谷山博史さん(撮影・鶴崎燃)
増幅される恐怖と憎悪の悪循環
以下は会の「前半」の主な内容
「イラク戦争は今も続いているし、現地の人々は危機的な状況に立たされている。私たちはこの誤った戦争を過ぎ去った戦争として風化させたくはない。そのためにはこの戦争の原因となった9・11以後の対テロ戦争をしっかり見つめなくてはならないし向き合わなくてはいけないと考える」
東京・豊島区の生活産業プラザのホールで3月20日に開いた「イラク戦争から5年〜今、中東の現場は〜」と銘打った集会の冒頭、主催者を代表して日本国際ボランティアセンター(JVC)の谷山博史代表理事はそう語り出した。
「この戦争を風化させないためにはこの戦争の現場になっているアフガニスタン、イラク、パレスチナの現状をしっかりと見つめてそこで何が起こっているか、そして、どこにこの戦争を終わらせる展望があるのかを考えたい」
「対テロ戦争はアフガニスタンで始められ、その後、イラクへと移った。その間、イスラエルはパレスチナに何度も再侵攻した。私たちはこの戦争を私たちの問題として考えたい。そのために現場から学び、検証し、その教訓から学び、できればこの先に問題を解決するヒント或いは展望の一端でもつかみたい」
「これは決して簡単なことではないが、この努力、NGOや市民による努力が失われたときに、おそらく私たちはもっと大きな問題を抱えてしまうのではないか」
小雨模様の祝日の午後だったが会場は約80人の参加者でほぼ満席。これまでのことを繰り返していていいのか、何を考え、行っていけばよいのか、何ができるのか……いらだちのまじる切実な危機感が小ホール内に共通して流れていた。
野中章弘さん(同)
際だったのはずばりの現場主義。最初の報告者として立ったアジアプレス・インターナショナル代表の野中章弘氏は、イラク北部クルド地域で取材中の同プレスの女性記者を携帯電話で呼び出して現地の模様を聞いた。記者の声は野中氏のマイクを通じて会場のスピーカーに伝えられ室内に響き渡った。
はるか遠隔の地からとあって早口の声はもちろん所々で聞き取りにくかったが、「治安の改善はあってもイラク全体では問題はなんら解決されていない」(野中氏)という切迫した雰囲気が伝わってくるようだ。
続いて野中氏は最近のアフガンのパキスタン国境沿いにある米軍基地の状況を取材した別の記者によるビデオ映像を会場の画面に映し出した。軍による人道支援をどうとらえるかをめぐって論議を呼んでいるPRT(地域復興支援、Provincial Reconstruction Teams)の活動の中で米軍は村々でいま何を行っているのか、兵士たちは何を考えているのか、その一端がくみとれる。
野中氏はこうした報告をはさんで次のように指摘し問題点を提起した。
▼ジャーナリストのなかでもいろいろなものの見方があるが、アジアプレスの記者たちはこのイラク戦争には正当な理由がないということで最初からアフガン攻撃、イラク戦争については反対の立場を明確にとってきた。空爆を受ける側、攻撃を受ける側の市民の立場に立って取材をし報道をしてきた。
▼こういう立場をとると、偏っている、中立性を欠くという批判があるが、それでは多くのメディアはこの戦争を実際にどう伝えてきたか。日本の視聴者がテレビを通じて見たイラク戦争の現地映像の上位はいずれも戦争を仕掛けたアメリカ側が流した映像で、少なかったのはイラクの市民が犠牲となった映像だ。もしこの順番が逆転していれば、イラクの市民の被害の映像が一番たくさん流されていたら世界の世論はもっとイラク戦争反対の立場に傾いただろう。市民の側の抵抗、被害についてきちんとした報道をしてこなかったという点でジャーナリズムは反省しないといけない。
▼イラク戦争開始以来のイラク市民の犠牲者はどのくらいか。8万から70万くらいまでの数字があるが正確には確定できない。誰も調べていないからだ。9・11の死者は最後の一桁まで数えて世界はその死を悼んだが報復戦争で始まったアフガン攻撃、イラク戦争の被害者には世界はほとんど注意を払わない。圧倒的な不条理だ。われわれはこの戦争をどこから、どういう視点で見ていくかをきちんと考える必要がある。
▼マスメディアの情報をどう読み取るかひとりひとりが力をつけていかなくては容易に情報操作されてしまう。メディアコントロールというのがこの戦争の大きな特徴のひとつだった。
▼今行っているのは世界の平和と安全のための戦争だと少なくともアメリカは言っている。そういう論理をどこまで認めるのか。日本の絶対平和主義は戦争自体が悪だという立場だ。それに対抗する思想で今戦争が行われている。平和のための戦争というのが本当にあるのか。問われているのはアメリカとか日本の政治家だけではなくて、われわれ1人1人の人間観、世界観、平和観が問われている。
続けてJVCのイラク、アフガニスタン、パレスチナ担当の女性スタッフが現地報告を行い、それを受けて谷山代表が前半の締めくくりとして問題提起を行った。(JVCスタッフの報告は分量の関係でここでは省かせていただくことをお許し願いたい。別の形でまた紹介できると思う)