
[43168] 新発明?
名前:村上久三郎
日時:2009/03/25 22:22
 私はこの発明の詳細はよく分かりませんが、「出力」と「エネルギー」が、ごちゃごちゃになっているように思います。

「出力」・・・・・・単位はワット[W]
「エネルギー」・・・単位はワット・アワー[Wh]
          アワー[h]は[時間]のことです。

「出力」と「エネルギー」は違います。

参考まで、電気自動車などでは「出力」と「エネルギー」の相関図をよく使用し、その関係を“ラゴンプロット(Ragon plot)”といいます。
 この発明の「構造」と「単位」を明確に理解していませんと、話がごちゃごちゃになる可能性があります。

 私はこの発明に興味ありませんが、参考まで。

[43154] 燃料電池
名前:斉喜広一
日時:2009/03/25 19:48
似たような例で、燃料電池がありますね。
燃料の水素は水から得れるから、無尽蔵にエネルギー源を得れるように云う向きもありますが、水から水素を得るためには、電気分解が必要だから、やはり電気エネルギーは要るわけですよね。
ただ、内燃機関に比べれば、熱効率はいいわけだし、排ガスを発生しない、というメリットもあるわけですが。
[43148] 記事の補足
名前:瀬田隆一郎
日時:2009/03/25 16:09
記事後半に登場するジェネパックス社のシステムですが、説明会に参加したり資料を詳しく読んだ人々の考察によると、水を電気分解する際に金属粉のような物を入れていたようです。これが水の中で変化する事で電気が発生しているようで、結局このシステムの「燃料」は水ではなくその粉の方だったのではないかと考察されています。
当然、この金属粉は時間とともに劣化していくので定期的な交換が必要ですし、製造するためには相応のエネルギーが必要とされます。仮にアルミニウムであれば発電量を遙かに上回る電力が必要となっていたでしょう。

それとこの記事では触れていませんが、毎日新聞記事中でこの発明を賞賛している松下清彦氏になまじその分野の権威があるために、社会に無用な誤解を発生させるのではないかと危惧する次第です。

新聞記者であれば、そういった権威に物怖じせずに切り込む知識と行動力が求められてしかるべきなのでしょうけれども…。
[43137] 瀬田さま
名前:斉喜広一
日時:2009/03/25 12:00
この記事、並びに記事にある毎日の記事とも、非常に興味深く読ませていただきました。
どうも、リニアモーターの仕組みかな、とも思ったのですが、それとも違うようですね。
永久磁石のN・S極を円筒状に配列して、その周囲をコの字型の銅線コイルを配する、とのことですが、これだと、コイルの側に電気を流さないと回転しないはずですね。つまりは、モーターとしては成り立つけれど、発電機としては成り立ちませんね。
しかし、毎日の記事では、始動用の電力が要るだけで、後は、磁力の反発で永久に回り続けるかのような書き方ですね。(仮に始動用電力で回転し始めたとしても、そこに「発電」という負荷をかければ回転は止まる)
これはやはり有り得ませんね。コイルの側に電流を流し続けないと。
にもかかわらず、記事では、実験で一定の発電量を確認したかのように書かれていますね。記者は検証したのでしょうかね。


[43135] エセ科学
名前:北川洋一
日時:2009/03/25 11:33
記事を読みましたが、ヒドイですね。

「特許出願中のため構造は極秘」「ドイツを訪れ第一級の研究者と解明」・・。いつものパターンかと。
下のリストは、この記事をもとにJanJanのすべての記事の中から「連想検索」した結果10本を表示しています。
もっと見たい場合や、他のサイトでの検索結果もごらんになるには右のボタンをクリックしてください。