21日午後、町村信孝・官房長官は記者会見の中で、向こう1〜2年の間との期限つきながら、南極海におけるザトウクジラの調査捕獲をしない方針であることを明らかにした。現在、南極海には日本の調査捕鯨船団が派遣されているが、これによって、今季初めてとなるはずだったザトウクジラ50頭の捕獲調査は中止、クロミンククジラ最大935頭とナガスクジラ50頭の捕獲調査のみ行うことが確定した。
22日01時現在、
Googleニュースサイトでこれに関する記事がトップニュースとして扱われ、「関連記事86本」と表示されている。IWC年次会議の期間中でも捕鯨関連記事がこれだけの扱いをうけることはめったにない。
さる11月18日の日新丸船団出港当初から、筆者は、ザトウクジラ捕獲の実施はないのではないかと説明してきた。そして21日午前公開の続報
「やっぱり捕らない?ザトウクジラ」のなかで、【日本がみずから「ザトウは捕らない」と発表するには、それ相当の理由を付けなければならない】と書いておいた。
ここでは、「付けられた、それ相当の理由」がいかなる意味を持っているかについて、確かめてみよう。

(Department for Environment,Food and Rural Affairs.UK)">
まず出来事を、報道を元に整理してみる。
12月11日(火)、ホガースIWC議長が来日し、日本政府と調査捕鯨に関して話し合いをしている。これは町村官房長官が記者会見の中で明かしている。
その後、19日(水)18時08分に、シーファー駐日合衆国大使が「日本と、ザトウクジラを捕らないことで合意した【I think we had an agreement】...」と明らかにしたとロイターが報じる。
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Japan seen halting humpback whale hunt
20日(木)にはそれを追いかけるように「合意したとの認識はない【that he was not aware of the context in which Schieffer made the remarks.】」(谷口智彦・外務省副報道官)との日本政府の見方が報じられる。
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Japan denies dropping humpback whale hunt:foreign ministry
そうこうしている間に、12月20日(木)午後には、福田康夫総理大臣が町村官房長官と会った後、シーファー駐日米国大使と面談(首相動静20日 朝日新聞・12月21日朝刊)。
そして21日午後、町村官房長官が記者の質問に対して「当面、ザトウクジラは捕らない」と言明。同日18時05分より約30分間、高村外務大臣とスミス豪外相との間で電話会談が持たれ、「ザトウクジラの捕獲を延期すること」を伝え、18時35分から記者会見を開き、高村外務大臣がその内容を説明している。
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外務大臣会見記録(日豪外相電話会談)12月21日
さらに同日午後7時過ぎにはマクラーレン駐日豪州大使をはじめとして、各国の大使館関係者が外務省を訪れ、調査捕鯨反対を訴えている。
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ザトウクジラ捕獲、1〜2年見送り 政府方針(朝日新聞)
近年まれに見る、「大事(おおごと)」になっている。
今年議長に就任したウィリアム・ホガース合衆国政府代表 (中央)
2007・IWC年次会議:筆者撮影
さて、「それ相当の理由」はどうだろう。産経MSNが詳細に報じている町村官房長官の記者会見の発言を元に、各報道機関の報道内容からかいつまむと以下のようになる。
【調査捕鯨の計画は変更しないが、IWCの正常化のプロセスが進行している間は捕獲を延期する】(朝日新聞)
【「IWC正常化に積極的に貢献するため、自主的に見合わせることにした」】(日経速報)
【捕鯨支持国と反捕鯨国の対立で機能不全に陥っている国際捕鯨委員会(IWC)を正常化させるために、反捕鯨国の反発が激化することを避ける】(読売新聞)
【「正常化協議が進行している間」に限り、捕獲を見合わせることにした】(時事通信)
【強行すれば商業捕鯨再開を目指す日本にとってマイナスになると判断した】(毎日新聞)
面白いのは、
【「豪州を配慮したものではない」(若林農水相)】(朝日新聞)
【日豪関係にも配慮したとみられる】(毎日新聞)
【両外相は「捕鯨問題が良好な日豪関係を害するものではない」との認識で一致した】(毎日新聞)
【若林農水大臣は、我が国の調査捕鯨は正当な行為であり、オーストラリアに屈したわけではないとしています】(広島ホームテレビ)
などと、オーストラリアがこの間強く発してきた調査捕鯨中止、殊にザトウクジラの捕獲中止の要請が直接の発端なのかどうかが曖昧になっている。
これはなかなか興味深い。
今年、合衆国アラスカ州のアンカレッジで開催された第59回IWC年次会議では、「南極海における致死的調査の無期限停止を求める」決議案がニュージーランドから提出され、過半数の支持を得て可決した。
この件については、外務省は、年次会議終了後のプレスリリースで、「本決議に法的拘束力はない」と明記している。
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外務省: 第59回国際捕鯨委員会(IWC)年次会合結果
それだけではなく、【「忍耐もはや限界」 IWC脱退示唆】(産経・大阪)といった報道までなされるような発言が政府代表団から飛び出した。
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国際捕鯨委員会07総会ウォッチ(7)日本がいう「脱退」の意味と歴史(下)
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国際捕鯨委員会07総会ウォッチ(6)日本がいう「脱退」の意味と歴史(上)
それから6ヵ月。
IWC議長がわざわざ来日したという手間はあるにしても「『正常化の努力をする』との意思表明」に応える形で、ザトウクジラの捕獲を取り止めると、日本の態度は変わったわけだ。脱退騒動の顛末に似てはいないだろうか。「それ相当の理由」にしてはずいぶん形式的だ。
確かに、日本の政府代表である森本稔氏は、現在IWC副議長である。議長と副議長との関係性からも、もっともらしい鞘への収め方なのかもしれない。
ただし、ここで両者の関係性を確認してみると、別な側面が見えてくる。
ホガース議長は、合衆国政府代表でもあり、本国での肩書きは海洋大気局(NOAA)水産局長である。日本とオーストラリアの関係悪化に対して仲裁に乗り出したのがIWCであるように見えて、実はこれは、合衆国が口を挟んできたともいえるのだ。
また、「ザトウクジラを捕らない」ことを日本に約束させたように見えるが、ミンククジラとナガスクジラの捕獲については、見逃し、というか、言及していない点も、“合衆国は反捕鯨国の筆頭”というイメージをお持ちの方にとっては意表を突いているだろう。
そして、今回の発表が、IWCコミッショナーであり調査の実施主体である(財)日本鯨類研究所の森本稔理事長からでもなく、水産庁からでもなく、官房長官から発表されたのも興味深い。23日10時現在、水産庁・鯨研のホームページにはこの件に関するなんの発表物も掲載されていない。
繰り返し述べているように、今回、日本は出港の時点ですでにザトウクジラをまともに捕る気はなかった可能性が高い。クロミンククジラ最大935頭とナガスクジラ50頭を捕りきるかどうかさえ、疑問である。もし頭数の面で捕りきれた場合には、一頭あたりの肉の収量を落としていても不思議はない。また、たとえ捕ったとしても、従来の「肉の品質」を確保できるのかどうか、これもまた、怪しい。
つまり、オーストラリアや合衆国をはじめとする各国の努力によってザトウクジラが守られたというのは表面上の物語であって、じつのところ日本に「本当はザトウクジラは捕らないんです」と白状させただけにすぎないのではないか。
いずれにしろ、「名実ともに50頭の南半球産ザトウクジラは今年は安泰」ということになった。
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