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フィスチュラという言葉を聞かれたことがある一般の方は、あまりいないだろう。日本語では、ろうこう、ろう。漢字で、瘻孔と書く。体の中の器官に孔(=穴)が開いてしまった状態を言う。 ただ、これが、痔ろう、胃ろうなどと同じ意味の「ろう」であるといえば、「ああ」と思われるかもしれない。痔ろうの場合は肛門深部に孔が開くこと、胃ろうは経口で栄養補給できなくなった高齢者のために胃に孔を空け、カテーテルから栄養を注入することを言う。 産科ろうとは、出産に伴い、著しい難産の結果、膣と直腸(※)や膀胱との間の壁に孔が開いてしまうことだ。サハラ以南アフリカや南アジアを中心に、世界中で200万人の罹患者が存在していると推定されている(WHO)。 医師や助産士のアシストなしの出産において、若年出産に基づく骨盤未発達や、栄養不良などの複数の背景要因に基づき、10代の初産に一番多くみられるが、赤ちゃんの頭のサイズなどにより、経産婦にでも、起こりうる。 具体的な症状としては、程度の差こそあれ、排尿や排便のコントロール機能を失って、「垂れ流し」の状態になってしまう。また、感染症を併発したり、足の付け根の組織の損壊に伴い、歩行困難になったりすることまである。 罹患率は出産1000件に3件ほどと推定されることもあり、フィスチュラに罹患した女性は、臭気を漂わせ、出産に失敗した女性として、離婚や社会的孤立の憂き目に合う。文盲であることも多く、都心部でたむろしてホームレスになったり、農村部では村はずれで弧居を余儀なくされたりしている。うつ病になり、自殺といった自暴自棄の行動に陥ることもある。 本来、帝王切開などの措置が受けられれば、赤ちゃんが死ぬこともない。またフィスチュラは、手術により90%ほどの確率で直すことができる。フィスチュラ撲滅キャンペーンを行うUNFPA(国連人口基金)(※)によると、治療費は300ドルほど。これで2週間程度の入院期間もカバーされるが、こうした女性たちにとっては、世帯の年間収入を超える負担。支援団体などの無料治療の機会を待つ女性が100人単位で住み着いてしまった病院もあり、「待機患者」の中には10年間もこの状態、という人もいる。 この春、記者は、フィスチュラ罹患者への支援のために、フィスチュラジャパンという団体を立ち上げた。日本でフィスチュラ問題に取り組む、多分、初めての団体である。 具体的には、フィスチュラ問題について日本の人々に知ってもらうための活動をする他、エチオピアの首都アジスアベバにある、アジスアベバフィスチュラホスピタルという100%治療代無料の病院への援助を行うことも目標としている。 フィスチュラは、エチオピアだけでなくニジェールやパキスタンなど、世界の数多くの国で罹患者が存在している。しかしフィスチュラジャパンがアジスアベバフィスチュラホスピタルを援助対象に選んだ理由は、同病院が世界的に、民間レベルでこの問題の中心的な役割を果たすようになっているからである。 同病院の創立者夫妻、レジナルドとキャサリン・ハムリン両医師が、1960年代の初めから同地でフィスチュラ治療に心身ともにささげてきた結果、同病院はトップレベルのフィスチュラ治療体制を数多くの患者に提供するようになっている他、国際的にも、他国の政府や医療関係者の視察を広く受け、かつ、フィスチュラ手術という特殊な手術のトレーニングを産婦人科医に提供する体制も作っているのだ。 こうした働きを認められ、夫妻や病院は多数の賞を受賞しており、レジナルド医師没後、キャサリン医師は1999年にノーベル平和賞の候補者にもなった。 フィスチュラが生じる地域は、特に貧困地域過疎農村地区に集中しており、政府の支援体制も充分でないことが多い中、民間にあって、50年近いフィスチュラ治療の歴史を持つ同団体の運営体制が国際的な母子福祉に関心を持つコミュニティの中で演じる役割は、今後ますます大きくなるものと予想される。 この春、80歳のキャサリン医師は、手術をきっかけとして同団体院長の地位を退き、現在イギリスで療養中。病院の新体制は、マーク・ベネット氏により引き継がれることになった。キャサリン医師は静養期間終了後、アジスアベバへ戻る意向を示している。 この問題にさらに関心がある読者は、フィスチュラジャパンHPへ。 ◇ ◇ ◇
※筆者の申し出により修正いたしました(編集部)09/17,18:50
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