サイクロンに襲われ150万人が被災したとも見られるミャンマー(ビルマ)で10日、軍事政権を正当化する新憲法制定のための国民投票が強行されようとしている。投票を翌日に控えた9日、ミャンマー難民ザーニー・シブヤさんが日本外国特派員協会で記者会見し、サイクロンの被害と国民投票に向けた軍事政権の実情を語った。
ミャンマー難民ザーニー・シブヤさん(日本外国特派員協会で。いずれも筆者撮影)
ザーニーさんは1985年、ヤンゴン生まれ。88年の民主化運動で父親がタイに亡命したことに伴い93年に逃れてきた。親戚がミャンマーに残っているため本名は伏せている。
7日夜、ヤンゴンの親戚に電話がつながり、現地の事情を聞いたというザーニーさんは次のように切り出した――「飲み水が著しく不足している。飲み水を売りに来るのは軍服姿の人だ。川からは大変な異臭が漂ってくる。にもかかわらず行政は選挙(国民投票)の準備に集中しており、(市民の)労働力を駆り出しているほどだ」
ミャンマー国営メディアによればサイクロンによる被害は死者22,980人、行方不明者4万2,119人以上に上る(8日現在)が、国連や駐ビルマ米国大使館は死者10万人以上、被災者150万人になるとの見方を示している。
イラワジ川のデルタ地帯にあたるエヤワディ管区の被害は甚大で、同管区の軍関係者はラブッタ地区で8万人が死亡したと欧米メディアに話した。全体の死者数は10万人以上に膨らむことも予想される。エヤワディ管区では電気が停まり、水、食糧、医薬品が極端に不足している状態だ。伝染病の発生が深刻に懸念されている。
ノドから手が出るほど支援物資が欲しい軍事政権は、国連と国際赤十字に限って入国を認めているようだ。それでも国内の移動は大きく制限している。
軍事政権による弾圧に抗議するミャンマー難民(東京・北品川のミャンマー大使館前で)
各国のNGOなどはタイ-ビルマ国境から援助物資だけを送り込んでいる状態だ。現地で実績のある日本の援助団体にさえミャンマー政府はビザを発給していない。この援助団体幹部は「軍事政権は、物資は欲しいが(外国の)人間は入れたくないのだろう」と見る。
これについてはザーニーさんも「食糧のみを受け入れても軍事政権には(国民への援助が届くとは)期待できない。支援団体が物資と共に国境を越えることを願っている」と話す。
軍事政権はミャンマーの人権問題を批判している欧米の政府、非政府組織の入国を、あくまでも認めない構えだ。軍事政権による支配を正当化する新憲法制定のための国民投票が10日、実施されるからだ(一部の地域は24日の投票)。
新憲法は
▼大統領は軍事知識を持たねばならない
▼国会議員の4分の1は軍出身
▼外国の影響下にある人は国会議員になれない(英国人の配偶者がいたスー・チーさんの排除が狙い)……などから成る。
この国民投票に反対したり妨害すると投獄される。秘密投票ではないことから「反対票」を投じることは決死の覚悟が要る。僧侶には投票権さえない。軍部以外の国民には人権など全くないミャンマーの現体制を追認、正当化するための国民投票と言ってよい。
日本政府によるミャンマーへの援助を止めるよう求めるプラカード
最後にザーニーさんは「国境を越えて米国の支援団体やジャーナリストがミャンマーに入り、実情が暴かれれば、軍事政権が倒れることもありうる。長く続く軍事政権なので容易には倒れないが、ジャーナリストが国境を越えれば不可能ではない」と言葉を噛み締めるようにして語った。
ザーニーさんは会見中3度も「国境を越えて……」と語った。軍事政権による「鎖国状態」の厳しさをよく表していた。
◇ ◇ ◇